原作知識なしでルルーシュの兄 作:まただ
「はっ! はあっ!」
「力を入れるだけではダメだ! スピードを出せ!」
あー、腹痛い。あー、頭痛い。
「ふんっ!」
「隙が大きい! 攻撃直後に動く! 常に周りを見ろ!」
「はい!」
あー、足重い。あー、息苦しい。
ランニングで俺が遅れる間に、他のやつらは次のメニュー。俺は最下位の罰を受けてから次のメニュー。次のメニューも当然最下位(俺は別枠として下から二番目も罰を受けている)。いつまで経ってもメニューが追いつかん。むしろ差が広がるだけ。
「はぁー、やってられん」
罰の筋トレ多すぎて腕も腹もビキビキ。ちょっと動いたらビキって痛む。もう嫌や。はよ辞めたい。
俺の近くでは、ルルーシュとナナリーとコーネリアの同母妹であるユーフェミアが、長距離走の競走をしている。見ているだけではつまらないと言って、トレーニングの真似を始めたからだ。メニューは幼児向けのとても楽なものだが。ユーフェミアはいつ来たか分からない。いつの間にかいた。
「ぜえ、ぜえ」
「ファイトです! お兄様!」
「負けません! ルルーシュにもナナリーにも!」
身長から見るに、ルルーシュとユーフェミアが1歳差、ユーフェミアとナナリーが2歳差くらいか。ルルーシュは12月に6歳になったから6,5,3歳かな。年齢を考えるとナナリーに勝ち目はないのだが、ルルーシュ及びユーフェミアといい勝負をしている。むしろ喋る余裕がある分ナナリー有利かもしれない。ルルーシュとユーフェミアにも平均程度の運動能力があるが、ナナリーが天才中の天才だからこういうことが起こるのだ。
「くっ、ぼ、僕の勝ちだぁあああ!」
「負けちゃいましたあ」
「すごいですお兄様!」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ。がはっ、ごほっ、ごほっ」
ほぼ同時にゴールしたが、ルルーシュが若干早かった。ルルーシュは男の意地を見せた格好だ。しかしゴール後のナナリーの余裕の表情と、ルルーシュの倒れ込み咳き込む姿を見れば、真の強者がどちらかは明らかだろう。ユーフェミアもナナリー程ではないが余裕がある。気を使ってもらっただけだぞ、ルルーシュ。
「よし! 今日はここまで! 私は宮殿の警備に向かわねばならんのでな」
「ありがとうございました!」
あっ、幼い兄妹眺めて和んでるうちに、あいつら終わりやがった。えーなー、あいつら程よい運動でえーなー。俺明らかにオーバーワークだわ。差し引きマイナスだわ。はぁー。
「そこのやつ、最後の罰は素振り1000本! 終わるまでディナーは無しだぞ!」
「へーい」
「はいだと言っておろうが! 愚か者!」
「へーい」
「まったく」
もうね、きびきび返事もできないのよ。精神的にも肉体的にも。しゅっと動いた瞬間筋肉つるからね。へーいが限界。頑張って痛みに堪えれば「はい」と言えるかもしれないが、頑張る気力もない。
だが、ふふふ。やつめ時間が押してるからさすがに体罰は無理のようだな。帰りおったわ。
んで、筋トレたくさん残ってるけど、その後の素振り? 何? 誰も見てないのに俺がやると思ってるの? やるわけねえよなあ。時間かけないと怪しまれるからしばらく寝てから屋敷行こう。
と、ルルーシュがこちらを見ている。
「1人で残って訓練するの、辛くない?」
「1人で訓練には慣れてますが、量が多すぎるから、辛いですよ。くっ」
あっ、敬語でしゃべっただけでビキッとなったわ。もうアカン。俺の身体が全身の力を抜けと言っている。
「大丈夫?」
「脇腹、あいつに蹴られた所、筋トレもしたから、攣っちゃって」
「攣る!? だ、大丈夫なの!? それ」
「よくあること、だ。厳しく、鍛えていると」
「そうなの?」
「喋るのも、きつい。しばらく寝さして」
「う、うん」
弟とは言え殿下相手にこんな言葉遣いは問題になるかもしれない。しかしこのルルーシュはあの母から生まれたとは思えないほど優しい男の子なのだ。この程度の無礼は問題ない。そのくらいは分かる。
しかし、俺はこの身体になってからそれなりにトレーニングしていたが、こんなに激しく攣ったのは初めてだ。本当ボロボロになったな。はあ。
目を瞑り、穏やかに呼吸をする。ゆったりと、腹が痛くならないように。自然のままに。風の心地よさを感じながら。身体も心も、やすらいでいく。
