RIDER TIMEナイト 鏡面界廊のミラージュ   作:あんだるしあ(活動終了)

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6日目 鏡の国のキティ

 日が昇った。無情なほどに、時刻を違えず、朝が来た。

 

 蓮はHondaのシャドウスラッシャー400で、真湖は木村が運転する軽自動車に同乗して、それぞれ城戸真司を追いかけた。

 

 だが、真司より先に、彼らはスタジアム前を千鳥足でうろつく、仮面ライダーガイの芝浦淳を発見した。

 

「どこに隠れてる……手塚ァ!! 俺の愛を受け取ってくれよ。そうすればあんたは、俺だけのものになる! そうだろう!? ひゃっはっはははは!」

 

 イカレてる。芝浦淳の妄言を聞いた木村の偽らざる心証だった。そして同時に、手塚が木村たちを裏切って芝浦に付いた理由も、察せざるをえなかった。

 

「……蓮さんにはもう話したんだけどね。ミラーワールドの住人にとっての愛情表現は、捕食。好きになればなるほど、愛すれば愛するほど、その対象への食欲は増す一方。これは仮説だけど……芝浦さんも、ミラーワールドで過ごす内に、それが性癖として染みついちゃったのかも。でなきゃあの、現実ナメ切ったゲーム脳お坊ちゃまが、『愛してるから殺させろ』なんてヤンデレな理由で戦うなんて、ありえない」

「お前、芝浦のことも知ってるのか」

「――うん。17年前のライダーバトルでも、芝浦さんは仮面ライダーガイだったよ。ライダーになった理由は『面白そうなゲームだから』。自分がちょちょいと手を加えて国の全てを自家製のゲームで操ってやるなんて、いけ好かない悪巧みする大学生だった。末路にだけは同情しないでもなかったんだけど……今回のライダーバトルで、情状酌量するのやめた。なんっで! よりによってお相手が手塚さん!? あーもー、お姉ちゃんに何て言えばいいのさこんな事態! キャパオーバーだよ!」

 

 が、事態は木村や真湖に頭を抱える暇さえ与えない。

 

 挙動不審の芝浦の前に、城戸真司が立ち塞がったのだ。しかも普段の真司ではない。あんな真っ黒い貌を真司はしないと、短い付き合いの木村でさえ知っていた。

 

「――城戸?」

「手塚は死んだ。代わりに俺が(アイ)してやるよ」

 

 別の移動手段だった蓮も木村と真湖に合流したが――時遅かりし。

 

 『真司』が龍騎のカードデッキをバックルに装填した。

 

「変身」

 

 ――そこに立つのは、赤ではなく、暗黒のライダー。城戸真司が怯えた「もう一人の城戸真司」の変身した姿!

 

「リュウガ――ああ……っ!」

 

 芝浦はリュウガにただならぬものを感じたのか、カードデッキを取り出し、仮面ライダーガイに変身した。

 

《 ストライクベント 》

『はああああ!!』

 

 ガイがリュウガに斬りつけたが、リュウガは難なくガイの攻撃をいなす。

 リュウガはソードベントさえ出していない。純粋に運動神経だけでガイの攻撃をあしらい、逆に攻撃をガイに蓄積していく。

 地力が違いすぎる。

 次第にガイはリュウガに嬲られる一方になっていく。

 

「リュウガ! アナタもミラーワールドの住人なら、ミラーワールドの意思(あたし)に従いなさい! 今すぐ仮面ライダーガイとの戦闘を中止するのよ!」

 

 真湖の“命令”は、しかし、リュウガの動きを止めるには至らなかった。

 

「どうして!?」

『確かに“俺”はミラーワールド側の存在だ。だが今や、俺の半身は、現実世界の城戸真司だ』

「っ! 不完全でも真司さんと融合したことで、あたしの権限を全面的に受け付けなくなった……!」

 

