ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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水着Verがあるのならば、やっぱりやっとかないと。



使徒襲来(温泉編)

 

 

「落ち着きましたか」

「ああ、すまん、ありがとう」

 

香織から渡された浄化されたてのオアシスから汲まれた水を一息に飲み干すメルド、

その水には名産のフルーツの果汁や薬草が加えられており、その仄かな甘みが、

メルドの身体に活力を与えていく。

 

「で、何があったんですか、そもそもどうして」

 

こんな所にと言葉を続けようとしたジータを遮るかのように、

メルドは落ち着けと言わんばかりに、彼女の眼前へと掌を広げる。

 

「順を追って話す、まずは……」

 

と、メルドがハジメたちへと事情を語り始めた時より、遡ること数日。

 

 

「残す訪問地はあと一つだけ……それが終れば」

「ああ、戦いが始まるな」

 

この地に召喚されて以来、欠かすことなく書いている手記に、

ペンを走らせながらも、愛子は感慨深げに呟くが、

気を緩めるなとばかりに、すかさずカリオストロが窘める。

そんな彼女らを乗せた馬車は、快調に街道を飛ばしていた。

 

「ここから先は……砂漠だったか?」

「ええ、次の目的地がちょうど砂漠との境界線上にあるんです」

 

カリオストロの問いにチェイスが応じる。

 

「本来はそこで終わり、だったんですけどね、そこからがスタートになるなんて」

「聞かなければよかった……なんて思ってやしないだろうな?」

 

デビッドの言葉にチェイスはまさかと言わんばかりに肩を竦める。

 

「世界が変わる瞬間に立ち会えるかもしれないんですよ」

「変わるといや、そろそろこの景色も見納めか、おいお前ら」

 

砂漠に入る前に、この緑の風景を焼き付けておけと、

カリオストロは自分の背後に座っている筈の生徒たちへと呼びかけるが。

 

「寝かせといてやりましょう」

「ああ……束の間の休息だ」

 

心からの労わりと、哀れみに満ちた表情を浮かべながら、

デビッドとチェイスも後部座席へと視線を移す。

二人の視線の先にあるのは、優花や淳史たち愛ちゃん護衛隊の面々、

ウルでの出来事以来、カリオストロが面白半分かつ容赦なく課す、非人道な訓練の連続に、

彼らはもはや死屍累々といった有様で、馬車の座席に折り重なるようにして眠っている。

 

「うう……目ェ覚めちまった」

 

そんな中で淳史が身を起こそうとするが、もはやそんな余力も無いのか、

そのまま座席から滑り落ちるように床へとへたり込んでしまう。

 

「もーあっちゃんたらお寝相わるいぞっ!」

「……ちきしょう」

 

淳史とて、もうとっくにカリオストロの本性に気が付いているので、

コビコビの擬態、いや煽りには全くもって振り回されることはなく、

ただ捨て台詞を漏らすのみだ。

そんな淳史の様子にデビッドとチェイスは顔を見合わせ、小声で囁き合う。

 

(なんか、入団したての新人の頃を思い出すな)

(あそこまで酷くはありませんでしたけどね)

 

「まぁ淳史、そうボヤくな、次の宿はな、なんと温泉があるんだぞ」

「温泉かぁ」

 

元気づけるかのようなデビッドの言葉にも、淳史は未だ上の空のままだ。

 

「で、その温泉なんだがな……実は」

 

そこからは小声でデビッドは淳史へと耳打ちする。

 

「えっ!混浴っ!」

「声が大きい、ま、水着着用ではあるけどな」

「ふ~ん、あっちゃんはぁ、そんなにカリオストロのぉ、水着見たいんだぁ」

「うるせえよ……」

 

もはや気を遣う余裕もない淳史、そんな彼へとカリオストロは例の笑みを浮かべ、

無言で馬車の最後尾を見るよう促す。

そこには傍らにライフルを立掛け、背後の警戒にあたるシルヴァの姿があった。

 

