ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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今回はかなり長めです、それから視点が色々と入れ替わります、ご注意を。

で、鬼滅コラボの話になりますが、義勇さんイベ石としては破格の性能ですね。
普通に鰹剣豪編成に組み込めるのが何とも。



ノイント無残

 

 

ハジメが己の身体の異変に気が付く数分前。

 

ジータは優花の手を引き、神殿上層にあるテラス、

いや、場所柄を考えると空中庭園と言うべきか、へと急いでいた。

彼女らの耳にも、魔人族の襲撃の話は届いている、

急ぎハジメらと合流せねば、と、思いを新たにした所で眼前の景色が広がる。

ここが目的地の様だ。

 

そこは何も遮る物なき、百八十度の星空と、

丹念に手入れされた花壇に咲き乱れる花々に飾られた、

まさに楽園のような場所だった。

 

「……きれい」

 

優花が逃走中であることを一瞬忘れ、呟いてしまったのも無理もない。

 

「こんな時じゃ、こんな場所じゃなかったらね」

 

ジータもまた惜しい気分を隠してはなかったが、その前にやらねばならぬことがある。

 

『ティオさん、お願いします、合図を送りますんで』

 

そう念話を送り、二人は庭園の中心へと立ち、照明弾を打ち上げようとした時だった。

 

階下から、歌声と共に不気味な―――少なくともジータにはそうとしか思えない波動が、

庭園を覆ったのは。

 

「くっ」

 

急激に力が抜けていく感覚に膝をつくジータ、心配げにその顔を覗き込む優花。

 

(優花ちゃんは……何ともないの?)

 

疑問に思ったのも束の間、今まで自分の中にずっとあった、

南雲ハジメとの繋がりが急激に遠ざけられ、そして引き離されて行くような、

そんな感触が全身を走る。

 

(嘘……これって)

 

震える手でジータはステータスカードを確認する。

 

(やっぱり……)

 

思った通り、今の自分のステータスは普段よりも大きく下がり、

そして技能の数も同じく減ってしまっている、恐らくこの波動によって遮断されているのだ、

ハジメとの繋がりが……。

 

その時、庭園の奥まった場所にあった、こじんまりとした祭壇から光が放たれ、

その光の中から、一人の老人が、

聖光教会教皇イシュタル・ランゴバルドが姿を現した。

 

 

「……違う」

 

燃えあがる王都を、そして城壁を越え進軍する魔物たちを眺めながら、

自軍の、魔人族の勝利を確信するフリード、だが、それでもその表情は複雑な物がある。

 

「流石は異世界の戦術、あの難攻不落の王都がいとも容易く炎上するとは」

「……」

 

副官の言葉にもフリードは、ただ沈黙で応じるのみだ。

 

巨大な鳥の魔物を造り、そして可燃物を満載させて空からばら撒く。

その話を伝えられた時は、今一つ理解出来なかったが、

まさかここまでの効果があるとは……。

 

(これまでの我々の苦労は、一体何だったのか……だが)

 

やはりこれは何かが違うとフリードには思えてならない。

これは自分の思い描く戦争とは、あまりにもかけ離れている。

自分が、そしてあのエリとかいうもう一人の内通者が……この世界にあってはならない、

何かを持ち込んでしまった、世界の戦の在り方を変えてしまう何かを……。

 

彼もまたこの剣と魔法の世界にありがちな、戦いにおいては誇りと美学を重んじる、

そんな男である、ゆえにその美学から真っ向から反するこの光景に対し、

拒否反応を示すのは仕方がないことなのかもしれない。

 

(戦とは、堂々と進軍し己の手で相手を叩き潰すものだ、これは……やはり)

 

実はあの巨鳥も可燃スライムも、素材の関係上そうそう生産することは出来ないのだが、

そのことに少しばかり彼は安堵を覚えていた。

 

 

その頃ハジメは今や途切れ途切れになりつつあるジータとの繋がりを辿り、

ひたすらに駆けていた。

途中、何体かの魔物が立ち塞がろうとしたが、それはすべて立ちどころに屠られる。

 

そして魔物たちを振り切り、ようやく王都の外、神山の入り口に差し掛かった頃だった。

今度は強烈な光がハジメの行く手を阻む。

 