 リュウガはファイナルベントのカードをバイザーに装填した。

 ドラグブラッカーの推参に合わせて、リュウガは高くジャンプした。そのリュウガに、ドラグブラッカーの吐く黒炎が推進力を与え、リュウガのライダーキックでガイを爆散せしめた。

 

 辛うじて無事だったガイの、左肩のバイザーを、リュウガは容赦なく踏み躙った。

 変身が解けた芝浦が、砂鉄となって消滅していく。

 

 木村も蓮も、リュウガの暴挙にただただ呆然とした。

 

 リュウガが木村たちへ視線をやった。――次の獲物はお前たちだ。リュウガの鉄仮面越しの眼光は確かにそう言っている。

 

 瞬き一つの直後。リュウガは木村の眼前にいた。

 リュウガは木村の首を締め上げると、手近な柱に向けて木村の体を投げて叩きつけた。

 

「木村さん!」

 

 真湖が蹲る木村に駆け寄った。

 

『俺がこの戦いに勝ち残れば、ミラーワールドを出ることができる。現実世界で生きることができる――!』

 

 訳が分からない。何が起きているか理解できない。

 木村はその二つの思いでいっぱいだった。

 

 

 

 

 

「蓮さん! 今の彼は本当の真司さんじゃない! 遠慮しなくていいから!」

 

 言われずとも手加減してはいられない相手だと分かっている。

 

「変身!」

 

 蓮はナイトのカードデッキをベルトのバックルに装填し、仮面ライダーナイトに変身した。

 殴りかかってきたリュウガを避けながら、アドベントカードをバイザーに差し込む。

 

《 トリックベント 》

 

 ナイトの幻影が現れ、一斉にリュウガに斬りかかった。

 リュウガにとっては軽くあしらえる敵だろう。それでいい。元よりナイトの狙いはこの場からの撤退の時間を稼ぐこと。

 

 真湖が木村に肩を貸して、姿が見えなくなるまで遠くへ行ったことを確かめたナイトは、自身も、リュウガの相手を幻影に任せて離脱した。

 

 

 

 

 

 木村は真湖に支えられ、おぼつかない足取りで近くのシネマホールに逃げ込んだ。

 

 木村は適当な円柱に背中をぶつけるも同然に預け、そのまましゃがみ込んだ。

 

「どこが痛む?」

「全身痛ぇよ、くそ……!」

「あぅ~。そう言われると応急処置のしようもないなあ」

 

 秋山蓮が伴っていた小柄な少女は、むっつり、眉根を寄せた。

 

 ミラーワールドの意思、と真湖は名乗った。この狂った反転世界の化身なのだと。はっきり言って信じられない。怪しいにも程がある。確かにこんな少女はライダーにはいなかったが、ミラーモンスターが人間に化けていると言われたほうがまだ現実的だ。

 

 幸いにしてベルデのカードデッキは事切れる前の手塚から返却された。少し休めば、また変身できるはずだ。

 

 ――その「少し」さえも、現実が許さなかった。

 

 モンスターが現れた。しかも3体で木村たちを挟み撃ちにする陣形を取られてしまった。

 

 今の体で変身して戦えば、おそらくここから逃走するだけの体力は残らない。

 だからといって応戦しなければ木村はここで食い殺される。エビルダイバーに捕食された石田のように。

 

 木村はベルデのデッキを出した――が。

 

「止まりなさい! バズスティンガー・ワスプ! ビー! ホーネット!」

 

 ぴたり。ミラーモンスターが3体揃って静止した。

 

「彼を捕食するのは、ミラーワールドの意思(あたし)が許しません。アナタたちは全員、ここで自ら命を絶ちなさい」

 

 3体のバズスティンガーは、円形になって3体でそれぞれの喉笛を噛み砕いた。木村にもそれがモンスターにとって致命傷だと見て取れた。

 バズスティンガーたちは倒れて、砂鉄となって消滅した。

 

