SAO gルートRTA   作:らっきー(16代目)

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久しぶりすぎてこの小説を誰も覚えていないので初投稿です


おまけ7

「あれ、ユリさんだよな? 今日もソロでレベリングしてるんだな……」

 

 クライン達はメンバー全体のレベルを底上げするべく46層のアリ谷に来ていた。少しでも長くこのスポットを使えるように他のパーティと被らないであろう深夜を選んで来たのだが、既に先客がいたようだ。

 

 クライン達が到着して程なく狩り始めてから1時間が経ったらしく、この湧きが終わったら代わります、なんて声が聞こえてきた。

 

「俺今回の狩りは抜けるわ、やばくなったら呼べよ?」

「お? ユリさん口説きに行くんすか? 頑張ってくださいよ!」

 

 ちげぇよバカ、なんて軽口を叩いてクラインは狩りが終わった彼女の元へと向かった。

 

「ユリさん、また一人で潜ってたんですか?」

「ん、まあね。というか、私に構ってていいの? クライン」

「ええ、まぁ。ヤバくなったら助けには行くつもりですし。俺からしたら1人で何時間も戦ってるユリさんの方がよっぽど心配ですよ」

 

 これは本心からの言葉だった。ソロプレイヤーは確かに経験値効率だけで考えたらパーティを組むよりも良いだろう。しかし、SAOではゲームでの死は現実での死でもあるのだ。そんな中でわざわざソロプレイをしている彼女の事が心配でないはずがなかった。

 だが、そのクラインの言葉を聞いたユリは冷たく笑って言った。

 

「そんな建て前はいいよ。本題はアレでしょ? クリスマスのイベントボス。悪いけど、知ってたとしても情報はあげられないよ」

 

 違う、そんな事を言いたいんじゃない。そう言い返したかったが、きっとそんな事を言っても納得しないだろう。だから違う方向から説得することにした。

 

「情報じゃなくて……一緒にボスに挑みませんか? イベントボスがソロで倒せるような強さだとは思えないっていうか……」

 

 だがそんな事を言っても彼女は首を縦には振ってくれなかった。

 

「ダメだよ。私がなんて呼ばれてるか知ってるでしょ? 私と組んだら、きっと後悔することになるよ」

 

 およそ半年前、彼女の所属していた小さなギルドが彼女1人を残して壊滅した。

 たった1人生きて帰ってきた彼女は周りから腫れ物のように扱われていた。

 

 だが人の噂とは恐ろしいもので、いつの間にか"壊滅した"という話は"壊滅させた"と変化しており、彼女と関わったパーティは全滅するなどと言われ始めた。

 そこから彼女に付けられたのが──

 

「死神だなんて……そんなの俺達は──」

「君達が気にしなくても周りはそうじゃないよ。攻略組に行くんでしょ? だったら私みたいなのと関わってちゃダメだよ」

 

 じゃあね、と一言残して彼女は消えていった。そんな様子を見ていたのか、すぐにパーティメンバー達が話しかけてくる。

 

「ユリさん大丈夫……な訳ないですよね……せめてあんまり思い詰めないでくれればいいんすけど……」

 

「バカ、とっくに思い詰めてるよ。じゃなきゃ1人でイベントボスに挑もうなんて考えないだろうさ」

 

 そんな声を聞きながらクラインは考える。何か彼女を救う方法はないだろうか。たとえ、彼女に恨まれたとしても。

 

 

 

 

 日は流れ、12月24日。いよいよイベントボス出現の当日。クラインはアルゴから情報を貰っていた。

 

「クリスマスボスの出現場所の情報、確かに受け取ったぜ。それにしてももっと早く教えてくれても良かったんじゃねぇか?」

 

「もったいぶって悪かったヨ。でも万が一にも他の奴らに知られたくなかったからナ」

 

 その言葉を聞いて内心納得する。確かに、自分が情報を漏らしたせいで彼女以外の人にイベントボスを横取りされたら。そのために必死になっている彼女がどう思うかなんて考えたくもなかった。

 

「それで、本当に情報料はいらねぇのか?」

 

「アア、そんな金があるナラ回復結晶でも補充しときナ」

 

 鼠のアルゴとも思えないようなことを言う。そんな事を思わなかったと言えば嘘になるが、何のことは無い。彼女も友人のためなら信条を曲げる時もあるというだけだろう。

 

 情報を受け取ったクライン達はすぐに目的地へと向かう。

 今までレベル上げを怠らなかったことは確実に結果として出ているようで、雑魚エネミー程度に足を止められることも無く、スムーズに進むことが出来た。

 それが功を奏したのかは分からないが、ともかくイベントボスの目印となっている巨大なモミの木の前でユリと会うことが出来た。

 

「ユリさん!!」

 

 1人で奥へと進もうとしている彼女に声をかける。

 無視されるのではないかとも思ったが、幸いと言うべきか足を止めてこちらを振り向いてくれた。

 

