だが城廻社の青春ラブコメはまだ始まったばかりだ。 作:松田らっきょう
俺こと城廻社《シロメグリヤシロ》は、現在生徒会の臨時庶務として生徒会に在籍している。
俺の一つ上の従姉である城廻めぐりが生徒会の会長であり、現在文化祭の前準備で人手が足りないということで、俺は半ば強制的に雑用を押し付けられている始末だ。一応各クラスから文化祭実行委員が選抜されるまでの臨時役員ではあるものの、俺は不幸にもその文化祭実行委員に無理矢理押し付けられたわけである。
クラスはお化け屋敷をするのだが、積極的にクラスの出し物に協力的でなかった俺はお化け役から外され、こちらでも半ば強制的に文化祭実行委員に選ばれてしまった。
こうなるのであればクラスにもっと協力しとけばよかったと後悔するが、ほぼ同時期にめぐりから生徒会に誘われたのが運の尽き。毎日働き蟻のごとく労働でとてもじゃないが、クラスにまで気が回らない。こうなるのもまた運命だったのかもしれない。
今俺は、生徒会室でパソコンに向かって事務作業を淡々と進めている。過去の文化祭に関する資料の整理をしているのだが、かなり乱雑にファイルが乱立されており、どの年もファイルを種類別に分けたり整理されていない。これでは過去の資料をもとに今年作成する書類等の参考にするにも探すにも時間がかかってしまう。
やれとは言われていないが、どうせ誰かがやることだ。今のうちにやってしまおうというのが俺の考えだ。
やるべきことはさっさと終わらせて、あとは遊ぶ。それが俺のモットーだ。
それにしても総武高校のノートパソコンのスペックの低さはどうにかならないものか。未だにVISTAなんて、8使ってる俺にとっちゃあ鈍足もいい所だ。責めてこのクソ重たいセキュリティソフトを消去したいとこだ。
「社くん、紅茶おねがーい」
「なんで俺が淹れなきゃならないんですか。他の役員使ってください」
「だって今、社くんと私しかいないよ?」
そう言われてパソコンの画面からスライドして周囲を見渡し、生徒会室に俺とめぐりしかいないことに気づいた。
俺が仕事しているのがわからないのか? それとも俺がパソコンで何か遊んでいるとでも勘違いしているのか?
まあ確かに、いつも面倒くさがっている俺が率先して仕事しているとは普通考えないか。ま、暇潰しでしていたことだし、別に紅茶の一つぐらい構わないか。
「わかった、わかりましたよ生徒会長」
そう言いながら俺はパソコンを閉じて、ポットがある方へ向かった。
適当にめぐりが好きそうな紅茶のインスタントを選んで、めぐり専用のコップに紅茶を淹れる。どうせだから俺も、コーヒーを淹れる。俺は苦いのが苦手なので、ミルクと砂糖を二つずつ入れた。
めぐりに紅茶を渡し、俺も自分の席に着いてコーヒーを一口。
「ところで、社くんは何やってたの?」
「あー、インターネット経由してエロ画像見てたました。めぐりさんも見ます?」
「あははー、遠慮しとくよー」
冗談のつもりだったのに本気にしてしまったのか、めぐりはちょっと頬を赤らめて後退りをした。
だいたい学校の回線を使ってそんなこと出来ないだろ。まあ、普通の一般生徒にはわからないか。
「それにしても、社くんはいつもコーヒー甘めだよね」
「コーヒーの苦い味が苦手なんですよ。飲めなくはないですが」
「子供だねぇ」
「子供で結構です。だいたい、味覚で大人かどうかなんて比べるのが可笑しいんですよ。コーヒーのブラックを好んで飲めるのが大人なら、俺は一生子供で結構です」
そう言って、俺は甘いコーヒーをもう一口飲んだ。
めぐりもチビチビと紅茶を飲んで、生徒会室に置いてあるお菓子の詰め合わせから一つお菓子を取り出し食べた。
「それと、いつまでめぐりさん呼びなの? たぶん、今日はもう私たち以外はここに来ないからいつも通りでいいよ」
「マジで? 今日って生徒会休みだっけ?」
「ううん、正確には今日も活動日だけど、文化祭の前準備は整ったから今日は休みにしてクラスに顔を出すように言っておいたの」
「それ、俺初耳なんだけど」
「うん、今初めて言ったから」
ふふっ、と含み笑みを浮かべてもう一口紅茶を飲むめぐり。どうもこの学校に入学してからこの人に調子を奪われっぱなしだ。事あるごとに俺を利用して利用し尽くしやがって。
「社くんにそれ言ったら、どうせクラスに顔を出さないで直ぐに帰っちゃうでしょ?」
「まあな。どうせ友達もいないし、クラスに居場所もないからな」
「それを私の前で言わないでよ。ちょっと悲しくなっちゃうじゃない」
事実、俺はこの学校に入学してから友達が一人もいない。理由はこの生徒会長様が、俺の貴重な放課後を生徒会の手伝いとして協力させられたからだ。これさえなければ、もう少しクラスに溶け込めたかもしれない。
まあ、かもしれないだけで、実際は俺の趣味にあう奴がいなかったんだけどな。
「そう言えば社くんのクラスの出し物はもう決まったの?」
「無難にお化け屋敷だってよ。おばけ屋敷のどこが面白いんだか、俺には理解できないよ」
「うーん、面白ければいいんじゃないかな」
「正直、この企画に参加してないし、お化け屋敷で一度も怖いって思ったことないからな。何が良くてお化け屋敷に入るか俺には理解できん」
「社くんって、ホントに驚かないよね。随分昔だけど、一緒に遊園地のお化け屋敷入った時も、微動だにしなかったもんね」
「そしてめぐりは驚きすぎて号泣したんだよな」
「まあね~。あの時はまだ小さかったし。今なら泣かない自信あるよ」
いや、今泣いたら色々とヤバイだろ。
確かに突然出てきてびっくりすることはあっても、どうせ人間や機械でできた人工物なのだから、そう怖がる理由がわからない。
「どうしたの、急に黙って。その目、もしかして私のこと疑ってる?」
「疑ってない疑ってない」
「あー絶対疑ってる。良いよ、じゃあ勝負をしましょう」
「勝負?」
なんか嫌な予感がする。めぐりの顔がいつにも増して妙な笑顔をしている。これは何かを企んでいる顔だ。
「今度お化け屋敷行って、私が怖がらなかったら、私の勝ち。勝ったら、一日私の奴隷ね」
「一日奴隷って、十分俺、めぐりの奴隷じゃね? このところほぼ毎日生徒会の手伝いだし」
「それはそれ、これはこれ。因みに私が負けたら、社くんの言うことなんでも聞くよ」
なんでもというのは、所謂何でもということか。18禁的なものでも可能ですかね、それ。
「……なんだか社くんから嫌な気配がするな~」
「気の所為だ、気の所為。よし、その勝負受けよう」
「う、何だか私、墓穴掘ったような気がする」
兎にも角にも、文化祭まで残り2ヶ月。
それまで仕事がまだまだあると思うと、気が重くなる。ま、めぐりの賭けも出来たし、少しは楽しい文化祭になることを願って、俺は半端な資料の整理を再開させた。