と、寝ていたようだ。しかも、知らぬ間にふとんを被っている。誰が持ってきてくれた? 原っぱの上にふとんが乗ってるから、泥がついてしまったぞ。
ゆっくりと起き上がり、周囲を伺う。誰もいない。まあたぶん、ルルーシュが使用人に頼んでくれたのだろう。よし、このふとんを持って行き、感謝を伝えよう。そんでディナーをいただこう。罰の筋トレと素振りは無しで。
屋敷の近く、使用人にふとんを渡し、ディナーの場所を案内してもらう。途中、それぞれ歓談している訓練希望者とすれ違う。
「お前、もう罰の素振りは済んだのか?」
「どうせサボったんだろう」
バレバレである。まあ俺は動じない。無視すればいいだけだと気付いたのだ。
「理解できんな。マリアンヌ様に選ばれておきながら、なぜこのタイミングで頑張らない? 同時にナイトオブワンに直接指導していただけるというこの上ない栄誉だというのに」
理解できんのはこっちだよ。あのテキトーおばさんに心酔しておいて、真面目とかさ。お前が憧れるあの人、軍の規律とか興味ないからな? むしろ破る側の人間だからな? 上官暴行は当たり前。軍に入る前は10代半ばでケンカ三昧、男多数手下、出産経験ありだからな?
ディナー用の会場に着くと、母、ルルーシュ、ナナリー、ユーフェミア、コーネリアが同じテーブルに付き、おしゃれなスイーツを食べながら紅茶を嗜んでいた。その所作はとても優雅で洗練されている。いや、ルルーシュだけはトレーニングのダメージが残っているようで、腕でなんとか上半身を支えている。
「あら? あなた罰は?」
母が俺を見て言う。正直に言うべきか? まあどうせバレるから正直に言おう。
「全身が痛むため、やってません」
「なに? まだ初日なのに諦めるだと?」
何故かコーネリア殿下が口を挟んだ。
「勘弁してください。もう無理です」
「貴様ァ!」
「あらあら、もう弱音を吐くの? ダメダメね」
コーネリア殿下が怒ってらっしゃる。母はいつも通り俺をバカにして楽しむ感じだが。ルルーシュ、ナナリー、ユーフェミアは純粋に心配してくれている感じだ。そう、こういうのでいいんだよ。ルルーシュは皇帝になったら、こういうのでいい世界に変えてくれよ。
「ご飯、食べていいですか?」
「いいわけないだろうが!」
俺が母に尋ねると、コーネリアが断言した。クソッ、余計なことしやがって。母ならワンチャン許してくれると思ったのに。
俺は目をうるませて母を見てみる。こんなかわいそうな子を放っておきますか的な。しかし母は腹を抱えて笑うだけ。子どもが苦しむ姿を見て喜ぶ、ろくでなしの姿であった。
「姉上、ケケラさんは小さいし、姉上と同じトレーニングは無理があったのでは?」
ルルーシュ! 頼れるのは君だけだよ!
「それはもちろん分かっている。しかしこやつの場合、先に心が折れている。それが問題なのだ。無理だとしても、気持ちだけは負けてはいけない。特に今回は、誰もが憧れるマリアンヌ様やナイトオブワンとの訓練なのだぞ。ここに来たくても来れない者達が大勢いるのだ。彼等のことを考えても、この程度で弱音を吐くなど考えられん」
その話は何回も聞いたよ! でも無視すればいいだけだと俺が気付いたんだぞ!
「うーん……」
ルルーシュは俺とコーネリアを交互に見る。ついでに母も。俺をバカにする母の笑みは、ルルーシュには慈愛の笑みに見えているのだろうか。正体隠してるらしいからな。
ふと、ルルーシュは意を決するように俺の方を見た。これはいいことがありそうだ。
「ケケラさん、1人で訓練するのは退屈じゃないかな。僕も一緒にやるよ」
「なっ、ルルーシュ!」
驚くコーネリア。微妙な反応の俺。
その歳で皇族なのに下々のために気を使ってくれるという点では感動する。だけど一緒にやったところで空腹と肉体のダメージはどうにもならんのよ。
「いいんじゃないかしら。ルルーシュはちょっと身体が弱すぎるわ。鍛えてらっしゃい」
「はい。母上」
「確かに、そうですが」
母が肯定したので、コーネリアも折れる。これで決まりか。
「お兄様が行くなら私も行きます!」
ナナちゃんも、ありがとね。
「ナナリー、ありがとう」
「私も! ルルーシュが行くなら!」
ユーフェミアちゃんも、優しいね。
「ユフィが行くなら私も行くぞ!」
お前は来んなよおい!
