歳の離れた幼馴染のジムリーダーが二人。なにも起きないハズもなく…。
お久しぶりの方はお久しぶりです。最近どころか数か月以上パソコンに触れなかったので、既存小説の更新の前にリハビリで書きました。粗多いかもしれないです。哀しみ。
剣盾のワイルドエリア巡りが止まらない。ホント止まらない。
「オニオンさんは、なにか身体から甘いのが出ているんでしょうか。」
それは沈む夕日の茜色が町を染め上げる、夜の兆しが果ての空から訪れる時間帯の中で、突如として投げかけられた。
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「ポケモン」と呼ばれる不思議生き物が溢れるこの世界。その広い世界の片隅には俗に「ガラル地方」と称される地域があり、そこではポケモンバトルによるジムチャレンジと、その先に待ち受ける「チャンピオンカップ」が一大興行として盛大に栄えていた。
そんなガラルの中に数ある町の一つ「ラテラルタウン」。ジムの他にも有数の観光名所として名高い遺跡が挑戦者たちを出迎えるその町の、地元の人間でさえそうそう足を運ばない町外れの片隅で、二人の男女が…それもこの町を代表する「ジムリーダー」が向き合ってた。彼らの周囲には僅かな戦闘の痕跡が見られ、それは先程まで二人がポケモンバトルを繰り広げていた事実をうかがわせた。
そして冒頭の言葉を投げかけられたジムリーダー、オニオンと呼ばれた仮面の少年は、呆気にとられた様子で消耗したポケモンたちへの治療の手を止め、自分よりも頭二つ近くも大きな少女のジムリーダー・サイトウを見つめる。仮面越しでも困惑していることがわかるオニオンに対して、言葉を投げかけたサイトウの眼差しはどこまでも真剣で真っ直ぐであり、それが余計にオリオンを混乱させた。
「えっと…サイトウさん、疲れてるの…?」
「疲れ…?いえ、確かにオニオンさんは油断ならない相手でしたが、まだ然程疲れてはいませんよ。なんならもう一戦いきましょうか?」
「あっ、そっ、それならいいんだけどっ。…えっと……ボクが…甘い…?それは…戦い方、とか…?」
「いえ。オニオンさんは、なにか身体から甘いのを出しているのか?と思いまして。」
聞き違いという僅かな
オニオンとサイトウの関係は、歳こそ多少離れているが世間一般の認識で言えばいわゆる「幼馴染」にあたる(見た目は年上のお姉さんと少年のほうがしっくりきそうだが)。二人は同じ町で生まれ育ち、共に誰よりも強さを求めたトレーナー同士であった二人は当然の如くチャンピオンを目指したが故に、何度もぶつかり、やがて競い合うようにジムリーダーとなった。
オニオンにとってサイトウという
思っていたのだ。今のこの瞬間までは。
「……どうして、というか…なんで、そう思ったの?…いつから?」
「実をいうと少し以前から思ってはいました。オニオンさんはなんとなく"甘い"と。」
…だというのに、よもやそんな相手にマホイップの亜種みたいな存在として見られているとは思っていなかった。実のところサイトウの持つ自分とは違う種類の強さには、ある種の憧れと嫉妬もあっただけに、仮面の下では涙が出そうなオニオンだった。
そんな頭を抱えたい気持ちのオニオンを暫くジッと見つめていたサイトウだったが、不意にその視線は外され、手近な岩肌へとその背を預けると、次ぐ言葉を吐き出した。
「この間、一緒にシュートシティで一緒に観た映画を覚えてますか?」
「えっ……えっと、チャンピオンカップの後?……サイトウさんが、ファンの人から貰った……チケットで行った?」
「はい。その時一緒に行った映画で合ってます。」
唐突に言われて、オニオンはその日のことを思い出す。
それは先日のチャンピオンカップのすぐ後のこと。ジムリーダーとしては比較的落ち着いた時期に突入した頃に自宅に訪ねてきたサイトウが、同じ学校に通う自分のファンから映画のチケットを二枚貰ったので、折角なので一緒にどうかと誘ってくれたのだ。
その映画は最近話題になっていた学生同士の恋愛模様を描いた映画であったため、なんとなしに
またいつか行きたいなあと、ついこぼしてしまう。そんなオニオンを余所に、サイトウは続けた。
「どう、思いましたか。あの映画…あの主人公たち。」
「……?」
「私から誘っておいてなんですが、あの映画のチケットははじめ、処分するつもりだったんです。」
オニオンの返答を待たず、サイトウは切り出した。そのまま腰を下ろしたサイトウに倣うように、オニオンも隣にチョコンと腰を落とす。既に心をざわつかせた混乱はなりを潜め、その意識はサイトウの話にのみ向けられている。
