実は主人公の見た目とか全く考えてないので初投稿です
月夜の黒猫団は正直行き詰まっていた。
前衛を務められるメンバーがメイス使いのテツオしかおらず、相手の攻撃を引き受けられるタンク役がいないこと、それを克服するためのサチの前衛へのコンバートが上手くいかないこと。
それらの理由から戦闘を上手くこなすことが出来ず、レベリングもアイテム稼ぎも上手くいっていなかったからだ。
そんな中で彼女に出会えたのは幸運だった。
ユリと名乗った刀使いの彼女と出会ったのはモンスターとの戦闘中だった。
いつものように──情けないことであるが、いつもの事なのである──モンスターとの戦闘で苦戦していたとき、割り込んでその戦闘での前衛を務めてくれた。
1人増えただけであっさりと戦闘は終わった。
かつてないほどにスムーズに敵を倒せたことが嬉しくてそのまま狩りを続け、1日の狩りを終える頃には彼女にギルドに加わってもらいたいとメンバーの思いが一致した。
だから街に帰ってからの打ち上げの時に、前衛にコンバートするサチの指導するため、という名目とはいえギルドに加入してもらえたことは嬉しかった。想像していたよりもレベルは低いようだったが、自分たちとそう変わらないレベルでここまで強い人がいるというのは、むしろ嬉しい驚きだった。
次の日から、さっそく彼女をパーティに加えて戦闘を行なってみると、やはり前衛が2人いるというのは安定感が段違いだった。
今までに比べ圧倒的に楽になった戦闘を重ねていると、いつか攻略組に上がるのも夢物語ではないような気がしてきた。
ある日黒猫団のリーダーのケイタとユリが他愛無い話をしていると、攻略組が28層を突破したという知らせが入ってきた。
「ねえユリ、攻略組と僕達は何が違うんだろう?」
「うーん、情報力じゃない? あの人達は効率のいい狩場とか独占してるしさ」
「あー、そりゃそういうのもあるだろうけどさ。僕は意志力だと思うんだよ」
「意志?」
「仲間を……いや全プレイヤーを守ろうっていう意志の強さっていうのかな。僕らはまだ守ってもらう側だけど、気持ちじゃ負けないつもりだよ。もちろん仲間の安全が第一だ。でも、いつか僕達も攻略組の仲間入りをしたいって思ってるんだ」
そんな事を言い合っているうちに他の仲間達も集まり、和やかな時間が流れる。ああ、こんな時間がいつまでも続けばいいのに。きっとそれは、黒猫団の誰もが思っていることだろう。
そんな何もかも順調に行っていると思っていたある夜、サチが姿を消した。
サチが月夜の黒猫団から姿を消したのは深い考えがあった訳ではなかった。
ただSAOの戦闘や、それに伴う死の恐怖に耐えることが出来なくて。衝動的に最近ドロップした隠蔽能力持ちのマントとともに逃げてきていた。
目的もなく逃げてしまい、これからどうしようかと途方に暮れているサチの元に、彼女がやってきた。
「……ユリ?」
「見つけた。みんな心配してるよ」
そう言いながらサチの元へ歩み寄り、腰を下ろす。
「……ねぇ、ユリ。どうにかして逃げられないかな?」
「逃げる? 何から?」
「この街から、モンスターから、黒猫団のみんなから。SAOから」
「……自殺する気?」
「それも良いかもね……なんて、死ぬ勇気があるなら安全な街中になんて隠れてないよね」
そんな軽口が引き金になったのか、サチは抱え込んでいた不安を次々と口にしていく。何故ここから出られないのか、何故ゲームなのに本当に死ななくてはならないのか。
「私……! 死ぬのが怖い! 怖くて、この頃あまり眠れないの……!」
「大丈夫、貴女は死なない」
「どうしてそんな事が言えるの……!」
「黒猫団はしっかりと安全マージンも取ってる。それに前衛に出るのは私とテツオ君だし。貴女が無理して前に出てくる必要も無いよ。だから大丈夫、サチは死なない」
死なないと口にしてもらえるだけで安心出来た。彼女と共に黒猫団のところに戻って、それからも怖くて眠れない時には彼女のところへ行っていた。
貴女は死なない。その言葉を自分より強い彼女に言ってもらうことで安心して眠ることが出来た。
そんな日々を過ごして、ついに月夜の黒猫団は目標の一つであったギルドホーム購入の資金を貯めることが出来た。
ケイタがギルドホームを買いに行っている間に、みんなでお金を稼いで驚かせてやろう。そんな提案が出たのは、ユリが加入して以来スムーズに戦闘が進んでいたことによる気の緩みだったのかもしれない。
普段の狩場から更に上、最前線に近い27層の迷宮区を探索していた時、その事件は起こった。
ダッカーが隠し扉とその先にあるトレジャーボックスを見つけたのだ。
そして早速開けようとする彼に、ユリが異を唱えた。