「くっ!フリードかっ!」

 

一筋縄ではいかぬ難敵の出現の予感に、ハジメは一瞬眦を吊り上げるが、

光線の跡を、光に触れた岩や木々が砂より細かい粒子となっていく様を一瞥し、

その考えを訂正する。

 

「……分解?」

 

しかしハジメが首を傾げたのは僅かの間だけだ、何故ならば己へと全方位から殺到する

銀の魔弾の存在をすでに察知していたからだ、

羽根を形どった魔弾を、一発でもその身に受ければ致命となるであろう弾を、

ハジメは無言で次々と撃ち払い、弾幕を突破していく。

 

しかし相手もそうはさせじと弾幕を展開つつも、その両手に大剣を抜き放ち、

自らハジメへと斬り込んでゆく、月光に照らされたその姿は……、

背中に翼を広げ、ドレスの上に甲冑を纏った、

銀髪碧眼の、まさに戦乙女と形容するのが相応しい絶世の美女であった。

 

回避に専念したいハジメは、目眩しくらいにはなるかと手榴弾を投擲するが、

目の前で切り払われ、その場で分解されてしまう。

 

(固有魔法かっ……)

 

これでは接近戦はムリだ、分が悪過ぎる。

相手もハジメが接近戦を嫌がっているのを理解しているのか、魔弾を撃ち出しつつ、

執拗に追いすがる、そんな二人の様子はまるで小魚の群れに飛び込んだ大魚の様だった。

 

だが、嫌がるばかりでは能がない。

これまでだって虎穴に、火中に飛び込み、虎児を栗を得てきたのだ、まして。

 

「君子ってガラじゃねえよな」

 

ハジメは空力で作った足場を豪脚で蹴り、さらに縮地と瞬光を同時に使用する。

全てが止まったかのような世界の中、距離を取るのではなく、逆に距離を詰めていく。

その意外とも思われる行動に、女の挙動が一瞬遅れる。

そこにハジメは女の身体の正中線めがけ、ドンナーとシュラークを斉射するが、

狙いの正確さが仇となったか、女は大剣をまるで盾のように身体に翳し、

剣の腹で全てを受け止めるが、衝撃までは相殺できず、

大きく背後の夜空へと、その身を後退させる。

 

それを確認してから、ハジメはゆっくりと間合いを取り直す。

追撃をしたいのは山々ではあったが、瞬光をこれ以上使えば、戦闘に支障が出る、

仕留められなかった口惜しさはあるが、引き際を悟り損なえば、

それはすなわち死である。

 

「お見事です、イレギュラー」

 

また月を背景に女が賛辞の言葉を口にするが、

まるで感情の籠ってない冷たい声なので、嬉しくもなんともない。

 

「イレギュラーじゃない、俺の名前は南雲ハジメだ」

「これは失礼、私の名はノイントと申します、ごく短い間ではありますが、

お見知りおきを、イレギュラー」

 

ドレスの裾をつまみ、一礼するノイント、その姿を見るハジメの目が訝しく光る。

おそらくこれがカリオストロから聞いた、例の使徒とかいう奴なのだろう、

意思の疎通が可能である所をみると、こいつがどうやら大本らしい。

 

「そうか、お前が中ボスってことか」

「ボス?……実に汚らわしい言葉です、やはり貴方のような粗野で暴力的かつ、

無教養な存在は、この盤面に相応しくはない」

「……粗野で暴力的ねぇ、昔はむしろ大人しすぎるくらいだったんだが」

 

おそらくこんな異世界に飛ばされることがなければ、

生涯無縁であったろう言葉を口にされ、我ながらやっぱり変わってしまったんだなと、

ハジメは妙な感想を抱いてしまう。

 

「だったらどうするんだ?」

 

ハジメが両の手に握った愛銃を構える。

 

「"神の使徒"として、主の盤上より不要な駒を排除します」

 

ノイントが両の手に大剣を構える、これが宣戦布告ならば応じねばならない。

どの道、こいつを越えてゆかねば、ジータの元へは辿り着けない。

 

「やれるものならやってみろ、デク人形が!…と、言いたい所だが、なぁ?」

 

