ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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概ね原作通りではありますが、少しアレンジしています。
で、人間の身体を捨てるってことは、やっぱりそんな軽い事じゃなくって
相応のリスクが伴うと思うんですよ。



メルジーネ海底遺跡

 

 

 

「月と証に従えか……」

 

潜水艇の甲板で、潜水服を脱ぎながら呟くハジメ、眼前には水平線に沈む夕日が映っている。

 

ここはエリセンより西北西に約三百キロメートルの海上。

この付近に七大迷宮の一つ【メルジーネ海底遺跡】の存在する場所の筈なのだが……。

 

場所自体はすぐに見つかった、ジータが呼び寄せた海獣たちの力もあったが。

 

「リーマンは義理堅いってミュウが言ってたけど、まさかな」

「こういうのってなんか嬉しいね」

 

そう、フューレンで水族館から買い取り自由の身にしてやった、あのリーマンが、

海獣たちを先導し、ハジメたちを大迷宮の入口へと導いてくれたのだ。

 

しかし、場所が見つかっても肝心の侵入方法が分からなかった。

恐らく入口であろう箇所に錬成を仕掛けてみたが、例によってまるで反応は無く。

そこでミレディに聞いた言葉を思い出し、現在彼らは海上で月が出るまで、

待機しているのであった。

 

脱ぎ終わった潜水服を収納し、ユエが新しく仕立て直した服に袖を通すハジメ。

香織がデザインした今度の服も、基本的には以前のものを踏襲しているが、

戦闘色が強かった前回と比べ、どちらかといえば研究者然とした印象となっている。

ノーネクタイのバンドカラータイプのシャツなどに、その特徴が強く出ているなと、

ハジメが思ってたところに、ジータが香織を伴い甲板へと姿を現す。

その表情は夕日にも負けないくらいに輝いている、俗に言うホクホク顔という奴だ、

久々にガチャの結果が良かったのだろう。

 

「その分じゃ、かなりいい石を引けたみたいだな」

 

と、口にしつつもハジメはジータの傍らの香織の姿に思わず目を引かれてしまう。

今の彼女の姿は、ファンタジー色が強かったこれまでの僧装束から、

スタンダードなナースウェアを基本デザインとしつつも、

かつアレンジングされた赤十字のマークを所々に組み込んだ、

普段の、いや教室でのハジメの知る香織のイメージとはややかけ離れた、

そんな姿となっていたのだから。

 

「どうかな?ハジメくん」

「ああ、なんか、カッコイイな……戦闘用ナースって感じで、それから

俺のもありがとう、車の中でずっとデザインしてくれてたんだよな、ユエと一緒に」

「うん、もう少しデザイン煮詰めたかったんだけどね、ああいうこともあったし

いい機会だなって」

 

そのいい機会というのは自己の変貌も含まれているのだろうか?

口にはしないが、そんな思いをハジメとジータは、ほぼ同時に抱いていた。

 

夕日に照らされる香織の横顔は、白く変貌した肉体以上の魔性を、

二人に感じさせてならなかった上に、香織の服に刻まれた、

本来、人道と奉仕の象徴である筈の赤十字の紋章が、ハジメたちにとっては、

何故か威圧感を感じさせる、鮮血の十字架のように見えて仕方なかったのだから。

 

(……やっぱり止めとくべき、か)

 

香織の様子を見、嘆息するジータ。

どうしても行き詰り、追い詰められたその時はクラスメイト全員に魔物肉を提供し、

強引に能力を底上げさせるという、最後にして非情のプランを、彼女は画策していた。

しかし、個人差もあるのだろうが、僅かではあっても当人の性格・性質にまで、

影響が及ぶ可能性があるというのであれば、このプランは廃棄するしかない。

 

(結果的に、人体実験みたいになっちゃったな……)

 

そんな複雑な想いをジータが抱える一方で、

ハジメはタイトなミニスカートと、サイハイブーツの間に挟まれた、

香織の絶対領域にまずは目が行ってしまいがちだったりしたのは内緒である。

……そしてユエには即座に看破され、向う脛を蹴られたことは言うまでも無かった。

 

そんな一時を過ごしつつ、昇り行く月へとハジメがペンダントを翳した時だった。

 

