魔界都市ブルース 幻夢の章   作:ぶゃるゅー

6 / 14
5話:紅銀

 門番の視線がせつらの方へ向き、彼女は一瞬目をしばたたかせ、即座に眼を閉じた。一気に動揺と、女としての本能が沸き上がってくる。

 即ち、この若者の為にどんな事でもしてあげたい、好きにされたい、だ。

 心臓の鼓動を抑えつつ立禅で呼吸を整え、調息の後に震脚を行い、再び目を開かせる。

 開いた眼に色狂いの気配は無く、正気が戻っていた。先の行為は気合を入れ直し、心を律したと言う事か。

 奇妙な構図であった。

 濃霧の中、妖精を連れた黒く美しい何かと、茫とした紅い髪の何かが向かい合っている。

 今の所、せつらに感情と呼べる物は発露していないが、それは表面的な物に違いない。

 

「お見合いやってんじゃないんだぞ」

 

 氷精が格闘試合の視聴者みたいな事を言った。

 そこで初めて、紅い髪の女は彼女の存在に気付いたようであった。

 

「おや、氷精さん。よくここまで来れましたね」

「ふふん、あたいは不可能の文字だからね」

 

 辞書が抜けた為に妙な事になった。

 だとするとチルノ自身が不可能と言う文字そのものであると言う解釈になる。相も変わらずよく分からない妖精であった。

 

「それで、こちらの帅哥(イケメン)は?」

 

 チルノに紹介されるとややこしくなりそうなので、せつらは早めに名乗った。

 

「はじめまして。秋せつらと言います」

「はじめまして、紅美鈴です。紅色の紅に、美しい鈴。当館に何か御用でしょうか」

「こちらにスカーレット氏がお住まいと聞きました」

 

 チルノが保護してきた外来人だと美鈴は判断していたのだが、そうでは無いと聞いて警戒レベルを上げた。

 素性を知っていてここにやって来るのは、ここの住民と友人か、敵対している者のどちらかだ。

 そして今はその友人達が近付けないように、大妖精に頼んで、軒並み迷わせるようにしている。

 それを無理に超えてきたとなれば、この辺りに転がっているバンパイア・ハンターの一味かもしれないのだ。

 そう考え、美鈴は攻撃的な気を発散させてみたが、美影身はまるで意に介している様子が無い。

 それどころかこの美しい若者は、起きたまま夢でも見ているかのように茫洋としている。

 

「あの」

「あ、はい、失礼しました。秋さんはレミリア大小姐(お嬢様)にお会いしたいと?」

「はい」

「失礼ですが――御用件は?」

「戸山住宅の長からの依頼でスカーレット氏を探しに」

「――戸山住宅?」

「〈新宿〉の団地です。現在は吸血鬼達が主な住人ですね」

「へぇ!」

 

 美鈴はそこで初めて関心を示した。

 

「外の世界に残った吸血鬼が、一部暮らしやすい地域に移住したと言う噂は聞いていましたが――長というのはどなたでしょう」

「それも含めてスカーレット氏にお話ししたいと思っています。取り次いで頂けますか」

「ふむ」

 

 美鈴はそこでチルノに目配せを行った。

 

「アキは別に危なくないと思うよ」

 

 氷精の言葉で決心がついたらしい。

 門を開けて、美しき客人を招く事になった。

 紅魔館の庭園――普段は噴水が水をふりまき、花壇の手入れされた瀟洒且つ華やかな庭なのだが、現在、ここは血と死体で館の名に相応しい地獄が形成されていた。

 しかし、その中にあってもせつらの美貌は褪せること無く、当人も氷精も平静を保っている。

 

「すみませんね、今はちょっと客人が多いもので」

「はぁ」

「私は門を長く離れられないので、案内はメイド長が務めます。最後までお世話をしたいのですが、申し訳ありません」

「おかまいなく」

 

 そんな会話をして館のドアを開けると、突然背後からナイフがせつらの首につきつけられた。

 否、突然どころでは無い。文字通りそこに一瞬でナイフと人が現れたのだ。これには黒衣の魔人も驚いたらしい。

 

「わお」

 

 いささか気の抜けた感嘆とともに、せつらが足を止めた。

 せつらの背後に現れたのは銀髪のメイドであった。

 刃物の鋭さをそのまま人の形にしたらこうなるのでは無いかという美人だ。

 