銃を構えたままで、自身の眼前に銀羽を展開しようとしているノイントへと、

ハジメは話しかける。

 

「一応聞いときたいんだ、後から不意打ちがお前らの作法か?」

「笑止なことを……戦場に礼儀も卑怯もありません、ただそこに存在するのは勝者と敗者のみ、

そして歴史はすべからく勝者によってのみ紡がれるのです」

 

展開された銀羽は幾重にも折り重なりあい、魔法陣を形成しようとしている、

その陣からは膨大な魔力を感じる、どうやら、魔弾だけでなく属性魔法も使えるようだ。

 

「じゃあ、恨みっこ無しだな」

 

ハジメが一歩だけ横へと移動し、ノイントが魔法を発動しようとした瞬間だった。

一条の閃光がノイントの背中から心臓を貫き、彼女の鎧の胸甲が弾け飛んだ。

位置、タイミング、威力、まさしく完璧な狙撃だった、言うまでもなく撃ったのは、

シルヴァである。

 

「空中でペラペラしゃべってるからそうなるんだよ」

 

空に身を隠す場所はない、まさしく今のノイントは格好の的だった。

 

「いつまでも剣と魔法にしがみ付いてるからだ」

 

そしてそれは、正しく剣と魔法の世界の埒の外の攻撃だった、

だからノイントは気が付かなかった、遠距離からの飛び道具の使い手がいること自体は、

彼女とて承知していただろう、実際温泉街で遭遇し、一戦交えているわけなのだから。

 

しかし、遙かな時をただ、トータスというちっぽけな箱庭の管理のみに費やして来た、

彼女の常識は、それに対する有効な対策を何一つ取らせようとしなかった、

取ることが出来なかった、と、言うべきかもしれないが。

……もっとも、対策を取ったとしても、静かに雪辱に燃える狙撃手の弾丸から逃れることは、

叶わなかっただろうが……。

あの後、カリオストロは回収した使徒の身体をくまなく研究・解析し、

その構造、弱点をほぼ把握し、それをハジメたちに伝えていたのだから。

 

こうして、神の使徒ノイントはその実力を殆ど発揮できぬまま敗れ去った、

地に堕ち行くその顔は、まさに"こんなんアリ?"と言いたげな無念さに満ちていた。

 

「……そんな顔も出来んじゃねぇか」

 

 

王宮ではユエを始めとするハジメパーティーのメンバーが魔物たちの迎撃を行い、

そして淳史や奈々たち愛ちゃん護衛隊の面々が被災者の誘導を担当していた。

 

「走らないでくださーい、王宮の中はまだまだ余裕がありまーす!」

「だからといって、止まったりしないで!」

 

声を限りに叫ぶ奈々と妙子、

そして淳史と明人が先頭に立って、被災者を次々と王宮へと導いてゆく。

しかし、やはりというか炎と魔物に追いたてられる人々により、

王宮の周辺はすでに渋滞が発生しつつあった。

 

「人手が足りねぇ!」

 

泣きそうな表情で叫ぶ昇、その肩には迷子の子供を乗せている。

 

「天之河も八重樫もどこ行っちまったんだよ!」

 

一方、その上空では。

 

「……じれったい」

 

ユエは苛立ちを隠さず吐き捨てるように呟く。

攻めて来るのなら、幾らでも返り討ちに出来るものを……。

 

しかし魔人族たちは決して深入りはせず、空中から様子を伺いつつ、

魔物を投下しては去っていく、無理もない、向こうは黙って王都が灰になるのを

待っていればいいだけなのだから。

 

ユエは……じわりじわりと王都の外から浸食せんと広がってゆく敵陣と、

避難民でごったがえす眼下の様子を見比べる、ならば……。

 

ユエは水系魔法を行使し、一帯に雨を降らせて、炎を消し止め、

さらに風を操作し、延焼を食い止めてゆく、

そしてそのまま風雨の源である雲を、王宮の上空に設置しようとしたところで、

 

「シルヴァ、構わない?」

 

ユエはこれから行おうとすることについて、シルヴァに確認を取る。

 

