原作知識なしでルルーシュの兄   作:まただ

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マリアンヌの遊び方

 幼年学校の入学式。集合場所の原っぱでまず思ったのは、肌が白くないということ。俺も日本の血が入っているので真っ白ではないが、ここの連中はもっと黒が混ざっている。メキシコ系? ネイティブアメリカン? 真っ黒な黒人は少ないが黒めのやつが多い。白い白人もいるにはいるが、5割くらいだ。俺が生きてきた街とは風景が違う。

 そして、白人は子どもっぽくはしゃいでいる場合が多いが、肌が黒っぽい人達は殺伐としている場合が多い。服がボロボロ、髪がボサボサも少なくない。まあこの辺は、俺が元々住んでた場所と似てるな。

 

「貴様等、名誉だな。みっともない格好しやがって」

「ウケるー」

「あいつら、舐めやがって」

「いつか、あいつらをぶっ殺せる立場に……」

「やめようよ。今日からは一緒に学ぶ仲間だよ」

 

 そうか、やつらは名誉ブリタニア人か。名誉ブリタニア人と言えば使用人のイメージだから、軍にもいることを忘れていた。何せここは軍系の貴族が子どもを通わせる場所だと思っていたからな。しかし人口比率を見ると、貴族はわずかで、ブリタニアの平民と名誉ブリタニア人が大半を占めるようだな。貴族っぽい所作のやつがいない。まあパッと見で貴族を見分けられるほど貴族の子どもを知らないが。

 言い合いを観ていると、気になる言葉が。

 

「ギャハハハ。仲間じゃねえよ。主人と奴隷だ」

 

 すっごい自然に奴隷と言い切った、ヨーロッパ系ののチンピラ。えっ、名誉と生まれついてのブリタニア人の差ってそんなに深刻だったの? こいつの仲間らしき連中も当然のような顔をしている。名誉達は、すっごい悔しそうな顔をしながら、言い返さない。あのチンピラの身体が大きいから恐がっているのもあるかもしれない。こういうのが日常なのか。知らなかった。

 

「名誉は奴隷じゃないよ!」

 

 ヨーロッパ系ブリタニア人の女が、話に入ってきた。ガキ大将の虐めを止める委員長的な雰囲気だな。

 

「あん? 平民が何口答えしてやがる。名誉だけの問題じゃねえよ。俺が貴族でお前が平民。俺が強くてお前が弱い。つまりお前は俺に従うべき奴隷なんだよ」

「えっ、き、貴族様……」

 

 ええっ、あのチンピラ貴族だったのか。ルキアーノでももっと品があったよ。母も性格はともかく所作は品があったし。やはり俺の観察眼は当てにならないな。

 

「このままボコってやってもいいが、ギャハハ。お前見た目がいいからな。言うこと聞くなら子分にしてやるぜ、女」

「えっ、えっ……」

 

 手が早いなあ、まだ入学式も始まってないってのに。盛り過ぎだろう。俺も入学してすぐにモテモテになるぜ、とか思ってたけど、これは完敗だわ。

 だが、ありがとう。分かりやすい悪役がいないと、暴力で人気を得るのは難しいからね。

 

「君、入学式前だよ。静かにしよう」

 

 チンピラ貴族の手を掴み、軽く捻る。

 

「いぎっ、いててててっ。なんだてめえ!」

「君と同じで今日入学する生徒さ。しかし、強さが主人を決めるというのなら」

 

 俺はチンピラの腕をさらに捻る。チンピラは痛みに耐えかね地面に蹲る。

 

「あぐっ」

「君は俺の奴隷になるべきではないかな」

 

 決まった。チンピラの子分は恐怖に固まっていて俺に歯向かえない。やつらの親分を簡単にのしてしまったのだ。実力差は明らかだろう。

 

「て、てめぇ! 覚えてろよ!」

 

 結局やつは大人しく去った。やつも実力差を感じてくれたようだ。復讐はあるかもしれないが、あの程度なら束になってかかってきても問題ない。

 

「あの、ありがとうございます。だけどあなた貴族に……」

 

 委員長っぽい雰囲気の女に感謝された。しかし貴族に歯向かったことを心配されているようだ。

 

