『オリ主、ギルドやめるってよ』 作:abc
「クソがっ!クソがクソがクソガァアあああああ!!」
血反吐を吐くような声で一人暴言を喚き散らす。
暴言が木霊する室内は荒れに荒れていた。豪華なベッドはシーツが破られ、足が折られ、もはやベッドという体を成していない。布と木片の残骸だけである。
高価で質のいい仕事机も綺麗に割られ、暖炉にくべるくらいしか使い道が無い状態になっていた。他にも本棚は倒され、壁や絨毯には無数の傷がつけられている。
「何故だぁあ!何故俺を捨てたんだぁあああ!」
一人暴れる人間……いや、異形種であるアインズは自らの思いを抑えきれずに叫び、嘆き、そして暴れる。その姿は見ている者に必ずや恐怖を植え付ける光景であった。部屋の全てを壊したアインズは絨毯の上にそのまま座り込む。
「…………なあ……何でなんだよ!なぁあ!!答えろよぉお!何故、俺を、ナザリックを捨てたんだ!どうして俺達の前からいなくなるんだ!お前は何が欲しかったんだ!何を望んでいたんだ!力か!名誉か!家族か!全部有っただろ!ここに!このナザリックに!聞いているんだろ?だったらさっさと答えろよ!!」
アインズは誰もいない虚空に向けてただひたすらに叫んでいる。もしかしたらこれは彼のいたずらであり、どこかで自分の言葉を聞いているのではないかという願望があった。だが所詮は願望であり、その声は誰にも届かない。
骸骨の異形種であるアインズは決して涙を流さない。
精神の鎮静化により感情は抑制されている。だが今だけは違う。その抑制を超え、全てのしがらみが取り去られ、本能のままに怒りと悲しみを吐き出している。
アインズは座っている状態から両手を広げ、大の字にして横になる。
瞼が無いので目を瞑ることは出来ない。
横になった状態でアイテムボックスを開き、そこに手を入れる。そしてそこから一枚の写真を取り出すと、上に掲げるようにして見る。
写真には沢山の異形種が写っていた。アインズはもちろんギルドの他のメンバーも集合している。
「たっち・みー……ウルベルト……――」
一人一人の名前を呼びながら写真に写っている顔をなぞっていく。
まるで昔を懐かしむかのように、確かめるように。
その中で一人の異形種のところで視線が止まる。その異形種はアインズと肩を組むようにして写っていた。
「あ、あ、ああああ……こんなの……こんな思い出があるからぁああ」
そう叫びながらアインズは皆で撮った思い出の写真すら破こうとするが、直前の所で思いとどまる。この写真は唯一自分が持っているギルドメンバー全員が写った写真である。もしこれを破ってしまったらもう二度とこの光景を見ることは出来ないのではと感じたからだ。
「何でもするから帰ってきてくださいよぉ……ずっと使いたがっていたマジックアイテムだって譲ってあげます……ギルド長にもさせてあげます……もっと、もっと、一緒にいたかったんですょ……」
アインズは泣かない。だが心は泣いていた。それも大人の様に咽び泣くのではなく、小さな子供のように声を大にしてワンワンと泣いたのだ。
「……う……う……うぅ……」
そして思い返していく。彼が消えた日のことを。
◆
ある日、本当に何もないようなある日に一緒に転移してきた仲間がギルドを抜けると言った。最初は冗談か何かだろうと思って、たいして気にも留めていなかったモモンガであったが、それから数十分後に彼が荷造りをしているとの報告を聞き急いで彼の部屋へと向かった。
そこでは彼自身のアイテムを袋に収納して身支度が進められていた。
アインズは驚きもそこそこに何故このような真似をしているのか問う。
「な、何をしているんですか!?」
『言った通りギルドを抜けるんだよ。さっき了承してくれたじゃないか』
「あれは……その、冗談だと思って……」
『そんな大事なこと冗談でいう訳ないだろ。とにかくギルド抜けるから後はあんたの好きなようにするといいよ。ああ、そう言えば世界征服だっけ?したがってたんだよね、頑張ってよ』
