ドレッドバラージュですが、結局古戦場と同様に、
ノルマ云々でまた団によっては揉めそうですね。
「あの、アレイストって王様、イシュタルみたいだったね」
「うんうん、トリップ中のね」
自分の背後でそんなことを囁き合うジータと香織の声を聞きながら
ライトを照らし、ハジメは闇に包まれた船内を見回していく、
と、白くヒラヒラしたものが一瞬視界に入る。
訝し気な表情でヒラヒラを追うようにライトの光を少しずつ上に上げていくと、
ヒラヒラが全体像を現す、その正体は女の子だった、
白いドレスを着た女の子が、俯いてゆらゆらと揺れながら廊下の先に立っていたのだ。
「幽霊?」
その女の子の身体の向こう側が少し透けてるように、ジータが思った直後だった。
女の子がペシャと廊下に倒れ込んだかと思うと、手足の関節が裏返ったかのように、
折れ曲がり、ケタケタと笑いながらこちらへと突っ込んでくる。
「エクソシスト?古いよ!」
もはや古典的ともいえるスパイダーウォークをかます女の子へと、
迎撃の構えを見せるジータだが。
「いやぁあああああああああああ!!!!」
「ちょっ、香織ちゃん……落ち着いて」
その前に香織が盛大に悲鳴を上げて、ジータにしがみつき、
そのおかげでジータは武器を取り落としてしまう、
足元まで這い寄った少女と香織をしがみ付かせたまま武器を拾おうとしたジータの目が合い、
そして、少女が奇怪な雄叫びを上げ、二人へと飛び掛かろうとしたのだが、
咄嗟に割り込みに入ったハジメのキックを受け、少女は盛大に吹っ飛ばされ消滅する。
「も、もう大丈夫だから、ホラ香織ちゃん目を開けて」
未だ自分の腕にしがみ付いたまま、身体を震わせる香織の頭をジータは、
あやすように撫でてやる、子供の頃、光輝らとオバケ屋敷に入る度に、
香織が自分や雫にしがみ付き、泣いていた姿を思い出しながら。
「ホ、ホントに?」
「……香織ちゃん、怖いの苦手だもんね」
涙を浮かべる香織の顔を見ながら、先が思いやられると考えつつも、
少し安堵するジータ、魔物の血肉を取り込み身体は変わっても、
香織の中の根本の心はきっと変わってはいない、いない筈だと。
「たく、オバケ屋敷か!ここは!どうせなら大イタチでも出して見やがれ!」
ハジメがそう叫ぶと、血糊のついた大きな板が彼らの目前に落ちて来る。
「……大板血」
「よく分かってる」
その後も数々の悪趣味極まりないギミックに悩まされながら、
ハジメたちは先へと進んでいき、ついに最深部の船倉へと辿り着く。
ちなみにここまで特に目ぼしい発見はなく、
単に驚かされ続けただけだったということについては、
なるべく彼らは考えないようにしていた。
重苦しい扉を開き、中に踏み込んでまばらな積荷を眺めながら進むと、
入ってきた扉がバタンッ! と大きな音を立てて勝手に閉ま……らない、
どうせこう来るだろうと、岩を置いてストッパーにしておいたのだ。
しかし、その程度でギミックの発動そのものは止められない様だ。
突如、濃霧が彼らの視界を閉ざし始めたと同時に、風切り音が耳に届く。
「矢じゃ!」
「ワイヤーですぅ!」
意表を突かれたティオとシアの声が重なる。
「ここに来て、物理トラップか?ほんとに嫌らしいな!解放者ってのはどいつもこいつも!」
「……んっ、落ち着いて」
最後尾にいたユエが防御魔法を発動する。
直後、前方の霧が渦巻いたかと思うと、凄まじい勢いの暴風が彼らへと襲いかかった。
「魔法がトリガー?」
本当に痛いところを的確に突いてくることに、内心舌を巻くジータ。
