魔界都市ブルース 幻夢の章   作:ぶゃるゅー

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魔女会(約二名+二名)


閑話1:魔女会

「久しぶりに世話になるわ」

 

 霧の湖が、霧の迷路を解消して以来、久々の来客だった。

 それでもパチュリーの日常は普段と何も変わらないから、少しだけ視線をやって頷くのみだ。

 パワー偏重の魔法使いのように、泥棒をせず、図書館でうるさくしなければ何でも良い。

 

「霧が元に戻ったって事は、解決したのね」

「まあね」

 

 来客は話しかけてきた。

 大図書館にもオープンな物とは言えキャレルがあるんだから、そっちへ行けと思わなくも無かったが、普段一人で研究を重ねているタイプだから、他人と会う機会に会話への餓えを解消するタイプなのかもしれない。

 小さな人形が相手をしろ、とパチュリーに寄ってくる。

 主に似た、金髪碧眼の美しい造形であった。

 

「結局何があったの?」

 

 人形の主である魔女、アリス・マーガトロイドは、本を抱えながら共通スペースまでやって来て、それに目を通しながら端的な質問をした。

 パチュリーも同じく「ながら読み」だが、ページをめくる手は止まることが無い。

 アリスはそれに加えて人形の操作まで行っているのだから、魔法使いにとって高レベルのマルチタスクは必修――否、魔法使いをやっていれば自然と身につくのかもしれない。

 

「単純な話よ。外から敵がやって来て、それを解決した。特別なことは何も無い」

「ふーん」

「――自分から話を振っておいてその反応?」

 

 この淡白さ加減は、あの美しい人捜し屋に通じる物を感じる。

 魔界の人って皆こうなのかしら、と風評被害が発生した。

 

「その話しぶりじゃ詳しく説明する気は無いんでしょ」

「まあね」

「なら、このリアクションでも良い――と言いたいところだけど、もうちょっと聞かせてもらえない」

「何を?」

 

 特筆すべき事はあったか、とパチュリーは眉を動かした。

 

「里で爆発事故があったんだけど」

「そうみたいね」

 

 里の一件は、事故と言うことで解決されていた。

 あれが事件だった場合、紅魔館がやり玉にあげられる可能性がある。

 地元住民との軋轢は、比較的新参の紅魔館としては回避しておきたい。

 レミリアはそう考え、爆発の被害の補償をいくらか受け持つ代わりに、自分達との関連や痕跡を慧音に始末してもらったらしい。

 

「そこから不可解な死体が出た」

「爆発に巻き込まれたんじゃないの」

「顔面だけ綺麗に吹っ飛ぶ事ってありえる?」

「さて。どんな死体か知らないけど、私は検死官じゃないからね」

 

 実際パチュリーは顛末を報告されただけで、それらを見ていた訳では無いのだから、本当のことだ。

 嘘というのは事実があってこそ成立する物だから、これは上手い話し方と言えた。

 

「そんな事を気にして、あなたこそ何かあるの」

「いえね、嫌な予感がするの。魔界の一部がどっかの街と繋がっちゃった時以来ね、これ」

「それで?」

「その事件と私の予感には関係があるような気がしてならない」

「関係ね――悩みも少なく楽しく生きてるあなたらしくない杞憂じゃなくて? アリス・マーガトロイド」

「パチュリー・ノーレッジらしくない言い分ね。勘や予感と言うのは根拠の無い物ではなく、無意識下における情報の取捨選択が発露したものだって、あなたも結論づけていたでしょう」

 

 ――だとすれば、その予感とは十中八九、〈新宿〉からやって来たあの魔人の事だろう。

 バンパイアハンターなど、アリスとは何の関連も無いのだ。

 なら、もう一つの異物が関係しているであろう事は、簡単に推測できた。

 

「情報の取捨選択って言うけど、個人のフィルターを通しているわけだから、当然その選択は主観による物でしか無く、ブレもハズレもある。気にしても仕方ないと思うけどね」

 

 正しい情報だけを無意識に選べる物がいるとすれば、それはもうこの世の者では無い。

 

「でも、良い予感もするの」

「あなた、大丈夫?」

 

 さすがにパチュリーもアリスを心配した。

 嫌な予感と良い予感を同時に感じているらしい。

 自律神経失調症か躁鬱かな、とあたりをつけるが、アリスの表情には、そう言った者特有の不安定さを感じない。

 アリスはあくまでも自然体であった。

 

「それも研究テーマに関係しそうな感じ」

 

 パチュリーは何と言った物かわからず、

 

「それはおめでとう」

 

 とまともな返答を放棄した。

 なげやりになったとも言う。

 

「完全自律人形ねえ――夢物語だと思うけど、良い予感って事は研究に進展があるのかしらね」

「関係しそうってだけだから、進展するとは限らないけど、ちょっと期待してる。幻想郷ではモノに生命(いのち)が――魂が宿ってしまうケースが多い。『自律人形』なのだから、そこに命があってはいけない」

 

 アリスは上海人形をくるくると踊らせて、残念そうにそれを見つめた。

 この人形はアリスが一番力を入れた作品だが、結果として魂が宿ってしまったかのような挙動をとる事がある。

 自分で考えて動く人形と考えれば凄いのだろうが、それは決して『自律』人形では無い。

 

「哲学のゾンビなんて、実現方法はもちろん、検証が不可能なんだから当然じゃない」

「それがそうでも無い。幻想郷だからこそ、魂の在処を検証できる人材がいる」

「――冥界」

「ご名答」

「協力はしてくれるの?」

「最悪、西行寺幽々子に勝負でも仕掛けて人形を死に誘ってもらう。それで尚、生者と同じ動きを人形が見せたなら――」

「自律して動いている人形という証明になると」

「そ」

 

