RIDER TIMEナイト 鏡面界廊のミラージュ   作:あんだるしあ(活動終了)

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最終日 賢くないグレーテル

 知っていました。きっとあなたはそうするだろうと。

 知っていました。あなたは決してそうならないと。

 それでも、と想ったのです。知った通りに未来が流れないことに、期待したのです。

 

 ああ、ですから。

 やっぱり最後はこう想うのです。この選択は、正しかった。

 

 

 

 

 

 戦って、闘って、ようやく城戸真司を鏡像の偽物から奪還したと蓮が思った時だった。

 死に体の浅倉威が突如として乱入し、生身で斬りつけてきた。

 

 とっさに飛びのいた時に、真司は一歩だけ後退が足りなかった。浅倉の射程内に真司だけが取り残された。

 

 二度も真司の死を見るなど、許せない。

 

 蓮が真司を庇う理由はそれだけで充分だった。命を投げ出すことになろうとも、何の躊躇いも覚えなかった。

 

 それなのに。

 目の前で、蓮を貫くはずだった刃は、別の人間を殺した。

 

 真っ白なワンピースが、どす赤く汚れていく。

 首から外れたショールが宙へ投げ出され、華奢な体躯はコンクリートに倒れ伏す。

 

 脳が、ようやっと、現実を正しく理解した。

 

「真湖ぉッ!!」

 

 蓮はレイピアを投げ捨てて、虫の息の真湖を抱え起こした。

 

「間に、合った……蓮さんと真司さん、どっちも、生きてる……」

「お前が死んだら意味無いだろうが!」

「だいじょ、ぶ。このあたしが消えても、ミラーワールドがある限り、“あたし”って概念は消えない、から」

「だとしても! 次に会う“真湖”は“お前”じゃない……!」

 

 真湖は血を刷いた唇で苦笑し、蓮の肩越しに後方へ視線をやった。

 

「真司さん、もう正気に戻ってる、でしょ。しかも、思い出してる。でなきゃ今この時、無防備な蓮さんを後ろから殺さないわけ、ない」

 

 カシャン……

 

 蓮がふり返ったと同時、真司の手からサーベルが滑り落ちた。

 

 真司の愕然とした顔を見て、蓮も真司の狙いを悟った。真司はあえて鏡像のフリをして、蓮に殺されようとしていたのだ。そうすれば蓮が生き残れると、真司という人間にとっての当たり前の正義を当たり前に実行した。

 

「浅倉は……うん、脱落、したね。これで残るは、蓮さん、と、真司さん、だけ……やっと、ここまで、来た……」

 

 真湖は震える手をようよう持ち上げ、蓮の頬に当てた。

 

「あたしの全権限、で……このミラーワールドに、おける、秋山蓮の死亡を、承認、します。このライダーバトルの勝者は……城戸真司さん、アナタ、です」

「真湖ちゃん……ッ」

「これで、いい……さあ真司さん、急いで……現実世界へ…戻って…時代最先端の仮面ライダーたちも、長くは、保たない……止めてあげて…正しい仮面ライダー龍騎と、して……」

 

 

 ――■■さんを、止めて――

 

 

 真湖が口にした名は加納達也ではなく、ある意味では彼よりずっと呪われ囚われた男のものだった。

 

 不意に真司が姿を消した。蓮はしたたか面食らった。

 

「だい、じょうぶ。最初にみんなが目覚めた場所に、転送した、だけ。あとは、サンサーラが、ちゃんと真司さん、を、現実世界に戻して、くれる、から」

「俺たちは、この世界に置き去りか――」

 

 まあ、城戸真司が生還するなら、安いものか。蓮は本心からそう思えた。消滅や死への恐怖はなかった。

 あるとしたら、腕の中で虫の息の少女への悔悟だけだ。

 自分と真司の因縁の清算に巻き込んだために、真湖は死のうとしているのだから。

 

「真湖」

「なぁに……?」

「お前と過ごした6日間、悪くなかった」

 