「目当てはあっちだろ、ま、オレ様はそっちの需要がある体型じゃないからな、

むしろあると困るというか」

「それじゃ私にも需要が無いってことじゃないですか!」

「いや、先生こそむしろ合法……むぐぐ」

 

最近、体型の話になるとやたらと耳が鋭くなる愛子が、すかさず噛みついて来、

言い返そうとした淳史の口をカリオストロが塞ぐ。

 

「ま、自分で振って置いて何だが、需要とかそういう生々しい話は止めとこう」

「でもでもシルヴァさん……二十七歳でしょう」

 

二十七歳という数字が耳に届いたか、シルヴァの肩がピクリと動く。

 

「私と二つしか年齢変わらないんですよぉ、なのにあの差は一体何なんですか」

 

嘆息する愛子、全身全霊でデキる女を体現しているシルヴァは、

正しく女性にとっての一つの理想像のように愛子には思えてならなかった。

 

しかし、それが却って男性に取っては余りにも高値の花と思え、

ある種、遠くの山を眺めるような態度に終してしまうのは仕方がないことかもしれない。

実際、自身の能力に、日頃から自負を持ってならないデビッドらですら、

シルヴァの隣に立つと、その自信が霞み、気後れを覚えてしまうのだから。

 

「まぁ、アイツもアイツで色々コンプレックスは抱えてるのさ、例えば二十……ぐはっ!」

 

それ以上言わせないとばかりに、何処からか飛んできたゴム弾に眉間を撃たれ、

悶絶するカリオストロ。

痛みに顔を顰めるカリオストロの耳に、もう崖はいやぁ~~~と、

悲鳴のような優花の寝言が聞こえる、ともかく、そんな彼らの道中は概ね順調だった。

そして街に到着した彼らは、街の入口にて意外な人物と遭遇することとなる。

 

「メルドさん!何故ここに」

「おう、その声は先生か、久しぶりだな」

 

そう、こんな国境沿いの街に本来ならいるべきではない、いてはならない。

ハイリヒ王国騎士団長メルド・ロギンスその人の姿がそこにあった。

 

 

「魔人族のさらなる攻勢に備え、各衛星・独立都市との連携・支援について、

団長自ら赴き今一度密にすべし、との有難い仰せでな」

 

優花ら生徒たちに、まずはそれぞれの部屋に入るよう言いつけると、

大人たちはロビーで互いの状況を報告し合う。

 

「国家の軍事のトップたる騎士団長にドサ回りをさせるたぁ、さては何かやらかしたな」

 

意地悪く笑うカリオストロに対して、こちらは苦笑するメルド、

そう、確かにこれは一国の騎士団長のやるべきことではない、むしろ赴くのではなく、

こちらから呼びつけるのが筋なのだから。

 

「心当たりがありすぎてな……ま、名目は立派だが、要は更迭だな、

上に取ってはよほど俺の存在が疎ましいらしい」

「このような重大な時に、国防の重鎮たる騎士団長を辺境へと追いやるとは……やはり」

 

呻くようなデビッドの言葉をメルドは耳聡く聞き逃さない。

 

「そう、それだ、そのやはりの先が聞きたくってこっちに立ち寄ったんだ、

お前たちが俺によこした推薦状だが、危急の何かは伝われど、

核心部分は揃って抜け落ちて、いや隠している、そんな印象があったもんでな」

 

「それは、まだここでは……」

 

デビッドに代わり愛子が答える、やはり自分たちではなく当事者である

ハジメたちに説明して貰った方がいいと考えたのだ。

 

「ですが……メルドさん自身も王都で日々、そんな異変の兆しを、

肌に感じてらっしゃったのではないでしょうか?」

「……」

 

沈黙で応じるメルド、その沈黙には明らかな肯定の意と、そしてそんな中で、

己の本来の責務を半ば投げ出すことになってしまったという口惜しさが、

籠っていると愛子は思った。

そしてそんな渦中の中で不安な日々を過ごしているであろう、教え子たちのことを思うと、

彼女の胸は痛んでならない、まして光輝らが魔人族に敗北し、

あわやの所をハジメたちに救われたという話もすでに届いている。

この身に翼があれば、今すぐ生徒たちの元へ帰れるのにとの思いは日々大きくなるばかりだ。

 

