(チッ!面倒なやつが来やがったな)
我らが勇者、天之河光輝の姿を窓から捉えてカリオストロは舌打ちする。
彼はやっぱりというか、ことあるごとに
ハジメやジータらとカリオストロを引き離そうとしている。
それはある意味カリオストロの擬態が成功している証でもあるのだが…。
時間を確認するカリオストロ、もうすぐジータが訓練から戻ってくる。
それまではハジメのことは遠藤に任せて大丈夫だろう。
「行ってくる…いつもの接待だ、しばらくかかる」
忌々しく呟いてカリオストロは工房から退出する。
『ねぇねぇまたカリオストロに聞かせて~おじいちゃんのお話』
『いいとも!さぁテラスで一緒にお茶を飲もうね』
「見事だな、毎度のことながら」
外からのそんな声を聞きながらポツリと遠藤が呟く。
「そういやなんであいつウチの学校に入ったんだ?あいつの学力なら
もっと上に行けたろ」
「受験シーズンに入院してたらしいよ」
「そりゃ不運だな」
作業しながらも口数が多くなるのは、彼らは数日後にはいよいよ
実地訓練としてオルクス大迷宮へ挑むことになっているからだ。
建前上武器を製作しているということで工房を使用してる以上、
ならば相手となる魔物を実地で知る必要があるという意見には逆らえず、
ハジメも参加することになっている。
(大丈夫かな…)
不安がよぎるハジメ。
そう、カリオストロはこの訓練には参加しないのだ。
(南雲!ジータ!何を考えているんだ!カリオストロちゃんを…
こんなに小さくて可愛い子を危険な目に合わせようというのか!俺は反対だぞ!)
実地訓練の日取りが決まった夜、工房に押しかけて叫ぶ光輝の顔と、
そして光輝には見えないように小さくて可愛いか…クククと
満足げに笑うカリオストロの顔を思い出すハジメ。
その時は騒ぎを聞きつけた香織と雫に引き摺られてお引き取り願ったが。
結局翌日、カリオストロ自らが不参加を光輝に伝えに行ったのだった。
もちろん極上の媚と擬態を纏って。
カリオストロとしても未だ自分の身に何が起きるか懐疑的な中で
訓練とはいえ実戦は避けたい思いがあった。
もしものことがあればハジメとジータに迷惑を掛けてしまう。
そして万が一…アイツに守られてしまうことになろうものなら
生涯の恥辱だぜ、と。
しかしそれ以来、光輝はわかってくれたんだね的な解釈で
より一層気安くカリオストロに接するようになったのである。
ガチャリと工房の扉が開く、遠藤が笑顔で振り向く。
(蒼野だけじゃなくって白崎と八重樫、谷口とかも良く訪ねてくるんだよな…実は♪)
さて…と…え?何でと思う間もなく横から殴り飛ばされる遠藤。
天才といえどミスもある、
カリオストロは迂闊にも扉の鍵を閉め忘れてしまっていたのだ。
檜山らが笑う。
「よぉ!稽古を付けに来てやったぜ、南雲ォ」
獲物にありつけた獣のような笑顔で。
一方その頃、ジータは訓練場にいた
現在のジータの姿は全身鎧を身に纏い、
かつ背中に巨大な盾を背負った騎士然としたスタイル、
その名もフォートレス、見た目通り防御に長けたクラスだ。
「え~もっと可愛いの~クンフーとかアルカナソードがいい~」
と、訓練のパートナーを務める鈴は不満げの様子。
「そ、そっかな…」
と、こちらは少し戸惑うジータだが、その仕草に男子の視線は釘付けになる。
(充分、充分ですって)
一応アルカナソードの姿でフォートレスの能力を行使するのも可能ではある。
しかしジータはジョブを状況に応じて切り換える必要があるため、
見た目と能力はなるべく合致させておいた方がいいという、
メルドの意見もあってのことだ。
姿を、ジョブを変えることで様々な能力を得ることが出来る。
この話を聞いたときはメルドもピンと来なかったが、
少し考えるだけでジータがいかに特殊かつ有用な人材なのかを理解した。
彼女はいわば天職を幾つも所持しているようなものなのだ。
ステータスこそ未だ低いが。
蒼野ジータ 17歳 女 レベル:1
天職:星と空の御子
筋力:12+8
体力:12+8
耐性:12+8
敏捷:12+8
魔力:12+8
魔耐:12+8
技能:全属性適性 団員x1 召喚 星晶獣召喚(条件:同調者)同調(南雲ハジメ、同調率85%)
剣術 統率 防壁Lv1 挑発 恩寵 背水 コスプレ サバイバル 言語理解
多少はマシになったとはいえやはり見劣りする数字にため息をつくジータ。
変わったといえば同調率が上がったくらいだ、
あの思い出すのもイヤな勇者は全数値300を突破したらしい。
(カリオストロちゃん!この南雲は書店でいかがわしいマンガを買っていたんだぞ!
