RIDER TIMEナイト 鏡面界廊のミラージュ   作:あんだるしあ(活動終了)

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エピローグ 千と一の風になって

 七日間のライダーバトルから、幾日が過ぎたか。

 

 蓮は『TEA花鶏』の店を畳むための最後の片付けをしていた。

 

 ――若い頃に2002年のライダーバトルの記憶を一人持ち越してしまった蓮は、行く宛ても思いつかず、花鶏の店に住み込みで働くことを再び選んだ。

 オーナーの沙菜子が老齢だったこともあり、沙菜子が店に立てなくなってからは、蓮が『花鶏』を切り盛りするようになり、やがては蓮が正式に店を継いでオーナーとなり、沙菜子を看取った。

 

 長く――ひどく長く世話になったこの家と店とも、今日でお別れだ。

 

 

 

 

 ――何でも、神崎士郎がアメリカにいた頃の研究資料が盗難された上に、そこからミラーワールドとライダーシステムを悪用する兆しが見られるのだという。

 

 ベルデの変身者・木村はそのアメリカのライダーバトルに、仮面ライダーの一員として組み込まれた。正確には、アメリカのライダーバトルの参加枠を一人分、真湖が木村のために横取りした。

 木村はアメリカ側のミラーワールドに当たる“ベンタラ”に身柄を移送されることで、サラのライダーバトルからリタイヤしたと扱われ、生還しおおせたのだ。

 

 ――だが、それはあくまで、苦し紛れの緊急避難に過ぎない。

 

 いずれアメリカで戦端が開くライダーバトルで、木村は仮面ライダーに変身して戦わねばならないのだから。

 

 真司が渡米したのは木村の闘いに協力するためだ。

 

 

 “今回のライダーバトルでも、大勢の奴が死んだ。誰かが死ぬのはもう二度と見たくない”

 

 

 実に城戸真司らしい動機だと、17年ぶりに蓮は呆れた。

 

(真湖も同じ気持ちだったんだろうな。二度と見たくない、のくだりは特に)

 

 もっとも現在は蓮も真司を馬鹿にできない。諸々の身辺整理が終わり次第、蓮も真司を追って渡米するからだ。語るまでもなく、真司と同じ目的で。

 

 現状で蓮たちが把握している予備知識は多くない。

 仮面ライダー同士で闘って敗れた者は、死亡するのではなく“ベント”というフェイルセーフにより異次元に隔離されるだけ。アメリカ版ミラーワールドにも、真湖と同じポジションの“意思の代弁者”が存在する。そして、蓮たちが戦ってきた仮面ライダーたちと同じカードデッキを用いるとしても、変身者が誰かは一切不明。

 

 蓮は自身の胸元に手を当てた。そこにペアリングのネックレスは下げていない。

 

 ――かつての恋人、小川恵里は、聖中央病院の看護師として働いていた。恵里の左手には、17年前に蓮が贈ったペアリングが輝いていた。

 それを見て、秋山蓮の戦いは、本当の意味で終わりを告げた。

 

(だってのに、今度は自分から新しい戦場に飛び込もうってんだから、俺も大概イカレてる)

 

 浅倉みたいな戦闘狂になった覚えはないんだが、と独り言ち、食器を棚に片付け終えた。

 

(真湖。お前は俺たちが傷つけ合って血を流す光景を見ることに耐えられない、と言ったな。許せ。これからも俺は、お前に『悲しいもの』を見せることになる)

 

 真湖が生きてこの場にいれば、どういう反応をしただろうか。仕方ないね、と強がるのか。無言で寂しげに微笑むのか。どちらにせよ、真湖の心を痛めつけることに変わりはない。

 

 店内の掃除は一段落した。自室の整理は先に終わらせた。旅装は用意済み。あとは蓮が空港に出発するだけだ。

 

 蓮はボストンバッグ一つ程度で済む荷を肩に担いで、『TEA花鶏』のドアを開け――

 

 まるで待っていたかのようにそこに立っていた女に、頭が真っ白になった。

 

「――、恵里?」

「やっと逢えた……っ、蓮!」

 

 恵里が蓮の胸に飛び込んだ反動で、蓮の肩からボストンバッグが滑り落ちた。

 

「17年前……目が覚めたら、左手に指輪が嵌まってて……なのに、肝心の蓮はどこを探しても見つからなくて……でもわたし、蓮がわたしを置いてくわけないって、ずっと信じてた。17年間、ずっと信じ続けてたんだから!」

「恵里、お前まさか――全部知ってるのか!? ライダーバトルも、ミラーワールドも」

 

 恵里は涙目で何度も頷いた。

 

「教えてもらったの。昔の蓮がどんなに大変なことしてたかも、それがわたしのためだってことも。――事情はあとでちゃんと話すから。今はこれだけ言わせて。蓮は遠いとこに行こうとしてるんでしょう? お願い、わたしも一緒に連れてって! もうわたし、蓮を一人にしたくない」

 

 ショックで言葉もない蓮の、左手を、恵里が掴んだ。

 恵里は自身の薬指のペアリングを一つ抜くと、そのリングを蓮の左手の薬指に通した。

 

 ――ここまでされて断るほど、秋山蓮は男として枯れていなかった。

 

「つらくて苦しい毎日が待ってる。危険なことだってたくさんある。今までお前が築いてきた生活も全て捨てることになる。それでも、付いて来てくれるか?」

「はい。()()()

 

 今度は蓮から恵里を抱き締めた。

 今、秋山蓮は、地球上で最も幸せな男だ、と本気で思った。

 

 ――最愛の伴侶を得て、最高の戦友が待っている。蓮にはもう何も怖いものはなかった。

 

 蓮と恵里は手を繋ぎ合って『TEA花鶏』を出発した。

 

 

 男は新天地での闘いのために。女は闘う連れ添いを支えるために。




 木村生存にはこんなデバフが付いていたのでしたー。そりゃあライダーバトルの陥穽を突くんだからこれくらいはね。

 これにて「RIDER TIMEナイト 鏡面界廊のミラージュ」を完結といたします。
 拙作を読んで少しでも各キャラクターたちの掘り下げやその後を見たいと思ってくださる方がいらしたら、遠慮なくお声をお寄せください。

 拝読ありがとうございました(o_ _)o))
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