原作知識なしでルルーシュの兄 作:まただ
「あらミレイ、ルルーシュじゃ不服?」
マリアンヌがからかうように言う。6歳のミレイは大慌てだ。
「め、めめめ、めっそうもありません! た、ただ、殿下のお気持ちも聞かないと、しつれいかなー? と、思ってしまったりィ?」
「だってさルルーシュ。ミレイは婚約に前向きみたいだけど、あんたはどうするの? 男ならこんなかわいい子に恥欠かせちゃダメよ」
「ちょっ、母さん! ミレイさんも明らかに初耳で驚いてたじゃん! 会ったばかりだし、年齢もそうだし、ふつう婚約なんてまだしたくないよ! でも、母さんの口から言ったら断れるわけないでしょ!」
「あらあら。困った子ねー。貴族は空気を読まないとダメなのよ? ねえルーベン」
「おっしゃる通りです」
「こ、ここに味方はいないのか! うわあああ!」
ルルーシュは叫びながら外へと駆けていった。ミレイも追いかけていった。その後にひっそりと使用人達が続く。
「情けないわねえ。ルルーシュは皇族なんだから妻は何人いたっていいのに」
「我々としては、側室はあっても正妻ミレイ一筋の方がありがたいですがな」
「それは皇帝批判かしら?」
「そんなわけないでしょう。全く、ルルーシュ様用の仮面が取れてますよ?」
「仕方ないじゃない。お行儀よくしてると肩こっちゃうんだもーん」
やっぱ母はこうだよなあ。なんかダメ人間モードの方が安心する。
「あんた、失礼なこと考えてたでしょ」
母が俺に向いて言う。
「いやいや、いつものマリアンヌ様の方が安心するという、とてもまっとうなことを考えていただけですよ!」
「安心? 生意気ね、大人ぶっちゃって。童貞の癖に」
「いやいや、私の年齢なら童貞がふつう! 幼年学校入ったらモテモテ間違いなしですけどね!」
「ちょっとは恥ずかしがりなさいよ。つまんないじゃない。はあ」
母はため息をつき、突然ドレスの胸元を緩める。ピンクのぽっちり部分が見えそうで見えない、いや若干見える、という具合に。何をしているのか分からず固まってしまう。
が、不意に理解した。これで12歳の男子っぽく緊張して見せろというのだろう。だが、母親相手に興奮するって難易度高くね?
「う、うぉおおお! 見え、見え見え、見ええええ、た?」
俺が興奮の演技をしていると、母から拳骨が来た。とても痛い。
「ぐぉおおおおお、痛ええええええ!」
視界が暗む。立っていられない。俺は頭を抱えて座り込む。
「はあ、へったクソな演技ねえ。ルルーシュでももっとマシな反応するわよ」
そうしてパーティは終わった。
アリエスの離宮は后妃マリアンヌとその子ども達のために作られた豪邸と庭園。使用人も大勢いる。后妃が大貴族である第一皇子や第二皇子の庭園と比べても遜色なく、皇帝がいかに母を愛しているか伺える。
離宮に招待されたのは、幼年学校入学前の学校が長期休暇の時期。母は武闘派貴族から子弟の手ほどきを懇願されており、気まぐれに承諾することもある。今回も俺以外にそういう子弟がいて、一緒に訓練することになった。
「君、小さいなあ。まだ幼年学校にも通ってないんじゃないか?」
彼等は10代後半から20代前半の者ばかり。12歳の俺はとても目立った。男女比は男15人対女5人で軍にしては女が多いのかな。ブリタニア軍はふつうに女性もいるからよく分からん。
「はい、この訓練が終わってすぐ入学です」
「ケッ、ガキは家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってろ」
「ルキアーノ、選んだのはマリアンヌ様だぞ?」
「それもどうだかな。貴族が勝手にねじ込んだだけじゃねえか?」
「ありえるな」
見た目のせいか、嫌われてるなあ。全員からではないが、男からは概ね嫌われている。女はまあかわいいからオーケー的な?