彼女は、最初は理由をはっきりと口にしようとはしなかったが、それでは月夜の黒猫団のメンバーが納得しないということを察すると、とある秘密を明かした。
それは、彼女の本当のレベル。私たちの倍以上あるレベルと、攻略組にいた過去を明かした彼女が危険だと言うトレジャーボックスを開けようとは誰もしなかった。
もうお金も集まったし帰らない? と彼女が言って、帰ったらなんで隠してたのか教えろよ、なんてみんなで笑って、それで終わるはずだった。
目の前でユリが崩れ落ちた。
何が起きたのか理解出来ないままに他の黒猫団のメンバーも倒れ伏す。視界に表示されるアイコンを見て、ようやく自分達が麻痺状態になったことを察した。
だが、一体何故? そんな疑問は黒いローブを身にまとった3人組が現れたことですぐに解消された。
「初めましてだな、月夜の黒猫団の諸君」
リーダーらしき男が口を開いた。その間に残りの2人が手際よく拘束を済ませていく。
「なに、そう大した用事じゃ無い。ただ君達がギルドホームを手に入れたという話を聞いてね。俺たちに譲って貰えないか?」
何を馬鹿なことを言っているんだ──そう言い返そうとしたが、麻痺状態のせいで呻くような声しか出なかった。
こちらの返答を待つような相手のリーダーの所作がこちらの神経を逆撫でしてくる。
「ヘッド、ヘッド、そいつら麻痺ってるから口利けませんよ」
「ああ、それは申し訳ない事をした。ポーションを飲ませてやらなくっちゃぁいけないな」
そんなわざとらしいやり取りをしながら彼らはユリに近付き、ポーションを飲ませると黒猫団が入ってきた方向──つまりは迷宮区へと彼女を連れて行った。
黒猫団が受けた麻痺の効果が消えた頃、彼らは部屋へと戻ってきた。
……しかし、そこに彼女の姿は無かった。
「ユリを……さっきの女の子をどうしたの……!」
「お前らに、話す必要が、あるのか?」
取り付く島もないとはこのことか。彼らはこちらの質問には答えずに一方的に話し始める。
「先程君達のリーダーにメッセージを送らせてもらったんだが、全く取り合ってくれなくてね。だから俺達の本気を示すために君達に協力してもらいたいんだ」
そんな事を言って刃をダッカーに向ける。
「協力って……何をさせたいんだよ」
「なぁに、そう難しい事じゃないさ。ただ死んでくれればいい」
なんの気負いも見せず言い放つと、ダッカーの腕を切り飛ばした。
「あ? あ、あぁぁぁぁあ!! 俺の、俺の腕がぁぁあ!!」
「おいおい、SAOに痛覚は無いんだぜ? 男がそんなに泣き叫んじゃ駄目じゃないか」
男の言う通り、SAOでは痛覚は再現されておらず、たとえ手足が無くなろうと現実のそれとは違い時間が経てば元通りになる一種のバッドステータスでしかない。
だが、手足を切り落とされ嬲られているダッカーの姿を見て、そんな冷静な思考は出来なかった。
「な……なんで……!」
絞り出すような声をダッカーが出すと、そいつは攻撃の手を止めた。
「なんだ? 遺言か? 好きな言葉を残すといい。俺は優しいから、そのぐらいは待ってやろう」
「なんで俺なんだ……! 殺すなら他の奴でも……! お前らが連れて行ったユリでいいじゃないか!」
その言葉を聞いた途端そいつは、いや、3人とも笑いだした。
「聞いたか! こいつ、我が身惜しさに仲間を売ったぞ! ……そんな裏切り者には、罰を与えなくっちゃなぁ」
「ま……!」
ガラスの割れるような音が鳴り響く。この瞬間、ダッカーはSAOからも現実からもいなくなってしまった。
「さて、これで君達のリーダーも信じてくれるだろう。……駄目だったらまた殺すだけだがね」
私達はリーダーが早く来てくれることを祈るしか出来なかった。
「やあ、随分と早い到着じゃないか」
「……御託はいい、お前らの望みはこれなんだろう?」
そう言ってケイタは先程買ったばかりのギルドホームの鍵を取り出す。
「約束しろ、これを渡したら、もう僕達に手出しはしないと」
「ああ、約束しよう。それさえ渡してくれれば、俺は誓ってお前らに手出しはしないと」
その言葉を聞き、ケイタと男はアイテムトレードを行う。
「ふむ、確かに受けとった。……ジョニー、ザザ、殺せ」
そんな一言であっさりとケイタは殺された。何も成すことは無く、ただゴミのように殺された。
「さて、残った3人をどうするかな」
「せっかくだしちょっと遊ぼうよ、PoH」
そこに入ってきたのは紛れもなく彼女の、ユリの声だった。
「ユリ……なんでそいつらと仲良く喋ってんだよ……!」
「なんでって……私もこっち側だから?」
こっち側、つまりはユリもグルだったということなのだろうか。ユリは黒猫団を裏切って……いつから?