「うぉおおお! 皇族方に負けてはいられん! このジェレミア・ゴットバルトも!」
「いや君が行くとルルーシュ殿下のお心遣いの意味が……」
コーネリアが来た時点で終わったんだよ。あばばばば。
空腹と身体の疲労が残る身体で、再び訓練用の草っぱへ歩く。そう言えばルルーシュにふとんのお礼言ってなかったな。
「ルルーシュ殿下、原っぱで寝ている私に、ふとんを被せていただけたのは、殿下が」
「いやいや、風邪引くとよくないと思ってね。それだけだよ。礼ならふとんを運んでくれた使用人のクリスに言ってくれ」
やっぱあのふとんもルルーシュだったか。
「ありがとうございます。ありがとうございます。殿下だけが頼りです」
「だから僕じゃなくて」
「やっぱりお兄様はお優しいですね! すごいです!」
「ルルーシュ、ふふっ」
ナナリーがルルーシュの背中に抱きつき、ユーフェミアは腕を抱き寄せる。モテモテやなあ。
「そ、そうだ! よかったら僕に剣を教えてよ!」
ルルーシュは気恥ずかしさを誤魔化すように言った。
「いいですとも」
「ルルーシュ。こやつに頼まずとも私が。いや、マリアンヌ様の方がふさわしいか」
「いやあ、同じ男ですし、年齢も近いので、姉上よりケケラさんの方が僕に合っていると思いまして」
「合っている以前に、こやつは軍の訓練さえ受けてないからなあ」
コーネリアは否定的だが、ルルーシュは押し切ってくれた。ほんといいやつだわあ。
原っぱにつくと、早速筋トレの続きから始める。ちょっと歩いたからと言って全身の疲労は抜けない。とてもしんどい中、休憩を多く挟みながら、少しずつ回数をこなしていく。ユーフェミアとナナリーは見るのに飽きてしまって、おしゃべりに夢中だ。ルルーシュはコーネリアに剣を教えられている。そしてかなり疲れてしまっている。この状況で俺に剣を教わるなどできるのか? まあ明日でいいか。
俺は筋トレを終え、倒れこむ。ルルーシュもほぼ同時に倒れこむ。そのまま、両者しばらく立ち上がれない。コーネリアは満足したようで、ユーフェミアとナナリーの会話に交じった。
「ユフィ姉さまだれがかっこいいと思いました?」
「え? ルルーシュ以外の男性?」
「もちろんお兄様が一番かっこいいですよ。しかしそれでは話が進みません」
「うーん、そうねえ」
「男の話はやめないか? お前達にはまだ早い」
「えーっ、いいじゃないですか」
月を眺めながら、女の話に耳を傾ける。平和だな。ブリタニアは戦争ばかりやってる国だけど、こんなに平和でいいんだろうか。
ふと、ルルーシュが近づいてきた。
「シーッ」
ルルーシュは人差し指を立てて静かにするようアピールする。そして懐から何かを取り出す。これは、ディナーのテーブルで見た上品なスイーツだ。ハンカチに包んである。訓練の影響で形はボロボロになっているが、そのようなことを気にする俺ではない。
「少しだけど、どうぞ。形は変になっちゃったけど、ばい菌はついてないはずだよ」
「いいんですか?」
「いいのいいの。どうせ僕は食べられなかったんだ。昼間のトレーニングでお腹が苦しくてさ」
ルルーシュはにこっと笑う。愛嬌たっぷりだ。母の偽装の慈愛とは違う、心の奥底からの優しい笑み。
この子、マジ天使やわ。ほんま天使やわ。女やったら絶対惚れてしまってるわ。
おいしいスイーツとルルーシュの優しみで復活した俺は、残りの罰である素振り1000回をなんとかこなし、屋敷までなんとか戻り、ディナーにありつけた。
翌日、さらに翌日と、筋肉痛は酷くなるばかりだったが、ルルーシュの助けもあってなんとか乗り切ることができた。そして4日目の最終日、もはや身体が何故動くかも分からないような状態だったが、意地と気合でなんとか乗り切った。訓練が終わった後にはルルーシュとチェスを打つ予定だったが、ルルーシュは無理なトレーニングがたたり発熱でダウン。俺は申し訳なさを感じると共に、こいつが困った時は俺が絶対助けてやる、と誓ったのだった。