原作知識なしでルルーシュの兄   作:まただ

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どうしようもない不良娘の大出世

 その顔は美しく、しかしどこか恐かった。

 

「かわいいものは嫌いじゃないわ。でも面倒ごとはいやなのよ」

「あんたに母親としての情はないの? 乳くらいあげなさいな」

 

 英語? 完全に知らないわけではないが、あまり聞き取れない。脳が劣化している? いや、眠さのせいか?

 

「そりゃ何回かはあげるけどね。すぐ飽きちゃうと思うわよ」

「やっぱあんたに母親は向いてないわ。どうして産んじゃったのよ」

「ああはいはい、説教は聴きたくありませんー」

 

 乳房は温かく、大きかった。やけに弾力があり、筋肉質だったが、女性の柔らかさもあった。

 黒髪のとても若い女から、その女と似た顔の、やや歳を取った女へと受け渡される。

 

「はあ、かわいそうな孫。でも、私はあんたを見捨てないからね。ベイビー」

「じゃ、そういうことでー」

「はあ、我が娘ながら、なんとデタラメな」

 

 それが俺の最初の記憶だった。

 

 

 俺は珍しく前世の記憶をほんの少し持ったまま産まれた。前世は日本人だった。と言ってもこの世界にある日本とは違うのだが。今世はアメリカに位置する国、ブリタニアで産まれた。名前はケケラ・ランペルージ。母はマリアンヌ・ランペルージ。しかし彼女は14歳の不良娘であり父親は不明。しかも、彼女は子育てしたくないとかで、俺は彼女の弟という設定になり、彼女の母、つまり俺の祖母に預けられた。祖母の名は、ココロ・ランペルージ。

 この祖母は日本人のハーフらしく、アジア系の顔立ちをしている。母マリアンヌも黒髪だし顔立ちが少しアジア系に見えるところがある。しかし俺はヨーロッパ系だ。髪も赤い。ただ、この世界の人間は目がとても大きいので、前世の日本人やヨーロッパ人とは比べられないが。少女マンガみたいな顔だな。こんな世界観の作品は知らないが。全体的にクランプっぽく見える気もする。

 

 さて、俺の母親は14歳であり、祖父も父もおらず、祖母は定職についていない。俺の家には金がない。祖母は見た目がそこそこよく売春で金を稼いでいるようだが、その金の大部分はマリアンヌに取られてしまう。また、慈善家なのか何なのか、道端の物乞いにあげてしまうこともある。なので、毎回俺を食わせるぎりぎりの金しか残らない。酷い時は自分が食べずに俺にだけ食べさせる。周りからは、やさしいのではなく、奪われることを受け入れる弱い女だと見られている。こういう祖母だから、マリアンヌが荒れてしまったのかもしれない。

 ブリタニアは弱肉強食が国是だった。強者が弱い者から奪うことは正当だと見なされている。マリアンヌが祖母の金を取っても、祖母は何も言わない。マリアンヌが貴族にケンカを売っても、マリアンヌには何も言わなかった。ただ、家に貴族が押しかけてきた時は、ひたすら泣いて謝って、その後、身体を抱かせて許しをこうていた。こんなことを続けていたら、いつ身体を壊してもおかしくない。

 

 幸い、祖母もマリアンヌも、異常に身体が頑丈だった。マリアンヌは毎日のようにケンカをしているので、時にはお礼参りと言って大勢の不良が我が家に押しかけるのだが、それらを1人で華麗にのしてしまう。時には銃弾が飛び交うのだが、なんか壁や天井を走って華麗に避けていた。祖母も、お礼参りに来た不良から人質や見せしめとして狙われるのだが、毎回ほぼ無傷で逃げ切っている。マリアンヌと違って彼女から攻撃することはほぼないが、俺を抱えたままドラム缶や木の枝を蹴ってあっという間に屋根に上がり、隣の家の屋根から屋根へと飛び移るという離れ業を見せてくれる。はっきり言ってこの母娘は化け物だ。母曰く「マリアンヌには逆立ちしても勝てない」らしいので、マリアンヌの強さはまた格別らしいのだが、現代の感覚でも今世の感覚でも、この2人の身体能力はおかしい。

