ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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ほぼ見切り発車で始まった本作ですが、
皆様の閲覧、評価、感想、誤字報告etcのお陰で、
なんとかここまで辿り着くことが出来ました。

というわけで、いよいよ王都編開幕です、なのにこんなことしてていいのか?


王都
コードネームはヤンバルクイナ


 

 

「しかしノイント、此度の件、少々派手に動きすぎではないのですか?」

「エーアスト、こちらのことは私に一任するとの取り決めの筈」

 

標高八千メートルを超える、神山のさらなる上空にて下界を眺めるのは、

不気味なほどに瓜二つの二人の使徒だ。

 

動き過ぎを指摘された、人間族担当の使徒ノイントは、

魔人族側の使徒エーアストからの指摘について、暫し考える。

 

確かにシナリオ通りに事は基本的には進んでいる、

しかし、誤差の範疇とはいえ、どうも様相が違うような気がしてならない。

それが、まさか自身が異界の蛇に寄生され、

深層意識をコントロールされているからだとは、夢にも思わない。

 

「概ねシナリオ通りに進んでいることは事実」

 

とりあえずそう言い返すのがやっとである。

しかしながら、あのもう一人のイレギュラーがさらなる異世界から召喚してきた者たちにより、

自らの手足となって動かせる、分身たちの殆どを失ってしまった、

これでは主の怒りは避けられず、ゆえに失敗は許されない、

多少の誤謬を抱えた上でも、計画は実行せねばならない。

 

勇者たちの目の前で魔人族の手により王都を壊滅させ、決定的な憎しみと絶望を、

そして使徒という希望にも似た毒を与え、躍らせるという……。

なおかつ、その過程の中でイレギュラーたちをも、纏めて始末せねばならない、

……でなければ、ノイントは余裕綽綽のエーアストの顔を睨む、

太古の頃からそうだった、こいつはいつも自分の上を行く。

そんな忌々しさを隠すためか、ここでノイントは話題を変える

 

「ところであの被験体はどうなりました?」

「ええ、そろそろ最終段階に入るかと」

 

被験体とはもちろん檜山大介のことだ。

 

魔人領で出土した"魔鎧"、かつて彼女らの主エヒトが戯れに造った、

アーティファクトの一つであり、もちろんそのまま着用しても、

強力な武装ではあるのだが、この鎧のキモは装着者の精神や感情、

そして生命力をエネルギーとすることで、飛躍的な能力向上を可能とするところにある。

 

ただし装着しているだけでも、その肉体には負荷がかかり、

かつ、残念ながら鎧の全能力を解放した場合、装着者の肉体が崩壊し、

死亡するのが難点であり、ゆえに魔人領から出土したにも関わらず、

魔人族の中に、この鎧を着用できる者はいなかった。

 

ともかくエーアストからの依頼により、転移者の中から鎧の適合者を捜していたところ、

たまたま"鎧"との適合率が最も高かったのが、彼、檜山大介だったのだ、

そう、誰でも良かったのだ。

天之河光輝でも南雲ハジメでも白崎香織でも畑山愛子でも仁科明人でも。

黒い鎧を、白や赤に塗り変える程度の工夫は必要だったかもしれないが

 

「被験体はもう王都へと運んでいます、あとはいかようにも」

 

鎧の進化具合から見て、あの少年は早晩保たないだろう、

なかなか数奇な運命を辿ったとはいえるが、

ここがどうやら終着点であることは、間違いないようだ。

 

(しかし早々に朽ち果てるとは思ってましたが、その執着心は見上げたものです)

 

しかし彼女が、ノイントが手駒としたもう一人、

そう、中村恵里の抱える闇と比べれば、檜山のそれは余りに小さく思えてならなかった。

 

「さて、今夜手筈通りに」

「手筈通りに、ごきげんよう」

 

感情の籠らない形ばかりの挨拶を交わすと、

二人の使徒はそれぞれ逆方向へと飛び去って行くのであった。

 

 

そしてそれから数時間後、彼女らの言う下界では。

 

「あの、味付け、もう少し薄くした方が美味しくなると思いますよ」

「……」

 

メイドは無言かつ定型的な一礼を披露すると、優花の前の皿を片付けていく。

 

(てっきり牢屋にでも入れられると思ったけど)

 

その様子を見ながら、優花は不思議な面持ちで、シンプルながらも、

とんでもなくお高いであろう調度品が要所に飾られた部屋を見回していく。

そう、ここは牢獄でも何でもなく、貴賓用の宿泊室だ。

 

