【完結済】SAO gルートRTA   作:らっきー(16代目)

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小説の書き方忘れたので初投稿です


おまけ13-3

 SAOにおいて、安全圏というのは絶対的なものである。少なくとも、プレイヤー達はそう信じていた。だからこそ命の危険が僅かでもあることに耐えられなかった者たちははじまりの街に引きこもることを選んだし、普通にプレイしている者たちも街に戻れば枕を高くして眠ることが出来る。

 

 それが覆ることがあるとすれば、それは現実世界の肉体の衰弱だとか、しっかりと安全マージンを取った上でのモンスターの戦闘だとか、そういったものとは段違いの命の危機であり、全プレイヤーが恐慌状態に陥りかねない。

 

 その危機感は容易く共有出来るものであり、だからこそ情報屋という一癖も二癖もある人種達を1つの目的の下に団結させた。

 

『95層の攻略と同時に安全圏が消失する』

 

 とあるプレイヤーからもたらされたその情報を聞いて、情報屋達の抱いた目標は実に単純明快で、この危機によって非攻略組であるプレイヤー達を死なせないようにすること。それだけである。

 

 最前線の攻略組プレイヤーと違って、中層で活動している者たちは基本的に命の危険というものからは遠ざかっている。死者が完全にゼロという訳では無いが、きちんと安全マージンを取った攻略──階層を進めないものを攻略と呼んでいいのかは分からないが──をしていればHPがゼロになることなどそうそう無いからだ。

 

 とはいえそれも安全圏という前提があってこその話。街に戻ってもモンスターが襲いかかってくるとなれば睡眠もとれなくなるし、アイテムの補充も難しくなる。下手をすれば武器の耐久値が足りなくなってモンスターの群れの中で無手になるという事すらありうる。そうなれば普段は雑魚としか思っていないモンスターに嬲り殺されることになるだろう。

 

 そして、低層プレイヤー達については最早論じるまでもない。元より外のモンスターと戦えば死んでしまうという怯えからはじまりの街に引きこもった集団だ。安全圏が消失すればパニックになったままその怯え通りになるのは目に見えている。

 

 それを防ぐために情報屋達がやったことは攻略組を除く全プレイヤーをはじまりの街へと集めること。元々初期の一万人が集まっても問題が無い広さの街だ。プレイヤーの数が大幅に減った今となればむしろ余裕があるぐらいである。

 

 とはいえ引きこもっている者達はいいとして、中層でそれなりに楽しんでいるプレイヤー達がおとなしく指示に従ってくれるのかという懸念はあった。安全圏の消失となればきっと護衛のような役割を任せることになるがそれを果たして受けてくれるだろうかという問題も。

 

 だが。思わぬことに大半の中層組は情報屋達の申し出を快諾してくれた。その要因は大きく二つ。

 

 一つは、彼らだって死ぬのはゴメンだという当たり前のこと。安全な冒険で暇潰しならともかくとして、暇潰しの為なら死んだっていいという人間は居たとしてもごく少数だろう。彼らは己の安全のため、モンスターが群れで襲ってきても安心なエリアに行くことを受け入れたということだ。

 

 二つ目は、はじまりの街の変貌だ。

 とあるギルドによってSAOで最大の歓楽街と化したこの街ではコルさえあるのなら最上層まで行こうと絶対に味わえない愉しみも味わうことが出来る。少なくとも男性プレイヤーに関しては移住への抵抗が薄かった大きな理由だろう。(とはいえ身売りに関しては快く思わないプレイヤーは──情報屋の中にも──居たが、数には勝てず意見は封殺されている)

 

 結論から言って、攻略組を除く全プレイヤーのはじまりの街への移住は成功した。

 

 とはいえこの人口の急激な増加によって元々はじまりの街に居た引きこもりプレイヤーとの摩擦が発生するのだが、情報屋達はそこまで感知することはなかった。何故かと言えば単純で、引きこもり達からすれば今まで吸えていた甘い汁を取り上げられることになったのは人口が増えたせいであり、つまりは情報屋のせいであったからだ。そんな相手に何一つ話すことは無いと口を閉ざし、中層組からすれば引きこもりの臆病者がどうなろうと知ったことではないのだからわざわざ摩擦を報告することは無い。無論その両者から不満を聞き出し、そそのかしているとあるプレイヤーのせいでもあるのだが。

 

 ともかく一仕事──それもかなり大きな──を終えて一安心していた情報屋達。最前線の攻略は最早攻略組に一任され、かといってはじまりの街周辺の情報など今更集めるまでも無い。さてどうするか……というより、どうやって暇をつぶそうかと悩み始めた頃に、安全圏の消失を伝えたプレイヤーから緊急事態とだけ書かれた文に位置座標を加えたメッセージが届いた。

 