 

 俺は男である。前世も強さには憧れがあったが、こんなものを見せられては、最強を夢見てしまうというもの。俺はマリアンヌの遺伝子を持つ男なので、鍛えれば、彼女より強くなれる可能性が高い。そうすれば、世界がどんな風に見えるのだろう。ドラゴンボールみたいに空を浮いたりかめはめ波が出たりするんだろうか。それができずとも、不良相手の無双は、楽しそう。しかも、この国では強者は出世できる。金持ちになり貴族の女達からモテモテになっちゃうかもしれない。

 

 俺は1歳になったのを期に、トレーニングを始めた。近所を走ったり、レイピアに見立てて枝を振ったり、農業のために土を掘ったり。周りにはずいぶん奇妙な1歳に見えたことだろう。しかしマリアンヌもまた1歳の頃には走り回っていたらしいので、驚きは少ないようだ。

 俺が3歳になった頃、マリアンヌが家に戻らなくなった。もともとそこらじゅうに手下の男を作り、そいつらに貢がせ、家に戻ることは少なかったのだが、ケンカした相手が家にお礼参りに来る前後には、家に戻ることが多かった。しかし、男達が何度お礼参りに来ても、マリアンヌは家に帰ってこなかった。そのうち、家に軍関係者の人間がやってきた。何かやらかしたのかと思ったら、そうではなく、マリアンヌは軍人になっていたらしい。その軍では持ち前の身体能力と戦闘技術により結果を出しているが、若さと性格と身分の問題でなかなか出世できないようだ。しかし、今回は運よく貴族の目に止まり、昇進の話が来ているようで、軍人はマリアンヌの身辺調査のために、家に来たようだ。

 

「ほう、彼が弟か」

「はい。マリアンヌも昔からこの子のようにいい子で」

 

 祖母は嘘をついていた。母を思っての嘘だが嘘だとバレバレだった。

 

「ふふっ、顔は似ておるが、性格は似てませんな。彼女は上官にも平気で殴りかかるじゃじゃ馬だ」

「迷惑をおかけしているようで、すみません」

「迷惑ですとも! はあ。見た目のいい女だから、処刑はせずにおいているが、あれで男なら即打ち首にしてますよ!」

「違いない。ははは」

 

 どうやらマリアンヌは相当な問題児のようだ。まあ、分かっていたことだが。自由が信条である彼女が何を思って軍になど入ったのか、全く理解できない。

 

「今回の身辺調査、この街でケンカばかりしていたようだし、問題なしといかんわね」

「そうですか」

「いやいや、諦めるには早いですよ。お母様はあっちの仕事をしてらっしゃるようで」

「え?」

「私達を喜ばせれば、ついあの不良娘を贔屓しちゃうかも」

「はあ」

 

 その後、俺は外で遊んできなさいと言われ、家を追い出された。しばらくして、軍人達はつやつやした顔で家を出て、帰っていった。

 

 そんなことがあってから2年後、家に久しぶりにマリアンヌがやってきた。彼女は10代後半でまだ成長期だったようだ。身長がずいぶん伸びていたし、乳がバーンとでっかくなっていた。祖母は目に涙を浮かべて、娘との再会を喜んだ。しかしマリアンヌは開口一番「絶縁するから私の母親名乗らないでね。そっちの子も弟を名乗らないでね。戸籍上も完全に他人にするから」とそれだけ言って去っていった。本当にろくでもない女である。

 

 祖母はそれからしばらく、毎夜のように枕を濡らしていた。待ちに待った再開がこんなあり様では心を痛めるのも仕方ないだろう。だが、この家には前世の記憶を持つ俺がいる。俺は祖母のために食事や洗濯などの家事をこなし、少しだが畑も耕す。その俺の姿を見て、心を洗われたか何か知らないが、祖母は徐々に元気を取り戻していった。