「その年齢で競争率の高い訓練志願者に選ばれるとは……。あっ、ひょっとして皇族の方ですか?」
「違います。エルバ子爵の長男です。マリアンヌ様の後ろ盾であるアッシュフォード伯爵によくしてもらってまして、その縁で知り合ったのです」
本当は生まれた時から知り合いだけど言わない方がいいからね。
「なんだ、アッシュフォード派のつながりか」
「しかしエルバ子爵と言えば、軍でなかなか力のあるお方だったはずだ」
「ふむ、せいぜい期待してやろうかな。ははは」
などという会話をしていると、母が使用人とルルーシュと小さい女の子を連れてやってきた。服は、高価そうな白いドレスだ。庭園の落ち着いた雰囲気も相まって、純朴そうに見える。なんという詐欺。しかし、動いて服が汚れても大丈夫なのだろうか。
「マ、マリアンヌ様だ」
「くぅううう、お美しい!」
「あの子どもはルルーシュ様とナナリー様では? 初めてお目にかかる!」
母の姿を見た途端、無駄口を叩いていた若者達は感動に身を振るわせる。それから、軍人らしく身を整え、直立不動となる。俺も彼等を少し真似るが、母はどうせこんな細かいことを気にしないので、適当にしておく。
「わあ! おつよそうな方がいっぱいいるわ! ねえお兄様!」
「そうだねナナリー。この中からナイトオブラウンズも出るかもしれない。軍学校の成績優秀者達ばかりさ。1人は別だけど、彼もすごいよ」
「1人はべつ?」
ナナリーは母の娘の名前。そう呼ばれているということは彼女が俺の妹のナナリーなのだろう。ルルーシュは短い黒髪だがナナリーは茶髪で、ちょこんとツインテールにしている。パッと見は黒髪だからルルーシュと母の顔が近いが、よく見ると鼻が低いとか目堀が浅いとか、アジア系の特徴を持つナナリーの方が母の顔に似ているかもしれないな。まあこの辺は個人差か。
「うーん、そうねえ。剣を教えろと言われても、基本はできてるだろうし、反復練習やっても私がつまらないからねえ」
母はどうやって教えるか考えていなかったらしい。やはり気まぐれで生きている女だな。ストレス少なそう。
ふと、母がパンと両手を合わせる。
「こうしましょう! あなた達、自分の剣で全員纏めてかかってきなさい! 私はその辺の木の枝一本で戦ってあげる!」
どよめく訓練希望者達。
「この人数を相手に、1人?」
「さすがはマリアンヌ様だ」
「貴様、騎士としての意地はないのか? この人数で負けたら、マリアンヌ様の護衛などとても務まらない無能ということになるのだぞ!」
「ぬおお! 確かに!」
「まずい事態になりそうね」
「試験は、始まっている。マリアンヌ様の親衛隊に入るための、前段階の試験が!」
母はただの気まぐれなのに、1のことを言うだけで勝手に10を想像してしまう連中だな。マリアンヌの熱心な信奉者というわけか。少し気味が悪い。
訓練希望者は持参してきた道具を取り出すが、俺は剣など持ってきていない。俺も枝でいいか。
「ひゃはあっ、こんな上玉、他のやつにくれてやるかよ!」
ルキアーノと呼ばれていた目つきの悪い青年が、一足早く母へと駆ける。速い。なるほど成績優秀者というわけだ。体格差があるし俺より強いだろうな。
「ふふっ。ほいほいほい、こっちよ」
「ぐっ、くそっ! 遊んでやがる。待てやオラ!」
ルキアーノは明らかに殺意を持って剣を振るうが、マリアンヌは余裕のある笑顔で全て華麗にかわしてしまう。そしてかわしながら木の枝でルキアーノの鳩尾、脛、額などをバシバシしばいていく。
しかしこのルキアーノ、貴族にあるまじき言葉遣いだな。ひょっとして平民か? 単に暴れん坊なだけか?