傍にいちゃいけない!ジータ!キミもだ!俺は君たちを心配して言っているんだ!)
もはや存在そのものがいかがわしい自称美少女錬金術師に件のごとく忠告する。
つい先日の光輝の姿を思い出してつい口元が綻ぶジータ。
光輝のいかがわしいがどれくらいのレベルなのかはよく知らないが。
(ハジメちゃんはいわゆるそういう本もゲームも一切買ってない、
私、香織ちゃんと調べてるもん)
さらりと割とマズイことをしていたジータ。
(ま、獣耳属性はあるみたいだけど)
ちなみにジータの基準ではゆ〇ぎ荘まではギリセーフである。
「じゃ!本気で行くよ!準備いい!」
雫の掛け声に構えで応じる鈴とジータ。
雫は大きく振りかぶるとあらかじめ張ってあった鈴の結界目掛け
渾身の一撃を見舞う。
「鈴ちゃん、ちゃんと見ないとダメだよ」
「で…でも」
一応八重樫道場で教えを受けてたジータとしては慣れているつもりだが、
やはり雫の剣は鋭い、鈴が恐怖感を覚えるのは無理もないことだ
「!」
やはり目を閉じる鈴、雫の一撃を受けて軋みだす結界だったが
『ファランクス!』
ジータが腕をかざすと鈴の結界ごと包むように空気の壁のようなものが現れ
「っと」
結果、雫の一撃を押し返した。
三人の様子を見てうんうんと頷くメルド。
鈴の結界は想定内のダメージは遮断するが、想定以上のダメージを受けると
ガラスの如くパリンと砕ける、つまり1000までは防ぐが1001だと砕け直撃する。
に対して、ジータのファランクスは割合でダメージを減らす、
1000の攻撃を500まで軽減するといった具合だ
また、ジータのファランクスは連発こそ出来ないが、
ジータ自身が認識している全てに対して有効だ。
誇張ではなくこの訓練場全ての人々に防御効果を与えることすら可能である。
即ち併用すればパーティの防御力は飛躍的に向上するだろう。
「よし!本日の午後の部の訓練は終了だ!後は各自それぞれの自主練に励むように!」
ジータはフォートレスを解除しいつものシンプルなシャツとスカート姿に戻る。
ここから先は自由時間だ。
「雫ちゃんどうする?」
「私も今日は上がろうかな、あ、あとで香織とそっちに行くって南雲君たちに伝えておいて」
二人で軽く身だしなみを整えて一旦雫と別れると
ハジメらの待つであろう工房へと向かうジータ、その時だった、
ジータの心と体に今まで感じたことのない衝撃が走る。
「あああああ!」
(こんなの知らない、こんなの)
救いを求める強烈な苦しみと悲しみを纏った何かがジータの心を抉る。
それだけじゃなく、その身体にまで複数から殴られているような鈍い衝撃が走る。
(ハジメちゃんが泣いてる、ハジメちゃんが苦しんでる、助けにいかないと)
誰もいない回廊でのたうつジータ、
自分の痛みでもないのに痛くて悲しくて悔しくてたまらない。
「ジータ!一体何を」
ジータの絶叫を聞きつけた雫が駆け寄る。
「雫ちゃんお願い!ハジメちゃんを探して!ハジメちゃん今酷い目にあってる!」
「分かったわかったから!落ち着いてジータ!ねぇ…え」
悶えるジータを抱きしめ落ち着かせようとする雫、
そのジータの腕、胸元、首筋といった具合に独りでに
微かに痣や傷のような物が浮かびあがり始めている。
「なに…これ」
次回 カリオストロ無双?