陰茎が苛立つ…!
ギルド、ラフィンコフィン。彼らを含めてオレンジギルドというのはSAO内に幾つかあるが、ある一点においてラフィンコフィンは他と異なっていた。
それは、人を殺すという事への忌避感。アイテムを奪う、原始的な欲求を満たすなどの目的の為に犯罪を犯し、結果として殺人を行ってしまうという事はSAOにおいては有り得ないことでは無い。
しかし、彼らは違った。彼らは手段として殺人は用いない。彼らにとって殺人は目的であるからだ。
いつしか、彼らは他のオレンジギルドと区別されるようになった。彼らに相応しいのは犯罪行為を行ったプレイヤーを指すオレンジでは無く、別の色であると。
レッドギルド、ラフィンコフィン。プレイヤーの返り血に塗れた、SAO最悪の組織である──
「それじゃあ、早速だけど対策会議を始めさせてもらう」
そう言って音頭を取りだしたのは聖竜連合のリーダー、ディアベルだ。
この場には他にも血盟騎士団のヒースクリフ、風林火山のクラインといった攻略組の中核を務めるギルドのリーダー達が集まっていた。
「今回ボス対策でもないのに集まってもらったのは、中層ギルドの治安について情報共有と対応を皆で考えたいからだ」
そう言ってディアベルは中層プレイヤーからもたらされたという情報について話し出した。プレイヤーからのアイテムの強奪から快楽殺人まで。ありとあらゆるオレンジプレイヤー達の集合体、ラフィンコフィン。彼らによる被害が──つまりは彼らにより殺された者の数が急激に増加しているという。
「推測だが、軍が壊滅したのも関わっていると思う。彼らは良い組織とは言えなかったが、それでも最低限の治安維持を行ってはいたからね。あいつらが内紛で消えちまったせいで、オレンジプレイヤー達が勢いづいているんだろう」
その言葉を受けて会議に参加している者たちに動揺が走る。一部の軍壊滅を知らなかった者と、信じていなかった者達だ。
「なぁ、話を中断して悪いんだが……その、軍が壊滅したって言うのは本当なのか? あんなでかい組織がそんな数日間で消えたりするとは思えないんだ」
「残念だが事実だ。現に生命の碑では、俺が知ってる軍のメンバーは全員横線が引かれていたよ。疑ってるのなら、あんたも見てくるといい」
発言者はその言葉に返事も無く席に戻った。ショックを受けたのかまだ信じていないのか、どちらでもいい事か。これからの話には関係ないのだから。
「他に何か言いたい事がある者は? ……いないようだから、続けさせてもらう」
そう言って幾つか現在ラフィンコフィンについて分かっていることを──と言っても、それほど詳しく伝わってきている訳では無いので大した情報量では無かったが──述べたあと、話は今後の方針をどうするかへと移った。
つまり、中層プレイヤーへの被害を食い止める事を最優先とし、すぐにでもラフィンコフィン討伐の為に動き出すべきか、それとも攻略組への被害を減らす為にも可能な限り相手の戦力についての情報を集め、時を待ち討伐へと移るべきか。
結論は直ぐに出た。当然後者だ。そもそも相手の規模も本拠地も分かっていないのに討伐を起こせる訳が無い。仮に攻略組やその周囲に被害が出ているのなら無理をしてでも潰しに行ったかもしれないが、まだ被害は中層プレイヤーだけなのだ。
結局、情報屋ギルドにラフィンコフィンの本拠地、規模、中核となるプレイヤーなどの情報を攻略組として依頼するという事で決まった。
時間の無駄であったと言ってもいいような会議の後、その士気の低さとは裏腹に、驚くべき早さで情報が集まりだした。
ラフィンコフィン所属プレイヤーの集まる拠点、彼らの人数やそのレベル帯、使っている武器のグレードなど。
そんなにも情報が都合良く入ってくるはずがない、そのような冷静な判断が出来るプレイヤーは攻略組には少なかった。
自分達がその気になれば中層プレイヤーの集まりなど直ぐに潰せる、そのような意識が攻略組の中に蔓延していたからだ。
他のプレイヤー達とは違い自分達だけがSAOを攻略しているのだという選民思想、モンスターという決まったルーチンでしか動かない敵との戦い、そういった物が攻略組の思考を鈍らせていた。
ちなみに真実は私が自分で情報屋にラフィンコフィンの情報を流しただけだ。まぁ私からの情報だと疑われないように工夫しながら流させてもらったが。
自分でラフィンコフィンのメンバーに対して居場所も装備も指示して、それを攻略組に対策させる。酷いマッチポンプだと少し笑っていると、情報が十分に集まったということで再び対策会議が開かれることとなった。
「さて、まずは集まってくれてありがとう!」