だが、これは自分たちの生存を賭けた戦いである。

戦う力を持たぬ自分の存在がさらなる枷に、足手纏いになってはならない。

木乃伊取りが木乃伊にという言葉もあるのだ、いや……。

 

(やっぱり、私も結局死にたくない、命が惜しいだけなのかもしれません……)

 

「すまん……俺は半端な形でお前の生徒たちを……」

 

あのオルクスでの事だけではない、最後まで守る、決して戦場には送らないと、

己に誓っておきながら……肩を落とすメルド。

そんな彼の肩に愛子はそっと掌を置く、誰もが皆、ままならぬ中で足掻いているのだ、

責められる筈がない。

 

「ま、予算だけはたっぷり頂いて来たからな、こうして……この世界を

旅するのも悪くはない」

 

とはいえ沈んでばかりもいられないと、努めて明るい声を出すメルド。

 

「ところで、この後はどうするんだ?まさかノコノコと王都に戻るって腹積もりでもあるまい」

「このまま砂漠に入りアンカジへ向かいます、そこで」

「坊主や嬢ちゃんと合流ってことか、なら俺も同行させて貰おうかな」

「それは心強い、ですがまずは旅の疲れを癒して下さい」

 

チェイスは湯気が漂う外の様子をメルドへと示す、メルドも内心楽しみにしていたのだろう。

その表情から緊張が解けていくのが分かる。

 

「優花や淳史たちもきっと会えて嬉しいと思いますよ、さ、愛子も」

「わ~~い、おっふろ、おっふろ♪……ってテメェらは?」

 

愛子たちを促しつつも、ロビーから出ようとしないデビッドらを見とがめるカリオストロ。

 

「俺たちは例によって土地の司祭との顔合わせがあるからな」

「こんな時くらい少しはハメ外せよ、お決まりの文句言ってハンコ貰うだけだろ」

「あなたがハジケ過ぎなんですよ……」

 

とはいえどその忠実さ、嫌いじゃないぜとカリオストロはデビッドらに耳打ちする。

 

「愛子は長湯だからな……急がなくても間に合うぜ」

「!!」

「じゃあ待ってるからねっ♪」

 

カリオストロの後ろ姿が階下に消えたのを確認するや、

デビッドら四人はすかさず街の地図を、教会の場所を確認する、ここからこの距離ならば……。

 

「よし!行って戻って十五分で済ませるぞ!全員これより四十秒で支度だ!」

 

 

と、デビッドらが誓いを新たにした頃、露天風呂では。

 

「はーい、男子全員注目!」

 

フリルで飾られたセパレートタイプの水着に身を包んだ優花の声と、

 

「ゆ、優花……その、そんなに盛り上げられると恥ずかしいんだが……」

 

普段の凛々しき立ち振る舞いからは、まるで思いもつかない、

シルヴァのか細い声が脱衣所から聞こえてくる。

 

「ほらっ!覚悟を決めて、ね」

 

優花に手を握られ、そして奈々と妙子に背中を押され、

恥ずかし気ではあったが、それが隠し切れないいつもの凛々しさと相殺され、

なんとも涼やかな表情を浮かべた、水着姿のシルヴァが姿を現す。

 

その水着は、青のビキニと優美な脚線美を却って引き立たせるかのような長めのパレオ、

そして豊かな髪をビーチ帽で纏めている。

もちろんトレードマークの巨大ライフルは、しっかりと右腕に握られているが。

むしろその無骨なフォルムが、シルヴァ本人の女性的な美しさをさらに引き立てている。

 

ちなみにスレンダーな奈々はスポーティーな競泳タイプのワンピース水着で、

妙子はやや太目の体型を気にしてか、ゆったりとした、

身体のラインが隠れるタイプの水着を着用している。

 

「ど……どうかな、君たち?」

 

圧倒的なまでの美に、もはや言葉を失い呆然と立ち尽くす男子トリオへと問いかけるシルヴァ。

 