この迷宮の主である、メイル・メルジーネはもしかするとミレディ以上に、
一筋縄ではいかない人物だったのかもしれない。
(ミレディさんのアルバムの中だと、ほんわかしたお姉さんに見えたけどね)
このお姉さんはどんな人なんですか?って聞いた時のミレディの態度で、
察するべきだったと思うジータ。
「きゃああああ!」
風と霧の中でメドゥーサの悲鳴が響く、ジータは感知系能力を使い、
メドゥーサの居場所を把握しようとしたのだが。
「ハジメちゃん!、メド子ちゃんの居場所わかる?」
「いや……多分この霧は【ハルツィナ樹海】のやつと同じ成分だ、感知は役に立たない」
「動いちゃダメだよ!メド子ちゃん!」
仕方なく出来る限りの大声でそれだけを叫ぶと、
さらに今度は霧の中から大量の戦士の幻影が襲い掛かってくる。
「皆、円陣を組んで!」
幻影の戦士たちは達人揃いではあったが、
落ち着いて対処すれば今の自分たちの敵ではない、香織を中心に陣形を組むと、
香織が"聖典"を即時発動する、聖なる光に戦士たちは全て霧散し、霧も晴れ始め、
ようやく安堵の息を漏らしたハジメたちであったが。
「危ないっ!」
シアの悲鳴に再び身構えるが遅い。
『ペトリファクトグランス』
完全に不意を突く形で背後から紫がかった無数の光線がハジメたちへと放たれる、
聞き覚えのある叫びと共に。
持ち前の身体能力でなんとか光線を掻い潜ったシア、それから、
バジリスクの肉を喰らった効果で石化に強い抵抗を持つハジメとジータこそ
光線を浴びたにも関わらず無事であったが、ユエとティオ、さらに香織が、
石像と化した己の身体をガタガタと震わせている。
「メド子ちゃん……どうして?」
「まて、まずは空気穴だ!窒息するぞ!」
ハジメが三人の口の周囲の石を砕いていく。
「……けほけほ」
「ふ……不覚、しかしこれもなかなかプレイとして」
「うう、暗いよぉ、狭いよぉ、怖いよぉ」
ユエの呼吸音と、不穏な言葉を漏らすティオと香織の声を背にハジメはメドゥーサに向き直る。
「どういう……つもりだ?」
その声には怒気は殆ど籠ってはおらず、むしろ疑問と戸惑いが多分に含まれていた。
メドゥーサという少女が、この状況で裏切ることなど完全に考慮の外であり、
例え裏切るにしても、背後からの不意打ちなどという手は、
決して使わないだろうということを、彼らは知っていたのだから。
例えそれが、出会ってからの決して長いとはいえない時間の中であっても。
ハジメの声に反応し、魔蛇メドゥシアナに跨り、髪の毛を蛇へと変化させた
やや俯き加減の顔をメドゥーサが上げる、その瞳は涙に濡れ、その表情は怒りに燃えていた。
「よくも……よくもハジメたちを!許さないんだからぁ!」
叫びと共にまた光線が放たれる。
「アンタたちは必ずこのメドゥーサが守ってあげるんだからねっ!」
「どういうことだ?あいつ正気か?」
「多分正気だよ、でもね……多分」
腑に落ちない表情のハジメとは対照的に、ジータは琴から放つ音の刃で光線を相殺していく。
「認識がズラされてる、私たちのことを敵だって思ってるんだよ」
「じゃあメド子の認識をズラしてる原因か、犯人を何とか見つけ出さないとな」
その状態は正気と呼べないんじゃないかと思いつつ、ハジメも光線の迎撃に加わる。
メドゥーサの光線による石化は無理に砕かずとも、一定時間後に自然解除されるのだが、
石化中はもちろん身動きが取れず、かつ、各ステータスが累積で低下していく。
このまま光線を受け続ければ、石像ごと粉々になってしまう可能性がある。
