ありふれた錬成師と空の少女で世界最強【完結】   作:傘ンドラ

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煉獄さん、配布キャラとしてはやはり破格の強さ。
欲を言うなら最初から練気付与状態で使いたかった。
けど、そこまでやっちゃうとリミキャラクラスになってしまうので優遇し過ぎかも。




対〇忍ジータ?

 

 

「ちょ!イシュタルさん、いいんですかこんなところにいて」

「そうですよ!今、街が魔人族に攻め込まれているんですよ」

 

聖光教会教皇イシュタル・ランゴバルド、名目上はともかく、

この世界における事実上の最高権力者へと、同時に訴えかける優花とジータ。

二人ともイシュタルのことは、これっぽっちも信用はしていない、

とはいえ、少なくとも対魔人族という意味では、同じ人間族として、

一応はまだ協力は出来るという認識は残ってはいた。

 

「おお……」

 

イシュタルは、ヨロヨロと身体を震わせながら歩を進めてゆく。

しかしその震えは、二人の言葉が耳に届いたからだとは思えなかった。

何故ならばその顔は、白髭に包まれていても分るほどに、

興奮と欲望によって彩られていたからだ。

 

「やはり御言葉の通りだ……ああ、儂は間違ってはおらなんだ」

 

喘ぐような言葉と共に、イシュタルはジータへと大仰な仕草で拝礼する。

 

「ようこそおいで下さりました、我が妻よ」

「はぁ!」

 

余りに予想外の言葉に、ジータは耳を疑わずにはいられなかった。

 

「何言ってるんですか、冗談はやめてください……そんなことより、

早く街をなんとかしないと」

「フム……些末事ですな」

 

イシュタルの口から放たれた、さらなる信じ難き言葉に、

またジータが耳を疑った時だった。 

 

神山の異変を見て取ったか、ティオがその背に愛子を乗せて、

テラスへと降り立とうとする、が。

神殿の、テラスの上空でその身体は見えない壁のような物に阻まれ、

それ以上進むことが出来ない。

 

「竜人か……賤らわしい」

 

イシュタルは文字通り汚物を見るように目を細めて、

結界の外でばたつくティオを睨みつける。

 

その侮蔑の視線に触発されたか、ティオの口が開き、ブレスの発射準備が為されていく。

 

「当てちゃダメですよっ」

"わかっておるわっ"

 

言葉こそ激しいが、もちろんジータたちを巻き込まない程度の冷静さはちゃんと残っている。

瞬く間にその口中に光が満ち、ティオは結界の上部目掛けてブレスを発射するが、

僅かに軋んだのみで、やはり結界に傷一つ入れることは出来ない。

 

「ほっほっほっ、邪悪な攻撃は通じないように出来ておるのです」

 

悔し気に上空を旋回するティオを嘲笑うイシュタル、

その姿は、亜人をことさらに蔑み差別する巷の人々とそっくりに思えた。

 

「ティオさんの力でも、ダメなんですか」

"いや……妾たちの力も落ちておる、愛子も自覚があるのではないのか……

おそらく原因は……"

 

神殿の中から聞こえる歌声を避ける様に、ティオはまた少し高度を上げる。

 

"覇堕の聖歌"敵を拘束しつつ、衰弱させていくという魔法であり、

複数の司祭による合唱という形で歌い続ける間だけ発動するという変則的な魔法だ。

それがおそらくこの神殿に仕えているであろう、全ての聖職者たちによって

唄われているのだ、さらにこの神殿の構造そのものが、

魔法や儀式の効果を高めるアーティファクトとなっており、

その効力は高い弱体防御を誇るティオであっても免れない。

 

ただし、その聖歌は蛇どもが神殿のあちらこちらに密かに仕込んだ魔法陣により、

細工が施されているが……。

 

"外にいる妾たちですらそうなのじゃ、恐らく中にいるジータと、優花の力は、

普段の数分の一まで落ち込んでおるじゃろう……"

 

 

「聞こえますかな、この祝福の歌が、まさに今宵生まれ変わる世界の産声のようでは

ありませんか?」

 

