ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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シャレムはアタッカーではなく、どちらかといえばデバッファーな認識。


審問者vs悪食

凄まじい勢いで増加する海水に呼応し、咄嗟に水中スクーターをハジメは展開すると、

ジータたちも酸素ボンベを口に咥えて、それぞれの服を掴み、スクーターへとしがみつく。

 

「潜水艇は……この勢いじゃ間に合わないか」

 

恨めし気に水没していく周囲を眺めるハジメ。

 

「……時間を稼げばいいのか?なら、わたちに任せろ」

 

濡れるのが嫌なのか、ふわりと空中に浮かんだままのシャレムが掌を宙に翳すと、

そこから黒い球体のようなものが現れ、海水を勢いよく吸い込んでいく。

 

「あれは、ユエが使った……絶禍?」

「……んっ、似たようなもの、けど威力はケタ違い」

 

ユエが感嘆と口惜しさの混じった呟きを漏らす、苦心の末に編み出した、

自身のオリジナル魔法である、いや、あった筈の"絶禍"を超える技を、

こうも事も無げに使い熟されては無理もない。

 

「感心してる暇があったら早くしろ、服を濡らしたくない」

 

ともかく、シャレムに促されるままに潜水艇を宝物庫から取り出すハジメ。

彼らが潜水艇に乗り込んだ数瞬後、

天井部分が【グリューエン大火山】のショートカットのように開き、

さらなる勢いで海水が流れ込む。

そしてその水流に一旦吸い込まれたかと思うと、その次の瞬間には噴水に押し出されるように、

猛烈な勢いで上方へと、すなわち海中へと吹き飛ばされた

 

「さっきのとかミレディさんのアルバムとかだと優しそうな人だったのぃ~」

 

おっとりとした外見からは想像も出来ない、乱暴なショートカットに、

ボヤきつつも、ジータの表情は明るい、何はともあれ四つ目の大迷宮クリアである。

が、しかし。

 

「まだ安心するのは……」

 

と、ティオが言いかけた傍から、横殴りの強烈な衝撃が潜水艇を襲う。

 

「この、反応……ヤツだ!」

 

真っ赤に染まったモニターを目にし、顔を顰めるハジメ、

その反応は、あの忌々しい巨大クリオネのそれと一致していた。

 

「触手が来る!避けるぞ」

 

巨大クリオネが射出した無数の触手を、ハジメは操縦桿を操って巧みに避けてゆく。

無論、魚雷を発射し、触手を相殺することも忘れない。

 

「アイツは、てっきりメイルが用意した試練用のラスボスと思ったんだけどな」

 

どうやらいわゆる野生のラスボスだったらしい。

つい先程メルジーネの祭壇で感じた物足りなさを、心の底から呪うハジメ、

やはり迂闊なことは考えるものではない。

 

「とにかく浮上するぞ!海の中じゃ嬲り殺しだ」

 

ハジメは潜水艇から次々と魚雷を射出し、弾幕を張っていく、

例え水中でも全速力で逃げられないですか?とシアが叫ぶ。

 

「……これを見ろ」

 

モニターの索敵範囲を広げるハジメ、映し出される映像に息を呑むシア。

敵を示す赤色は潜水艇の周囲全体に広がっていた。

 

「恐らく分裂して包囲するつもりだ、クソッたれ」

「なら……上も」

「分かってる!」

 

ハジメの言葉通り、浮上する潜水艇の行く手を阻むように、半透明のゼリーの障壁が、

潜水艇ごとハジメたちを飲み込まんとその顎を開く。

だが、そんなことは予測済みとばかりに、ハジメは残り全ての魚雷を、

行く手を塞ぐゼリーの天井一点目掛け、集中砲火した。

 

ゼリーに穴が穿たれ、その向こうに青空が広がる。

ハジメは潜水艇の全ての動力をここぞとばかりにフル稼働させ、

ジータはそっとハッチのハンドルに手を掛け、ハジメと共にカウントを始める。

 

「「さん、にい」」

 

アクセルペダルと操縦桿を固定し、ハジメは操縦席から離れる。

 

「「いち」」

 

そして、すでに閉じようとしているゼリーの穴を最大まで加速された潜水艇は潜り抜る。

 

「「ぜろ」」

 

タイミングがズレることなど、この二人に限ってはありえない、

勢いのまま空中高く舞い上がる潜水艇、それを逃すまいと後を追う無数の触手。

しかしそこで、潜水艇の上空に魔法陣が展開される。

 

『ガルーダ!』

 

「黄金の光!わらわと共にここに有り!スレーンドラジット!」

 

烈風と共に現れた翼を生やした少女、神鳥ガルーダが、やんちゃな叫び声と共に、

潜水艇を幻影で包み、風と幻に惑された触手が右往左往してる間に、

ハジメたちは脱出を開始する。

 