 まもなく95層の攻略に取り掛かろうかという頃。まさかここにきて何かしらの見逃しがあったのか、それともはじまりの街にプレイヤーを集めたことが何かしらの問題を引き起こしたのか。それぞれに疑問を抱えつつも集合場所へと急ぐ。街ではなくフィールドを指定されているのが妙と言えば妙であったが、20層台という低層であったことから特に危機感を抱くようなことではないと結論付けられた。

 

「……お集まりありがとう。知っている人もいるとは思うけど一応自己紹介。私はユリ。元攻略組で、今回皆を集めた張本人」

 

 ダンジョン奥の小部屋。壁を背にしながらずっと、『最後の一人が来るまで話せない』と譲らなかった彼女が喋り始めた。情報屋達の数まで把握しているというのは恐るべきこと……でもない。なにせ情報屋のトップとでも言うべきネズミの知人であるのだから。

 

「なんでもいい。緊急事態なんだろ? とにかくそれを早く話してくれ」

 

 どこかから野次が飛ぶが、それもまあ致し方ないことであろう。彼らとて自分たちの情報で数多くのプレイヤー達を救ってきたという自負がある。それがひっくり返るような事態を掴めなかったとなれば恥さらしどころの問題ではない。

 

「そう? じゃあさっさと済ませちゃおうか」

 

 衆目の元彼女がパチンと指を鳴らす。それと同時に一番後ろ……一番小部屋の入り口の近くに居たプレイヤーの首が宙を舞った。

 

「……は?」

 

「最期の時間だから……って思ったけど、そんなに早く死にたいなら別に、いいかなって」

 

 首を飛ばされたプレイヤーが消滅すると共に、集団がやってくる。共通しているのはとあるタトゥー。

 

「ラ、ラフィン……! PoH……!」

 

「珍しいね。わざわざ出張ってくるなんて」

 

「偶には獣狩りもいいだろう? 体がなまっちまうしな」

 

 黒ポンチョにフード。情報屋であるからこそその人物が誰であるのか……そして、自分達が絶体絶命であるということが理解できてしまった。

 

「て、転移……!」

 

 それでも咄嗟に転移結晶での離脱を選択できたのは賞賛されてよいことであろう。衝撃による思考停止をしていれば即座に狩られていただけであるのだから。しかし。

 

「無駄無駄。わざわざ場所を指定した意味を考えなよ。結晶無効化空間。わかるでしょ?」

 

 こと対人戦に限って言えばラフィンコフィンのメンバーを上回る経験を持つプレイヤーなど存在しないだろう。そして彼らのレベリングは元攻略組のアドバイスの下行われている。要は、ここに来てしまった時点で情報屋達の命運は決まってしまったということだ。

 

「やめろ……やめてくれ! た、助けてくれ!」

「なんでこんな……!」

「降参だ! 降参する!!」

 

 最初に何人かが立ち向かい、為すすべなく殺されるのを見て彼らの士気は完全に折れた。ありもしない慈悲に縋るくらいに。

 

「どうする? ユリ」

 

「ん? どうするって……貴方は猿の言葉が分かるようになったの?」

 

「はっ、違いない」

 

 命乞いは無意味……いや、逆効果と言ってもいいかもしれない。有る者は無視して殺し、有る者はいたぶって殺し、有る者は希望を持たせてから殺し──黙って死んでいた方がマシだろう。

 

「姐さん! 女は持ち帰っちゃダメですか?」

 

「ダメだって最初に言ったでしょ。帰ったら何人か見繕って壊していいから今は我慢しなさい」

 

 はーい! とゲラゲラ嗤って人を殺すその光景は醜悪で、さっさと死ねた者はまだ幸福だろう。

 

「おい……コイツは……? 『ユリ』の友人らしいが……」

 

「ん? んー……?」

 

 引きずり出されてきたプレイヤーには特徴的なネズミの髭がペイントされており、一目見たらまず忘れない……というか、ラフィンコフィンの中でも何人かは知っているほどの有名人であった。

 

「あー……そういえば居たっけ。にしてもほんと、うるさいなぁ……」

 

 どうして、なんで。そんなことを叫び続けているが、相手が悪かった。そもそもとして、そんなことに取り合うような人間であればこんなことはしていないだろう。

 

「親友ダト、思って──」

 

「私にそんなものは居ないよ」

 

 人の命を奪うとは思えないほどに気負いなく横に薙がれた刀。首が飛んで死人が1人増えた。彼女にとってはそれだけの事でしかなく、そこには躊躇だとか情だとか、そういったものは一欠片も見受けられない。

 

 最後の一人が殺されて尚、残った彼ら──ラフィンコフィンの面々に罪悪感などというものは一切感じられない。あるのは期待だけ。彼女なら、もっと自分達に愉しみを与えてくれると。

 

「さて、お疲れ様。それじゃあこれから忙しくなるけど……楽しもうね」

 