夕食の後片付けが終り、メイドが部屋から出ていくのを、

ぼんやりと眺めながら、優花は数日前、

自分が愛子の身代わりとなって攫われてからのことを思い起こしていく。

 

「無礼な真似をして申し訳のうございまする」

 

と、執務室にて、優花へと恭しく礼をするイシュタル、

その傍らには自分を連れ去った例の天使が控えていた。

 

「貴殿は選ばれたのです、この不浄なる世界が青き清浄なる楽園へと生まれ変わる瞬間を

そして我が妻との婚儀の見届け人として、御足労願った次第にてございまする」

「そりゃどーも……勝手に呼びつけるのが随分お好きなんですね」

 

婚儀だとか言ってるが、祝う気になど到底なれない、

真実を知った今となってはこの老人は、敵の首魁の一人と言ってもいいのだから。

 

「そんなじゃ結婚しても奥さんにすぐ振られますよ」

 

どこの誰だかは知らないがお気の毒にと、その奥さんについては思わざるを得ない。

 

「これは、一本取られましたのう」

 

しかし、優花のそんな嫌味もこの怪老人にはまるで通じなかった。

ともかく、優花がこの部屋に軟禁されてから、数日が経過していた。

 

「……こんなの付けたところで、どうせ逃げられやしないのに」

 

魔法封じのブレスレットを撫でまわしつつ、

恨めし気に窓の外を眺める優花、下界は遙かな雲海のさらにその下だ。

こんな状態でさえなければ、素直にいい眺めと口にするところではあるが、

一人囚われの身を鑑みると、余計に孤独感を募ってしまう。

かといって部屋の外には常に見張りの騎士が張り付いていたし、

それも、トイレにまで付いてこないでと文句を言うと、

即座に女性騎士がやって来るという次第。

 

従って彼女はひたすらベッドから天井を眺めるか、絨毯のけばの数を数えるか、

あるいは助けて!と書いた紙飛行機を戯れに外へと飛ばしてみたりという、

不毛な日々を送っていた。

 

(うーん)

 

優花は自分の二の腕の肉をつまむ、少し肉が付いてしまったか?

食事が豪勢なのはいいが、こんな狭い部屋に籠ってばかりだとやはり……。

 

「切り替え!出来ることやんないと」

 

そう自分に言い聞かせるように一声掛け、優花は腕立て伏せを始める。

 

「たく、早く助けに来なさいよね、南雲もジータも……ん?」

 

腕立ての体勢のまま、優花は床下に耳を澄ませる、

何かがカサコソと動いているような音がしたのだ。

腕立てを止め、床に耳を付ける、確かに聞こえる……その音を辿るように、

床を這って行く優花、音はやがて壁に到達し、その壁面を這い上っていく

すでにカサカサ音は耳を済ませずとも、聞こえる様になっていた。

 

そっと身構える優花。

 

そして音が天井から発せられるようになり、さらに何かをコツンコツンと、

嘴のようなもので叩く音が聞こえたかと思うと。

 

バギョ!

 

何かが裂かれるような音が響いたかと思うと、天井の換気口を塞いでいた簾の子が破られ、

そこから一匹の鳥が姿を現す。

 

「鳥?」

 

余りにも意外な音の正体にやや拍子抜けする優花、こんな高い所に住んでる鳥がいるなんて、

やっぱりここは異世界なんだなあ、と妙に感心したのも束の間、

優花の顔が、少しずつ疑問に染まっていく。

 

この鳥は見覚えがある、これは確か地球の、日本に住んでる鳥だ、

確かテレビで見たことがある、天然記念物だったか?と。

 

「ヤンバルクイナ?」

 

そう優花が口にすると同時に、流石に今の物音に気が付いたのか、

見張りの騎士が部屋に駆け込んでくる、

そして訝し気に優花の足元の鳥を見咎めた時だった。

 

鳥は一気に跳躍し、騎士の頭頂部を思いきり蹴りつけ、

さらに嘴が唸りを上げて、騎士の鳩尾をマシンガンのごとくに穿つ、

それは理屈を超えた戦いの本能から繰り出される猛撃であった。

鎧越しであっても、いや鎧越しだからこそか、その衝撃は余すところなく、

騎士の全身に伝わり、くぐもった叫びのようなものを一声漏らすと、

そのまま騎士は失神してしまう。

 

(ええええええええーっ)

 

目の前で展開されたあり得ない光景に絶句し、硬直する優花、

そんな彼女へとヤンバルクイナは机の上のペンを咥え、何かを紙に記していく。

 