 

 俺が小学生になってすぐ後、とんでもないニュースが街に入ってきた。あのマリアンヌが皇帝の騎士になったというのだ。この国でたった12人しかいない皇帝直属の最強の戦士、ナイトオブラウンズに。その権力は一代限りの貴族と言えど、皇帝の命令以外には従う必要がないという、ある分野では皇子をも凌ぐ物。その名誉は弱肉強食を国是とするこの国では最高の誉れ。とてつもない下克上をなしとげたのだ。報道では、庶子出身ということも、ケンカばかりしていたという醜聞も、その信じられない強さも、報じられた。

 昔のケンカ仲間やケンカ相手が家に来て、母に写真を見せて質問していた。「これ、絶対あのマリアンヌだよな」と。その写真の顔は俺の母のマリアンヌに違いなかった。しかし祖母は「似ているけど別人のようね」「別人よ。私は母だから間違えるわけないわ」と決して彼女が自分の子であることを認めようとはしなかった。マリアンヌの絶縁宣言を守っているのだ。写真を見る表情は喜んでいるから、完全に隠しきれているわけではないが、何と言う義理がたい、というか自分の意見のない女なのか。そういう性格だとは知っていたが、俺は改めて驚かされたのだった。

 

 しかし、事件はそこで終わらない。なんと、マリアンヌが皇帝に告白され、后になってしまったのだ。名前もマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアへと変わる。皇帝には100人近くの后がいるとは言え、庶子に告白した例はこれが初めて。しかも、明らかに他の后より関係が近い。顔がのろけている。マリアンヌは単なる皇后ではなく、皇帝から最も寵愛を受ける后。もし子が産まれれば、その子が皇帝になる可能性さえある。そういうとんでもない事態となったのだ。

 

 俺は内心浮き足立っていた。母は酷い女だが身内の出世とは喜ばしいものだ。だが、決して口にはしなかった。身内の自慢が情けないのもあるが、それ以上に恐怖を感じていたからだ。なぜあんな女が、という嫉妬。時には汚い手を使うことも厭わないという、貴族連中からの、どす黒い悪意。直接そういう貴族を見たわけではないが、報道のマリアンヌ叩きが酷いものだった。だから、いつか暗殺されるかもしれないと恐れるようになった。

 

 俺は祖母に引越しを願った。貴族に目をつけられたら、今度ばかりはお礼参りではすまないと説明した。祖母は数日悩んでいたが、ある日突然了承してくれた。と言っても、祖母は引っ越さずに、俺だけ養子として出されるという形になったが。

 

「君がマリアンヌ様の弟か。あまり似てないな」

「この子は父親に似たようで」

「ふむ。まあいいだろう。遺伝子を調べれば血縁は分かる。そうでなくとも、このご婦人がマリアンヌ様の母であることは、戸籍改変の形跡を辿って確かめてある。よって我々には君を養子として迎える価値があるというわけだ。アッシュフォードの名はやれんから、部下の養子にするがね」

「ありがとうございます。貴族様の養子になれば、きっと今よりも豊かな生活が送れることでしょう」

 

 そんな会話がなされ、俺は貴族に養子に出されてしまった。

 

 母マリアンヌは庶民の出でありながら武功のみでのし上がった女。それもあり、庶民や武人肌の貴族から好かれる傾向にあった。俺を引き取ったエルバ子爵もそういう貴族だった。見た目は筋肉と無精ひげがすごいおっさん。軍一筋で35歳にして嫁の貰い手なし。もっとも金で買っているお気に入りの女はいるようだが。エルバ家は代々軍人を輩出し、軍に強い影響力を持つが、酒や女やの金遣いが荒く、経済の方はいまいち。その例に漏れない男だった。しかしエルバ子爵は「男なら金はパァーッと使え」とそのことを逆に誇っていた。

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