「俺も貴族だ。心配ない」

「えっ、そうだったんですか」

「ああ。あいつが皇族でもない限り、俺にケンカは売れんだろう」

「えっ! 皇族でもない限り!? そんなに地位の高い貴族様なのですか!?」

 

 ちょっ、デカい声出すなよ。周りがざわついちゃったじゃないか。

 

「いや、ただの子爵の息子だよ。ケンカが売れんというのは、……俺が強いからだ」

 

 母の事情は言えないし、アッシュフォードやルルーシュに気に入られていると自慢するのも嫌われそうだし、今はこれでいいか。俺が強いのは事実だしね。

 

「報復を恐れるのは俺じゃない。あいつらだということだよ」

「は、はあ。そうなんですか。よほど腕に自信がおありなのですね」

「当然」

 

 よほどの有望株でもない限り、この学校の最上級生でも剣では俺に勝てないだろう。銃もそろそろかわせる気がする。たぶん。

 大人しく待っていると、集合場所にプラカードを持った教官が何人か現れる。俺は二組なので、2と書いてあるプラカードを持った教官の下へいく。因果なもので、例のちんぴら貴族、虐められていた名誉、委員長っぽいヨーロッパ系の女、全員同じクラスだ。女以外はいらないんだけどなあ。

 

 教官に従い入学式の会場へ。上級生が既にいた。はしゃぐ入学生と違い、彼等は静かだ。それに、さすが軍学校と言うべきか、面構えが違うな。生傷のある生徒も多い。特に名誉ブリタニア人に多いな。義手のやつさえいる。実戦経験者かな? 金のない名誉は早いうちに戦場で金や名誉を得て、少しでも生活を楽にって感じなのかな。だとしたら幼年学校に名誉が多いのもうなずける。

 

 校長やら理事長やらのつまらない話を聞き飛ばしていると、成績が最も優秀だった入学生代表として名前を呼ばれた。壇上に上がり適当に挨拶する。パーティで皆の前に立つのには慣れていたから緊張はなかった。そして入学式は終わった。

 その後は教室に入り、皆で自己紹介。

 

「このクラスは体力試験、筆記試験共に学年トップだったエルバ君がいる。まずはおめでとうと言っておこう」

「えっ、筆記も一番!」

「すごーい。強い上に賢いなんて」

 

 ま、当然だよね。

 

「彼から紹介を始めてもらおう。自分の名前と、そうだな、趣味と、長所と、短所でも」

 

 えっ、注文多いな。まあいいけど。

 

「ケケラ・エルバです。名前のケケラというのは何とかなるさという意味の古い言葉から取ったそうです。趣味は曲芸でしょうか。空中ブランコや皿回しをよく練習しました」

「えっ、サーカス入ってたの!?」

 

 名誉の女の子から声が上がる。この年齢だとサーカスに興味もあるだろう。

 

「いや、趣味です」

「へー、でも趣味でもサーカスみたいなことができるってすごいー」

 

 ざわめく男子、女子。その顔は憧れか。やはり幼年学校入ってすぐモテモテになれそうだな。

 

「なんでもいいからはよ自己紹介しろや。後がつっかえてんだ」

 

 例の貴族のガキは俺の人気に不満げだがな。

 

「は? 何あいつ?」

「やーねー野蛮ー」

「あいつ騒いでたやつじゃん。しかもケケラ君にボコられてたし。しょぼっ」

「んだとぉ!」

「おいおい落ち着け。ただの自己紹介じゃないか」

 

 教官が止めに入ってガキは静まる。

 

「長所は剣と数学。短所は……、自分より強い相手にケンカを売ってしまうことかな」

 

 俺の自己紹介終わり。次にあのチンピラが勝手に自己紹介を始める。

 

「ホーガン男爵の長男、ファルク・ホーガンだ。俺は貴族だからな。平民と仲良くする気はねえぜ。手下になりたいってなら別だがな」

 

 ほっ、あのチンピラは男爵の長男か。大貴族じゃなくてよかったぜ。

 

 その後、他の生徒達の自己紹介を見ていく。中一の年齢だし、いちいち騒いだりしてまだまだガキ臭い。このノリについていくのはしんどいかもしれないな。まあ、無理に合わせる必要もないか。

