RIDER TIMEナイト 鏡面界廊のミラージュ 作:あんだるしあ(活動終了)
「ミラーモンスターに現実世界の人間はどう認識されてるか、知ってる? 昔の蓮さんたちには、ただ鏡の中の怪物がエサを捕捉した、その程度に思われてただろうけど、厳密にはそうじゃないの。
「好き、イコール美味しそう。愛しい、イコールお腹が空く。分かるかな?
………
……
…
ミラーワールドで最初の夜が、明けた。ライダーバトルは二日目を迎えた。
戦いを止める、と決めた蓮だが、戦うライダーたちの間に片っ端から飛び込んで仲裁などしても無駄だと弁えてもいる。
よって蓮は、まず、蓮たちに戦いを強要した謎の女の正体と目的を探ることにした。
問題は、それらを探るために、何から手を着けるべきかが思い浮かばないことだが。
(一人で考えても詰むだけか)
蓮は溜息をついて、居室のある2階から店舗である1階へ降りた。
喫茶スペースに出る。真湖がカウンターチェアに腰かけて、頬杖を突いて足をぷらぷらさせていた。真湖は蓮の起床に気づくと、ぱっと明るくなった。
「おはよう、蓮さん」
「ずいぶん早起きだな」
「緊張と興奮で眠れなかった!」
「ああ――」
そういうことなら納得だ。真湖が何者かはさて置き、彼女は仮面ライダーではない。戦うどころか自衛手段すらないのだ。精神が警戒態勢のまま解けずにいても、さもありなん。
「ね、ね。それよりさ、朝ごはんにしよーよ。冷蔵庫見てみたけど、割といっぱい入ってた」
「……俺に作れってか」
「あたし、料理したことないんだもん。道具の使い方知らないし、食材の見分けもつかないし」
真湖にやらせたら間違いなくやらかす。味覚的な意味で。そうと理解した蓮は頭を抱えながら、キッチンに入って冷蔵庫を開けた。
トーストと目玉焼きと紅茶というスタンダードな朝食を終えてから、蓮はバイクの後ろに真湖を乗せて、『TEA花鶏』を出発した。
目的地は、ライダーバトルが始まった場所。手がかりが残っているとは決して言い切れないが、無目的に走り回るよりはマシだと思いたい。
車の走らない道路の、ど真ん中に、一人の男が立っていた。
蓮はすぐさまバイクにブレーキをかけた。
「遊んでくれよ。秋山」
一見してうらぶれたこの男を、蓮は知っていた。
蓮はバイクの後ろに乗る真湖に視線だけを流した。――離れて隠れていろ、という意でのアイコンタクト。
真湖は無言で頷き、バイクを降りて生垣の中に立つ街路樹の裏へ駆け込んだ。
「浅倉威か。俺もお前の名前を覚えてる。てことは、過去で関わりがあったんだろうな」
「ああ。他の奴らと違って俺は覚えてるぜ。“全て”な。仲よかったぜェ、俺たちは。殺し合うくらいになァ!」
浅倉が揮った腕を、蓮もまた反対側の腕で受け止めつつ、カードデッキを取り出した。浅倉も同じだ。両者同時に、腹部にベルトが装着される。
「「変身!」」
蓮はナイトに、浅倉は王蛇に変身した。
互いに一手目はソードベント。ナイトはダークブレードを、王蛇はベノサーベルを掴み、戦闘は武器の衝突へと移った。
鍔迫り合いのまま縺れ合い、両者はトンネル道路に入り込んだ。
一言、王蛇の太刀筋は、猛攻だった。戦術も、自衛すらない。暴風のようだ、とナイトは感じた。そして、ナイトはまさにその暴風じみた猛攻に態勢を崩され、コンクリートの壁に追いやられた。
だが、天恵があった。王蛇は気づかない。背後からミラーモンスターが奇襲をかけようとしている。
これはナイトにとってチャンスだ。王蛇がミラーモンスターに攻撃されて怯んだ隙に、この態勢から脱することができれば――
だが、ここでナイトの、そしておそらくは王蛇も予想しなかった介入があった。
ミラーモンスターを横ざまに撃ち抜いた銃撃。まさか、と視線を発砲元へ巡らせれば、やはりそこに立っていたのは仮面ライダーゾルダだった。
(三つ巴になったら撤退がよけいに難しくなる。何とか浅倉の注意を
『――貴様。俺を庇ったな? 馬鹿にしてんのかァ!!』
王蛇がゾルダへ猛進していく。
その隙にナイトはトンネル道路から出て、元いた車道に戻った。
『真湖!』
「蓮さんっ。浅倉は!?」
『別のライダーと交戦中だ。今の内に退く。後ろに乗れ!』
「らじゃっ!」
蓮は変身を解いて、バイクに跨ってエンジンを点けた。
真湖がヘルメットを被って後部座席に乗り、蓮の胴にしがみついたのを確かめ、蓮は全速力でバイクを発進させた。
蓮はバイクを走らせ、一度「花鶏」の店に戻ってきた。
ヘルメットを外してつい零れたのは、長い安堵の溜息。
戦いを止めると決めた矢先に浅倉などと会敵してしまったのだ。無事に切り抜けられれば肩の力も抜ける。
そして、次に肩の力を抜くべき人間への配慮という心の余裕も生じる。
「着いたぞ、真湖」