イシュタルは歌声に耳を澄ませんとばかりに、うっとりと目を閉じ、

陶酔の表情で両手を広げていく、話が読めないジータと優花は、

ただきょとんと、そんな老人の様子を見つめているのみだ。

 

「あのー、街が、王宮が攻め込まれているんですよ」

「それがどうかしましたかな?」

 

イシュタルは興味なさげに聞き返す。

そう、真の意味で神に選ばれた我が身は、これからエヒト様の真たる使徒となるのだ。

従って、もはや地上の煩わしき何彼に、心を砕く必要はないのだから。

 

(天之河光輝よ……誰が正しいか、誰が真に選ばれし者かを、

その目でとくと見せてやるわ)

 

万が一の邪魔が入らぬよう、他の連中も光輝共々あの街外れの合宿所へと追いやった。

もう、誰も阻むものはいない。

 

「魔人族を放っておくつもりなら、じゃあ私たちこの世界にいる理由ないですよね?

エヒト様に帰してくれるように言ってくれませんか」

「残念ながらそれは叶いませんな、新たなる神託が下ったのですから」

 

優花の言葉を神託の一言で切って捨てる、イシュタルのその態度は、

優花にしてみれば、小馬鹿にされてるように思えてならなかった、

いや、実際小馬鹿にしているのだろう。

 

「そう、我が前に現れし、エヒト様の使徒がおっしゃられた……

私にこうおっしゃられた」

 

恍惚とした表情を浮かべ、あの奇跡の一夜を反芻しながら、

イシュタルは滔々と語る。

 

「複数の天職を操る奇跡の子、蒼野ジータを妻として娶り、

この乱れし地上に我に代わり神罰を執行せよ、

そして青き清浄なる世界の、一切の罪なき世界の原初の男と女となり、

善男善女の楽園の礎となるべしと」

 

「……雷迅!」

 

ジータが印を結ぶと雷が闇を走り、イシュタルの身体を打ち据えた。

こんな妄言を吐く類とマトモに問答などしてはならない。

 

「この老いさらばえた身では不安ですかな、不安でしょう分かります」

 

しかし雷撃に堪えたそぶりもなく、イシュタルはむっくりと起き上がる。

ああ、きっとカエルやモグラと結婚させられそうになった親指姫も、

今の自分と似たような気持ちだったに違いないとジータは思った。

しかし親切なツバメの助けなど待ってはいられない。

 

一応、愛子を乗せたティオが上空を旋回しているのだが、

障壁に阻まれているのか、どうしてもその先に進むことが出来ないようだ。

 

「ですが、ご心配は無用、エヒト様から授かりし御業でもって、

妻よ、其方に相応しき若さと、そして美しさを手に入れて見せましょうぞ、

あの、忌々しき……」

 

イシュタルの口調に嫉妬の念が籠る。

 

「天之河光輝よりもずっと……」

 

そして、テラスが……いや、神殿全体が輝きを増してゆき、

イシュタルの表情もまた、欲望と狂信で満ちてゆき。

そして、光が神殿を伝い天を衝き、夜空が裂けていく

 

「おおお……天もまた喜んでおられる、エヒト様ぁ」

 

自身も光に包まれ、その様に狂喜するイシュタル、これで手に入る。

願って止まなかった、真たる神のエヒト様の剣となるための、

若さが、力が、美しさが……しかし、眼前の光景にイシュタルは言葉を失う。

 

何故ならば、皴だらけの己の掌が若返るどころか、

ドロドロと溶けてゆくのが、はっきりと視界の中に映っていたからだ。

 

「わ、儂ィ……が、からだっ……とけぇ」

 

見る見るうちに肉汁が靴からも溢れ出し、べちゃあとその場に頽れるイシュタル、

その耳に笑い声が聞こえる、そう……あの夜、使徒によって討たれた筈の……。

 

「へ……蛇ィ、生きておったかあぁぁぁぁぁぁ」

「ええ、お陰様で、貴方のご尽力のお陰で帰還の目処が整いましたよ」

 

自身の足元の影から声がする。

 

「真の信仰の為、同胞数千人を贄にするとは、まさしく信徒の鑑、

きっとエヒト様とやらもお喜びになられていることでしょう、ハハハ

騙されてさえなければですが」

 