「いつから裏切って……私に、死なないって言ってくれたのも嘘だったの!?」
「え? 嘘なんてついてないよ。だって私、モンスターとの戦いで死なないって言っただけだし。
そんな事より、さっさと話を進めよう? そっちの2人なんてこのままじゃ不安だけで死んじゃいそうだし」
そして彼女が口にしたのは、殺し合えとのことだった。3人で殺し合って生き残った1人だけは見逃してやると。
「さっすが、姐さんはいっつもやる事がえげつねぇや!」
「……褒め言葉として受け取っとくよ、ジョニー」
「……どうせ、ケイタみたいに騙す気なんだろう? そんなんじゃ生き残ったって」
「心外だなぁ。さっきだって言葉通りPoHは手を出してないのに。分かった、じゃあ生き残った1人には私達全員が手を出さない事を約束するよ。これでいいでしょ?」
彼女の手により拘束が解かれた。一瞬、3人でかかれば逃げられるのでは、という考えが頭をよぎったが、トレジャーボックスの前で見せられた彼女のレベルを思い出し諦める。無駄に抵抗しても生き残る確率がゼロになるだけだ。
はい、よーいすたーと。なんて、気の抜けた彼女の声で、殺し合いが始まった。
「いやー、そりゃ近接戦闘出来る人が勝つよねー。失敗したなぁ」
「次やる時はハンデでもつけるか?」
俺は充分面白かったよ! だの、見てるだけは、つまらん、だの悪魔のような会話がテツオの目の前で繰り広げられていた。
「な、なぁこれでいいんだろう? 約束通り俺の命だけは助けてくれるんだろう?」
「そうだね、生き残りおめでとう。もちろん約束は守る訳ないじゃん!」
そう言って笑顔で足を切り飛ばす。
「ジョニー、後は好きにしていいよ」
「さっすが姐さん話がわかるぅ!」
ああ、こんな悪魔達の言葉を信じたのが馬鹿だった。そもそもこんな悪魔に関わった時点でもう命運は尽きていたのだろう。
最期にそんな事を考えて。黒猫団の最後の一人も殺された。
「よし! お疲れ様! ギルドホームも手に入ったし、私は帰るね!」
「まぁ待てよ。せっかく久しぶりに会ったんだ。もう少しゆっくりしていこうじゃないか」
そんな事を言うと、ユリは露骨に嫌そうな顔をした。
「……私、貴方達と一緒にいるところ見られたらヤバいんだけど。健全なグリーンプレイヤーで通ってるんだからさ」
「見られなきゃいいだけだろう? それに、元々カルマ浄化クエストまで一緒にやるって話だったじゃないか」
やだー! 私あのクエスト面倒だから嫌いー! などと駄々を捏ねる彼女の姿にも、それを見て笑う3人の姿にも、先程の酷薄さは残っていなかった。
アニメを見直したんですけど、月夜の黒猫団はAパートで全滅するし、ラフコフ組は圏内事件で3分ぐらい喋って終わるしでキャラが掴めない…こんなんじゃ二次創作になんないよ……
(全く関係ないけどゴブスレRTA読んでたらゴブリンをテクノブレイクで殺す性豪チャートってネタを思いつきました。誰か書いて♡)