「咲夜さん。お客様です、あとはよろしく」

「こんな時にお客様? 彼の素性は?」

「あ」

 

 確かに美鈴は名前と用件しか聞いていない。咲夜と呼ばれたメイドは嘆息した。

 

「こいつはアキ・ラセツ。あたいの子分だよ」

「悪鬼羅刹?」

「秋せつら、だそうです」

 

 美鈴が訂正したが、惜しい。しかし彼の名の由来としては正しかった。

 バカや天才というのは、論理を無視して何故か正しい答えに辿り着いてしまう事がままある。

 だとすればチルノは紙一重でどちらかである可能性が高い。

 

「素性も知れない相手を通すとかどういう神経してるのかしらね」

「まあ、氷精さんの見立てでも大丈夫って判断でしたし」

「チルノが? ――ふーん、まあ良いでしょう」

 

 この氷精に対する妙な信頼度の高さはなんなのかとせつらは感じたが、今はとりあえず黙っていた。

 

「ところで、貴女は何人始末したの」

「今回門前まで来れたのは8人。6人は片付けましたが残りは通しちゃいました。すいません」

「私が片付けたのは2人だから――とりあえずは掃除完了ね。これで20人は始末したかしら。あと何人いるのやら」

「そもそも迷わずにここまで来れる奴らは何なんです?」

「パチュリー様曰く、ルーン・ガルドゥルとか言うおまじないだかお守りだかを使ってるらしいわ」

「北欧のおまじないですか――神話からバイキングまで結構広く長く使われてるからなあ、効果も保証済みか」

「じゃ、引き続き警戒よろしくね」

「あいあい」

 

 美鈴は雑に返事をしたが、ふと思い出したように咲夜へ注意を促した。

 

「あ、咲夜さん。彼の綺麗さに気をつけて」

「は?」

「彼を見ればわかる――いえ、魅了対策が済むまで彼を見ないようにしてください。バンパイアの魔眼にやられない為の手札、あるんでしょ?」

「まあ、ね」

「厳密にはバンパイアとは違いますが――絶対に無策で秋さんの顔を見ないように」

 

 そう言い残して、美鈴は門前へと引き返す。

 せつらは相変わらずナイフを突きつけられながら吞気な感想を述べた。

 

「お忙しい所すみません」

「いえ、これも仕事ですから。わたくしメイド長の十六夜と申します。秋様は何用でこちらに?」

 

 奇妙な応対であった。

 お客に背後からナイフをつきつけるメイド、それを意に介さず当然のように用件を告げる美しい若者。

 普通に見れば命のやり取りをしているようにしか見えないだろう。

 チルノは頭の後ろで手を組み、それをボーッと眺めている。

 

「僕は〈新宿〉の人捜し屋(マン・サーチャー)です。今、スカーレット氏を捜していました」

「〈新宿〉とやらは知りませんが、そんな仕事があるのですね。ですが現在、面倒事は勘弁して頂きたい所で――」

「そこをなんとか」

「なんとか!」

 

 チルノも一緒に頼んでくる。

 咲夜は少し考え、主の判断を仰ぐ事にした。

 

「分かりました。主人に問い合わせて参りますので、少々お待ちを」

 

 それだけ言うと、銀髪のメイドはその場から消失した。

 

「んー?」

 

 疑問符なのか寝言なのか分からないような声が出た。

 若者も出たり消えたりするメイドの謎は想像できないようであった。

 普通は応接室辺りへ通されるのだろうが、せつらは玄関に待たされていた。余程忙しいらしい。

 暇を持て余したのかチルノが話しかけてくる。

 

「アキ」

「はい」

「ロビーに変な熱源があるんだけど何だろうね」

「僕には何とも」

「そっか」

 

 言われて辺りを見回してみるが、特に異常は無い。

 しかしチルノの力は要所で見せられているので、勘違いと言うこともあるまいと、妖糸を放ってみた。

 すると、正面玄関の上部にあるステンドグラスの裏から、振動と息づかいを感じる。

 これは迷惑な客の方かと考えたが、もし館の住人ならマズいかな、と考え、ある作業を行った後、放置することにした。

 

 ◆

 