裂けた夜空から赤みを帯びた荒野が覗き始め、そしてその光を浴びた影から、

斑色の蛇を纏った男が、幽世の徒が抜け出してくる。

 

「だっ……だばまば、ださた…だしたぁ」

 

イシュタルの顔から口髭ごと顎がべちゃりと溶けおち、

それを合図に全身が崩れ落ち、テラスの床に肉汁が染みを作ってゆく。

 

「嘘はついておりませんからご安心を、ちゃんとあなたは若さを手に入れることが出来ますよ、

そう、生まれたての」

 

無惨にも溶解し、死んだと思われたイシュタルの身体が、

じゅるじゅると音を立てながら再構築され、そしてゆらりと立ち上がる。

白い法衣と一体化したその姿は、まるでナメクジとイカが混ざったような印象を、

少女たちに与えた。

 

「魔獣イシュタルとなってね、良くお似合いですよ、あなたのお心の願望、

そのままのお姿、きっとお気に召すことでしょう」

「おっ……おのれっ、よくもだましたアアアア!!だましてくれたなアアアアア!!」

 

まるで奴隷商人にドナドナされる少年のような叫びを放つイシュタル。

 

「だから嘘はついていません、いやぁお若い、それに実に美しい、ハハハ、

それにしても、あの教師の芳醇な魔力が手に入れば、尚のこと良かったのですがね」

 

不安げに上空を旋回するティオと愛子の姿を、幽世の徒はチラと見やるような仕草を見せる。

 

「さすればこの世界と、我が故郷を恒久的に繋げることも適ったかもしれ……」

 

蛇はそれ以上、言葉を続ける事が出来なかった、何故ならジータの放った

手裏剣によって首を刎ねられてしまったからだ。

だが、それでも刎ねられた首が煙を上げつつ、蛇の口は止まらない。

 

「その身体ならば、思うさま欲が果たせますよ、

敬虔な聖職者の仮面の奥底にしまい込んでいた欲をね」

 

その言葉に異様な悪寒をジータと優花は感じてならなかった、

二人は恐る恐る魔獣と化した、イシュタルの姿を確認する。

首と襟元が一体化した箇所に、申し訳程度の人間の顔が張り付いており、

ツルリとした頭頂部の形が、やけに卑猥な印象を与えてならない。

 

そしてゆるりとした法衣の袖から、幾本もの触手が蠢いているのが覗き、

その触手の先端の形状を見て、優花が悲鳴を上げ、

ジータもまた、身体を震わせつつも、妙に感心じみた呟きを漏らす。

 

「六十過ぎたら大妖怪って、ホントだったんだ」

 

そういや、こういうファンタジーにお決まりのセクシャルな魔物って、

これまで遭遇したことがなかったなとも思いつつ、

目を光らせ、ゆらりとこちらに向き直るイシュタルの姿に、

互いの手を握り、震える身体を寄せ合う二人の少女、その震えは恐怖以上の、

生理的な嫌悪感から来るものであることを、彼女らは理解していた。

 

「……さん……さん」

 

少女たちを視界に捉えたイシュタルの顔が憤怒と後悔に歪む、

異形と化してなお分かるほどに。

 

「お主らが、おまえらが、きさまらが……この世界にやってきたからあ!

この罰当たりどもがぁ~~~じごぐへ堕ちろぉ~~~!」

 

つい半年前は、歓迎致しますぞ、などとホクホク顔でホザいていたくせに、

随分と勝手なものだ。

ともかく、そんな叫びと共にイシュタルは少女たちへと触手を繰り出す。

ジータは咄嗟に優花を突き飛ばし、かつ自身も背後へ飛び退き、

触手の群れから逃れようとしたが、弱体化した今の自分では逃れるだけで精一杯だ。

 

「貴様らが儂の信仰をっ!強さがっ、若さがっ、美しさがわじをぐるわぜたあああああ!」

 

触手を床に宙にのた打たせ叫ぶイシュタル、苗床という言葉がジータの脳裏に浮かんだ。

 

「ゆるさんっ、ゆるざぬぞ、でていけぇー今すぐこの世界から出ていけぇ!