「わぁ、ランタンに光が溜まっていきますぅ。綺麗ですねぇ」

「ホント……不思議ね、穴が空いているのに……」

 

シアと香織が感嘆の声を上げ、瞳を輝かせる。

彼女達の言葉通り、ペンダントのランタンは、少しずつ月の光を吸収するように、

底の方から光を溜め始めており、それに伴って、穴あき部分が光で塞がっていく。

やがて、ランタンに光を溜めきったペンダントは全体に光を帯びると、

その直後、ランタンから一直線に光を放ち、海面のとある場所を指し示した。

 

「……なかなか粋な演出。ミレディとは大違い」

「そうですぅ!少しは見習えと言ってやりたいですぅ!」

 

未だにライセンで受けた数々の仕打ちを忘れていないのだろう、感慨の中にも、

憤懣が込った声でシアが叫ぶ。

 

ともかくハジメたちは潜水艇に乗り込むと、光を辿り潜航を開始する。

そしてハジメが恐らく入口であろうと推測した地点に到着した時、

光線が当たった箇所の岩壁が扉のように左右に開き出し、ついに大迷宮への入口が、

その姿を現したのであった。

 

「なるほどな……これじゃ入るのも一苦労だ」

「空気と光の確保に加えて」

「水流の操作もかな」

 

実はこの付近は潮の流れがかなり激しい、船外での作業はハジメですら数分が限度だった。

 

「……強力な結界も使えないとダメ」

 

このメルジーネ海底遺跡、本来の攻略順で行けば恐らく序盤の方の筈なのだが、

やはり大迷宮と銘打つだけあって一筋縄ではいかないだろう、事実その証拠に……

 

「でかい渦がくるぞ、全員衝撃に備えろ」

 

ハジメの言葉通り、潜水艇は横殴りの衝撃に木の葉のように舞いながら、

大迷宮の中へと引きずり込まれていった。

渦の中、トビウオのような魔物に魚雷をぶち込みつつも、ハジメらは周囲を慎重に観察する、

どうやら同じ場所を、円環状の洞窟を道なりにぐるぐると周回しているだけではないかと、

気が付いたのだ。

 

そして彼らはその結果、洞窟の壁面にメルジーネの紋章が刻まれていることを発見する。

数は五ヶ所、位置は上から見て五芒星を象っていた、そして奇しくも、

メルジーネの紋章の形も、また五芒星であった。

 

出来すぎだな……と、現代人の感覚を覚えつつ、

ハジメが未だ光を灯したままのペンダントを紋章へと翳してみると、

ペンダントから光が一直線に伸び、その光を受けた紋章が一気に輝き出した。

 

「なんかゲームみたいだね、実際に自分の身体でやると面倒臭いというか……」

 

そんなジータの言葉に、もしかして解放者の中にも、

異世界から連れてこられた奴がいたのかもなと少し考えつつも作業を続行していくハジメ。

ただ少なくとも、魔法のみでここに到達するのは、やはり相当の難易度なのだろうと、

いうことだけは理解出来た。

 

ともかく激流の中、潜水艇の操舵に四苦八苦しつつも、何とか全ての紋章に光を灯し終える、

すると、円環の洞窟の壁が縦真っ二つに別れ、ハジメらは導かれるままに奥へと進む。

 

「この下だな」

 

行き止まりの中に真下に通じる水路がある、しかもソナーの反応を見る限り、

明らかに重力に逆らうような形で、水路の中途で水が留まっているのがわかる。

 

「重力魔法か……皆、落下に備えろよ!」

 

そう注意を促し、ハジメは潜水艇を水路へと進ませるのであった。

 

 

「全部水中じゃなくってよかったね」

「ああ」

 

ユエの"絶禍"で機体をコントロールし、床への軟着陸に成功すると、

船外で一先ず背伸びをするハジメたち。

見上げると大きな穴一面に、海水が揺蕩っている、魚こそいなかったが、

その眺めは、まるで水族館のようだと一同には思えた。

 

「ここからが本番みたいですぅ」

「……海底遺跡っていうより洞窟、んっ」

 

