RIDER TIMEナイト 鏡面界廊のミラージュ 作:あんだるしあ(活動終了)
真司たちとは別行動を取っていた手塚が、戻って来るなり提案した。
芝浦淳のグループと一時的に手を組もう。
手塚はすでに芝浦を含む3人分のカードデッキを質草に預かっていたから、真司は手塚に言われるまま龍騎のカードデッキを渡した。木村は渋り、石田は不安で顔色を青くしたが、結局は手塚にベルデとインペラーのカードデッキを渡した。
ミラーワールドに閉じ込められてから5日目。ライダーバトル終了のタイムリミットまで、あと2日。
待ち合わせの時刻ぴったりに、芝浦たちは現れた。
カードデッキがない彼らは実質丸腰だ。真司たちもそこは同じだが、ゆえにこそ真司は芝浦たちに警戒心を抱かなかった。タイガの戸塚に、お近づきの印にと渡したビール缶でビールシャワーを顔面に浴びせられても、真司はまだ危機感を持たなかった。
「めでてー奴だな。これほど扱いやすいとは」
芝浦の一言に、ようやく、あまりに遅すぎた疑念が、真司の頭をもたげた。
戸塚がビール缶を投げ捨てたのを合図に、芝浦たち3名の手にカードデッキが戻った。
デッキを投げ渡したのは、休戦を提案した張本人であり仲間の、手塚海之だった。
芝浦、戸塚、石橋が変身する。仮面ライダーガイに、タイガに、シザースに。
「手塚さんっ。これは一体……! ――まさか」
石田の「まさか」は大当たり。
手塚はライアのカードデッキをバックルに装填し、ライアに変身した。
これにて真司たちは前後をライダーたちに挟まれ、逃げ場を失った。
最初の犠牲者は石田だった。ライアが呼び出したエビルダイバーが石田を強襲し、捕食した。
「手塚お前っ! 裏切りやがったのかよ!」
『別に。普通のことさ』
「~~っ、返せッ!! デッキを返せッ!!」
真司はライアに掴みかかったが、ライアに軽くあしらわれて地べたに転がった。木村が駆け寄ろうとしてくれたが、ガイとシザーズが木村の前に立ちはだかった。
倒れた真司にライアとタイガが迫る。
真司も木村もここで死ぬ。半ば以上に真司がそう確信した時だった。
《 ファイナルベント 》
仮面ライダー王蛇が唐突に現れたかと思うと、タイガをドゥームズデイで仕留め、変身者の戸塚を消滅させたのだ。
《 ソードベント 》
『楽しそうだなァ。俺も仲間に入れてくれよ』
一人でガイたちを相手取り始めた王蛇を援護するかのように、仮面ライダーゾルダまでもが現れた。ゾルダの銃撃で、場は三つ巴となった。
だが、そんな乱戦でも王蛇は真司の前に迫り、武器を振り下ろした。変身できない城戸真司は殺されるしかない。真司は覚悟も決まらないまま、かといって王蛇から目を逸らすこともできないまま。
王蛇の引導を、横からランスが飛び込んで、間一髪で防いだ。
闇色のバトルスーツ。コウモリをモチーフにした鉄仮面。息を荒げて真司を見下ろすライダーを見て、真司は、異常なほどの既視感に襲われた。
闇色の仮面ライダーは王蛇を弾き返した。その王蛇にシザーズとガイが襲いかかる。――場の注意が真司から逸れた。
『逃げるぞ、こっちだ!』
城戸真司は戸惑いを見せたものの、どうにか立ち上がってナイトを追ってきた。
ナイトの視界の端。真湖が、もう一人の生身の男を力ずくで立ち上がらせて、ナイトとは別方向へ男を避難誘導して行った。
別行動になった時の合流地点は決めてある。到着はナイトが先か真湖が先か、それは些細な問題だ。真湖が避難させた男まで連れてきたら問題だが、今はそこまで考える余裕もない。
乱戦の場から距離を稼いだところで、ナイトは隠しておいたシャドウスラッシャー400を草垣から出してエンジンを回した。
『乗れ!!』
「お、おう!」
真司がヘルメットを被って後部座席に跨ってから、ナイトは全速力でバイクを発進させた。
ナイトが真司を乗せてバイクで駆け込んだのは、地下駐車場だった。
無人かと思いきや、そこには一人の少女が待っていた。
少女は真司たちに気づくと、不安から一転、ぱあっと顔を輝かせた。
「蓮さん! 真司さんも!」
ナイトがバイクを停めてから変身を解いた。
「おい」
「んぁ?」
「いつまでしがみついてるつもりだ」
言われた真司もさすがに意味を察した。
真司はバイクの後部座席から飛びのき、その勢いでバランスを崩して、派手に転んだ。視界に星が散った。