音頭を取っているのは前回から変わらずディアベルだ。まあ他に大人数を纏められるような人物が居ない以上当然の成り行きではあるが。
「それともう1つお礼を言いたい! みんなのおかげで予想以上に早くこうして2度目の対策会議を開くことが出来た! みんながこの問題に真剣に向き合ってくれた事の証明だと思う! 本当にありがとう!」
実際に真剣に取り組んでいた者は果たして何人いるのだろうか? マッチポンプをしていた身としては茶番にしか見えず笑いが込み上げてくる。存在するかも分からない、実に大したみんなじゃないか。
そう考えてみればこの対策会議とやらも滑稽な物にしか思えなくなる。大人しく聞いている木偶の坊共も、尤もらしい顔で喋っているディアベルも、誰も彼も自分の身を危険に晒してまで他人の為に戦おうなどと思っていないだろう。
その癖に真面目な面をして如何にも深刻そうに顔を突き合わせて話し合っているのだ。全くどれだけ善人を気取りたいのだという話だろう。
せめてもの救いは、今回の中心になるであろう2大ギルドのリーダーの頭は、恐らく冷えたままであろうということくらいか。
しかしそれも、ディアベルの扇動に対して何の動きも見せないヒースクリフ、という時点で会議の流れは決定づけられている。このままディアベルの思い通りになって終わりだろう。それがどんな結果を齎すかは……まあやるまで分からない事だ。
どうでもいい事を考えつつ、作戦の細かい所を頭に叩き込む。当然ラフィンコフィン側に情報を流すためだ。
どうせ誰も本気のやる気なんて持っていないのだ。だったら私のために踊ってくれよ。
退屈な会議も終わり、ラフィンコフィンのメンバーの下へと向かう。尤も、ここに居るのは死んでもらって構わない、どうでもいい奴らだけだが。
先程の会議で決まっていた事──攻略組が攻めてくる時間や、凡その人数、相手の侵入予定経路など諸々の情報を伝える。
攻略組が攻めてくるとなったら少しは怯えるのではないかと思っていたがそんな事も無さそうで一安心だ。態々攻略組へ敵愾心を持っている人間を集めた甲斐があったというものだ。
無論全員が全員という訳ではないが、全体の過半数がやる気を出せば残りも自然と引っ張られていくだろう。
必要な事を伝え終わったら後はもうやることも無し。戦闘は任せてさっさと帰ってダラダラと過ごす……といきたいところだが、そうもいかない。
何故なら、信用出来ないからだ。この中の何人が死ぬまで戦うだろうか? 仲間の内から死人が出た時に何人が逃げずに踏みとどまるだろうか?
答えは分からない。だからこそ統制するナニカが必要だ。
人を従える方法など愛されるか、畏れられるかのどちらかだ。だから、恐怖で支配しなくては。逃げ出しそうな奴を予想して、いざそうなったらさっさと殺せるように準備しなくては。全てはより多くの死の為に。
討伐戦当日。戦争の始まりは、攻略組からの降伏の使者からだった。
大人しく従えば命までは取らない。1度戦闘が始まってしまえば命の保証は出来なくなる、そうなる前に大人しく降伏してくれと、そんな有難い提案をしてくれたお礼にそいつを血祭りにしてやろうとしたが、1発攻撃を当てたところでさっさと結晶で逃げてしまった。
それから間もなくゾロゾロと害虫……いや、攻略組の面々がやって来た。
ここにいたって、最早言葉も必要無い。戦いの始まりだ。
SAOにおける人間同士の集団戦は、一言で言ってしまえば地味だ。
SAOの華といえばソードスキルだが、集団戦においてはただ隙を晒すだけの悪手となる。攻略組は経験からそれを察していたし、此方の低脳達には予め言い聞かせておいた。
その結果が、今目の前で繰り広げられている原始的な殺し合いだ。
レベルで劣るラフィンコフィンと、殺意で劣る攻略組の戦闘は、はっきりと言って見てて楽しい物では無かったが、やがてその膠着状態も破られる時が来た。
一際派手な音と共に一気に減るHPゲージ。当たり前のことだがダラダラとした戦いでも運次第でクリティカルヒットは出るらしく、音の方へ目をやれば危険域とされている赤色になるまでHPを減らした奴が1人居た。
周りの目が集まっている事に気がついているのかいないのか、そいつは悲鳴を上げてその場から逃げ出して、転移結晶を取り出してどこかに逃げようとして。
逃がす理由もないから、首を跳ねてそいつを殺した。
ガラスの割れるような音と共にポリゴン片に包まれる。馬鹿共が手を止めて此方に視線を向けてくる。
──ああ、ひたすらに苛立つ。逃げられると思ったグズにも、絶好の機会にアホ面下げて一緒になって此方を見ている馬鹿にも、今更1人死んだぐらいで呆気に取られている攻略組にも……全てが腹立たしい。