まずティオが先頭となり、空中に身を躍らすとすかさず竜化し、

その背にハジメたちを乗せていく。

しかしそこで幻惑から醒めた触手たちが、ぬらぬらと太陽の光を反射させながら、

ハジメたちを再び包囲し、呑み込もうとする。

 

「ティオ!」

 

承知したとばかりに、翼を広げるとティオは普段の綽綽とした態度からは、

想像も出来ぬほどの高速で触手の波を掻い潜っていく。

 

「くっそ、空も安全じゃないのか」

「あれを見て下さい!」

 

シアが水面を差し示す、そこには水面に映るティオの影に、

ぴったりと重なるように追尾するクリオネの姿があった。

 

「このスピードでもまだ振り切れないのか!」

 

しかも。

 

「なんだあのでかさは」

 

クリオネモドキは分裂させていた自身の分身や、周囲の海水をも取り込んで、

見る見るうちにその姿を巨大化させていく。

そしてそれに伴い、触手の数もそしてその攻撃の激しさも増していく一方だ。

悲鳴のようなティオの声が空に響く。

 

"さすがの妾でもこの速度ではそう長くは持たぬ、はよう何とかしてくれぬと、

ジリ貧じゃぞ!"

 

「……逃げ切れないのか」

 

ここまで来てと歯噛みするハジメ、もちろん諦めたわけではない。

道が塞がれたなら切り開くまで、事実、そうやってここまで生き残って来たのだから。

そして、そんな劣勢の中でも不敵に唇を噛みしめ、その頭脳をフル回転させようとした、

ハジメの背中へとシャレムがぼそりと声を掛ける。

 

「だいたいこの世界の理は把握できた、やはり第七元素は限定的にしか使えんようだな

……後はわたちに任せるんだ」

 

聞きなれない言葉を口にすると、そのままシャレムはティオの背から空中へ身を躍らせ

ふわりと宙を舞う。

 

「!!」

 

ハジメたちが目を見張る中、触手は格好の獲物とばかりにシャレムに殺到するが。

 

「触手プレイはお呼びじゃない、インヴィジブルタッチ」

 

群がった触手はシャレムの身体をすり抜けて行くのみだ。

 

「さっさと沈むんだ……アバカブ」

 

闇色の魔法陣が海面に展開され、クリオネの身体を戒めていく。

が、それでもなお海面はうねり、さらなる攻撃を繰り出そうとしているのは明白だ。

 

「このばかちんが……ロス・エンドス」

 

シャレムがタクトを振るように指先を軽く動かすと、闇を纏った風が自身のみならず

ハジメたちをも保護するように、彼らの姿を囲い込んでいき。

その闇に触れた触手どもは明らかにその動きを、そして精度を欠いていく。

 

「今の内だぞ、さっさと逃げるんだ」

「シャレムさんは!?」

「後で迎えに来い、でないと巻き込んでしまうからな」

 

明確な自信と確信が籠ったシャレムの声にジータは頷くと、ハジメを促し、

散漫で散発的な攻撃を繰り返すのみとなった触手の圏内から脱出していく、

その後ろ姿を見送るシャレムが水面下の標的に、

そしてクリオネが未だ居残ったままの間抜けなエサへと視線を移したのはほぼ同時だった。

 

海面が渦巻き、全長数十メートルにも育ったクリオネモドキがついに姿を現す。

遠目からでも分かる威容に、ジータが悲鳴を漏らす、が。

 

「お前はすでに死んでいるぞ……カルマ」

 

シャレムは掌からクリオネの頭上へと黒い球体を放つ。

それは大迷宮からの脱出時に見せた、あの重力の塊めいた物と同じだった。

もっともあの時のものより、その規模は遙かに大きいが。

そして、クリオネが、その球体を操るシャレムの指に引っ張られるかのように、

空中へと浮かび上がっていく。

 

もちろん、ただでテリトリーから引き摺り出されるわけにはいかぬとばかりに、

触手を、そして溶解液を狂ったように撒き散らすが、それらは全てシャレムの周囲を覆う、

黒風に狙いを逸らされ、掻き消される。

 

「神なる力を」

 

今や、クリオネモドキは完全に空中へと引き摺り出され、その半透明の身体は、

黒い球体に戒められ、触手一本すら動かせぬ状況となっている。

 

そしてシャレムが両腕を頭上へと高く掲げ翳すと、その指先に魔法の光が灯される。

 

「あれは……あの魔法は何だ?」

 

ゴーグル越しに、シャレムの指先に宿った光を見つめるハジメ。

魔法には属性に伴う色が必ずある。それは自分たちが操る物や、

ジータたちが操る物でも変わりはない、しかし、今、シャレムが放とうとしているそれは、

地火風水光闇、どれにも属さぬ異質な色であり、力だった。

 