真司は頭を打った痛みにひとしきり悶えたものの、どうにか立て直し――自分を絶体絶命から救った、黒ずくめの男を見やった。
「お前……秋山蓮、か?」
「そういうお前は城戸真司だったな」
「ああ。こうやってお互い名前を覚え合ってるってことは、やっぱ、過去でも関わりがあったのかな……」
「どうかな」
「まあとにかくさ。助けてくれてありがとな。これからよろしくな」
真司が差し出した右手を、蓮は無下に叩き払った。
「俺はお前だから助けたわけじゃない。俺は、この戦いを止めたいだけだ」
蓮の台詞を聞いた瞬間、そぐわない、という感想が真司の中に溢れ返った。その言葉は彼の本心ではなかったはずだし、口にしたのは彼ではなかった、と何故か思ったのだ。
「えっと、それって多分、過去の記憶だよな? お前、何か覚えてることないか?」
蓮は、いいや、と首を横に振った。
場の空気が重く淀んだのを察知した真司は、とっさに、左手に引っかけたままだったレジ袋からビールを一缶抜いて、蓮にパスした。助けてもらったんだから礼に、くらいのつもりだったのだが。
蓮は大きな溜息をつくと、ビール缶を思いきり上下に振って、真司の目と鼻の先で開封した。先ほど戸塚にやられたのと同じ。本日二度目のビールシャワーである。
「こんなもんを後生大事に持ってたのか」
「アンタ……ヤな奴だな!? あ、もしかして! 俺たち、過去でも仲悪かったんじゃないか!?」
そこで唐突に、無言だった少女が笑い出した。くすくすくす、と地下駐車場に反響する囀り。
「仲がいいか悪いかはさて置き、ケンカはしょっちゅうしてたよ。17年前の真司さんと蓮さん」
「ほら聞けやっぱり仲悪かったじゃねえか! ……ええっと。今さらだけど、君、誰? 秋山の妹とか?」
「残念、赤の他人だよ。あたし、真湖。真司さんの『真』と同じ字に、『湖』。今回のライダーバトルのルールが完全に理解できてないから、とりあえず蓮さんと一緒に行動してるの。仮面ライダーに変身できない分、あれこれお世話を焼いてポイント稼ぎ中なのです。こんなとこで、どうかな? 真司さんはあたしのこと、信用してくれる?」
「信用するに決まってる! てかこんな危ねえ世界に、ライダーでもない女の子が、一人でよく無事で――そこんとこほんっと、よかったっていうか」
「真司さんらしい答え。不束者ですが、これからよろしくお願いします」
「よろしく。ええっと……真湖、ちゃん?」
「はいっ」
真湖は蓮のような悪戯もせず、満面の笑みで素直に真司の握手に応じた。この5日間でささくれた真司の精神に、真湖のやわらかな手の温度は一服の清涼剤だ。
「過去と言えば」
蓮がぶっきらぼうに口を挟んだ。
「浅倉威は全て覚えているらしい」
浅倉威。その名を聞くなり、真司に緊張感が戻った。名前だけは覚えている。仮面ライダー王蛇の変身者であることも知っている。それ以上に、もっと奥底で、浅倉威は脅威だと訴えるピースがあるのだ。
「蓮さんも真司さんも、どうする? 浅倉に会ってみる?」
「記憶の手がかりになるなら、そりゃあ、会う価値はあるけど……ただ、会おうにもどこにいるか……」
「あたし、知ってるよ。浅倉のアジト」
真湖は瞑想する神職者のように目を閉じる。
「北岡秀一法律事務所。亡くなった北岡弁護士のオフィス兼自宅。由良吾郎さん――ゾルダもそばにいる。どうしても会いたいなら、話がこじれた場合、王蛇とゾルダの二人を相手取る覚悟をしといて」
「待て、真湖。それをどこで知った」
「あ、蓮さんってば出し惜しみを疑ってるな~? ベルデの木村さんを逃がしてここに来る前に、ちょっと寄り道して偵察してきたんだってば」
「そうだ、木村! 真湖ちゃん、木村はあのあとどうなったんだ? 無事なのか!?」
「そこはバッチリ。もっとも、ここに誘ったら断られちゃった。今どこにいるかはあたしにも不明。生きてるのは確かだけど」
「そ、っか。そうか。よかった、木村、生きてて……!」
仲間が一人でも生き残っていることに安心した。孤立する恐れより、人の命が喪われるほうがずっと怖かった。それが、城戸真司という人間だ。