狙撃手とは、一発の弾丸で戦況を覆す力を持つ者たちである。

それはここトータスの地に於いても変わらず、

重力魔法に留まらず、様々な秘術を駆使したであろう、解放者ミレディ・ライセンが、

そしてたった今、正攻法では不落に近い難敵であったであろう神の使徒ノイントが、

この美しき狙撃手の前に、その実力を発揮する暇もなく敗れ去った。

 

しかし、そんな彼らにも弱点はある。

その一つは地形や天候を始めとする、周囲の環境に極めて影響されやすいということだ。

ゆえに彼らは千変万化の状況への対応力と、

いかなる不利な条件下であっても、千載一隅の好機をひたすら待ち続ける、

忍耐力と精神力を同時に必要とする。

 

これから城を、王都を包むであろう風雨は、シルヴァの真骨頂である超長遠距離精密射撃には、

明らかに不向きな環境である、それらは必殺の弾道をいとも容易く狂わせるであろうからだ。

 

「構わん、私の撃つべき相手はもう仕留めた、あとは」

 

降下してきた魔物を間髪入れずシルヴァは撃ち砕く。

 

「露払いのみだ」

 

こうして雨のカーテンが炎を、そして上空の旋風が魔物たちを王宮から遠ざけてゆく、

そして香織が魔法で人々の精神を鎮静させ、これにより人々は落ち着きを取り戻し、

整然と奈々たちの指示に従い王宮へと入ってゆく。

 

この近辺の人々の収容はなんとか一段落しそうだ、だが……、

広がりつつある炎を見つめる香織、あの炎の下では、

きっと王宮に辿りつくことも出来ずに焼かれていく命があるのだ……。

そう思うといても立ってもいられない、

そして雫や光輝、龍太郎らの行方も杳として知れない。

 

「おい、香織、何か心配事があるのか?」

「ひゃあ!」

 

至近距離からシャレムに逆さに顔を覗き込まれ、思わず香織は仰け反ってしまう。

 

「そんな顔をされると気になって仕方がない、さっさと行ってこい」

「でも……」

「ここは暫くは大丈夫だろう、それにオマエの癒しの力は」

 

シャレムはぐいと香織の肩を掴み、所々で炎上する街の様相を改めて香織に見せる。

 

「きっとあの炎の中の人々のためにあるんだ」

 

その言葉に強く頷く香織、その隣ではユエが直接魔力を扱える彼女にしては珍しく、

足元に魔法陣を描いてゆく、描き終ると、そのまま香織を魔法陣の中へと誘いつつ、

片手を差し出し、握るように促す。

 

「香織の力も貸して」

 

二人が掌を合わせ、同時に魔力を開放すると、

ユエと香織、互いの力が合わさりあい、癒しの緑の光の柱が天へと昇り、

そして光は雲となり、王都に癒しの力が込められた雨を降らせ、

そして風が炎を相殺し、さらなる雲を、雨を呼び、火勢が徐々に勢いを無くしていく。

 

香織はドリュッケンで魔物を叩き潰したばかりのシアに呼びかける。

シアもまた待ちの戦いは不本意なのだろう、その表情には焦れが覗いている。

 

「シアちゃん私に付き合ってくれる?

逃げ遅れた、逃げられなかった人たちを助けに行くのを!」

 

返事を待つことなくすでに走り出している香織、

そしてあっという間にシアがその背中に追いつくと、そのまま二人は街の中へと消えていった。

 

「ユエ、オマエも行っていいぞ、ここはわたちが引き受けた」

 

無謀にも至近距離まで近づいた魔人族を、いとも簡単に撃ち落としシャレムは続ける。

 

「オマエの魔法の力なら、街の炎を消し止められるだろう、連中も、

自分たちが立てた作戦が通用しないというなら、また別の手を打って来る筈

そこを……」

 

ユエもまたシャレムの言葉に頷くのであった、ほんの少しだけ疑問を抱えて。

 

(香織……水属性の魔法こんなに得意だった?……)

 

 

王都の外れ、住宅もまばらな丘陵地、そこに現在光輝が謹慎し、

新兵らが過ごす兵舎は存在している。

そこに雫を始めとするクラスメイトたちが、教皇イシュタルの名のもとに、

急遽移動を命じられたのはつい先日の話だ。

 