 バンパイア・ハンターの一味である男は、特殊な塗料を塗った衣服で、紅魔館の外壁に己の姿をカムフラージュさせ、窓から狙撃タイミングを図っていた。

 まともに相対すれば、この館の連中は誰一人仕留めることが出来そうに無い事が分かったからだ。

 特にあのメイドを何とかしないと、作戦行動は全てが容易く破綻する。

 あのメイドは突然現れ、突然ナイフを振りかざし、突然そこから消失する。

 幽霊でもそこまでの事は出来まい。まるで切り裂き魔(リッパー)のようだ、と死んだ仲間が言い残していた。

 そいつは今庭園で斬新なオブジェと化している。

 自分がああならない為には、あのメイドを始末するのが最優先だ。

 時間を停めているとしか思えない動きを繰り返すメイドだが、一度出現してしまえば通常の法則に準じるし、まさかオートで発動する能力でもあるまい。

 とにかく、次にアレが現れたら狙撃で確実に殺す。

 ハンターはそう思い、未だ息を潜めていた。

 伊達にハンターをやっている訳では無いから気配も殺せるし、装備も厳選してきた。

 客とやらがやって来たのは幸運だった。

 メイドが来客に対応している時を狙って、吸血鬼の前に、銀の弾丸をブチ込んでやる。

 

「お待たせ致しました」

 

 ついにその時が来た。

 メイドが姿を現し、客と向かい合って――しかも、何故か動きを止めている。

 ハンターは引き金を引き、必殺を確信する。

 ――が、次の瞬間そいつは即死した。

 メイドをぶち抜くはずの弾丸が、己の脳天を貫通する等とは、想像はおろか何が起きたのかも分からなかっただろう。

 銃口から糸が何本かガイドのように覗いていて、それがレールの役目を果たし、弾道を射手の脳天にねじ曲げたのだった。

 そいつはそのまま外壁から転落し、仲間と同じように庭園のオブジェの一員と化した。

 

 ◆

 

 銃声で咲夜の意識は戻ってきた。

 客の顔を見て動きを止めてしまうなど、メイド失格だ。

 しかも今の銃声はバンパイアハンターの物だろう。

 誰か、或いは己が撃たれたのかとも思ったが、誰も意に介していない。

 そして改めて美しい若者を見て、ゾッとした。

 彼だ。

 今、彼が何者かを殺害したのだ。

 理屈は分からないが、そうとしか思えなかった。

 人を殺すと言うのは相応に感情の動きがあるはずだが、それでいて尚、平然としている美貌には何の翳りも無かった。

()()が一番恐ろしい。

 人一人を殺しておきながら、今までと何ら変わりないその姿は、人が死ぬというのは青年にとっては取るに足らぬ事なのだと言う事を如実に語っている。

 

「なにか?」

 

 その本人は相も変わらず、春風駘蕩と言った雰囲気を崩さず疑念を呈した。

 

「い――いえ、失礼致しました。お嬢様がお会いになられます。こちらへ」

 

 咲夜は2階へせつらとチルノを誘導すると、ある一室の前で足を止める。

 ノックをすると、中から年端もいかぬ子供の声で「どうぞ」と告げられ、咲夜がドアを開けて入室を促した。

 部屋の中には執務机、数人掛けのソファが二脚、その間にローテーブルが配置されている。

 その片方のソファ――そこにいたのは確かに子供であった。――姿だけは。

 

「ようこそ紅魔館へ。外界の美しい人」

 

 声を聞いただけで、その首を差し出したくなるようなトーンだった。これなら吸血相手に困る事はあるまい。

 実際、せつらは無意識に足を踏み出しかけたが、自身に妖糸を巻き付け、痛みを堪える事で何とか踏みとどまった。

 彼女は外見こそ箱入りの幼い少女としか見えないが、キャリアで言えば、あの最悪の吸血鬼である『姫』が封印していた、カズィクル・ベイ将軍と同等の年月を生きた吸血鬼だ。

 基本的に長寿がイコールで力となる妖魔なのだから、当然、油断できる相手では無い。

 

「どうした? 掛けてくれ。座り心地は悪くないはずだ」

「あたいもいるぞ」

「むしろ何でお前がいるんだよ」

 

 チルノの言葉に、レミリアは少しだけくだけた調子でツッコミを入れた。

 

「アキはあたいの子分なんだから、お話が終わるまでは面倒を見るよ」

 

 レミリアは氷精を指差して、怪訝な表情でせつらに問いかけた。

 

「子分?」

「なりゆきで」

「――まあいいや。咲夜、コイツにお菓子出してやんなさい」

「かしこまりました」

 