 

 とまあこの流れでゆるい学園生活が始まり、俺はすぐにモテモテになった。そろそろ彼女でも作るか、たぶん告白すれば余裕でOKもらえるはず。でもガキ過ぎて何だかなあ。ある意味貴重な体験かもしれないがなあ。

 とか思っていたら、一ヶ月も経たずこの学校から去ることになった。問題を起こしたからではない。優秀過ぎたからだ。飛び級を勧められたのだ。俺は校長に呼び出された。

 

「退屈かい? 学園生活は」

「いえ、毎日学ぶことでいっぱいです」

「ははは、謙遜しなくていい。君ほどの優秀な人間に幼年学校で教えることは何もない。飛び級で高等部に当たる士官学校へ行きなさい」

「……はい!」

 

 高等部となれば、訓練はきつくなる。それは嫌だ。しかしここは楽すぎて暇というのも確かだった。女の子もガキ過ぎるし。高等部であれば、満足できるだろう。断るのも変だし、肯定しておいた。

 だが、俺が流された高等部、ここが問題だった。

 

「ケケラ・エルバです。名前のケケラというのは何とかなるさという意味の古い言葉から取ったそうです」

「なんだあ? ガキじゃねえかよ」

「おうガキ、葉っぱ買ってこいや。ギャハハハハハ」

 

 かつてブラジルだったエリア。もともと格差が酷く麻薬が流通し治安の悪い地域だったのに、さらにブリタニアからの搾取も加わったのだ。まともであるはずがなかった。軍学校で当たり前の様に銃を振り回し、編入の挨拶時にそれを俺に向ける。しかも、発砲した。俺の頬の横を銃弾が過ぎる。

 

「あー、すまねえなあ。手が滑っちまって」

 

 教官は、無視。にやにやしながら現状を見つめている。おかしい。何故こんなやつが首にならない?

 

「ああん? なんだその反応的な目はぁ?」

 

 別のやつからの銃撃。肩を掠める。

 こんな学校があるのか。すぐに全員潰してやる。貴族の権力を使ってな。……いや、貴族の俺が教官やこいつらを処罰しようとしても、処罰されない自信があるのか? もしくは、葉っぱで頭がおかしくなっているのかもしれないが。

 

「ふー。授業が終わったら、先輩達に挨拶に行こうと思います」

 

 こういう場所は、たいてい先輩が権力を握っている。先輩の覚えをよくしておけば、攻撃されにくくなる。

 

「おー、いい心がけじゃねえか」

「ケツの穴差し出して命乞いしてみろよ。そしたら気に入ってくれるかもしれねえぞ」

 

 こんな場所に俺を送り込んだのは、母の仕業だろう。何をさせたいのか。黒い世界で、どうしようもない連中と戦い、生き抜けということなのか? それとも、力で屈服させればいいのか? 昔の母のように。

 さて、挨拶も終わり講義が始まる。銃弾を詰める、装甲車を整備する、近接戦闘する、という実戦的なものがほとんどで、不良達は自分達のやる気の出る講義だけ本気を出すという感じだった。体力はないが、妙に腕力が強かったり反射速度の早い者が多い印象だ。薬、ドーピングの影響が垣間見える。俺は、目立たないように中の上あたりを目指しておいた。嫉妬されていきなり銃撃されても困るし、かと言って舐められて麻薬を買わされるのも困るからな。

 

「おめえ貴族なんだって? 運がいいな。金さえ出せば死なずに済むぜ」

「ギャハハハハ。こんなとこに送られて来るなんて、何やらかしたんだ? 皇族の女にでも手を出したか?」

「いやいや、むしろ掘られたんだろ。ヒャハア」

 

 講義が終わると、俺に銃を向けた同級生から寮を案内される。俺の部屋ではない。この学校を仕切る先輩の部屋だ。そこに近づくにつれ、強烈な匂いが漂ってくる。麻薬と、香水の匂い。俺もスラム街で育ったから分かるのだ。

