『オリ主、ギルドやめるってよ』   作:abc

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セバスさんの場合

「…………」

 

 荒れたアインズの私室を掃除するメイドたち。その指揮を執っているのは執事服を身に纏った執事であるセバス・チャンであった。いくつかのスクロールを使用し壊れた家具や、汚れや傷がついた絨毯を修復していく。

 

 セバスは出来るだけ顔には出さないようにしているが、他の作業しているメイドたちの顔は一様にして暗かった。

 

 アインズと共に残っていた至高の四十一人の一人である彼が失踪してしまったのだ。それによりアインズは荒れ、守護者達も荒れていた。残されたメイドや従者たちも落ち込んでいる。ナザリックには活気と言うものがなくなっていた。

 

 それでもセバスは自らの仕事に専念する。

 それが消えた彼の願いであるから。

 

 

 

 

 

 

『はぁ……はぁ……クソっ!……』

 

 ランプの明かりに照らされた部屋の一室で、至高の四十一人の一人である彼がある発作に耐えていた。目は純血の様に赤く染まり、口から溢れ出る唾液が止まらないでいる。彼と言う存在を知らないものにとっては飢えた獣のような姿である。

 

 震える手で自身のアイテムボックスを探り、中から真っ赤な液体が入った小瓶を取り出すとそれを一気に飲み干す。その瞬間、赤眼は青く澄んだ瞳に変わり、体の震えや唾液の分泌が治まっていく。

 

 近くに控えていたセバスはすかさずハンカチを手渡す。

 

「これを」

 

 それを真っ白い顔をした彼が、必死に繕った笑顔で受け取る。

 

『すまない……』

 

 口元を拭うとさっきまで自分が飲んでいた赤い液体がハンカチに付着する。それは鉄のようない匂いがする生臭い液体……「血液」だった。彼は空いた小瓶をアイテムボックスの中に投げ捨てるとその場に崩れ落ちるように座る。セバスは慌てて彼に寄り添うように肩を貸す。

 

『お前には迷惑をかけるなセバス……』

 

「迷惑などと至高の御方に仕えるのが私達僕の使命ですので」

 

『そうか……悪いが俺は風呂に向かう。その間少しこの部屋を片付けてはくれないだろうか?』

 

「勿論でございます」

 

『任せたぞ』

 

 そう言って彼はリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使い浴場へと転移していく。セバスはそんな彼を見送ると荒れた部屋の惨状を片付けていた。

 

 

 

『彼の種族は食人鬼と呼ばれる異形種であり、役割は囮兼回復役である』

 

 

 

 しかも種族レベルは80とほとんどを種族レベルに振り込むガチの異形種であった。それ故、転移後の彼は自身の種族に悩まされていた。食人鬼のバッドステータスには、食人衝動や殺人衝動と言った定期的な『カニバリズム』や『殺人行動』を取れない場合に暴走するという発作があった。

 

 人間の心を持ち、補助役を担っていることでカルマ値も高い彼にとって、人間を殺し食べるという行為は絶対に出来なかった。だからユグドラシルから持ってきた人工血液を飲んで発作を抑えているのが現状である。

 

 彼はアインズと違いアンデッドの精神作用無効や飲食不要などを所持していない。だからこそ、自身の発作に苦しめられている。

 

 セバスは荒れた部屋を一通り片づける。

 

 セバスは彼が元々人間であることを偶然知らされたことがあった。それによりどうして彼が殺人や食人を避けていることを理解することが出来た。それからは彼が発作を起こした時などはこうして彼の手助けをしている。

 

 セバスが部屋の掃除を終えるとほぼ同時に彼が部屋に戻ってくる。

 

『いつもすまないなセバス、他の者にはどうにも頼みづらいのでな』

 

「私でよろしければいつでも手を貸しましょう」

 

『その忠義嬉しく思うよ。それじゃあ、もう少しだけ俺の独り言に付き合ってはもらえないだろうか?』

 

「かしこまりました」

 

 そう言って向かい合うように部屋にあるテーブルの椅子に座る彼。セバスも彼に促されながら椅子に座る。

 