その瞬間、ユエは即座に障壁を展開し、その刹那、頭上からレーザーの如き水流が、

まるで彼らを阻むように襲い掛かる。

しかし、ユエの障壁は、例え即行で張られたものであっても強固極まりなく、

直撃すれば、容易く人体を切り裂くであろう、水流の数々をあっさり防ぎ切る。

 

もちろんユエに限らず、ハジメ以下、ジータやシア、ティオ、メドゥーサらも動揺なく

障壁の傘の下で余裕の表情を見せている。

 

そういえば香織は……と、ジータが視線を巡らせた時だった。

まるで雨の日にはしゃぐような子供のような声が聞こえてくる、障壁の外側で。

 

「この新しい身体凄いよォ!」

 

なんと香織は笑顔で舞うように跳躍し、軽々と水刃の乱舞を回避していく。

まるで、もう自分は足手纏いではないのだと、新しい身体に相応しい、

新しい心を得た自分をアピールするかのように、空中で、地上で身体をくねらせる、

その姿は、やはりジータには蛇のように思えてならなかった。

 

(般若から清姫にレベルアップしてるぅ……)

 

「……勝手な真似を」

 

そんな香織のスタンドプレーを苦々しさの籠った視線で睨むユエ、

もっとも気持ちは理解できるので、口調は弱いが。

 

「叱るのは後じゃ、上を見い」

 

ティオが火炎を繰り出し、天井を焼き払うと、

フジツボのような魔物が黒焦げになって落ちてくる。

どうやらこいつが水の刃を放っていたようだ。

 

「こんだけデカイと、やっぱグロイな」

 

生理的嫌悪感を隠そうともせず、そう吐き捨てると、ハジメもまたティオに続き、

ドンナーを斉射していくのであった。

 

 

その後は散発的な魔物の襲撃を排除しつつ、膝まで浸かりながら、

ざぶざぶと海水を掻き分け先へと進んでいく。

行程そのものは順調なのだが、一行の表情は訝し気だ。

 

「順調すぎない?」

 

ジータの言葉に全員が頷く。

 

そう、このメルジーネ大迷宮にアタックを開始して以来、遭遇する魔物は、

大迷宮の敵としてはあまりにも弱すぎるのだ、

もしかするとオルクス表層レベルの魔物と同等か、それ以下もしれない、

ゆえに、彼らに取ってはとても大迷宮の魔物とは思えず、さらに言うならば、

これから先の、恐らく大迷宮本来の試練の険しさを予感せずにはいられず。

そしてその予感はすぐに的中した。

 

通路の先にある大きな空間へと彼らが足を踏み入れた時だった、

半透明でゼリー状の何かが通路へ続く入口を一瞬で塞いだのだ。

 

「来たか!」

「私がやります! うりゃあ!!」

 

待っていた、そんな響きすら感じさせるハジメの声と同時に、最後尾のシアが

ドリュッケンを振う、だが、表面が飛び散っただけで、ゼリー状の壁自体は壊れず。

さらにゼリーの飛沫がシアの服を溶かし、肌を焼き始める。

 

咄嗟に、ティオが、絶妙な火加減でゼリー状の飛沫だけを焼き尽くしたものの。

強力な溶解作用がある以上、迂闊に殴りかかるわけにはいかなくなった。

 

「離れろ!っ!今度は上だっ!」

 

ハジメの叫びと同時に、今度は頭上から無数の触手が襲いかかった。

先端が槍のように鋭く尖っているが、見た目は出入り口を塞いだゼリーと同じである。

 

「こいつも!お願い!」

 

ジータに言われるまでも無いとユエが障壁を、ティオが炎を繰り出して、触手を焼き払ってゆく。

 

「正直、ユエの防御とティオの攻撃のコンボって、割と反則臭いよな」

 

事実、今のところ彼らは鉄壁の防御に守られながら一方的に攻撃を繰り出し続けている。

それを余裕と見たのか、シアが胸の谷間を殊更強調して、

実にあざとい感じで頬を染めながら上目遣いでハジメへとおねだりを始めた。

 

「あのぉ、ハジメさん、火傷しちゃったので、お薬塗ってもらえませんかぁ」

「……お前、状況わかってんの?」

「いや、ユエさんとティオさんが無双してるので大丈夫かと……それに

こういう細かなところでアピールしないと、私ますます影が薄くなりそうですし……」

 