「……クライン? 良くここが分かったね。てっきり私以外はまだボスの出現場所を知らないと思っていたんだけど。それで、何の用かな?」

 

「ユリさん、改めて言わせてもらいます。俺達と協力して、一緒にイベントボスを倒しましょう。蘇生アイテムが本当にあるのかどうかも分からないのに1人で命を懸けてまでやらなくてもいいじゃないですか」

 

 どうせ断られるだろうと、そう思いながらそれでも言わずにはいられなかった。

 だが、彼女から返ってきたのは全く別の事への言葉だった。

 

「協力してって言うのは、もしかしてその後ろの人達にも声を掛けてきたのかな? もしそうだとしたら、流石に付き合う相手は考えた方がいいよって言わせて欲しいんだけど……」

 

 そんな彼女の言葉を聞き、初めてマップに自分達以外の光点が表示されていることに気がついた。このような事態が起こらないようにアルゴは情報を可能な限り伏せていたというのに、それを台無しにしてしまった自分の愚かさに、クラインは自分を殺したいほどに憎んだ。

 

 近付いてくる彼らが何者であるのかは、表示されるアイコンから直ぐに察する事が出来た。

 

「聖竜連合……!」

 

 それは考えられる中で最悪と言ってもいい相手であった。

 効率のいい狩場の独占、情報の秘匿、一部の過激派は利益のためならオレンジ化すらも厭わない。最大ギルドである聖竜連合はそのような悪名も持っていた。

 

「道案内ご苦労、おかげで何の苦労もなくここまで来れたよ。あとはさっさとそこをどいてくれたらこちらも手荒な真似をしなくて済むんだが」

 

 こちらに近付いてきた男が口にしたのは、そんな神経を逆撫でする様な言葉だった。

 俺達が、彼女がどんな思いでこのボスを倒そうとしているのかも知らないくせに。

 自分達はまだいい。尾行されるような隙を見せたのも、それに気づかなかったのも自業自得と言われても仕方ない。しかし、だからこそ彼女の邪魔をするのは許せなかった。

 

「……ユリさん、ここは俺達が食い止めます。だからユリさんはボスの所へ行ってください」

 

 こんなことで責任が取れるとは思わないが、それでもそんなことを口にするのが精一杯だった。だが、彼女から返ってきたのは思いもよらない言葉だった。

 

「……有難いけど、逆にしよう、クライン。私が引き受けるから君達はボスの所へ行きなさい」

 

「な……いや、でも……」

 

「言い争ってる暇なんてないでしょ。そんな時間があるならさっさと行ってボスを倒して私に楽させて欲しいんだけど」

 

 あれだけ固執してたボスを何故譲ってくれるのかとか、そもそも1人でどうやって止める気なのかだとか、聞きたいことは山ほどあったが何も言えず、ボスのいる方へ走ることしか出来なかった。

 ただ、死なないでくださいと一言だけ残して。

 

 

 

 

 

「黙って行かせてくれるなんて、最近のハイエナは躾がよく出来てるんだね。感心したよ」

 

「なぁに、こちらとしてももっと弱らせてから行った方が楽できるからね。まぁお前みたいな小娘には理解出来ないかもしれないが、頭のいい戦い方ってのはこういうことだよ」

 

 笑うという行為は本来攻撃的な意味を持つとどこかで聞いたような気がする。私達の今の様子を考えるにあながち間違いでも無さそうだ、なんてぼんやりと考える。

 

「それで、あんたは何時になったらそこをどいてくれるんだい? それとも本当に1人で俺達を食い止められるとでも?」

 

 あぁ、虫が不愉快な羽音を立てている。能うことなら今すぐにでもその口が二度と開かぬようにしてやりたい。

 勿論今はそんな事をするべきでは無いことぐらいは分かっている。だが、少し遊ぶくらいなら構わないだろう。

 

「……ねぇ、どうせあなた達も時間を持て余してるならちょっと私と遊んでいかない?」

 

「遊ぶ?」

 

「別に大したことじゃないけどさ、私とデュエルしない? それで、もし私がそっちの全員に勝てたらこのまま邪魔しないで引き返して欲しいな」

 

「……こっちが勝ったら?」

 

「その時は私の全部をあげるよ。アイテムもコルも望むなら体も。好きにして構わないよ」

 

 この世界では女性というだけで希少だ。その中で美人と言えるような人間など、顔がリアルの物に戻されているSAOではそうはいない。だからこそ私という存在も立派な交渉の道具となっているのだから茅場に感謝の1つでもするべきなのかもしれない。

 

「へぇ、面白そうだ。乗ってあげるよ。僕は優しいからね」

 

 案の定釣れたようだ。どうせ負けても数に任せて反故にすれば良いとでも思っているのだろうけど。油断してくれる分には構わない。

 

「じゃあ早速始めさせてもらおうか」

 