自分の胴に全力でしがみついていた両腕から、ゆるゆると力が抜けていく。
「もう、大丈夫?」
「ああ。浅倉も北岡も上手く撒いた」
「そっか。はあぁ……」
真湖はようやっと蓮にしがみつく腕をほどいた。
「降りられるか?」
「うん。そのくらいは。ありがとう、蓮さん」
まただ。臆面もない朗らかな「ありがとう」。とっさに「どういたしまして」とも言いにくく、蓮は自分のヘルメットをバイクのハンドルに引っかけて、無言で花鶏店内に入った。後ろから真湖が追いかけてきたのが足音で分かった。
「蓮さん、どしたの? 難しい顔」
「……浅倉が言っていた。『俺は全て覚えてる』」
「マジ?」
「至って大真面目だ」
「あたしの考えつく限り、最悪の次くらいに悪い事態だよ、それ……何でよりによって浅倉かな~? 順当に考えて、記憶持ち越しは優勝した蓮さんの特典……、……あ」
真湖は渋い顔をしたが、カウンターチェアに座ると、観念して語り始めた。
「サンサーラの……最初の日に蓮さんたちが会った女の台詞、覚えてる? サンサーラは蓮さんたちを『かつての戦士たち』と呼んだ。蓮さんだって自覚はあったよね。体が戦い方を覚えてる。それはね、ここにいるライダーたちの誰もが、一度は“2002年のライダーバトル”に参戦したことがあるからなの」
長話になる気配を察した蓮は、カウンターの中に入り、紅茶の用意を始めた。二人分。
アールグレイの缶を棚から出し、缶から二杯分の茶葉を茶漉しで掬って、湯が沸騰したティーポットに投入。砂時計を返して時間を計る。
砂時計の砂が落ちきった頃合いで、耐熱ガラスのティーカップにアールグレイの紅茶を注いで、一つを真湖に前に置いた。
蓮は自分の分のカップを持って、真湖の隣のカウンターチェアに腰かけた。
「蓮さん――仮面ライダーナイトは、どの
「俺が、ライダーバトル最後の勝者……」
「さっきも言ったけど、優勝者特典かな? 再構築された“ライダーバトルがなかった世界”で、全てのライダーがライダーバトルの記憶を無くした中、蓮さんだけは例外で、ライダーバトルの記憶を留めていた。そのことを蓮さん自身がどう思って17年の人生を送ったか、あたしには永遠に謎だけど」
「なら、俺自身の記憶が全て戻れば、この馬鹿げた戦いが再開されたカラクリも見えてくるかもしれないってことだな」
「手がかり皆無ではなくなると思う。少なくとも蓮さんが名前を知ってる相手が、どういう事情でライダーになったかは思い出せるはず」
「お前、最初に会った時に、俺が過去を上手く思い出せるよう誘導したろう? それでまたどうにかならないのか」
「誘導したつもりは欠片もないんだけどにゃー。でも、そうだなあ。じゃあさ。さっき『浅倉も北岡も上手く撒いた』って言ったよね? 消去法で北岡ってゾルダのことだよね。どうしてゾルダが北岡さんだと思ったの?」
――言われてみれば全くその通りだった。あの重火器のライダーを見た時、あれは北岡秀一だ、と確信的に思った。その北岡が何者だったか、こうして改めて思い出そうとしても何も出てこないのに。
「記憶がない、っていっても、サンサーラの封印は結構ずさんっていうか、慣れてない感じがある。蓮さんだけじゃなくて、他にもアレコレ思い出すライダーはゼロじゃないと思うよ。まして相手が浅倉なら、野生のライオンに首輪を嵌めるようなものだからね。無理だったって言われてもあたしは納得する」
ふと蓮は、記憶とは別に、真湖の物言いでずっと引っかかっていたことを口にした。
「お前はどうして、最初に出て来たあの女を『サンサーラ』と呼ぶんだ?」
「あー……名前がないと不便だから?」
「それは分かる。どうして『サンサーラ』なのか。そもそもどういう意味なんだ、それ」
「元の意味は『輪廻』や『転生』ってサンクスリット語。くり返す誕生と死は悲しみと苦しみに満ちた在り方であるって教義でね。このライダーバトルも過去のくり返しで、ライダーたちはみんながこの鏡の輪廻に囚われ苦行を強いられている。だから、それを仕向けた彼女はサンサーラ」
「……お前が考えたのか?」
「そこは、ノーコメントで」
真顔である。
これ以上は暖簾に腕押しだ、と蓮は早々に追及を諦めた。あれこれ煙に巻かれるヴィジョンしか見えなかった。
それに「あの女」だの「最初に戦えと言ったあいつ」だのよりは、固有名詞のほうが面倒がないのは確かだ。
肝心なのは、蓮がまだ思い出せていない過去の記憶は、自覚以上に大きな手掛かりだということだ。それが分かっただけでも進展だ。それでこの話は終わりにしよう。
真湖が紅茶を飲み終わったら、また外の探索に出発しよう。次は浅倉に遭遇した道路を迂回して、当初の目的通り、戦端が開いた広場を目指す。
やることは変わらない。この馬鹿げた戦いを止めるために、秋山蓮は奔走する。