「す、少し……可愛らしすぎるかなと、思いもしたんだが」

「あ…あああ」

 

ようやく明人が喘ぎのような吐息を漏らす、淳史と昇は情けなくも固まったままだ。

 

「シルヴァさんはいつでも可愛いって、ね」

 

正気を保つのがやっと、そんな男子たちを見かねた優花が助け舟を送る。

 

「き……君たち、あまり私をからかっては…」

 

冷静沈着にして美貌のスナイパーが見せる、普段とは打って変わったその反応に、

優花たちは新鮮さと同時に、さらなる親しみやすさをシルヴァに覚えていた、

人間誰しも、完璧な存在が時折見せる隙のような物に弱いのだ。

事実、男子トリオもようやくいつも通りにシルヴァへと接することが出来そうな

雰囲気になって来ている。

 

が、そこで和らぎ始めたシルヴァの視線が、またいつもの鋭いものへと戻る。

いや、シルヴァだけではなく、優花や淳史たちも一様にその表情を険しい物へと変えている。

 

「優花」

 

シルヴァの問いかけに優花はコクリと頷く。

 

「何か変な気配がする……皆、武器を用意して」

 

そう言い終わるか終わらないかの内に、男性側の脱衣所で轟音が轟いた。

 

 

温泉など、いや、これほど長く王都や最前線から離れる日々が、

若き日の初陣以来あっただろうか?

 

(忙中閑あり、と言うが……)

 

自分では万事適当にやっていたつもりだったが、どうやらメルド・ロギンスという男は、

自分が思う以上に仕事熱心な男だったようだ。

そんなことを考えつつ、衣服を脱ぎながら、すぅと息を吸い込むと、

温泉特有の香りが肺の中を満たしていき、どこかウキウキとした気分も湧き出してくる。

 

(これが旅というやつか……)

 

もちろん任務の途中であることは忘れてはいない、が、

 

(いつか光輝たちにも……)

 

もしも全てを終わらせることが出来たその時には、彼らにも戦いだけではない、

この世界の美しさを見て貰いたい、そんな気分を覚えつつ、彼がパンツを脱衣所の籠に、

ポイと投げた時だった、鏡に映る自分の背後の影を察知したのは……。

 

流石に鎧や長剣を温泉に持ち込むつもりはなかったが、

それでも懐剣程度は持ち合わせてある、メルドはそっと籠を探り、短剣を取り出そうとする、

その時だった、まるで心臓を鷲掴みにされたような静かでいて圧倒的な死の気配が

自分の全身を支配したのは……それでも意識を保ったまま、

振り向くことが出来たのは歴戦の勇士の証か、果たしてそこにいたのは。

 

(天使?)

 

それは、自身に迫る生命の危機すら忘れさせる程の美しい女性の姿をしていた。

その身に鎧を纏い、背中には幾枚かの翼、そして透き通るかのような銀の髪、

しかしその表情は、まるで人形のように造り物めいて見えた。

 

そして死の気配を纏いし天使は、ゆっくりとメルドへと手を伸ばしながら歩み寄る。

一方のメルドの身体は、まるで凍り付いたように動かない、いや動けない。

 

(……ここが、こんなところが年貢の納め時か)

 

心残りは多々あれど、全裸で死ぬのは少し勘弁して貰いたい、と、

逃れえぬ死の予感の中であっても、口惜しさを覚えた時だった。

 

「死ぬのはテメェだぁ!」

 

叫びと共に脱衣所の壁をブチ破り、天使へと飛び蹴りをかますカリオストロ。

もっともその姿はスク水に加え、手にした洗面器にはヒヨコのおもちゃ、

さらにはシャンプーハットまで被った、かなり珍妙ないでたちではあったが。

 

ともかく渾身のキックを受け、盛大に吹っ飛ばされた天使の姿を、

カリオストロは八重歯を剥き出しにし、例の如く凶悪な笑みを浮かべ睨みつける。

 

「ついに尻尾を掴んだぞ、このアバズレストーカー女が、ブッ殺してやる」

 





次回、愛ちゃん護衛隊vs使徒
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