「シア!メド子を操ってる奴を探してくれ」
『ソウルピルファー!』
『チャームボイス!』
ジータが奏でる琴の音色がより切なさを増し、そして闇に甘く響き渡る、
まるで恋人へのラヴソングの如く、そしてその音色に魅入られたメドゥーサの頬が紅く染まり、
瞳が潤み始める、魅了の魔曲の虜となりつつある証だ。
「これで暫くは大丈夫だけど、お願い急いで!」
魔曲の支配から逃れようと必死で頭を振るメドゥーサから寸分たりとも目を離さぬまま、
ジータはハジメへと叫ぶ、メドゥーサのステータスは竜化したティオをも凌ぐ、
正直、都合よく防ぎきる余裕はない、急がねば。
ジータに言われるまでもなく、ハジメはゴーグルの機能をフルに活用し、
周辺のスキャンを開始する、そして。
「俺たちの正面から見て左十一時の方向に魔力反応!シアっ!」
ハジメは明らかに異質な存在を視界に捉えていた。
名前を呼ばれたシアは一瞬、ハジメたちの顔を見る、が。
「今動けるのはお前だけなんだ、頼む」
ハジメの言葉に強く頷くと、ドリュッケンを担ぎ指示された方向へと勢いよく飛び出す。
「行かせないっ!」
文字通り、脱兎の勢いのシアを追いかける様に光線が疾るが。
「メド子!俺はここだぜ!オラァ」
シアから、そしてジータたちから引き離すかのように、
ハジメはメドゥーサの左手側に回り込み、威嚇射撃を繰り返す。
強大な力を誇るメドゥーサだが、その反面、短気で散漫なところがあり、
ゆえに囮や陽動は効果覿面である、さらに今回は魔曲で精神をかき乱されているのだ。
「ああっ、もうちょこまかと!」
メドゥーサの攻撃が闇に、文字通り闇雲に空しく放たれる、
そんな状態で放たれる攻撃など、今の彼らには恐るるに足りない。
軽々と光線を避けながら、シアは今や自分でも感じ取れる、奇妙な気配の方へと、
ドリュッケンを構える、と、彼女の視界に入ったのは。
(子供?)
そこにいたのは噴水や庭園に飾られる天使の像のような姿をした、
背中に翼を生やした白ずくめの小さな子供だった。
ただし顔には醜い鉄の仮面が装着されており、さらにその手には
頭ほどもある巨大な手斧が握られていた。
その異質な外見に、一瞬気を取られたシアの隙を見逃さず、
天使もどき―――正式名称はエグリゴリという、は、信じ難き俊敏さで、
シアめがけ、ハルバードを繰り出していく。
「ひゃあ!」
奇襲に近い速度、タイミングであったが、辛くも避けるシア。
"未来視"によるビジョンが浮かばなければ、恐らく細切れにされていたであろうと、
風切る刃の音と、耳障りな笑い声を聞き、その背筋が凍ってゆく。
何とか攻勢に出ようとするシアだが、仮面に覆われた相手の顔からは、
一切の表情を読み取ることが出来ず、さらにその耳に、
(キャハハハ、キィィィー)
(シクシク……シクシク)
天使の金切り声に混じり、子供の泣き声までもが流れ出し、
また背後を、ハジメたちの姿を、シアは無意識に探そうとしてしまい、
その隙を突かれ、斧が彼女の肩を掠める。
「!」
痛みと共に張り裂けそうな不安が襲う。
「でも……ここでやらないと、ですぅ!」
内心の不安を押し殺し、歯を喰いしばるシア。
自分にはハジメのように何かを造る力もない、ジータのように様々な天職を操る力もない。
ユエや香織のような特別な魔法も扱えない、ティオのような変身する力もない。
あるのは……。
「この馬鹿力とスピードだけですぅ!」
自分の頭蓋目掛け振り下ろされた斧を、ドリュッケンの胴体で受け止めると、