『優花ちゃん、大丈夫?わたしだよ、ジータ』

「え!」

『ハジメちゃんも愛ちゃんも、みんな助けに来てるよ』

「え?え?え?え?」

 

目の前の鳥が紙に記す内容に、何よりもその常軌を逸した現象に驚愕し、

目を泳がせながらも、必死でなんとか己の理解の範疇に落とし込もうとする優花、

すはーすはーと、何度かの深呼吸の後。

 

「ねぇ……だったら今から質問するけど、ウチの店のハンバーグ定食って幾ら?」

 

……その他極めてプライベートな内容があったゆえに割愛するが、

とりあえず幾つかの質問の結果、優花は目の前のヤンバルクイナが、

ジータであるという確証を得るに至ったのであった。

 

「……鳥にまでなれるようになったんだ」

カキカキ『わたしもビックリだよ』

 

リズミカルにペンを紙に走らせるヤンバルクイナもといジータ。

どこか得意げなその姿に嘆息する優花、この目の前の少女が、

いわゆる調子乗りだということを、彼女は知っていた。

 

「……あのさ」

カキカキ『何かな?』

「筆談ダルイからさ、もうやめよ?」

 

怒ってるわけではないが、イラついているのは確かなので、

優花の語気はちょっと強めである。

 

『ちょっと元の姿に戻るのに時間がかかるんだけど?』

「大丈夫だよ、交代が来るのは二時間先だから」

 

妙に確信めいた口調の優花、囚われてる中で彼女が非常に不気味に思えたことがある、

何もかもがあまりにも正確すぎるのだ、まるで機械のように。

 

『じゃあ、待ってて』

 

ベッドの中に潜り込むヤンバルクイナ。

寝具の間から淡い光が数十秒ほど漏れて、やがて収まると、

シーツがベッドからずり落ちる、そこには額に鉢金を装着し、

ややボンデージ風なボディスーツに、赤の甲冑を身に着けたジータがいた。

 

今の彼女のジョブは忍者、その名の通り隠密と様々な術を扱い、

搦手から攻めることに長けたジョブである。

 

「お待たせ」

「これでやっとスムーズに話せるわね、で、この後どーすんの?」

「ティオのこと覚えてるかな?そのティオが愛ちゃんと一緒に上で待ってるから」

 

あとはもうどこか適当な場所で、ティオに乗せて貰って地上に降り、

王宮で皆と合流すればいいだけだ。

王宮ではハジメたちとリリアーナが国王や大臣たちを、

メルドやデビットらが騎士や兵士たちを、それぞれ抑え、

そして香織や淳史や奈々らがクラスメイトたちを、王都の外れにある、

現在、光輝が謹慎している兵舎へと誘導するという手筈となっている。

 

多少揉めることはあるかもしれないが、今の自分たちの力なら

さほど苦も無く成功するはずだとジータは確信していた。

何事もなければ。

 

「じゃあ行くよ、屋上まで」

 

優花の手を引いて客室を出るジータ、

そんな彼女らの姿を一匹の斑色の蛇が、物陰で密かに見つめていたことにも気づかずに。

 

 

一方、王都の地下に広がる秘密通路を使い、王宮へと侵入を果たしたハジメたちは、

計画した通りに行動を開始したのだが……。

 

「オイ!王様は一体どこにいるんだ!」

「アラン!ホセ!頼むっ!無事でいてくれ!」

「雫ちゃん!龍太郎くん!どこに行ったの?」

 

彼らの戸惑いの声が、王宮に木霊していた。

何故ならば国王を始めとする主要人物の殆どが、王宮から姿を消していたのだから。

 

「お母様と弟は……ランデルは無事でした」

 

謁見の間で首を傾げる一同ら、

そこに息せき切ったリリアーナとデビットらが戻って来る。

 

「現在お二方は地下の方にご避難されてます、

この王宮そのものが陥ちない限りは、まず安全でしょう」

 

チェイスのその言葉が妙にフラグめいて聞こえたのは、気のせいではない。

 

「ですが……お父様たちは一体」

「もしかすると神山か」

 

天井を睨みつけるハジメ、確かにあり得ない話ではない。

 

「しかしここから向かうとなるとエレベーターが必要になるぞ、

あの竜の戻りを待たないのならな」

 

顔を顰めるメルド、王宮から神殿への移動に使うエレベーターは、

一定の身分以上の神官でなければ、操作出来なかった筈だ。

 

