『オリ主、ギルドやめるってよ』 作:abc
「他の守護者やアインズ様はともかく、デミウルゴスまでもがこの一年最低限の仕事しかしていないなんて……ナザリックはどうなるのかしら……」
アルベドはアインズが使っていた執務室でただ一人ナザリックの事務作業に勤しんでいた。現在アインズ・ウール・ゴウン魔導国の状況はガタガタであった。アインズは見ての通り働ける状態ではなかったので、代わりにアインズとしての仕事はパンドラが変装して仕事を掛け持ちしている。
シャルティアは完全に薬物中毒なので、その代わりに吸血鬼の花嫁が一応の代役をしている。薬物中毒に溺れたシャルティア助けることが出来るものは果たして存在するのだろうか。
デミウルゴスは独自の魔術を作成するために生贄の作成と、闇魔術に傾倒している。最低限の仕事はこなしてはいるものの、あとは凄惨で残虐な実験ばかり繰り返している。目的を見失うのも時間の問題だろう。
コキュートスに至っては意味のあるのか分からない冒険者・ワーカー狩りまで始めている。一応証拠隠滅もしているのでアインズ・ウール・ゴウン魔道国が疑われることはないだろうがほどほどにして欲しいものだ。
アウラとマーレは最近は真面目に仕事をしているが、その顔はどこか辛そうで悲しそうであった。二人は既に彼の居場所を探すのを諦めてしまったのだろう。そのせいか元気……と言うよりは活力や覇気と言ったものが抜け出ていた。
そしてアルベド自身も多少は落ち込むこともあった。
それでも守護者統括として自身が仕事を投げる訳には行かない。
今日もたった一人で雑務を片付けていく
アルベドも考えることはあった。
ある日、至高の四十一人の一人が消えた。消える間際に彼は、
『どこに行くかは言えないかな。それとやめる理由だけどアインズさんだけに有る訳じゃないから……まあ、各々で考えてよ。それじゃあ、さようなら』
と言ったらしい。
アルベドは言葉の意味をすぐに理解した。
彼という存在が、いや精神がナザリックに順応できなかったのであると推測する。彼は捕虜の人体実験にも最後まで反対していた。しかし、合理性を重んじる他の守護者やアインズによって却下されている。
また食人鬼と言う種族でありながら。消える最後まで人間を食べることはなかった。いつも、栄養食と人工血液に頼ってばかりだ。
食人衝動の他にも殺人衝動も抑え込んでいた。そしてここからはアルベドの憶測であるが、魂が異形種化するのも防いでいたと思おう。実際にそれらしいを行動を何度も見てきたからだ。
総じてアルベドが出した決断は、自身の種族を変えるため、そしてナザリックと言う縛られた環境から抜け出したくてナザリックから消えたのではと推理する。
アルベドは思い返す彼が消える一日前の事を。
◆
『アルベドはよく働くな、アインズさんや俺なんかよりもさ。偶には休憩とかしないのか?』
「それが我々至高の四十一人に作られた従者の務めですので。休憩は必要ありません。御身のために働くことが至上の幸せですので」
『そうか……俺はアルベドにナザリックの外のことや、いろんな知識を付けて欲しいと考えているんだけどな』
「それは一体どういう意味なのでしょうか」
アルベドはアインズと共に最後まで残った至高の四十一人の一人である彼に一定の信頼を置いていた。もちろんモモンガほどではないがそれでも信頼もしているし、信用もしている。例えるならば仲の良い上司と部下と言った関係が適切だろう。
今日の彼は執務室で仕事をしていた。アルベドはそのサポートとしてついているだけであった。
『アインズさんも言っていた通り、人間と言う種族に嫌悪感を持ってほしくないんだ。俺は人間と言う種族が大好きだ。だから食人鬼であっても食人や殺人は極力避けるようにしている。アルベドにも人間と言う生き物を知って欲しい』
「なるほど、人間と言う生き物を知るということですね。それなら現在ナザリックで行っている人体実験の結果などに目を通した方が早いのではないでしょうか」
その言葉に思わず苦笑いを浮かべずにはいられない彼。ナザリックでは現在非人道的な研究が行われていた。彼はこの計画に反対したが、他の守護者や、ナザリックファーストを掲げるアインズさんによって仕方なく実験は開始された。
そして何より彼が納得いかないのは自分自身についてだ。自分の中の異形種の心が人体実験だけでなく、殺人を望んでいたのだ。その頃の彼は自分自身の異形種化に酷く罪悪感を感じてしまっている。
それは現在も続いていた。
だからせめて少しでも人間らしい行動をして魂の異形種化を抑えようとしている。
「体の構造なんかじゃないんだ。心を理解して欲しい。それが俺の一番の願いだ。俺が完全な食人鬼に堕ちる前のな」
「異形種になることが嫌なのですか?」
『ああ、俺は元は人間だ。そして人間に戻りたいとも思っている』
「下等な人間にこだわる必要などございません。ですがあなた様が人間に戻りたいというのであれば私も力添えをさせて頂きます」
その言葉に彼の顔は明るくなる。
『そうか、ありがとう。ならもう一つ話しておこうかな……リアルの話をしても良いか?』
「はい……」
『リアルには俺の両親も兄妹もいる。友達だっているし、その、恋人もいる。リアルにはここにはない本物があるんだ。俺はそれを捨てるわけには行かない。だからどれだけかかろうとも帰る』
『ここには多くの命があった。そして彼らにも意思があった。ゲームにはなかった心もな。俺はもうそれらを奪いたくなくなった。俺の種族は食人鬼だから殺さなければ生きることは出来ないし、殺しに快楽を見出してもしまう。完全な殺人鬼になる前に人間に戻り心を取り戻す……人間に戻る方法を探るのは俺一人でやる』
ここでアルベドは一つの疑問が頭に浮かび上がる。
「……何故私にこの話をしたのですか」
『気まぐれさ、さっさと終わらせよう。これから準備があるのでな』
その言葉を最後に二人は黙々と仕事をこなしていった
◆
もしかしたらあの時の話は、彼なりの別れの言葉だったのかもしれない
このナザリックはきっとこのままではドンドンと狂っていくことになるだろう。消えた彼によって狂わされてしまうのだ。かと言って彼が見つかったら見つかったでそれでも良くない方向に進むことになる。今度は彼を逃がさないためにあらゆる手段を取るだろう。
彼がナザリックから逃げのびることは出来るのだろうか。
それは守護者統括のアルベドの智謀を持ってしても分からない。ただ一つ言えることがあるとするならば、アルベド自身の願いは彼がリアルに帰ってくれることだろう。
彼は言った。
『リアルには俺の両親も兄妹もいる。友達だっているし、その、恋人もいる』
それならば帰りたいという思いも分かる。自分には姉妹であるルベドやニグレドがいる。同格の守護者や、メイド達もいてくれる。
だが彼はどうだろうか。彼は一人だ。自分と同じ考えを持ってくれる者もおらず、その上異形種化による発作にも耐えている。彼にとってこの世界は決して楽しいものではなかった筈である。だからこそ、消えてしまったのだろう。
アルベドにとって彼はアインズと同じくらい尊敬できる存在だ。
ずっとナザリックを支えてきた一人であるからだ。
消えてしまったのは寂しいが、それが彼の願いだというのならば後押しするだけである。
それと恋のライバルのシャルティアは薬に溺れてしまった。
それに彼が消え不安定となったモモンガを癒すことも出来るのだから、悪いことだけではない。愛するモモンガを癒すため執務室を後にする。
どちらか迷っています
-
ハッピーエンド
-
バッドエンド