そういつもと変わらない口調で話す彼に、アインズはついに痺れを切らす。
「急に抜けるなんて許しませんよ!一緒にギルドメンバーを探すんじゃなかったんですか!ナザリックを守るって誓ったじゃないですか!NPC達だってあなたがいなくなればきっと悲しみます……それでも抜けるっていうんですか……」
『抜けるよ、俺に関係のないことばかりじゃん』
何事もなかったかのように呟く彼に怒りを覚える。
「身勝手すぎます!とにかく抜けることは許しませんから!」
『別にアインズさんが抜けることに反対しようが、賛成しようがどっちでもいいんだよね。よし!こんなもんかな、それじゃあこれまでお世話になりました』
「待ってください!せめて理由とどこに行くかくらいは教えてください!」
この時のアインズは再会できると思っていた。だから理由を聞いて悪い所を直し、彼が行った場所で再開できればもう一度ギルドに戻ってきてくれるのではと考えていた。
『どこに行くかは言えないかな。それとやめる理由だけどアインズさんだけに有る訳じゃないから……まあ、各々で考えてよ。それじゃあ、さようなら』
「待って!」
一瞬で探知不可のマジックアイテムを使用しその場から消えてしまう。
残されたアインズはただ呆然と立ち尽くすばかりであった
◆
「あぁ……あぁ……ああああああ……」
嘆きながら部屋を移動する。自分に向かって御付きのメイド達が何か言っているような気もしたが、そんなことは今のアインズには関係なかった。着いた部屋は彼が私室として使っていた部屋だ。
入ってみると綺麗に整頓がされている。本棚やクローゼットの中の一部は彼が持ち出していったことで空になっていた。
アインズは部屋に入ると備え付けの椅子を引き、そこに背中を丸めながら座る。持ち主のいなくなった部屋は妙に大きく感じられた。
「……ここで一緒にチェスやカードゲームをしたりしたこともありましたね……」
アインズは顔を下に向け、一人話し出す。
「いなくなったのは……俺が異形種になったのが理由ですか?」
「それともこの世界を支配しようとしたからですか?」
「人間を沢山殺したのが原因ですか?」
「俺達、友達……だったはずですよね?……」
「……ねえ、どこに行ったんですか?帰ってきてくれるんですよね?」
だれもいない部屋は返答しない。
「……あなたがいなくなってもう一年が経つんですよ。早いですよね。俺は……俺は……もう限界です……俺一人じゃもう苦しいんです。あなたがいなくなってNPC達はみんなおかしくなったように感じるんです。死ねば……死ねば許してくれるのかな……もう、死にたい……」
アインズは最後までナザリックに残ってくれた、生涯の友人ともいえる存在を失くした。ぽっかりと空いた穴は大きい。消えた心が痛むのはどうしてだろうか?彼は言った消えた理由は各々考えてくれと。
だから毎日考えた。
沢山、沢山考えた。
だけど答えは見つからない、答えは既に消えたから。
アインズは椅子から立ち上がり彼の私室を出る。
部屋の前にはメイドが立っていた。そのメイドに向かって呟く。
「この部屋は彼の部屋だ。誰も入れるな。いいか、入っていいのは私だけだ」
今日もアインズはずっと考え続ける。
どうすれば許してくれるのか、どうすれば再会できるのか。
どうすれば彼の力を奪えるのか、どうすれば彼を洗脳できるのか、どうすれば自分に服従するのか、どうすれば彼を繋ぎとめておくことが出来るのか、どうすれば彼は自分に依存するようになるのか、どうすれば、どうすれば、どうすれば……――
だから……もう一度だけ会いに来てください。
どちらか迷っています
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ハッピーエンド
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バッドエンド