空はすっかり夜色に染め上げられ、月のない夜に淡い星明りが瞬いている。星明りの下、サイトウは話を続ける。それは独白のように淡々と、とうとうと宙を漂い。矛先を向けられているはずのオニオンさえ、その言葉が誰に向けられているのかわからないような、おぼつかない響きを持っていた。
「私だってそうニブイ訳ではありません。あのファンの方が…彼が私に"どういった
「私が無知なのか。それとも、彼に興味がなかったのか。或いは、両方だったのか。一つだけ言えるのは、わかるのは、それを理解した上で間違っても私が彼を好きになることはないだろうという事実だけでした。
だから私は彼に受け取れないと、
「…捨てるのも忍びなかった。まして受け取ってしまった以上、あのまま逃げ去っていった彼と観に行くべきなのだろうかとも思った。
…でも、それだけはしたくなかったんです。やっぱりどうあっても、私は彼を好きになれないから。そして好きでない人に、好きになれない人と、形だけだとしてもこんな映画は観に行きたいと思えなかった。」
「いえ、もっとハッキリ言うと私は
———夜風に躍る、サイトウの言葉。耳を傾けるオニオンに言葉はなく、気付けば仮面の下の澄んだ瞳は縫い留められたように固定され、サイトウの横顔へと向けられている。対してサイトウ自身の瞳は虚空に向けられたまま、その眼差しには紡ぐ言葉と同じくらいにおぼつかない、
堅く鋭く速く強い「ガラル空手の申し子」と称されるサイトウの、普段とはまるで異なる姿。オニオンの知らないサイトウの一面。理解できていなかった少女の心。しかしソレを目の当たりにしたオニオンの心中には最早、最初に抱いたような混乱も恐怖もない。
ただ煙の如く不確かで、落葉のように揺れていて、ガラスみたいに砕けてしまいそうなその姿に、雰囲気に呑まれていた。淡々とした静かなる叫びに、聴き入っていた。
———呆然と、その危うい少女の美しさに魅せられていた。
「なぜだろうと、思いました。幸いにも、すぐに答えに行き着きました。…なんのことはありません。
————私、どうも一緒に観に行くのなら
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理解などとんでもない話だった。知り尽くしていたなどと、何を思い上がっていたのだろうと恥じる思いだった。
結局の所、
「我ながら、ヒドイと思ってます。恋愛ゴトなんてまるで門外漢。無知な癖に、自分でもわからない感情を振りかざして、他人から向けられた好意を私は壊した。返すこともきっとできたのに、しなかったんです。
そしてたまたま気付いてしまった自分のささやかな気持ちに、私はソレを利用したんです。」
「プロトレーナーとしても武人としても、こんなことは正しくはない。歳だって離れているし、そもそもオニオンさんは敬意を抱くべき好敵手です。油断なく、尊敬をこめて倒すべき強者を相手に、間違っても向けていい感情ではない。少なくとも、私はそう思っています。」
「…でも、ダメですね。一度気付いてしまうとダメなんです。だってオニオンさん、"甘い"んですもん。」
そこまで吐き出されてようやく、サイトウの視線がオニオンへと戻る。呆然と正面から受け止めるその眼光には普段感じる意志の強さなど微塵も見られず、初めて見るような少女の憂いが見て取れた。
気が付けばサイトウの手が伸ばされ、オニオンの小さな手に重なるように包み込んでいた。オニオンの固まった声帯がその伝わる温もりに解かれ、おっかなびっくりという危うさでようやく震える。
「……甘い、んですか…ボク。」
「私、知ってるでしょうけど甘いのが好きです。甘い物は、甘いという味覚は私にとって『幸せ』なんです。父の厳しい鍛錬の最中や、自分の掲げる"武"の方向を見失った時。不安や苦痛を、"甘い"は拭い去ってくれる。
だから私は甘いのが好きです。"甘い"は、『幸せ』なんです。大好きです。」
「どうして、ボク……なんですか…?……ボクは、全然……。」
「さあ?なぜなんでしょうね。わかりませんし、ひょっとしたら明確な理由なんかないのかも。でも私、きっと以前からボンヤリと思っていました。そう気付いてしまったら、自覚したら一気に"甘い"のが増しましたから…オニオンさんは"甘い"んです。
オニオンさんを考えると。話をすると。そしてバトルをしたって、この"甘い"は消えてくれない。どうしても消えてくれないんです。もう私、どうしても、オニオンさんは"甘い"と感じてしまうみたいです。」
「……ボクは、気付けなかった。…さっきのバトルでも、今までも、サイトウさんの…そんな、気持ち…。」