「ほらほら、あなた達もかかってきなさい?」
母はそう言うが、無理だな。ルキアーノは連携などする気がない。今あの中に入ればルキアーノの大振りな攻撃に当たり殺されてしまう。
「くっ」
「お、おいルキアーノ! もっと小さく振れよ! 加勢できないじゃないか!」
「アアンッ! 俺に指図すんじゃねえよ! 雑魚共が!」
「なんだとぉ!」
自分も早く戦いたいのに、あいつばかりずるい、そんな感情が訓練希望者に渦巻く。そして出した結論がこれ。
「まずルキアーノを手早く制圧、しかる後連携しながらマリアンヌ様に挑みましょう」
「それって、いいの?」
「まあいいだろう。あんなやつどうなろうと」
「確かに!」
ルキアーノを除く訓練希望者18人の心が一致する。俺? いやあ、このノリはきついっす。まあ作戦自体はいいけどね。
「お、おいテメェ等!」
「あなた達、これはどういうことかしら? 仲間割れしてどうするの?」
ルキアーノはやや優れているかもしれないが、訓練希望者同士に大きな差はない。彼は簡単に袋叩きにされ、拘束された。
母は不満げだ。しかし、ルキアーノが連携を拒んでいることくらい見れば分かるだろうに。
「申し訳ありませんマリアンヌ様。しかしこやつの戦い方では加勢もできません。今後は、命じられた通り全員でかかる心持です」
「御託はいいからさっさとなさいな」
「では! ジェレミア・ゴットバルト! 胸を貸させていただきます!」
どうでもいいけど緑髪だなこの男。珍しいな緑って。この世界はどんな髪色でもありなのかな。
「キューエル・ソレイシィ、行きます!」
「ノネット・エニアグラム。お相手願おう」
「コーネリア・リ・ブリタニア。参る!」
なんか、皆名乗ってから攻撃を始める。自分を売り込むためか? 決闘の慣わしか? よく分からんな。あと1人ブリタニアって名前のやつがいるんだが。
「ええっ、コーネリア様だったの!」
「うむ。あえて言う必要もないと思ったが、隠すことでもないと思ってな」
「ほらほら、無駄口叩く余裕があるの?」
「くっ、早っ」
「閃、光……」
母はルキアーノを相手にしていたのとは別次元の動きになっていた。俺の知っている15歳くらいの母よりずっと速い。先ほどまでは思いっきり手を抜いていたようだ。今が本気かと言われたらそれは分からないが。ともかく、1人また1人と訓練希望者が倒されていく。
俺の方にも来やがった。
「ハイ! ハイハイハイ、ハイー!」
木の枝を持ってる余裕がないので、手放して避ける。とにかく避けるのに集中する。それでも当たるけど痛みは我慢して耐える。そんで避けることに集中する。
「あんた剣は?」
「養父が離宮に持っていっていいわけないって言うからさあ」
「ふーん」
マリアンヌはふと攻撃を緩め、倒れている訓練希望者に近寄っていく。そして剣を奪い、俺に投げる。
「さ、始めましょ」
「ふむ。いい剣だ」
持っただけでなんとなく分かる。重心が安定しているというかなんというか。
その後はふつうにボコられたけどね。何もできずに。
「はあー。さすがに疲れるわねえー。この人数相手だと」
一対一でも勝てたらおかしい連中20人倒して、多少息が乱れた程度か。
「かっこよかったわ! お母様!」
「ありがとうナナリー」
「ここまで差があるとは。彼等も決して弱くはないのに」
俺達が全員のされた後、ナナリーが母に近づいて褒めていた。ルルーシュは驚いて固まるという感じだった。
「ふむ。ルキアーノとノネットだっけ? あなた達は見込みがあるわね。ビスマルクに推薦しといてあげる」
「へっ、ありがてえ」
「身に余る光栄です」
ビスマルクは、ナイトオブワンのことだな。帝国最強のラウンズの中でも最高の騎士がなるというワン。しかし最強は母らしいけどな。忠誠心とか頭脳とかもろもろ含めて最高という意味なのかな? 単に年功序列かもしれないが。