最後の方はまるで、ここにいない別の存在にも訴えかけているようだった。

(……ごめんな)

 

「天恵」

 

しかし、そうは問屋が卸すまいと、香織がすかさずシアの負傷を治してしまう、極上の笑顔で、

それはこれまでの、嫉妬や憤り混ざりのものとは違う、余裕が含まれた笑顔だった。

 

「む?……ハジメ、このゼリー、魔法も溶かすみたい」

「ふむ、やはりか、先程から妙に炎が勢いを失うと思っておったのじゃ、

どうやら、炎に込められた魔力すらも溶かしているらしいの」

 

恐らくこのゼリーそのものに、魔力に対する強力な抵抗力があるのだろう。

ならば、次に取る手は、と、ふと天井を見上げたハジメだったが、

そこで天井の僅かな亀裂から覗く、魔物の正体をその目についに捉える

 

「……クリオネ?」

 

半透明で触角と、ヒレのような手足を生やし、

宙を泳ぐようにヒレの手足をゆらりゆらりと動かすその姿は、ハジメの言葉通り

まさにクリオネを想い起こさせた、ただし全長は十メートルを超えていたが。

 

(……まさか)

 

最悪の予感に突き動かされるかのように、ハジメはゴーグルのモードを切り替え

周囲をスキャンしていく、そして導き出された結論は。

 

「ここは……あのクリオネ野郎の胃袋の中だ!しかも、奴の身体そのものが、

魔石で出来てやがる!」

「じゃあ一旦逃げるしかないね!メド子ちゃん!」

 

ゼリーを石にしてそこを砕いて脱出する方法をジータは提案するが。

 

「ダメ、こいつ抵抗強すぎて……全然通じないの!」

 

メドゥーサは泣きそうな声で答えを返す、しかし。

 

「だったら、これならどう!新戦力!」

 

ハジメとジータが手を翳すと、そこから魔法陣が展開され、

髭もじゃの雷神トールが姿を現し、魔槌ムジョルニアをクリオネへと振り下ろす。

この槌は、攻撃力もさることながら、最大の特徴として、相手の防御力や抵抗力を、

ほぼ下限まで落とす効果がある。

 

雷神の一撃を受けたクリオネの苦痛によるものか、部屋の中が大きく鳴動する。

しかしそれでも獲物は逃すまいとしているのだろう、

ゼリーの触手はますますのたうつように暴れ出す。

 

「どう!」

「これならっ!」

「戻らなくっていい!一番薄い場所を狙え!」

 

メドゥーサの瞳が光を放ち、ゼリーの幕の一部が石と化す。

その箇所をドンナーで砕き、ハジメを先頭に彼らはなんとかクリオネの胃袋から脱出するが、

しかし、追撃の触手がその背後、さらに上下左右に迫る。

 

「ここっ、この下破れそう!」

 

香織が通路の亀裂の下の渦巻きを発見する。

 

「よし!やるぞ階層破り!」

 

ハジメたちは小型の酸素ボンベを口に咥え、

かつ水中スクーターを取り出し、各自の身体を固定させる。

渦巻く激流の中でも、ある程度ではあるが、制御出来るのは実証済みだ。

 

そして錬成で広げた亀裂から水中へと身体を沈ませ、底へ底へと錬成を繰り返す。

やがて地面が反応しなくなると、"宝物庫"からパイルバンカーを取り出し、

そして、アンカーで水中に固定すると、一気にチャージし。

 

「一気に水が来るぞ!全員捕まってろよ!」

 

そして、階層破りの一撃を放つ引き金を引いた。

 

水中にくぐもった轟音が振動と共に伝播すると同時に、

通した縦穴へ途轍もない勢いで水が流れ込んでいく、

そんな中でハジメは必死で水中スクーターに掴まると、

フルスロットルで渦の中へと飛び込んで行く、置き土産とばかりの

無数の焼夷手榴弾と巨大な岩石を残したままで。

 





ありふれこそこそ噂話。
香織のスカートの下はレオタード構造になっているので、
アクロバティックに動いてもパンチラの心配はありません。
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