『これから先お前に話すことは決して他言無用だ。誓えるなら話す』

 

「……誓います」

 

『一応、俺だけじゃなくお前の創造主であるたっち・みーにも誓え』

 

「……我が創造主たっち・みー様にも誓います」

 

『よし、それじゃあ、話すけど……』

 

 そう言って何かを話そうとするがギリギリの所で黙ってしまう。今から話そうとしていることは彼からしたら。どうしても言い難いことなのであった。

 

 それから数分間は沈黙の時間があったが、遂に彼は口を開いた。

 

 

 

『俺、ギルドを辞めようと思うんだ……』

 

「何を仰るのですか!?何故そのようなことを!?」

 

 

 

 ギルドを辞めるということがどういうことを意味するのか、セバスは十二分に理解してるからこそ声を上げてしまう。ギルドを辞める、言葉にすれば単純であるがその意味するところは僕であるセバス達にとっては絶望を意味する。

 

 NPC達は皆至高の四十一人に崇拝にも近い忠誠を持っている。しかも現在は二人以外の至高の四十一人は隠れている状態であるため、NPC達のアインズと彼への思いは狂信の域にいっていると言っても過言ではない。

 

 もし彼がいなくなったらNPCはおろか、きっとアインズまでおかしくなっていくのは目に見えていた。それでも彼の意思は変わることがないようセバスの瞳をじっと見つめていた。

 

『……いくつか理由があるが一番は人間に戻るため……俺は……今も刻一刻と心が異形種に近づいているのが分かる。食人鬼の本能である殺人や、食人、それに精神の汚染など人間であった頃の自分じゃなくなっていくのを感じるんだ』

 

 彼の放つ言葉はどこか苦々しそうであった。

 

『今はユグドラシルのアイテムである人工血液とポーションで抑えてはいるが、いずれ限界が来る。人間とは言えないような残虐な食人鬼に変わってしまう。その前にマジックアイテムを使って元の人間に戻るつもりだ』

 

「それなら……わざわざ出ていく必要はないのではないですか?」

 

 セバスの意見はもっともであった。

 人間に種族を変えるだけならナザリックを抜ける必要はないのではないか。

 

『……俺はナザリックも離れたい。もう人を殺すのも。殺されるのも嫌なんだ。俺は……そう、ただ普通に生きていたいだけ。それに俺が人間種になれば反感が起きるのは目に見えている』

 

「反感など起きるはずがございません」

 

『……人間を下に見ている奴らだ、俺が人間になったらどうなるか分からない。きついことを言うようだが、俺はお前達を信頼はしているが信用はしていない。所詮は俺達が創ったNPCに過ぎないからな』

 

「……それは」

 

 セバスは自分とそしてナザリックの全ての従者が彼にとって、信用に足りるものではなかったことにショックを受ける。

 

『……疲れたんだ。ナザリックの利益のためと思って非情な決断を下してきた。人を殺すこともあった。だけどもう限界なんだ。それらをするたびに、人間であった頃の精神がすり減っていく。精神が異形種化する前に俺はここを抜ける』

 

「……ここを抜けてどこに行くつもりですか?」

 

『それは言えない。だが俺が持っているアイテムを使ってここではないどこか遠くへ行き、普通の人間に戻って暮らす。現実世界への帰還の研究をしながらな』

 

 

 

「ここで帰還の研究を成されればよろしいのではないでしょうか!それに人間になったとしても私達の忠誠は変わりません!これからは殺しや暴力を減らすようアインズ様にも進言いたします!だからどうかギルドを抜けるのだけは……どうか……」

 

 

 

『ナザリックは変わらない、俺たちがそういう風に作ったからな。そして俺は至高の四十一人なんかじゃない『*****』だ。今日は助かったよ、ありがとう。他言無用の約束は忘れるなよ』

 

 セバスは部屋を出ていくしかなかった。

 

 

 

 そしてそれから数日後彼は消えた。

 

 

 

 

 

 

 セバスは今日も自らの仕事を淡々とこなす。

 

 どこかで彼が心穏やかに暮らしていることを願って。

 

 

 

どちらか迷っています

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