「他の連中は……。まあ、とりあえずビスマルクに指導させましょう。やっぱり私はこういうの向かないわ」
「ナイトオブワンに……」
「ありがとうございます!」
母は通信機片手にビスマルクに連絡を取っている。オーケーが出たようだ。
しばらくして、片目に眼帯をかけたイカついおっさんがやってきた。身長2m超えてるんじゃないか? めっちゃデカい。そんですっごい恐ろしい面だ。ルキアーノはちんぴら程度の悪人顔だが、この人は殺し屋か何かみたいな凄みが滲み出てる悪人顔だ。実際戦場で数え切れないほどの人間を殺してきたのだろう。年齢考えると母より多いかな。
姿勢も軍人っぽくキリッとしているし、滅茶苦茶厳しそう。はあ、嫌だなあ。こんなのに教えられるのは。
「あれが、ナイトオブワン」
「マリアンヌ様に続き、ナイトオブワンにご指導頂けるなんて……」
訓練希望者達は喜んでいるが、俺は嫌だな。はっきり言って。
「そこの」
ビスマルクはまず俺の方を向いて口を開いた。はいどうせ悪口言われる。
「背筋が曲がっているぞ。表情も引き締めろ。私が指導するからには、ここは戦場だと思え」
ほら、悪口だった。
「はい」
「声が小さい!」
あー、めんど。
「はい!」
「もっとだ!」
「はぃいいいい!」
「いつもそれくらい出せ。分かったな」
「はぃいいいいいい!」
あーっ、クッソめんどい。やっぱ軍人ってこういうのなんだよなあ。母はどうやって生き抜いたんだろうか。あの人がキリッと大声で返事してるところなんて想像つかないんだけど。
「ぷっ、くふふっ」
マリアンヌめ、俺を見て笑ってやがる。やっぱあの人軍人らしさなんて心得てないよなあ。
「まずは挨拶からだ。全員そこに一列に並べ」
ビスマルクが命じると、訓練希望者はサッと全力で並ぶ。俺も小走りで動くが、やや遅れる。
「最下位の貴様、他の者が挨拶を終えるまで腕立て伏せしていろ」
はい来た。軍ってこういう所だよね。これも予想してたけどめっちゃうぜぇ!
「はい」
「声が小さい!」
「はぃいいいい!」
「特別に私が踏んでやろう」
あ? 2m近くてゴツいおっさんとか、体重100kg近くあるだろう。12歳で自体重+100kgで腕立てとか、できるわけねえ。
「ふぐぐぐっ。ふん、ぐぐぐぐぐっ」
あ、できちゃった。俺すげぇ。めっちゃ辛いけど、できちゃった。あのおっさんが全体重かけずに片足だけってのもあるが。
「よし。そこの緑髪のやつから順に、名前、所属、現在の目標を言え!」
「はっ! ジェレミア・ゴットバルト! ブリタニア士官学校1年! 目標は敬愛するマリアンヌ様をお守りする騎士となることです!」
「よし、次!」
「ふんっ、ぐぐぐっ」
手早く挨拶が進んでいく。訓練希望者はマリアンヌの騎士希望が8人、ナイトオブラウンズ希望が10人、最強希望が1人だった。
「ぐぐっ、ぐへー」
俺の番となったので、腕立てをやめて力を抜く。俺の背中を踏むおっさんの足が、俺を潰すように踏みつける。ぐしゃっとなって胸が痛い。
「誰が休んでいいと言った?」
おっさんが脅すように言ってくる。うぜぇ。
「しかし、話すためには、一度腕立てを止めないと」
「誰が口答えしていいと言った?」
うぜぇ。軍はこういう所だと知ってたけどうぜぇ。
「がはっ」
ビスマルクの野朗、俺の背中を両足で思いっきり踏んづけやがった。肺が潰れるかと思った。こいつ後で俺が最強になったらぶっ殺そう。母以上のろくでなしだ。いや、以上はないか。
「かっ、かふっ。ごほっ、ごほっ」
「ふん、挨拶も満足にできんとはな。貴様には訓練を受ける資格さえない。立ち去るがいい」
はあ? なんだこいつ。なんで母に呼ばれた俺がこいつの都合で帰らなければならない!
「ごほっ、げほっ」
「なんだ? その反抗的な目は? このナイトオブワンに挑む気か? 身の程知らずめ」
「ぐっ」
突然視界が飛ぶ。何が起こった?