 咲夜はやはりその場から消失し、チルノは無邪気に喜んだ。

 それを見て嘆息するレミリアだったが、せつらとの用件を済ませなければならない。

 

「それで、あなたがレミリア・スカーレット」

「その通り」

「早速で申し訳ないのですが、ミス・スカーレット。あなたに会って貰いたい人物がいます」

「いちおう話は聞いたが――探偵か、君は?」

人捜し屋(マン・サーチャー)です。秋と言います」

「余り聞いたことの無い商売だ。こう言っては失礼かもしれないが、食べていけるのかな?」

「なんとか」

 

 せつらのとぼけた返事に、レミリアは、声を殺して笑った。

 

「クッククク、すまない。外界にまだこんな面白い人間がいたのかと思うと、嬉しくってね」

「はぁ」

「それで、私を捜しているというのはどこの誰だ?」

「戸山住宅をご存知ですか?」

「外界で()()()()()吸血鬼がいると言う話は聞いてる」

「彼らの長が貴女に面会を求めています」

「何故私に? そもそもそいつは誰だ?」

「夜香と言う吸血鬼です」

「夜香。覚えがあるような、ないような」

 

 頭上にクエスチョンマークを浮かべていそうな雰囲気だったので、せつらは補足をした。

 

「かつてロンドンに留学していたと。戸山住宅の長老からまとめ役を引き継ぎました」

「ん、長老――中国系?」

「そうです」

「なるほど、あの爺様の孫か。ロンドンで黄色人種の吸血鬼は珍しかったから覚えてるけど、あの気取ったガキが長ねえ。爺様は元気? なぜ長を譲った?」

「亡くなりました」

 

 あっさりと告げたせつらに、レミリアはさすがに面食らう。

 言いにくそうな事をこうもあっさり言えるこの若者は、どこかおかしいのではないかと。

 

「我々吸血鬼は不死身がステイタスだぞ。冗談にしちゃ笑えない」

「特定の手順を踏めば殺せます」

「――お前か?」

「いえ」

「じゃあ、誰がやった」

「色々ありまして」

 

 その『色々』の内容を聞いているんだと、レミリアは突っ込まざるを得なかった。

 せつらも、面倒だなあと思いつつも、それを話さない事には納得してくれそうに無いのだから、喋るしか無い。

 かつて魔界都市で吸血鬼のパンデミックが起きた際のことを掻い摘まんで話した。

 長老は命を賭けて『姫』と刺し違えようとしたがその顔を再生できないように焼くに留まった。

 尤も、それがトドメを刺す際の決定打になったのだから、無駄死にでは無い。

 それを聞いて、レミリアはワナワナと震えはじめた。

 

「『姫』の話は私も美鈴から聞いたことがある。4000年近くを生きる吸血鬼が、安息の地を求めてフラフラしてたってな」

「へぇ」

 

 どちらかと言うと、支配できる土地を求めて世界征服だとかを求めていたのは、彼女に付き従う側近の一人だった。

『姫』自身は、楽しければどうでもよかったらしいが、それもレミリアは気にくわなかったようだ。

 

「なにが生を謳歌する、だ。所詮、奴がやった事は分不相応な力を持ったガキが傍若無人に暴れ回るのと同じだ」

「仰るとおりで」

 

 せつらは、ぱちぱちと拍手しながら同意した。

 

「ウチにも()()()()()()がいるからな。それが、それが――」

 

 そこまで言って、震えたまま顔を伏せた。

 一瞬、キレるかな、とせつらに緊張が走ったが、

 

「ぷっははは! だーはははは!」

 

 響き渡ったのは爆笑だった。

 それも良家のお嬢様がやってはいけない笑い方だ。

 内容を要約すると、“男にフラれて首を落とされるとかバカじゃねえの”と言う事らしい。

 

「顔を焼かれ、醜いと言われ、告白を断られて生きる気力を失う程度のメンタルじゃ、どの道どこかでのたれ死んでいたろうさ。咲夜だって私の誘いを断ってるが、私はそれならそれで、最後の瞬間まで咲夜との時間を共に生きてやるつもりだぞ」

「ご立派です」

 

 レミリアの言葉に、せつらは適当にお世辞を使った。

 こう言う話にはとりあえず賛同しておくに越したことは無いと、この若者は経験から学習している。

 傍に控えていた銀髪の少女は、とても悪魔の館のメイドには見えない幸せそうな笑顔をこぼし、一礼した。

 