「分からない、けど、多分……私の蒼竜よりもずっと上」

 

自身の最大にして最強の魔法をも凌ぐ光に、魅せられたかのように呟くユエ。

その声音には口惜しさなど微塵もなく、むしろ敬意と探求心が籠っている。

 

彼らが見つめている間にも、鈍色の光は急速に拡大し、周囲のマナを吸収し、

空間までをも歪ませていく、その様子は何となく元〇玉に似てるなとハジメが思った刹那、

頃合いと見たかシャレムは。

 

「ケイオス・レギオン!」

 

決めゼリフと共に、眼下のクリオネへとその魔力の籠った塊を叩きつける、

クリオネの身体に紋章が刻まれた瞬間、魔法陣が展開され、クリオネの巨体を吸い込み、

消えた……と思った刹那、まるで幾多の複合された魔力が重なりあうかのような、

大爆発が起き、その中心でクリオネの巨体が焼き尽くされていく様が、

閃光の中でドヤ!と勝利を確信するシャレムの背中が、ハジメたちにもはっきりと見て取れた。

 

「凄いというか、派手だなぁ……」

「ちゅどーんとか、どかーんとかそういう効果音がピッタリくるね」

 

半透明だった身体を白く濁らせ、煙を噴いて波間に漂うクリオネの残骸を眺めつつ、

ハジメたちはシャレムを迎えに行くのだが。

 

「ふむ……今のでこれだと、フルパワーだとわたちの力はこの世界では強すぎるようだな」

 

風に乗って聞こえて来たシャレムの言葉に、一同は思わず耳を疑い絶句してしまう。

 

「あの~、今ので……ってことは今のもフルパワーじゃないってことでしょうか?」

「今ので三分の一って感じだな」

 

おずおずと尋ねるシアに、しれっと答えるシャレム。

 

「ま、この世界を構成する元素の関係上、どの道フルパワーは難しい、それに、

お前たちの旅の目的からして、あまり目立つのも避けたいといった感じだろうしな」

「今更って気もしますけどね」

 

正直、いつ本格的に衝突するかという段階に踏み込んでいると思うジータ、

恐らくその日はそう遠くない筈。

 

「……シャレムの今のやつ、異空間から力を引き出していた?もしかして」

 

ほう、気が付いたかと、シャレムはユエの顔を興味深げに眺める。

 

「うむ、ここにはわたちが本来扱いたい第七元素の力が欠けているようだからな、

ゆえに、異界から引き出させて貰った」

「つまり地火風水光闇、そのどれでもない力をあんたは扱えるってことか」

「限定的にだがな、ま、わたちくらいになると、四大元素にエーテル、

どれでも遜色なく使えるが、普段使いの基本は闇だな、さっきのも引き出した力を、

闇属性に変換してぶっ放したわけだしな」

 

それであんな魔法の色をしていたのかと納得するハジメ。

 

「ともかくだな、概念としてすら存在しない世界の理から外れた力を、そのまま使ったとて、

結局、世界に拒絶されるだけだ」

「……」

 

シャレムの言葉に考え込むハジメとユエ、

その沈黙は錬成師と魔術師としての探求心だけが理由ではない。

彼女の言葉には何かこれから先に進む上で、いや進んだ後に何を為すべきかという、

ことについての、重大なヒントが潜んでいるように二人には思えてならなかった。

 

(世界に新たな理を刻む力……)

 

そんな二人の様子を、どこか微笑ましい表情でシャレムは見つめると、

促すかのように、ぽんと手を叩く。

 

「さぁ、旅を再開するぞ」

「あ、待ってその前に」

 

折角スマホが復活したのだから、やって置きたいことが残っている。

ジータは空中に足場を作ると、そこで自撮り棒を取り出す。

 

「みんな行くよ、せーの」

 

カメラに向かい思い思いのポーズを取るハジメたちへと頷くと、

自らも弾けるような笑顔を浮かべ、ジータは拳を空に翳し、シャッターを切る。

 

「メルジーネ海底遺跡攻略完了、この調子!イエーイ!」

 

 

 

そしてその日の夜のことだった。

 

「では教主様、私どもはこれで」

「遅くまでご苦労であった、また明日」

 

ここは神山、配下の司祭たちと挨拶を交わし合うと、

イシュタルはそのまま執務室の隣にある寝所へと向かう。

その胸を高鳴らせながら、何故ならば。

 

「おお……使徒様」

 

歴代教皇のみが使用を許される豪奢な寝台の上には、その背に神聖なる翼を生やした、

銀髪の美女が一糸纏わぬ姿で待ってくれているのだから。

 

 

 




カルマは本来バブさんの技ですが、まぁいいよねってことで、
ブラック・フライやケイオスキャリバーは流石に使えないでしょうが。

次回からまた舞台は王都に。
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