そのまま床を蹴り、喰い込んだ刃を外そうとするエグリゴリを逃がすまいと、
加速を付けて壁へと叩きつける、もちろん重力魔法が仕込まれた、
ドリュッケンの斥力を増すことも忘れない。
力比べではシアが優勢のようだ、相手の肉が骨が軋むような音が耳に届く。
シアは慎重にドリュッケンから片手を離すと、柄の部分の端から杭を取り出し、
そのままエグリゴリの肩口から、壁に縫い付けるかのように、その身体を刺し貫く。
「キィィィィー」
目の前の敵の声が嘲笑から悲鳴へと変わる。
シアはそのまま、エグリゴリの身体を昆虫採集の如く杭で固定したまま、
ドリュッケンを振りかぶり、その頭を叩き潰した。
手に伝わる嫌な感触と共に、頭のみならず全身を潰されたエグリゴリの身体が、
腐った果実のようにペシャンコになる、と、同時に、背後の喧騒が収まっていく、
やはり悪さをしていたのはこいつだったようだ。
はぁはぁと呼吸を整えつつ、もう一方の泣き声のする方向へと、シアは顔を向ける、
そこには白いワンピースを来た少女が蹲り、シクシクと顔を両の手で覆い泣いていた。
さっきの天使もどきとは違って身体が透けている、幽霊のようだ。
「あ……あの?」
シアの呼びかけに気が付いたか、少女は恐る恐る顔を上げ、
そして天使もどきの骸に気が付いたか、安堵の息を漏らす。
「おねぇちゃんが……あいつを倒してくれたの?」
「あいつに何かされていたんでしょうか?」
少女の話によると、少し脅かすつもりだけだったのが、
あの天使もどきにムリヤリ操られ、手を貸す羽目になったということらしい。
「ごめんね……ごめんね、逆らったらみんなあいつの斧で……」
泣きじゃくる幽霊少女をシアはぎゅっと抱きしめて……やるつもりが、
相手が幽霊ゆえにその腕は空ぶり、自分で自分を抱く羽目になってしまう、
そんなイマイチ締まらない思いを少し抱えつつ、シアは少女を香織の元へ、
連れていくのであった。
少女の霊が香織の手により、光の粒子になって消えて行くのを見送った後、
ハジメたちは、また先へと進んでゆく。
「か、勘違いしないでよねっ、ねぇ聞いてるのアンタたち~」
あっさり操られてしまったというバツの悪さを感じているのか、
メドゥーサの口数がさっきからやけに多い。
だが、彼女の、決して自らは語らない、自分たちへの、仲間への想いを、
聞くことが出来たからか、ハジメらは特にそれを咎めることはなく、
むしろ微笑ましい気分を抱きつつ、歩を進めていく、と、そこでメドゥーサの足が止まる。
「堕天司?なんでこんなトコにいんのよ、コイツ」
天使もどきのスプラッタな残骸を、さも汚らわしい物を見るかの如く見下ろすメドゥーサ。
「知ってるのか?」
「コイツはエグリゴリって言ってまぁザコなんだけどね、でも」
「それは私が説明するわ」
どうしてこんなところに、と言いかけたメドゥーサを遮るように、ガブリエルが姿を現す。
「ウルの街で幽世の者たちが悪さをして以来……世界の境界が少しずつ綻んで来ているのよ、
私がこうして姿を現せているのがその証拠」
確かにこれまでは、自分で、あるいはガブリエルの呼びかけに応じて、
召喚するというパターンだった。
「特に、こんな大迷宮を作るに適したような場所なら、尚の事ね、だからこそ、
こういう場所に造ったのかもしれないけど」
そして、ガブリエルは優しくメドゥーサの手を握る。
「さ、メドゥーサ、あなたはそろそろここを去る時よ」
グラブル分が小数点レベルではありますが、少し増えそうです。
それからシアに多少ではありますが、活躍の場を与えることが出来ました。