「喜んでるとこに水を差して悪いけど、話を戻すよ。……ゾルダが北岡さんじゃなくて吾郎さんだったのは百歩譲っていいとする。でも王蛇とゾルダのタッグなんて、正気を疑う悪夢みたいな組み合わせ。行くんだったら、あたしが案内しなくても、二人とも道は知ってるよ。どっちも一度二度は北岡さんちに乗り込んだことがあるんだから」
そう言われたとたん、ぱかっ、と缶詰めの蓋が開くように呆気なく、北岡秀一法律事務所への行き方が頭に浮かんできた。今まで何を試しても過去の記憶が戻ることはなかったのに。
だが、思い出せたことは幸運だ。浅倉威が恐ろしい存在であろうとも、手がかりを得るためにそれしかないならば。
真司は腹を括った。
蓮は北岡秀一法律事務所へバイクを走らせた。真司も一緒だ。真司のほうは、またもやどこからか真湖が調達してきたスクーターに乗っている。
事務所に入る前に、蓮は万が一を考慮して、真湖には外で待機するよう言いつけた。真湖はさしたる反論もせず承諾した。
結果的に蓮の判断は正しかったと判明する。
浅倉威は常識的対話が成り立つ人間ではなかった。過去について知っていながら、「ずっと戦っていた」「これからも戦い続ける運命」と人を食った発言ばかり。果ては王蛇に変身し、蓮と真司に問答無用で襲いかかってきた。浅倉威は骨の髄から戦闘狂だったのだ。
蓮は真湖を拾って後部座席に乗せて、真司もまたスクーターに乗って、それぞれ無我夢中で逃亡を図った。あんなバーサーカーと真正面からやり合ってなどいられない。それだけは蓮と真司の共通認識だった。
蓮と真司が逃げ込んだのは、真司がライダーバトル初期に隠れ家に使っていた廃ビルだった。
「浅倉のヤツ……! 話して分かるような奴じゃないな。その上、メチャメチャ強い。どうやって止めればいいんだ?」
「それが分かれば苦労はない」
言われてしまえば、真司はぐうの音も出ない様子だ。
その時だった。
――鏡が、鳴った。
砕けた姿見に映ったのは、真湖が「サンサーラ」と呼んできた女。初日にライダーバトルのルールを告げた象牙のドレスの女だった。のみならず、女は初めて現実世界に実体として具現化した。
とっさに詰め寄ろうとした蓮と真司を、真湖が両腕をとおせんぼの形にして押し留めた。
「やっと面と向かって話せますね。
『……私を恨んでいますか、
「他人の都合で振り回されることには慣れています。そもそも“人間”に求められたら“あたし”は応じる。それが“あたし”の稼働意義であり製造目的です。それより、伝えることがあったから姿を現したのでしょう? 用件を言ってください」
『――ルールの変更を伝えに来ました。タイムリミットはあと一日。戦いを早めてください』
「そこまで重篤なのですか?」
『危篤です。保ってあと一日と、医師は言いました』
女二人の事情通ぶった会話に、蓮もいい加減、黙ってはいられなかった。
「ふざけるな、何なんだお前! 勝手なことばかり言いやがって」
「目的は何なんだよ!? 俺はこんな馬鹿げたゲーム、続ける気はないからな!」
『私も同じです。私はゲームを止めるために、このゲームを始めました』
サンサーラ、と真湖に呼ばれた女は、ここに至ってついにライダーバトルの真相を語った。
この瞬間にも、現実世界ではある“ゲーム”が行われている。
サンサーラの現実世界での恋人、加納達也。その男はアナザー龍騎なる怪人となり、彼女の延命のために、大量虐殺による命の略奪に邁進している。
蓮や真司たちがミラーワールドにいた7日間で、加納達也が殺した人間は100にも及びかねないという。
――2002年某日。加納達也は現実世界のサンサーラを交通事故に遭わせた。
両者は加害者と被害者だったが、達也の謝意と献身にサンサーラは少しずつ心を開き、退院後、ふたりは恋人となった。
しかし事故から17年後、彼女は当時のケガのせいで合併症を引き起こし、意識不明の重体となった。
聖中央病院のICUで眠るサンサーラに、達也は誓った。
“死なせはしない。俺がきっと、お前を救う”
そうして加納達也はアナザー龍騎となり、現実世界で殺人ゲームを始めた。
その“ゲーム”で集めた命を彼女に与え、彼女を死の淵から呼び戻すために。
「そんなことで本当にあんたは助かるのか?」
「うっわー、蓮さんが言うと特大のブーメランだにゃー」