かえれーどっどどがえれー」

「それが出来たら、こんな苦労してないよ!」

 

とことんまでに身勝手な叫びを上げ、

イシュタルはオモチャ売り場で喚き散らす子供のように触手を振り回し、ジータへと迫る。

重い身体と、何より自身の心にぽっかりと開いた喪失感を引きずりながら、

なんとかジータは触手から逃れていくが、追いすがる触手を引き離すことは叶わない。

 

「ジータから離れなさいっ、この老害童貞変態セクハラチ〇コジジイ!」

 

そこで女の子にあるまじき言葉を叫びながら、

優花がスイカほどもある石像の頭部を、イシュタルの後頭部へと投げつける。

弱体化してるとはいえチートの膂力に加えて、投術師のスキルが乗ったそれは、

問題なく致命の威力を発揮し直撃したが、イシュタルは虫を追うかのごとく、

ただ小煩げに頭を振っただけだ。

 

「最初から下卑た娘だと思っておったわ、おま……」

 

言葉の途中で、ならばとばかりに再び投げ放たれた、今度は石像の胴体部分が、

カーブがかかった軌道でイシュタルの側頭部に命中する。

これは多少効いたらしく、イシュタルはやや身体をぐらつかせるが、止まらない。

 

「お前は黙ってそこで見ておれい!」

 

そう吐き捨てつつ、イシュタルが呪文を唱えると、優花の足元に魔法陣が広がり、

タダでさえ弱体化し、動きがままならない彼女の身体を戒めてゆき、

さらに。

 

「ついでです、特異点、あなたも私の世界へと御足労頂くことと致しましょうか

近似値に過ぎないとはいえど、その力は利用価値がある」

 

斑色の影がジータの身体を包むように迫り、

 

「帰らぬというのであれば、さぁ、儂に娶られ契りを結び妻となりて、

我が子を孕むのだ、少女よ……それが叶わぬのならば」

 

哀願するような響きの声と共に、さらにスススと、その足元に触手までもが迫る。

 

「後生じゃ……せめて……そのかぐわしき蜜を」

 

(こ……これじゃ対〇忍だよぉ~~)

 

 

「どっ、どどど、どうするんですか!?このままじゃ蒼野さんも園部さんも

お嫁にいけなくなっちゃいますよ!」

 

上空を旋回するティオの背中で愛子は叫ぶ。

 

"な、なんと羨ま……いやいや危険な光景じゃ、あ、愛子背中を叩くな!

今のは冗談じゃ!しかし……"

 

ティオは幾度となく見えない壁へと突撃するが、

その度結界は僅かに軋みの音を立てるが、まるで破れる気配はない。

 

「こんなに傍にいるのに……」

 

悲痛な表情を見せる愛子に、ティオが追い打ちを掛ける。

 

"……しかも今ご主人様がこちらに向かって来ているようなのじゃ"

 

本来なら救援の登場を喜ばなければならないのだが、二人の気分は一層重くなる。

 

"もしもジータたちの惨状を目の当たりにして"

「それで私たちが、ただ手をこまねいて見ているだけだったと分かれば……」

 

愛子の顔色が夜空でもわかる程に青くなっていく。

 

"妾たち、タダでは済むまいて……"

 

そんな呟きを漏らすティオの声音は、愛子には妙に艶っぽく聞こえ、

そしてメルジーネでシアが遭遇したという堕天司が、空の裂け目から大量に現れるのを、

二人は目撃しており、その光景は山々を越え、神殿へと急ぐハジメの目にも当然入っていた。

 

「……」

 

この身は一刻も早くジータの元へと辿り着かねばならないのだ、だが、

太古の生物兵器とカリオストロやガブリエルから聞いたあれが、

もしも王都に到達すれば、その被害は甚大な物となるだろう。

 

もちろん王都にはユエを始めとする、頼もしい仲間たちが控えている。

しかし……空を埋め尽くさんとばかりに降下する異形の群れを一瞥し、

ハジメは小さく頷くと、シュラーゲンを構え、その群れの端から中心へと、

薙ぎ払うように斉射していく。

 

……全てを撃ち落とすことは叶わなくとも、せめてとの思いを乗せて。

 

 




頑張れイシュタル、感度三千倍だ!
ですが次回は王都組の予定。
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