あまりに急な話に、一部の生徒は説明を求めたが、

彼らが最も頼みとするメルドはすでに王宮になく、

アランやホセに聞いても満足いく返事は帰って来ず、

彼ら全員が、どうにも腑に落ちぬまま、王宮を退去することを余儀なくされた。

 

荷物を纏めるクラスメイトたちの顔は、一様に不安に満ちていたと、

雫は光輝に伝えた、もちろん不安なのは自分たちとて同じだ。

さすがにこの頃になると、龍太郎が修行の旅に出かけたのではなく、

行方不明となったことは、皆気づいていたし、

それに加えて、近藤の姿もここに来て見当たらないのだ。

 

そして今、中庭に集合した彼らは、

宿舎の硬いベッドや、食堂のマズいメシに慣れる間もなく、

ついに自分たちが、戦火に巻き込まれる時が来たのだという恐怖に、

顔面を蒼白にしていた。

 

ある程度平静を保てているのは光輝に雫、それから遠藤くらいのものだ。

クラスメイトたちの目が、自然に光輝と、そしてその背後に控えるジャンヌダルクに集まる、

その視線は縋っているようにも、そして憤っているようにも見えた。

 

自分の身体が小刻みに震えているのを感じる光輝、その背中をジャンヌが押す。

それは自分の役目を果たしなさいという意味だ。

 

(これが重さ……背負うという…)

 

しかし、それは本来あの大聖堂にて感じておかねばならぬ物だ。

今になって、いや今だから分かる、背負うという本当の意味を、

あの時の自分はそれが分かっていなかった、そんな忸怩たる思いを抱えつつも、

すうっと、息を吸い込む光輝、まずは……。

 

「まずはみんな……俺の独断でこんなことに巻き込んでしまって本当にすまない」

 

光輝はそう言って、クラスメイトたちに頭を下げる。

他に道は無かったとしても、先導した者としての責任は取らないとならない。

 

そんな彼の意外な言葉にまずは困惑の空気が広がる、詫びの言葉と共に頭を下げる光輝の姿は、

彼らの知る、天之河光輝とはあまりにもかけ離れて思えたからだ。

それでも……と、光輝は頭を上げて続ける。

 

「多分、王宮や神殿の人たちは……きっと俺たちのことを期待外れだと思ってるに違いない

けど、それでもこうして半年、叩き出すこともなく面倒を見てくれていた、

そのお礼だけは、ちゃんとしておくべきじゃないだろうか」

 

次いで、光輝は赤く染まる空に僅かに見える王宮を視線で示す。

 

「それに、あそこにはもうただの他人で済ませることが出来ない人たちだっている」

 

(ニア……)

 

雫は剣術を通じて仲良くなった侍女のことを思い出す。

永山が拳を固く握りしめる、彼が御付の侍女とすっかり出来ているのは、

もはや周知の事実である、そんな彼の姿を見て、遠藤が溜息をつく。

 

(重吾……お前は騙されているんだぞ)

 

そこで、おおっ、とクラスメイトの中からどよめきが広がる。

王都のあちこちから火の手が上がっているのが、

ここからでもはっきりと見えるようになったからだ。

そんな彼らの動揺を鎮めるかのように、光輝は静かに言葉を続ける。

 

「だから……今は世界とか戦争とかそういうのは考えずに、あそこにいる

人たちを、戦いに巻き込まれようとしている街の人たちを助けに行こう、

せめて、それくらいのことはやろうじゃないか」

 

ここで光輝は初めて笑顔を見せ、さらに雫が助け舟を出す。

 

「それに、香織やジータや南雲、それから愛子先生たちが

帰って来る場所がなかったら困るだろ」

「何より怒られちゃうわよね、ジータに」

 

確かに、このまま手をこまねいて、街が燃えるのをただ見ているだけでした、

などということになれば、あの金髪少女に何を言われるか分かったものではない。

それに何も知らないまま、目の前の男に扇動されるかのように、

渦中に飛び込んだあの時とは状況が違うのだ、多かれ少なかれ皆この世界のことを知り、

そしてこの世界で得、学んだことがあるのだから、ある筈なのだから。

 

「まずは今夜を乗り切って、それから自分たちが出来ること、やるべきことを考えよう、

今度こそちゃんとみんなで」

 