『……少なくとも、達也はそう信じています。そうと信じるしか、達也に縋れる道はなかったのです。時代最先端の戦士たちが達也を止めようと臨んでくれていますが、彼らには達也に決定打を与える鍵がない』
「2002年の仮面ライダー、外の言い方に沿うならレジェンド3の力を宿した時計、ですね。確かにどうやっても入手不可能でしょう。ここにいる全員が、現実世界ではライダーではなかったことにされてしまいました。だからあなたは、もう一度、彼らを“仮面ライダー”に仕立て上げなければいけなかった。そのためにライダーバトルを再現し、再演させた」
『全てその通りです。……私の命はあと一日。それがタイムリミットです。それまでにどうか、決着を――』
サンサーラの姿が空気に滲むように透けていく。真司が慌てて駆け寄ったが、サンサーラは無情にも鏡鳴りを残して消えてしまった。
(事故で入院した恋人を目覚めさせるために、ライダーとなって戦い始めた男)
加納達也の動機と背景に、秋山蓮は吐き気を催すほどの
「城戸!」
「木村!?」
蓮がふり返ると、男が二人。真司が木村と呼んだ男は、重傷の手塚海之に肩を貸してここまで来たらしかった。
ついに倒れ込んだ木村と手塚に、真司が駆け寄った。
「手塚! おい!」
「こいつ、お前に会いたがってた……間に合わなかった」
木村はジャケットの内ポケットから、龍騎のカードデッキを取り出して、真司に差し出した。
真司が手塚を呼ぶ声は嗚咽混じりだ。そこが、蓮には心底理解できなかった。手塚海之は芝浦淳のグループと結託して真司たちを裏切った男だ。なのになぜ真司は手塚の死に涙ぐむほど悲しむのか。
「コイツ、死ぬ前に過去を全部思い出したらしい。言ってたぜ。『お前はお前らしく在ればいい』ってな」
蓮の隣に立つ真湖が、ひゅっ、と息を呑んだ。
「真湖? どうし、」
真湖は真司と変わらぬ顔で手塚を凝視している。
笑っているくせに、泣いている。
涙の一滴も零していないが、真湖の横顔は確かに泣き顔だった。
「ずるいなあ、
「お前……」
それと、と木村が真司に言った。
「『もう一人の城戸真司には気をつけろ』と――」
「その話、詳しく!!」
「うぉわ!?」
気づけば真湖が木村に詰め寄っていた。蓮には全く予備動作が見えなかった。
「もう一人の真司さん? 手塚さんがそう言ったの? 他には? どんなことでもいい、他に手塚さんは何か言わなかった!?」
「ほ、他にって、手塚も意識が完全にオチる寸前に言ったから、それ以上は……てか何だこのガキ! おい城戸、お前の連れか!?」
木村の問いに、しかし、真司は答えない。
騒ぎの間に、手塚海之の肉体が砂鉄となって大気に散り、消えていった。
直後に、真司がひどい怯えを呈した。木村に対してでも、真湖や蓮に対してでもない。真司だけに視える“何か”に恐怖している。
蓮も木村も取るべき行動を決めあぐねる中、真湖だけが動いた。
「
フロアにあったあらゆる反射物が破砕し、空間に痛烈な波紋を投じた。
とっさに腕で身を庇った蓮が気づいた時には、城戸真司はそこにいなかった。
「やられた……! 強制退去に真司さんを道連れにしたわね!?」
「真湖――」
「止めなくちゃ……真司さんが最後に勝つとしても、正気に戻るまでに他のライダーを手に掛けたりしちゃったら……!」
「真湖!!」
びくっ、と真湖の肩が大きく跳ね上がった。
――ずっと、尋ねないままでいたかった。秋山蓮の偽らざる本心だ。今までのままの関係でいたかった。だからどんな不審点にも目を瞑って、問い質すことをしなかった。そのツケが、ここに巡ってきた。
「お前はいったい、何者なんだ?」
真湖は黙祷のように目を閉じてから。
すう、と。普段の彼女からは想像もつかないほど凍てた目を蓮たちに向けた。
「あたしは、鏡。鏡そのものがヒトのカタチを真似た怪物。鏡で構築されたミラーワールドは、あたしのカラダ。本物のミラーワールドを造った神崎士郎さんは、いつかあたしをこう呼んだ。あたしは――ミラーワールドの意思」
はい捏造チート無機物系人外ヒロイン来ましたー。
龍騎熱が再燃したのでオリ主ぶっこむに当たって考えたWヒロインのサブのほうです。このRTナイトも、実はその龍騎オリ主再構成もののイントロダクションとして書いたブツだったりします。
オリ主無しをそろそろ書けるようになれ?
夢小説脳なんだよ悪かったなちくしょー(←ヤケクソ)