「それについてはカリオストロが今いじってる最中……ん?」

 

シルヴァが何か怪訝な顔を見せた瞬間だった。

衝撃で大気が震えるほどの轟音と破砕音が、王都を貫き、

王宮の窓をガタガタと揺らしてゆく。

 

「そんな……大結界が……砕かれた?」

 

驚愕の表情を見せるリリアーナ、確かに彼女の言う通り、

王都の夜空に魔力の粒子がキラキラと輝き舞い散りながら霧散していくのが

はっきりと見える、そしてさらに閃光と再びの轟音。

 

「第二結界も……どうして……こんなに脆くなっているのです?これでは、すぐに……」

 

軋みながら点滅する、王都を覆う光の膜のようなものを見つめながら呟くリリアーナ。

 

「大結界って確か……」

「王都を外敵から守る、三枚の巨大な魔法障壁です、でもどうして…」

「待て……ティオからだ、何か言ってるぞ」

 

香織とリリアーナを手で制し、ティオからの報告に集中するハジメ。

見る見るその顔が険しくなっていく。

 

「王都の南方一キロの地点に、魔人族と魔物の大軍が出現したそうだ」

 

場に動揺が走る。

「とりあえずジータと園部を回収してこっちに合流……ん!」

 

突如身体に走った強烈な違和感にハジメは床に膝を付いてしまう。

いや、違う……これは喪失感だ。

今まで当たり前のように、南雲ハジメの中にあったものが、

突然抜き取られて行くような、そんな……。

 

(ジータが……俺の中から消えて、いや遠くなっていく)

 

これ以上は決して手放すまい、と、己の身体をハジメは両手で固く抱きしめる、

その顔に焦りと怯えが、そして身体に悪寒が走る。

 

「ジータちゃんに何かあったの!?……もしかして」

「……」

 

香織がそんなハジメの顔を覗き込む。

ハジメは何も答えないが、その沈黙こそが回答だった。

 

そしてその時、最後の結界が砕かれる音が響き。

 

『なんじゃあれは……鳥?』

 

同時に、魔法陣から猛烈な速度で翼長数十メートルにも達する巨鳥が、

複数個所から編隊を組んで王都へと突入し、腹に括り付けられた籠から、

何かを大量に投下すると、そのまま明後日の方向に飛び去っていくのを、

ティオははっきりとその視界に捉えていた。

 

「なにこれ……」

 

王都の住人は投下された粘液状の蠢く何かを、不審げに眺める、

それはスライムだった、その体内に可燃物質を充満させた……次の瞬間、

王都は業火に包まれた。

 

ティオの報告によると魔人族の軍勢は総勢数万、

それらが地上と空に別れて次々と王都へと突入しつつあるとのことだ。

ハジメは窓の外をチラと見る、すでに王都の空は赤く染まり、

炎に追われる人々が、逃げ場所と説明を求め王宮へと殺到しつつある。

 

戦争に必要以上に加担するつもりはない、だが戦争に何ら関係のない人々が、

目の前で戦火に踏みにじられつつあるのならば、

それを救うのはきっと必要なことなのだろう、魔王を免罪符にしないと決めた、

南雲ハジメにとっては。

 

だが、それでも……。

 

王都の背後に聳える神山、その遙か彼方の頂上を仰ぎ見るハジメ、

ジータがもしこの場にいたのならば、自分には構うなと、きっと言うだろう。

……しかし。

 

「……街は私と香織が守る、だからハジメはジータの元へ」

「ユエ……」

 

そこで、愛する少年の迷いを断ち切らんとばかりにユエが力強く胸を張る。

さらにリリアーナが、メルドが、奈々に妙子、シャレムが続く。

 

「ハジメさん、行ってください、あなたの大事な方の元へ」

「坊主、嬢ちゃんはお前さんの特別なんだろ!行くんだ!」

「今度はあたしたちにも頑張らせて!」

「今の南雲君があるのは、蒼野さんのお陰なんじゃないの?」

「あたちだっているぞ」

 

そんな多くの声が、ハジメから迷いを消し去り、決意と勇気を与えていく。

 

「ありがとう」

 

そう一言だけ口にすると、ハジメは勢いよくバルコニーから夜空へと飛び出していく、

そんな彼の背中にリリアーナの声が聞こえた。

 

「王宮の門を開いてください!これより指揮は私が取ります、まずは避難民の収容を!」






なんだかハジメが勇者してます、不思議なことに、
ジータと優花がどうなったのかはまた次回。
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