「結局、『姫』とやらは単なるウスバカゲロウだった訳だ」

 

 そこまで言って、レミリアは紅茶を口にし、唇を湿らせてから仕切り直す。

 せつらは首をかしげた。

 

「で、戸山住宅とやらの話だが」

「はい」

「長老の死にはお悔やみ申し上げる。が、話がしたいならそちらが来い、と伝えてくれ」

「分かりました」

 

 〈新宿〉の魔人は、特に食い下がる事も無く席を立った。

 レミリアは慌ててそれを止める。

 

「ちょちょ、ちょっと」

「まだなにか」

「いや、仕事なんだろう? それで成立する物なのか」

「僕の仕事は探し出すまで。後は当人同士でお話ください。オプションで連れ帰るサービスもやっていますが、この依頼では請けていません」

「こんな所まで来ておいて、仕事熱心なのかそうでないのか分からない奴だ」

「失敬な」

 

 一応不満を述べるせつらだったが、どうも良いとこのお坊ちゃんみたいな雰囲気なので、欠片も迫力が無い。

 

「いや、それで良いというなら口を出すつもりは無いが、ミスター秋。今夜はどこに滞在するつもりだ?」

「とりあえず人里を目指そうかと」

「バカめ。既に日は落ちているぞ。こんな時間に出歩いたら、妖怪どもが大喜びでお前を襲いに来る」

「それが?」

「お前ならいくら襲われようが平気という気もするが、その顔じゃ寄ってくる奴も増えるだろう。里に着く頃には夜が明けてる」

「どうしろと?」

「泊めてやると言ってるんだ。外よりは安全だろう」

 

 せつらは少し考えて、頷いた。

 確かに、土地鑑も無いまま夜に出歩けば、本日三度目の迷子を体験してもおかしくなかった。

 レミリアとせつらが話している間、咲夜がふるまったケーキを食べ終えたチルノも、何故か宿泊を主張する。

 

「お前の家は近所だろうが」

 

 そうレミリアが言外に拒否すると、

 

「今ここは襲われてるんでしょ。あたいの力が必要じゃない?」

 

 と、何やら戦意を高揚させていた。

 

「付近の妖精や妖怪、人間に迷惑をかけない為に霧を濃くするよう頼んだんだがな」

「霧の湖はお前らだけが住んでるわけじゃ無いんだぞ。あたい達だってムカツク人間が来たらぶっ飛ばしてやりたいんだ。手伝うぜ!」

 

 このように熱血キャラみたいな事を言うので、吸血少女も渋々了承する。

 実際、実力に不足は無い。

 一部妖怪や人間はこの氷精を、オツムの程度はともかく、その勇気や強さには一目置いていた。

 チルノはスペルカードルールが成立して以来、常に誰かしらと決闘を行っていると言って良い。

 異変などの激戦が繰り広げられる時にも繰り返し顔を出し、着々と経験を蓄積しているのだ。

 加えて、フラワーマスターや地底の太陽との戦いを見るに、引き際まで心得ている。

 スペルカードのキャリアで言えば、ルールを考案した巫女や、毎回異変を解決しに行く魔女の次くらいには戦闘経験豊富であり、その経験が、チルノを一介の妖精から最強の氷精へと後押しするのに一役買っていた。

 しかも、相手が格上だろうが勝つ気で臨むし、負ければ悔しがる。

 その生き様は、他者から勝負を挑まれる事があまり無い、特に強力な妖怪達から好意的に受け止められていた。

 

「話は決まったね! 無理するなよお前ら!」

 

 何故か仕切りはじめた氷精に、ツッコミを入れる者は誰もいなかった。

 

「ふぁ、あーあ」

 

 せつらは、眠そうにあくびをしながらその様子を見ていた。

 

 ◆

 

 せつらとチルノを来客用の寝室に案内した後、咲夜が何かを言いたそうに戻ってきた。

 

「お嬢様」

「どうした」

「ウスバカゲロウは、ウスラバカの下郎では無く、カゲロウの一種です」

「え!?」




ひどゆき先生は色々な殺し方を見せてくれるけど、面白い殺し方を見せてくれると思う
キン肉王家の殺人技の数より殺しのバリエーションが多そう

レミリアは何でも出来る分、その器の大きさと可愛さとカリスマブレイク成分を同時に表現するのが難しい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。