逃げたら殺す。降伏しても殺す。死にたくなければ目の前のそいつ等を皆殺しにしろ。
そんな簡単な命令を下す。本気かどうかは先に死んだ1人の末路を見れば流石に全員理解したようで、弾かれたように戦闘が再開した。
どこかでまた誰かが死んだ音がする。士気の差でレベル差を覆したのか、今度は攻略組の方から死人が出たらしい。都合のいい展開だ。出来ればこのまま拮抗して殺し合って欲しいものだが。
そう上手くはいかないようで。仲間の中から死人が出て士気が上がるのは攻略組も同じだった。気迫と相手が死んでも構わないという心持ちの差で優位に立っていたのに、それが同条件になってしまえば最早此方に勝ち目は無かった。
じわりじわりと死人が増え始める。それに伴って恐慌じみた勢いを持って襲いかかるが、それでも敵わないようだ。まあ元々勝てるなんて期待していた訳でもない……というか、何かの間違いで勝たれてしまったらその方が困る。少しでも死ぬ前に攻略組の中の使えない連中を間引いてくれればそれで十分だ。
眺めているうちに最後の一人がポリゴン片へと変わる。少しぐらい途中でも私にかかってくると思っていたが、予想は外れた。貴重な攻略組を減らさずに済んで良かったと考えるべきか、間引く機会を失って残念だったと考えるべきか。
そんな事を思っているうちに攻略組に取り囲まれる。向こうとしても戦闘に関わろうとしなかった私にどう対応するべきか悩んでいるのか、暫し膠着したまま時が流れる。現実だったらこのように取り囲まれた時点で逃げる事は不可能だろうが、この世界では違う。まだ正体もバレていない事だし。
「転移──」
「逃がすか!」
さっさと帰って終わりにしようと、転移結晶を取り出したところで妨害が入った。
戦いに酔っただけか、正義感からか。それは分からないし分かろうとも思わないが、1人飛び出して来て斬りかかってくる馬鹿がいた。
グリーンカーソルに攻撃するというのがどのような結果を招くのか、流石に知らなかったということは無いだろうが、兎も角結果を刻み込んでやる事にした。つまりは、ポリゴン片の仲間入りだ。
周りが呆然としている間に、今度こそ逃げさせてもらう。転移先は……別にどこでも良いだろう。
兎も角これで、ラフィンコフィン討伐戦は終わりだ。SAO最悪のレッドギルドは、見事全滅という終わりを迎えた訳だ……表向きは。
「やっほー、PoH。久しぶり? そうでもないか」
アインクラッドのとある層にある、とあるBAR。ここでは珍しい事にアルコール飲料に極めて近い飲み物が提供されている。勿論現実の体がアルコールを摂取出来るわけではないので酔うことは出来ないが、気分としてはかなり近いものを味わうことが出来る。
そこで待ち合わせていた相手──PoHの隣に座り、お土産を差し出す。
「はい、記録結晶。貴方も見たいでしょ? 猿共の殺し合い」
私の言葉にヒュウと口笛を吹いて結晶を受け取ると、早速映像を再生し始めていた。
ニヤニヤと笑いながら映像を見るという不審者にしか見えない状態なのに、ある程度様になって見えるのは顔が良いからだろうか? 今まで色々と得をしてきたのだろうな。私もあまり人の事は言えないけれど。
出来れば今後の事についてもさっさと話しておきたかったのだけれど、愉しみを邪魔するのも悪いだろうか。そんな考えからまた出直そうと店を出ようとしたところで呼び止められる。
「おいおい、待てよユリ。どうせこの後暇だろう? 今夜、どうだ?」
「冗談。獣姦趣味にでも目覚めたの?」
アジア人嫌いの生粋の差別主義者が何をほざいているのか。どんな目に遭わされるか分かったもんじゃないそんな誘いに乗ろうとは思えない。そういう事をしたいと思わないというのもあるが。
「つれねぇなあ。だったら酒ぐらい付き合ってくれよ。愉しみは共有した方が味わい深いだろう?」
「……まぁ、いいけど」
ドアがどうたらとかいう心理学の言葉が頭に浮かんだ。そのぐらいの事は自然体でやっていそうな男だ。行動を操られるのは御免だと言いたいところだが、このぐらいなら別に構わないだろう。……この思考まで読んだ上での口説きだったりするのだろうか?
果たして事実がどちらかなのかは分からないが、今回は一先ず乗せられてやるとしよう。
数少ない同じ愉しみを持っている相手なのだから。
75層以降のオリジナルボスを25体分も考えられる程頭は良くないのでここから先は巻で進んでいきます…つまりもうすぐ完結させます。
本編(15/n)ぐらいには終わらせたい所存、うちはあっさり目でRTA小説やらせて貰ってるんで…