『オリ主、ギルドやめるってよ』   作:abc

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シャルティアさんの場合

「どこに行ったでありんすかぁ……どこに……どこに……」

 

 自室のベッドの上で横になり、瓶に入った高級そうなワインをラッパ飲みしている吸血鬼が一人いた。彼女の名はシャルティア・ブラッドフォールン。ナザリック第一~第三階層の守護者であった。

 

「何で……何で……置いていったんですかぁ……うぅ……うぅあああ……」

 

 最後には叫ぶように泣いてしまう。部屋の中には彼女一人しかいない。だから誰にも聞かれる心配はない。だから泣く、過去の自分を憎むように、現在の自分の状況を嘆くように、希望のない未来に絶望するように。

 

 こんな生活をシャルティアはもう一年ほど続けていた。

 

 現在は守護者の任を解かれ、私室に引きこもり酒に酔う毎日を送っている。

 

 シャルティアが現在のような酔生夢死の状態になったことには理由があった。

 シャルティアの主である至高の四十一人の一人が突如ナザリックを去って行ったのだ。まるでそれまでかかっていた霧が一瞬で晴れるように、何の前触れもなしに一瞬で消え去ってしまった。

 

 消えた彼は自身が消える前に、もう一人の至高の四十一人であるアインズ・ウール・ゴウンに対してこう話したらしい。

 

『どこに行くかは言えないかな。それとやめる理由だけどアインズさんだけに有る訳じゃないから……まあ、各々で考えてよ。それじゃあ、さようなら』

 

 やめる理由は言えないが、その理由は各々にあると言うことなのだろう。

 

 それからシャルティアは必死に考えた。どうして彼がいなくなったのかを。他の守護者に比べて決して優れているとは言えない自分の頭で考える。そして思い当たる節がいくつも頭に浮かんでくる。

 

 自分がこれまでナザリックに対して何の役にも立って来なかったのではないか?

 それどころかワールドアイテムの効果であまつさえ彼に剣を向けたからか?

 それとも人間という種族を殺しすぎたことなのだろうか?

 それとも単純に見た目が気に入らなかっただろうか?

 それとも、それとも、それとも…………――――

 

 考えれば考えるほどに重い罪悪感がシャルティアに襲い掛かった。

 探すことすら諦めた彼女は一人、絶望に浸りながら部屋に籠った。

 

「うっ、うぇ……うぁ…………」

 

 込み上げてくる吐き気にベッドから転げ落ちる。そしてそのまま胃の中にあった酒を絨毯にすべて吐き出し終える。今のシャルティアは自分を戒めるように全ての耐性を切った状態であった。そのため酒にも酔うし、毒も効く。

 

 着ていた服の袖で口元を雑に拭うと立ち上がり、部屋に備え付けられているテーブルに向けてヨロヨロと歩き出す。

 

「うぅ……うぅううう…………もう嫌だ……」

 

 テーブルの上に乱雑に置かれている大量の錠剤を適当に手に取り、それを持っていた酒で無理矢理胃に流し込む。ナザリック性の高品質な薬はすぐに効果を発揮して眠気が体を包み込む。

 

「戻れる……もう一度……あの頃に」

 

 そしてシャルティアはその場に倒れるようにして意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 シャルティアが目を覚ますと、そこは綺麗に整頓された私室のベッドの上であった。先程まで自分が飲んでいた酒便もなければ、テーブルの上にコーンフレークのように山盛りの錠剤もない。絨毯は染み一つない綺麗な物で自分が吐き出した吐瀉物は綺麗に消えていた。

 

「良かった!全部夢だったでありんすね!」

 

 思わず嬉しくてその場で飛び上がってしまう。

 だがまだ確認しなければいけないことがある。それはアインズ様とは別のもう一人の至高の御方の存在である。彼が本当に出て行ってしまっていないかシャルティアは心配なのだ。

 

 これが現実であることを確かめるように急いで魔法で連絡を取る。

 

『何かあったのかシャルティア?急に連絡を寄こして来て』

 