 これは、失敗だったかもしれない。初めの挨拶で、主従を誓わされる可能性が高い。

 案内された大部屋に入ると、そこには女を連れ込み麻薬で遊ぶ不良共。ざっと10名。カメラでセックスを撮影しているやつもいる。一部の女は泣いている。他の女はにやにやアヘアへ。弱みを握るための撮影をしているのか? やはり、来たのは失敗だったか。

 

「おっ? なんだベンジャミン。かわいらしいガキじゃないか。掘っていいのか?」

「いいですぜぇ。へっへっへ。今日ここに来た一年のガキだからよお。オラガキィ、挨拶代わりにケツ差し出しな!」

 

 ベンジャミンが俺に銃を差し向けながら言う。この状況、この敵地で、逆らうのは愚作。だが、麻薬を吸わされて、アヘアへの所で写真を取られ、弱みを握られるのも愚作。逃げるか。

 だが頭に向けられている銃は恐い。隙を作っておきたい所だ。

 

「先輩、私は実はどMでして、いつも銃口をケツにぶっ刺しながらプレイするんです。やってくれますか?」

「はっ?」

 

 一瞬の静寂。そして次に、大爆笑。

 

「ギャハハハハアハハハ! なんだこいつぅー!」

「こりゃあ傑作だ! 開発済みだったのかぁ!」

「かわいい顔して最近のガキは進んでんなあ」

 

 よし、隙ができた。逃げよう。

 

「あ、おい」

「はあ?」

「おいおい、笑われて恥ずかしくなったってのかあ? 急によお」

 

 俺をバカにして笑っている不良達。追いかけては来ない。このまま逃げ切れる。問題は、逃げたところで明日も出会ってしまうことだ。

 ……正直、こいつら相手にまともに卒業できる自信がない。麻薬中毒にされ、ケツを掘られ、弱みを握られた状態なら卒業できるだろうが、それは失う物が大きすぎる。たぶん、転校した方がいいだろう。

 自分の部屋に行き、荷物をまとめ、脱走する。教官も守衛も誰もやる気がないため、脱走は簡単だった。

 

 タクシーを呼び止め、政庁へ移動する。提示された料金は通常の3倍ほどでボッタクリ価格だったが、貴族はチップを払うものなのでそのまま支払っておく。政庁で受付を済ませ、国際電話を手に取り、本国のエルバ子爵に連絡する。屋敷のメイドが電話に出た。

 

「ああ、坊ちゃんですか。坊ちゃんから連絡が来ればマリアンヌ様に繋ぐよう言伝をいただいております」

 

 ああ、やはり母の悪戯だったのか。

 

「あら? どうしたのケケラ? まさかもう帰りたくなったとか言わないでしょうね?」

「いやいや、そんなレベルの問題じゃないですよ。なんですかあの人達は。編入の挨拶中に銃を撃ってくるし、寮でふつうに麻薬吸ってるし、はめ撮りしてるし、俺に麻薬を吸わせようとするし、教官はにやにやしてるだけだし」

「ケケラ、帰りたいからって嘘はよくないわよ。そんな軍学校がブリタニアにあるわけないじゃない」

 

 とか言っているが、その声音からは悪戯が成功した喜びが伝わってくる。

 

「いやいや、嘘じゃないですよ。早く処罰してくださいよこの学校。ブリタニアの恥ですよ」

「くくくっ、はいはい分かったわ。そうまで言うのなら、自分で潰してみなさい。ただし、本国の貴族の権力は使わせないから、そのつもりでね。エルバ子爵の養子からも外しておくわ。その軍学校を潰すまではね」

「はっ?」

 

 貴族の権力を使わずに、学校を潰す? そんなこと可能なのか? いやいやいや、無理でしょ。

 

「あと、期限も決めておくわ。5年、いや3年以内よ。それ以上時間がかかったら、あんた表向きは死んだことにして裏側の仕事に送るから。そのつもりで」

「いやいやいや。ここから3年間でどうしろと? 高校1年が軍学校潰せるわけないじゃん」

「それだけ時間があればできるわよ。私なら力で。シュナイゼルなら頭で。皇帝陛下でもできるでしょうね」

「何これ? 世界最高の才能があるかどうかのテスト?」

「そうよ。おもしろいでしょ?」

 

 何が?

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