 素直に「救われた」と言えない自分自身に嫌気が差す。

 

 ミラーワールドという閉塞した空間で、人間性を失わずに6日もの時間を過ごせたのは、間違いなく真湖がいたからだ。吊り橋効果だろうが知ったことか。真湖が蓮を独りにしなかったのは事実だ。

 

「……やっと、蓮さんが笑った顔、見られた」

 

 真湖は血に汚れていないほうの手を、蓮の頬に添えた。

 

(あたし)はずっと見ていました。アナタが最初のライダーになった瞬間から、アナタの戦う姿を映し続けてきました」

 

 声は、真湖という少女像からは想像もつかない、無機的なアナウンス。

 

「アナタだけではありません。龍騎、シザース、ゾルダ、ガイ、ライア、王蛇、タイガ、インペラー、ファム、リュウガ、ベルデ、オルタナティブ、オルタナティブ・ゼロ、オーディン……(あたし)世界(うちがわ)で傷つけ合う人間(アナタたち)。悲しかった。つらかった。あんな光景を永遠に映し続けるくらいなら、壊れてしまいたいと願うほどに」

「……すまん」

「謝らないでください。(あたし)の願いはもうすぐ叶う。ようやく“あたし”は壊れることができる。それも、人間(アナタたち)のために。これは鏡に限らず、ヒトが造り出した無機物にとって、等しく幸福なことなのです」

 

 真湖はミラーワールドの化身といえる存在だ。蓮たちライダーの戦いは、いわば彼女の体の上で行われた泥仕合であり、見たくもないのに観賞を余儀なくされたスプラッタ映画だった。

 

「――だから今からすることは、“(あたし)”じゃない“真湖(あたし)”に根付いた祈り」

 

 訝しむ蓮の前で、真湖は傷口を押さえる手を外し、その手を傷口から腹の中に容赦なく突っ込んだ。

 

「真湖!?」

「ぐ、っ…は、ぁ…」

 

 真湖が己の腹を裂いてまで取り出したのは、小さく眩い球形。

 

「あたしが、6日間も“人間”のフリしてた、本当の理由は、ね……あたしが“新しい命”に、なるため、だったんだ……このままだと蓮さん、ほんとに“死んだ”、ことになっちゃう、から……受け取、って?」

 

 疑問形のくせに、断らせる気なんて無いだろう、お前。

 そう皮肉の一つも言ってやりたいのに、今の蓮にはできない。死にゆく人間をこの腕に抱き留めるのは、真司の時の一度きりで散々だと思った過去があるから。

 

 若い日の蓮が恵里に与えたものと同じ光が、真湖の手から、蓮の胸に染み込んだ。

 

「あたしが死ねば、このミラーワールドも自壊する。そしたら蓮さんは、ちゃんと現実世界に戻れてるから。今度は独りじゃ、ないよ。真司さんも全部、覚えてる。再会、したらさ、昔みたいに、また、下らないケンカして、見せて?」

「――ああ」

「今度は恵里さんのこと、蓮さん自身が、幸せにしてあげなきゃ、だめだよ?」

「ああ」

 

 真湖の四肢に、鏡にヒビが入るように、幾条もの亀裂が走った。

 

「あなたは、生きて」

 

 

 “お前は……生きろ”

 

 

 パリィィィン――!!

 

 蓮の両腕に付着し、あるいは地面に散らばった、無数の鏡の破片。

 たったさっきまで真湖としてしゃべり、動き、笑っていたモノの残骸。

 

 無言で破片をなぞった蓮の正面に、どこからともなく姿見が現れた。

 姿見の鏡面が波打ち、映し出されたのは、たったさっき送り出した城戸真司だ。

 

「城戸……!」

 

 蓮は一時だけ鏡の残骸に向けて黙祷してから、立ち上がり、姿見の中へ飛び込んだ。




 はい木村に続いて二人目! 蓮・生・存!!
 このためにこの連載始めたと言っても過言ではありません。だって真司一人しか残らないとか寂しすぎる(T_T)
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