 向こうからデュエルの申請が送られてくる。下卑た笑みを浮かべる目の前のゴミも周りの虫も、自分達が負ける事など考えもしていないように見える。

 

 いや、案外本当にそうなのかもしれない。今まで大した挫折もしたこと無くて、それなりに上手くやってきて。なんとも羨ましい限りだ。

 

 だからこんな風になんの警戒もなくソードスキルで突進してきて──

 

 こうして私に足を切り落とされるのだろう。

 

「は……? え……? なにが……」

 

 地面に倒れて、まだ状況を呑み込めていないソレの首に刀を添える。

 

「ねえ、半分を切るまで終わらないデュエルで、一気にHPの残りを削り切られたらどうなっちゃうとおもう?」

 

 その言葉でようやく思考が現実に追いついたのか、ガタガタと震え出す。

 

「ま、まってくれ! こ、こうさ──むぐぅ!?」

 

「え? なぁに? そんなもごもご言われても分かんないから、もっとはっきり喋ってくれなくっちゃあ」

 

 発声出来ないようにするだけで生殺与奪を握れるのだからやはりゲームというのは便利なものだ。

 それにしても、自分より恵まれた人生を過ごして来たであろう人間が惨めに、無様に震える様は──言葉では言い表せないような感動をもたらしてくれる。これが現実だったら、下着を替える必要があるくらいには。

 

 それはそれとして、さっさと遊びのための場を整えなくては。

 そのためにもさっきから周りで見ている観客達にはご退場願うとしよう。

 

「ねぇ、この人の命が惜しかったら、あなた達全員転移結晶でも使ってここから消えてくれない? そしたら……まあ、命は助けてあげるからさ」

 

「な……! ふざけるな! そんな要求が通るとでも──」

 

「だってさ。まぁ恨むなら自分の人望の無さを恨んだらいいんじゃないかな。……最期に何か言い残しときたいことはある? ……だから、むーむー言われてもわかんないんだってば。ま、いっか」

 

 刀を振りかぶる。無茶な姿勢でも片手でも、ステータスさえ足りていれば首を落とせるのだからやはりこの世界は素晴らしい。

 

「待て! 分かった! 要求を飲むからその手を下ろしてくれ!」

 

 ギリギリの所で刃を止める。まったく、無駄に手間を取らせないで欲しいものだ。

 

「おっけー、じゃあさっさと帰ってよ。行先は、まぁどこでもいいからさ」

 

 しばし転移結晶を使って消えて行くのを見守る。さて、これで準備は終わりだ。あとはクライン達が帰ってくるまで少しでも愉しむとしよう。

 

「さてひとりぼっちになっちゃったリーダーさん。一つ聞きたいんだけど、SAOに部位破壊ってどのくらい細かく設定されてるか知ってる? ……いや、私も知らないんだけどさ。折角だから今から調べてみようと思って。大丈夫! SAOには痛みもないし、回復結晶もいっぱいあるから死ぬことはないって! ……じゃあ、はじめよっか」

 

 あは。

 

 

 

 

 途中から元気が無くなってしまった彼に転移結晶を握らせて帰らせる。名残惜しいがそろそろクライン達が戻って来るだろうから。流石に彼らにこんな場面を見られる訳にはいかない。

 

 少々待って、森の奥から彼らが姿を現した。

 

「……ユリさん、アイツらは?」

 

「ちょっと話し合って帰ってもらったよ。それより随分と気落ちしてるみたいだけど……やっぱりガセネタだったのかな?」

 

「それは……いや、見てもらった方が早いですね」

 

 その言葉と共にアイテムが投げ渡される。還魂の聖晶石という名のそのアイテムは、蘇生アイテムではあったものの制限のついたものであった。

 

「……それは差し上げます。なんて……そんなもんじゃ今回のお詫びにもならないでしょうけど……」

 

 体良くゴミを押し付けられた気もするが、くれると言うなら貰っておこう。

 ここでやることも全て終わった。さっさと街に帰って寝るとしようか。だが、その前に。

 

「クライン……もし、クライン達が攻略組まで上り詰めたら……その時は私も前線に戻るから。だからこんな事で心を折らないで」

 

 精々私のために働いてくれ。

 

 

 

 

 時はやや流れ50層のボス攻略中、中層でも動きがあった。

 どこかの誰かから情報屋に届けられた記録結晶に映っていたのはギルドが1つ、皆殺しにされる光景。

 

 恐ろしいことにそれを行った集団にはなんの要求も主張もなかった。

 

 理由もなくただ楽しむために人を殺す。これ程脅威となる存在も無いだろう。

 

『俺達に未来は要らない。俺達は過去を振り返らない。ただ今を愉しむだけだ』

 

 その集団は、ラフィンコフィンと名乗っていた。




色々あって小説の書き方を忘れちまったよ…

ところでRTA小説も増えてきたけど、1話ごとにおまけをつけるタイプは少ないですね。あんまり人気ないのかしら?

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