 アリスは頷いた。幻想郷に移住した事は間違いでは無かった。

 ならば後はモノを完成させるだけだ。

 嫌な予感は消えてくれないが、それでも研究が進むならば充分に元はとれる。

 

「研究が完成したら?」

「また別にテーマでも探す。魔法使いだもの」

「あなたにも故郷があるでしょう。帰省とか考えないわけ?」

 

 そうパチュリーが言及すると、アリスは珍しくその美麗な顔を歪めて吐き捨てた。

 

「絶対にゴメンね」

 

 そこでこの会話は終了となった。

 

 

 ◆

 

 

「でく人形、出ておいで」

「あまり下品な呼び方はしないでくださいませ」

 

 一方〈新宿〉の高田馬場、通称魔法街に住むある魔道士が、助手の娘を呼び出した。

 こちらも金髪碧眼、磁器(ビスク)のようなつるりとした肌を持つ美しい少女だが、彼女は今は亡きガレーン・ヌーレンブルグの作り出した人形であった。

 ガレーン亡き後、人形娘はその妹であるトンブ・ヌーレンブルグの助手を務めている。

 

「御用はなんでしょうか? 食料は切らしていないはずですけれど」

「あんた、旅行をする気はあるかい」

「は?」

「いや、今までの忠勤を評価して休暇を与えようって話だわさ」

 

 この太った魔道士は、金銭への執着についても太っている。

 タダでこき使っている人形のために、そんな提案をすること自体がおかしい。

 人形娘自身も、それはきちんと把握しているので、一つ溜息をついた。

 

「今度は何を企んでいらっしゃいますの?」

「人聞きが悪いことを言うんじゃないよ、性格の悪い」

「主の性格がこれですので」

「口の減らない奴だね。そうだよ、儲け話になるかもしれない話さ」

 

 チェコno.2の魔道士はあっさり開き直った。

 性格までもが太っているらしい。

 

「伺いましょう」

「あのドクターからの依頼だよ」

「ドクター・メフィストですか?」

「他にドクターなんて呼べる奴がこの世にいるかい」

「いませんわね。しかし、ドクター絡みの依頼と言うことは、医療関係でしょうか」

 

 可愛らしく首をかしげる人形娘に、トンブも首をかしげようとして――首の肉がありすぎた為、頬が贅肉に埋もれるような仕草をした。

 

「それはそうなんだけど、ドクター自身が動けない件って話さね」

「ドクターが動けないなど、そんな事が?」

「そこの所は分からないよ。動けないと言うよりは、動きたくないような印象だったわさ。月に見初められたら面倒だとか」

「月より美しい方ですもの」

「ま、そう言うことだわさ。で、その仕事はせつらに依頼したそうなんだけどね」

「まあ」

 

 人形娘は喜色を露わにした。

 これが人間なら、頬は可愛らしく桜色に染まっていたに違いなかった。

 

「秋さんに依頼しているのなら、後は黙って待てば結果はついてきますわ。トンブ様にも依頼を出す理由は何です?」

「そのせつら自身が、どうもクワドラプル・ブッキングをやらかしてるらしくてね。それも〈区外〉に出るような内容だから、未だに帰ってきてないわさ」

 

 人形娘はさすがに唖然とした。

 一体どれだけの依頼をかけもちしているのか。

 二つ程度なら彼にとっては朝飯前だろうし、三つでも何とかするだろうと言う信頼もあるが、四つとは。

 

「やはり、慣れない〈区外〉で苦労していらっしゃるのかしら」

「かもしれないね。アレは〈新宿〉でなら無敵も良いところだけど、〈区外〉じゃタダのハンサムでしかないわさ。そこでアンタの出番って訳だ」

「秋さんにドクターの依頼を優先させて、それを持ち帰れと」

「わかってるじゃないか。さっさと準備してお行き」

「そんな仕事なら誰でも良いではありませんか。なぜトンブ様にそんな話が来るんですの?」

 

 トンブはぐっと言葉に詰まり、視線をあちこちに泳がせた。

 

「トンブ様が自ら売り込んだとか」

「ぐむむ、そうだよ」

「要するに、ドクターが求めた何かを、ドクターに渡す前に解析して一儲けしようと言う魂胆ですわね」

「わかってるじゃないか、こん畜生」

「その何かをネコババしようとしていないだけ、ひん曲がった根性がまともになったと考えます」

「いちいちうるさい人形だね、さっさと行きな。既に結界への入り口は用意してあるわさ」

「空間跳躍で結界の中に直接飛び込む術なんて、怖いことをなさいますわね」

「私を誰だと思ってるんだい。世界二の魔法使いだよ」

「はいはい」

 

 トンブ、研究室の窓にあるカーテンをがばちょとめくり、そこに何かの薬品をぶっかける。

 すると、窓は発光し始め、不可思議な光の漏れる入り口となった。

 

「出口は入り口だよ。これは帰りも同じだわさ。向こうにも妖物はいるらしいから、せいぜい気をつけな」

「承知致しました」

 

 人形娘がさして力もこめずに地面を蹴ると、その小さな体はふわりと窓辺を乗り越え、光の中へとその姿が消える。

 人形の身だから、眩しさはどうと言う事も無いが、見知らぬ土地へ飛び込むのは不安があった。

 そんな事を考えていて、気付けば風景は大自然に変化している。

 鈴蘭が一面に広がる、どこか寂しげな場所だった。

 




紅魔の補完と、妖夢(作品名)へのプロローグみたいな
妖々の章ってのも変だし、妖夢だと人名になるし
どうしようか困るタイトルっすね妖々夢
かっこいいタイトルではあるんですけどね妖々夢
もうそのままでいいじゃん(いいじゃん)
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