「ごめんね」

 

 真湖が、謝った。自決しろとモンスターたちに命じた本人でありながら、モンスターの死を悼んでいた。

 

 今さら思い知る。彼女の「ミラーワールドの意思」という名乗りには、本当に一切の嘘も誇張もなかったのだと。

 

 その真湖が木村を顧みた。

 

「傷はどう? まだ立てないっぽい?」

「あ、ああ……いや。立てはするが、歩くのは難しい、かも……」

「肩貸すよ。木村さんがよかったらだけど」

「……そうする」

 

 横に来た真湖の肩に木村は腕を回して、どうにかこうにか歩き出した。

 

 シネマホールから屋外へ出たところで、木村は、自分を支えて汗だくの少女の横顔を見た。

 

「――なあ」

「なぁに?」

「城戸はもう、元の城戸には戻らないのか?」

 

 すると真湖はくすっと笑った。

 

「何だよ」

「ごめんね。突き飛ばされたあとなのに、真司さんの心配する辺り、木村さんはいい人だなぁって」

「……うっせ」

 

 木村とて分かっていたのだ。照れくさいから自覚しないようにしていただけで。

 本当は、真司が明るくおどけてくれたから、自分は皮肉ぶっていられた。木村は結局、底抜けに馬鹿でお人好しの城戸真司に救われていた。

 

「で、どうなんだよ? お前、ミラーワールドの支配者なんだろ。分かんねえのか?」

「『支配者』だとニュアンスが違うんだけどにゃー。真司さんのことなら心配しないで。自分の鏡像に負けるほど、城戸真司の熱量は小さくない。何度奪われたって、何度でも取り戻す。彼はそういう人間だよ。それに、今回は蓮さんがいる。蓮さんなら絶対真司さんをリュウガの好き勝手にさせやしない」

「ずいぶん信頼してるんだな。惚れた欲目か?」

「ブッブー、あたしの本命は別にいますぅ。あの二人は……龍騎とナイトは“あたし”にとって特別な存在だからだよ。ミラーワールドの存亡に関わるくらいにね」

 

 スタジアム近くで路駐した木村の車まで戻ったところで、真湖は木村から身を離した。木村も痛みが引いて、自力で立てるほどには回復していた。

 

「ごめんね、木村さん。手当てしてあげたいけど、あたし、そろそろ行かなきゃ。蓮さんと真司さんのとこ」

「……城戸を頼んだ」

「任せて。それはそれと、木村さんもミラーワールドから出る算段しとかないと。ミラーワールドを生きて出られるのは一人だけ。それが、サンサーラ自身にも変えられない、ライダーバトルの前提」

 

 混戦になったせいで忘れていられた現実を突きつけられ、木村は内心、大いに狼狽えた。

 木村がミラーワールドを生きて出るとは、すなわち城戸真司の死を許容するということを意味する。

 石田と手塚に立て続けに死なれた木村にとって、真司は唯一の拠り所だ。

 木村は死にたくないが、真司の死を見て見ぬフリをしていいのか迷う良心も残っていた。

 

「――物凄く強引なこじつけだけど、抜け道が残ってないわけじゃない。この手なら木村さんと真司さん、両方とも死なない」

 

 木村は勢い込んで真湖に迫り、真湖の言う“抜け道”が何かを問い詰めた。

 真湖は、外見にそぐわぬ冷酷さで、木村をまっすぐ見上げた。

 

「木村さん。『確実に戦死するけれど闘いは終わる戦場』と『戦死こそしないけれど過酷な闘いを課される戦場』なら、どっちがいい?」




 木村生存ルート入りまーす。これについては最終話で詳しく述べます。
 木村の人気はスゴイですよねー。ベルデがいい人っていうこのキャスティングの威力よ。
 心打たれたのであんだるしあは、木村がまた真司とビール飲めるようにお節介を焼いてみたんだゼ。
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