「ことバトルでそう易々と、心を乱したりしません。まあ我慢できずにこうして暴露してしまったわけですから、やっぱり私は未熟なんでしょうが。」
「そう、だから」と続け、サイトウが立ち上がる。つられて見上げたオニオンの視線の先で振り返ったサイトウの表情は、とてもスッキリしているようだった。
先程見せた危うさもなく、わかりやすく表現するならば"普段のよく知る強いサイトウ"に戻ったように見えたのだが、さっきの今でその感覚を信じられるほどにオニオンという少年は図太くはない。それでも、さらに続く言葉はオニオンを心底仰天させた。
「だからオニオンさん。今の私の話で、私の気持ちに答えを出す必要はありません。というか、答えたらダメです。ぶっ飛ばしてしまうかもしれません。」
「え……えぇえ!?な、なんで!?」
慌てて立ち上がるオニオン。そんなオニオンからツイッと顔を逸らす、より深く知れたようなそうでないような好敵手ことサイトウは、更なる理不尽の連撃を、容赦なく浴びせてくる。
「当然です。
まあそもそも暴露と言った手前、ひょっとしたらただの八つ当たりかもしれませんが。」
「無茶苦茶すぎません……!?」
「とにかくダメです。あんな告白は武人としてもトレーナーとしても、女としても認められません。」
「というか……今度はボクがもんもんとしそうなんですが……ッ?」
「ああ…いいですね。私の事でもんもんとするオニオンさんも見てるのと中々に"甘い"感じです。」
今日はもう何度目になろうかという混乱に、慌てて立ったオニオンはたまらずよろめいてパタパタと腕を振り回す。その様子を見つめるサイトウの顔は大好きなスイーツを頬張った時のように幸せそうに緩んでおり、やはり自分の感覚で物事を決めつけるのはよくないとオニオンは学習した。特にこの少女に限っては。
「私、結構ヨクバリなんですよ。だからそう、改めて告白はちゃんとしたいんです。公的な場で、次にオニオンさんとぶつかったとき。オニオンさんを倒して、私は告白します。信用してますが、手は抜かないでくださいね。」
「……抜きません。でもそれ、ボクが勝ったら……?」
「その時はまた次の時までオアズケです。でも私、必ず勝ちますよ。全力で、全壊に、オニオンさんを倒します。」
宣誓と紡がれる、強固な決意と必勝の誓い。少女としてのサイトウとジムリーダーとしてのサイトウの、真に交わった言葉。受けたオニオンは暫く沈黙していたが、不意にその手を自らの顔に———仮面へと伸ばす。
静かに驚くサイトウの前で、少女のようなオニオンの顔が露となった。澄んだ闇色の瞳がサイトウを映し、その決意を受け止めた上で言葉を口にする。
「ボクは、勝ちます。……一人のジムリーダーとして、敗けません。」
「……サイトウさんを…よくわかっていなかった。…未熟だった……幼馴染とは、もう呼べないかもしれない。」
「それでもボクは、アナタの
「だから、勝ちます。サイトウさんに、敗けません。」
「勝って……幼馴染以上の存在に、自分の力で…自分の口からなります。……だから…譲りませんし、その次なんて……こさせません…!」
力強く自分に言葉を放ったオニオンを前に、自分も目前の少年を理解しきれてはいなかったと痛感する一方で。硬直するサイトウの心を満たすのは、途方もない
「(そんな顔も出来たんですね。ああ、しかし。だからこそ)」
一見気弱で、ひ弱な外見の、同じ町の昔からよく知る少年。自分が愛するキテルグマよろしく全力の
とても敗けず嫌いなのだ。
「私が勝ちます。」
「ボクが……勝ちます。」
「勝って答えを引きずり出します。」
「勝って……ボクの、気持ちを…突きつけます。」
今までのように言葉を交わし、同じように二人は競い合う。しかしその一方で、今までとは明確に違うものもあった。否、正確にはこれから変わろうとしていた。
その予感を、変化を、向かい合う二人は確かに感じていた。そしてそれは二人のポケモンたちも感じられたのか、夜空の下で二人を遠巻きに見守りながらも、その戦意は高められていく。
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少女が勝って少年の答えを聞き出したのか、はたまた少年が勝って自らの想いをぶつけたのか。その結果が知れ渡るのは、もう少しばかり先の話。
だが勝敗がどちらであったにせよ、サイトウという少女の顔にあったのは笑顔であったことは語るまでもない。
時にトレーナーとしては不適切であっても。時に武人としては間違っていても。
その結果は一人の少女にとって、どんな
幸せな甘さに満ちていたのだから。
なお一番の推しはネズさんだったりしますが、この二人は妄想を刺激して仕方がない。甘いの。