と、腹に激痛が走る。全身には浮遊感。これは、蹴り飛ばされたようだ。胃が、肺が苦しい。
蹴り飛ばされた勢いで転がる俺。砂まみれのボロボロになる。蹴られた時に足が深くめり込んだのか、腹が苦しく、しばらく立てそうにない。
「あそこのやつは放って置き、貴様等には基礎から叩き込んでやろう。まずは走り込みだ。あそこの木からこのラインまで、10往復全力で走れ。最下位のやつは腕立て伏せだ。始め!」
立てそうにないが、これでよかったかも。極悪軍人のしごきを免れるから。
倒れたまま走っている若者達を眺める。女の子が汗水垂らして走っている姿は、少し癒される。
「ケケラさん、大丈夫?」
と、後ろから幼い声が。ルルーシュだ。ナナリーも近くにいる。俺を心配して見に来てくれたのか。やさしい子だな。
「お兄様、この方とおしり合いなのですか?」
「うん。先日アッシュフォード伯爵のパーティに行ったとき、知り合ってね。チェスの約束をしたんだ」
「パーティ!? もーう、お兄様ばっかりズルいですー!」
「ちょっ、ナナリー。皆の前で抱きつくのはよくないよ」
ナナリーは頬を膨らませて、ルルーシュに抱きつく。ルルーシュは嫌がるそぶりをするが、内心うれしそう。ナナリーはとてもうれしそう。
幼い兄妹で、ゆるふわな雰囲気。癒されますなー。
「あっ、ほっぺたに切り傷が」
ルルーシュが俺の顔の傷を見つけ、不安そうな顔になる。いや、こんなもん今さら痛くないんだよ。問題は内蔵にダメージがあると思われる腹の方であってね。
「ばんそこうはってあげよっか?」
ナナリーが言う。その気持ちは、とてもありがたいが、男としてこの程度で年下の女に甘えるわけにはいかない。しかも相手は皇族で、この現場を多くの者に見られているからな。
「これくらい、カスり傷ですよ。唾付けとけば治ります。ぺっ」
「あっ」
「きったなーっい! なんでつばなの!」
「唾には悪い菌の侵入を防ぐ作用があるんですよ」
「うそだ!」
「本当だよナナリー」
「えっ? そうなのお兄様」
「うん」
「へー。はじめて知った」
兄が言ったら信じるのか。お兄ちゃん大好きっ子だな。俺も兄だから大好きになってもいいんやで。
「しかしケケラさん、この後どうするの? 皆が訓練している間ここに寝ているだけというのも」
「うーん。私はあいつの訓練受けに来たわけじゃなくて、マリアンヌ様が見るって言うから来たんですよねえ」
「母上に頼んでみようか?」
「いえ、ここで頼むと、あそこで訓練やってる恐いお兄さん達に妬まれてしまいます。時間を置いてから、こっそりお願いします」
「そっか。ま、やってみるよ」
「ありがとうございます」
「じゃ、それまでヒマよね! あそぼうよ!」
え? それはまずいんじゃ。
「ナナリー様。訓練の横で遊ぶというのは、さらに妬まれる気が」
「そんなのどうだっていいじゃん! あそぼうよ!」
うーん。どうでもいいような、どうでもよくないような。あいつら今後の軍の上の方に立つ連中だからなあ。嫌われると問題になりそうな、ならなさそうな。
「ナナリー、無茶を言ってはいけないよ。だいたいケケラさんは身体を痛めて動けないんだ」
「あっ、そっか」
「いや、もう動けますよ」
この身体は回復力もすごいからな。そろそろ走るくらいはできるはず。
「そうなんですか?」
「はい。訓練はともかく、ナナリー様と遊ぶくらいなら」
「じゃ、追いかけっこしましょ! ほらっ、わたしをつかまえてみてー」
これは、鬼ごっこみたいなやつだろうか。ナナリーは満面の笑みで誘っている。追いかけるしかあるまい。
「よーし。待たれい! ナナリー姫!」
走ってナナリーを追いかける。よし、軽く走る程度ならできそうだ。腹は痛いが我慢できるレベル。
しかしナナリー、地味に速いな。3歳くらいに見えるが。母に似て運動神経いいのかな。
「はい、捕まえたー」
「つかまっちゃったー。きゃははー」
かわいい。やっぱいいなあ。妹って。しかも姫だよ姫。貴重な体験してるなー俺。
「おい貴様、何をやっている?」
と、空気を読めないおじさんの声が。後方から大きな影が差す。ホラーだな。
「ナナリー様かわいいー」
「きゃははは」
その現実を無視するように、ナナリーに抱きついて遊ぶ俺。
「喝っ!」
「ぐへえっ」
いってぇええええ! 頭の上を何かが叩き割ったような感覚。いてええええええ!
「動けるようになったのならば、何故走らん! 軍人としての心構えがなっとらん! 罰として貴様は往復20回だ! 早く走れ!」
く、くっそ。覚えてろよ。陰険な悪人面め。