 1人そんな雰囲気に飲まれていない人間が居るとするのなら、ラフィンコフィンの首領である彼ぐらいだろう。とはいえ彼もまた、何かしらの目的で彼女に同調している──いや、彼女を観察するためにその場のノリを壊すような真似はしないのだが。

 

 

 

 

 

 情報屋達が人知れずに鏖殺された後。はじまりの街の雰囲気は有り体に言って最悪であった。

 

 元よりリソースの奪い合いで険悪になっていた低層と中層のプレイヤー達。数えるほどの件数とはいえそこに暗殺まで始まってしまえば崩壊するのはあっという間であった。

 

 そしてもはや上層での情報も入ってこない。自分達で最前線にでも行けば話は別であるが、そのようなことが出来る人間であればとうの昔に攻略組の仲間入りを果たしていただろう。

 ここに残っているのは、臆病者揃いの低層組と、今を楽しむことを考えるのが精々な中層組くらいだ。かろうじて統治ができたであろう『軍』は一人残らず殺されてしまっている。

 

 そこにとどめとなったのが安全圏の消失だった。

 

 システムアナウンスがあったわけではない。モンスターが街に攻め込んできたなんてこともない。きっかけは本当に些細なことだった。

 

 暇を持て余した中層プレイヤーがいつものように玩具で少しだけ遊ぼうと言い出して、武器を持ち出すぐらいにヒートアップして。

 

 システムに弾かれるはずであったソードスキルがクリティカルヒットした。

 

「……は?」

 

 それは果たして殺した方か殺された方か、或いは両者の口から出たのかもしれない、呆気にとられた間抜けな音。

 

 しばし沈黙がその場を支配した後、殺した側である男が叫び出した。

 

「お……俺は悪くねえ! 殺すつもりなんてなかった! いつも通りふざけてただけなんだ!」

 

 もし偶然に殺してしまっただけであれば、こうして悪くない悪くないと言い続けて終わっていただろう。しかし。

 

「そ、それに……みんなも知ってるだろ!? コイツ等は俺達を殺そうと……いや、何人かはもう殺されちまってるんだって!」

 

 証拠こそ出ていないがしばし前より言われ続けている噂であった。酔っぱらって路上で寝ていたプレイヤーが次の日には死んでいただとか、低層組を引き連れて狩りに行ったプレイヤーが二度と帰ってこなかっただとか、そのような話。彼は意図的にその話を持ち出した。

 

「だから……殺される前に殺したんだ! 正当防衛だろう! なあ!?」

 

 それに周囲が同意するのかはどうでもいい。ただ『正当防衛の為であれば人を殺してもいい』という発想さえ植え付けられればそれでよかった。これで今後誰かを殺した時に言い訳ができるのだから。

 

「はい、そこまで」

 

 よって、この時点でこの男は用済みになった。安全圏が消えたタイミングで人を殺し、罪悪感を失くすような言い訳を用意する。その仕込みとして使われた男は治安維持の名目のもとにそれ以上の発言を許されず殺された。

 

「……詳細な仕様が分からないから断言はできないけど、安全圏が無くなったのかな。もしかしたらプレイヤー間だけかもしれないけど」

 

 わざとらしいまでの説明口調で現状を広める。

 

「治安維持として、一言だけ。殺した人間は必ず殺す。以上」

 

 それは実に単純で、殺しの抑止力となるはずだったルール。そうならなかったのは、それを定めた本人に守る気がさらさらなかったからだろう。

 

 

 

 殺される前に殺す。殺されたから殺す。怖いから殺す。真面にやってはどうあがいても殺されるから先に殺す。

 

 治安維持などと謳われていたのは極々最初だけだった。低層組に流されている高ランクな麻痺毒と装備。それらを使って先手を打たれてしまえば、中層プレイヤー達もただ被害者でいるわけが無かった。

 

 すれ違いざまに不意打ち。数の暴力。正面からの殺し合い。初めは一部の過激なプレイヤーだけが殺し合っていたはずなのに、気が付けば恨みと不信感が広まり続けている。

 

 結局、とある女性プレイヤーが子供を保護していた教会周囲の一角だけを治安維持集団が守護することとなり、戦いに嫌気がさした者だけはそこで守られることとなった。

 

 そうでない者達は──煽られ、恨み合い、殺し殺され──凄惨な光景を繰り広げることになった。

 

 本来であれば一方的な虐殺で終わったであろうそれは、ラフィンコフィンが低層組に与したことで殺し合いになり、悪意を持った二人が『もうやめよう』と言い出す者を殺し……或いは、そんなことを言い出そうと思えないほどに恨み合わせたことにより、絶滅戦争と化した。

 

 生き残ったのは教会にて『保護』されていたプレイヤー達と、宿屋の個室という安全空間に居た娼婦達くらいのもの。

 

 はじまりの街が壊滅するのに、数日もかからなかった。

 

 

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