そんな光輝の姿を驚きの目で見る雫、一時の頑なさや焦り、浅慮が影を潜め、

逞しさを増したその姿は、男子三日逢わざれば何とやらという諺の通りだった。

そしてそれはきっとこの少女の……。

黄金の髪に白いドレスの聖少女、ジャンヌダルクを見る雫の視線に、

少しだけ嫉妬の思いが籠っているのは仕方のないことだろう。

 

(少し、悔しいな……)

 

そして、最も光輝のその成長を喜ぶであろう、ここにいない友の名を雫は心の中で呼ぶ。

 

(龍太郎……一体どこにいるの?今、光輝の一番隣にいないといけないのは

一番光輝の力になるべきは、あなたなのよ)

 

「もちろん強制するつもりはないよ」

 

燃える街を眺める光輝、彼自身は炎の街に身を投じることにさほど恐怖を感じてはいない、

だが、自分じゃない誰かのことも、慮らなければならない。

それもこれまでの自分に欠けていたことだと、はっきりと彼は自覚していた。

 

「誰だって……怖いもんな」

 

光輝の言葉に顔を見合わせるクラスメイトたち、自分の命が掛かった状況であっても、

雫や遠藤ら一部を除いて、彼らは結局どうしていいのか分からないのだ。

そこで意外な人物、中村恵里がおずおずと意見を口にすべく挙手をした。

 

「光輝君……あのね」

(困るなぁこれ以上モタモタされちゃうと、ボクの計画が狂うんだよ、タダでさえ

こんな所に移動しろだなんて言われるし、あの爺さんもとっとと殺しておけば良かったな)

 

 

兵舎の入口に集合する光輝たち。

留守番役を買って出た恵里と、そして勇者パーティーの一員である彼女が残ると言ったことで、

気が楽になったのだろう、同じく残ることを選択した何人かのクラスメイトを置いて。

 

「私の言ったこと忘れないでね、光輝君、雫ちゃん」

「分かってる、まずは言われていた集合場所でアランさんたちと合流するんだろ」

「……うん、無茶はしないで」

 

心細げに顔を伏せる恵里、もちろんその仮面の裏側には含み笑いが隠されている。

抜け出す算段は幾らでもある、話もすでに付いている。

もっとも……恵里の視線の先には親友の姿がある、

鈴まで残ることになったのは意外だったが。

 

「いいの……付いていかなくって?」

「鈴、ここは多分、避難してきた人たちで一杯になると思う、俺たちよりも

そんな身を守る術のない人たちを鈴の力で守って欲しい、恵里たち、

残ることを選んだ仲間たちと力を合わせて」

 

やや納得のいかない表情の鈴だったが、光輝の言葉に、そういうことならと、

一応は頷く素振りを見せ、その姿を遠目に見つつ、

恵里はやや複雑な表情を浮かべるのだった。

 

 

「ジャンヌさん、お願いします」

 

ともかく準備は整った、光輝の言葉にジャンヌは頷くと、剣を天に掲げる。

 

「いざ!勇者の御旗に集え!」

 

朗々たるジャンヌの、聖女の叫びが耳に入った途端、

クラスメイトたちの震えが止まった、いや怖れも迷いも全てが消え去ったような、

そんな感覚が、そして怖れが消え去った空白を埋めるかのように、

勇気が全身に広がってゆく、まさしくそれは勇者の、英雄のカリスマだった。

 

「凄い……」

 

己の中から湧きたつ力に、雫は武者震いを隠せず、

そして光輝は憧憬と尊敬に満ちた眼差しをジャンヌへと向ける。

 

(これが本当の勇者の、英雄の力、やっぱりジャンヌさんは、

俺の目指すべき憧れ……目標なんだ)

 

「いざゆかん!勇者に続け!」

 

おおおおおっ!雄叫びと共に光輝と、そしてジャンヌを先頭に彼らは、

死と炎が蔓延しつつある街へと恐れることなく駆け出していく。

 

そして、天之河光輝が正義を失う時はすぐ傍まで迫っていた。






相性もありますけど、基本、味方が増えたら増えた分だけ、攻略は簡単になりますよね。
ということでノイントは瞬殺させて頂きました。
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