 彼が伝言に出てくれた!とりあえずこのナザリックを離れていないことに安堵する。そして次に実際にあって確かめたいという欲求が溢れ出る。

 

「大したことではないんですが、その、少し会えないでありんすか?あ、いえ、その難しいようなら別に断っていただいても……それに、ただ会いたいだけで大した用事もないでありんすし……」

 

 話していくうちに段々と声が縮んでいき、最後の方にはとても小さな声で話していた。ただ会いたいという気持ちで連絡したというのは、シャルティアにとっては恥ずかしいと感じることだった。

 

『……わかった。今から会いに行くよ』

 

 そう一言呟くと彼との伝言が切れる。それから数秒した後にシャルティアの自室をノックする音が響く。

 

 彼だ。自分の願いを聞き入れてくれてすぐに会いに来てくれたんだ。

 

 シャルティア湧き上がる喜びを抑えながら部屋に招き入れる。いつもと変わらぬ荘厳でありながらどこか優しさを感じさせる雰囲気を纏った彼がそこにいた。

 

『お邪魔するね、シャルティア』

 

「ど、どうぞ」

 

 彼が椅子に座るとその向かいにシャルティアも座る。

 

 本当に目の前に彼がいてくれる。

 やっぱりこれが現実で、あっちが悪夢の世界だったんだ。

 

『それでどうして俺を呼んだんだ?無理には聞かんが』

 

「はい!……実は悪い夢を見たでありんす……」

 

 それから自分が見た夢の内容を語り始める。

 

 彼がある日ナザリックを去ったこと。残されたアインズや守護者達は必死に探したこと。それでも全く見つからず、手掛かりさえも掴めていないこと。そしていつしか守護者やメイド達、そして自分自身もおかしくなってしまったこと。

 

 隠さずに全てを話した。いつの間にか目から涙が流れていた。

 

『そうか……でも、安心していい。それは夢で俺はここにいる。どこにも行かないし、ましてや消えるつもりもない。大丈夫、大丈夫だから』

 

 そう言ってシャルティアの小さく白い手を握る。

 

『俺だけじゃない、アインズさんだってずっと居てくれる。それにいつかはぺロロンチーノだって見つけてやる。俺はずっとナザリックと一緒だ。だから、泣くな。お前は笑顔が一番だ』

 

「ありがとうございます……」

 

 今シャルティアは最高に幸せだった。創造主であるペペロンチーノには会えていないけど今の自分にはアインズと彼がいる。それだけで十分だった。

 

 この夢が永遠に続けばいいのに……そう思えるほどに。

 

 

 

「夢?」

 

 

 

 今自分はこの状況が夢だと思ったのか?どうして?何故?

 

「違う!違う!違う!これは夢なんかじゃない!これが現実!現実!」

 

 

 

 シャルティアは自覚してしまった。いま見ているこの世界が夢であることを。

 

 全てが白くなり消えていく。自分が目覚めてしまう。

 

「嫌だぁああああああ」

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 目を覚ますと絨毯の上で横になっていた。どれくらいの時間寝ていたのだろうか体は鉛のように重く、頭は割れるほどに痛い。そして何よりこの世界が現実でありこれまで見ていた世界が夢であることがシャルティアを苦しめた。

 

 立ち上がることは出来ない。多量の薬を一度に摂取したことによる副作用で立つことすらままならなくなったのだ。

 

「こっちが悪夢であっちが現実……きっとそうに違いないでありんす…………」

 

 シャルティアはもう現実と悪夢の境界線がなくなっていた。

 だから幸せな方を現実に、不幸な方を悪夢にすることにした。

 

 だから一刻も早くこの悪夢から抜け出したかった。

 

 空き瓶やガラス片が散乱し、絨毯はボロボロで吐いた吐瀉物で汚れており、服は着替えていないために薄汚れている。そんな悪夢をさっさと抜け出して現実に戻ろう。

 

 アインズと彼がいて、ナザリックの皆が狂っていない現実に。

 

 

 

 シャルティアは力を振り絞って立ち上がり、再び大量の錠剤を酒で飲みこんだ。

 

 

 

 

どちらか迷っています

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