隠されてるコメントが怖くて開けないので初投稿です。
ネズハが鍛冶屋に転向したいと言った時のパーティの雰囲気は、一言で言って最悪だった。
当然だ。フルダイブ不適合者のくせに攻略組に入ることを諦められなかったワガママに付き合わせ、そのハンデのせいでブレイブスの面々まで攻略組に参加することが出来なかったのだから。
そんな所に、1人の部外者の声が響いた。
「そいつが剣士から鍛冶屋に転向するならいい稼ぎ方があるぜ」
雨合羽のようなフーデッドマントを被って顔を隠したその男はそう言って1つの方法を提案してきた。
《クイックチェンジ》を使い武器をすり替え、強化に失敗して壊れたと思わせる。そしてそのまますり替えた武器を売れば確かに相当な稼ぎになるだろう。しかしそんなことが許されるはずがないだろう。
「何を言って……そんなの、犯罪じゃないか」
その通りだ。他人の物を盗んで売る、そんなのは金稼ぎでは無くただの窃盗だ。
だがその男は笑いながら続ける。
「犯罪? おいおい、SAOではシステムで犯罪は出来ないようになってるじゃないか。街中で他人を傷付けるなんて出来ないし、勝手に他人に触れれば黒鉄宮の監獄行きだ」
男の言う通り、SAOでは圏内で他のプレイヤーを害することは出来ないし、ハラスメント行為に該当するような事をすればボタン1つで監獄行きだ。
「ゲームなんだから悪い事は出来ないさ。逆に言えば出来ることはなんだってしていいんだ。システムを利用して他人を出し抜いて得をする、今攻略組にいるβテスター達だってやってることは同じだろう?」
後から考えれば、この時点で何でもいいから言い返すべきだったのだ。しかし、彼の言葉や雰囲気に呑まれていたこの時には何も言うことは出来なかった。
「……そうだよな。攻略組の連中だって汚い手を使ってあの立場を手に入れたんだ。だったら、ちょっとぐらい困らせたって構わないよな……?」
そんな呟きは誰の物だったか。あるいは自分の心の中の声だったのかもしれない。
とにかく気がつけば、仲間と共に男の提案した方法について検討しあっていた。
話し合いも一段落し、ふと男がいた方を見ると、既に彼は姿を消していた。金稼ぎの方法だけ提案して何も要求せずに帰ったことに小さな疑問を抱きつつ、これから行うことの準備をしに一行は酒場から出たのであった。
最初の1回を行って、喜びよりも罪悪感の方が大きかった。目の前で武器が壊れた時の、あの絶望した顔が頭から離れなかった。
今回のこれを渡したらもう辞めるように言おう。そんな事を考えながら、武器を換金していつもの酒場に帰ったネズハを迎えたのは仲間たちの期待に満ちた声だった。
「ネズオ! どうだった!?」
答える代わりにコルの詰まった袋を渡す。その中身を見て仲間達は歓声を上げていた。
よくやった。お前のおかげだ、ありがとう。などと以前とはまるで違う態度の仲間達を見ていると、もう辞めようなどとは言い出せなかった。
「ネズオ、これからも──」
「ねぇ」
突然横から入ってきた知らない声に会話を中断させられる。
さすがに騒ぎすぎたか、などと考えていると彼女は思いもよらないことを口にした。
「盗んだ武器を売って大儲けってところかな? あってる?」
「な、なにを……なんで……?」
まずい、こんな反応をしてしまっては自白しているようなものではないか。
「安心していいよ。別に脅すつもりも、誰かに話すつもりもないからさ。ただ私は警告に来ただけ」
「警告?」
「そう、君たちに武器を盗られたあの人、凄い怒ってたからさ。そんな風にはしゃいでて、もし盗みがバレたら下手したら殺されるんじゃないかってね」
ま、大げさだけどね。なんて一言を残して彼女は酒場から出ていった。
「……彼女の言う通りだな。バレないようにもっと慎重にならなくては。ネズオも上手くやってくれよ?」
結局、もう辞めようと仲間達に言うことは出来なかった。
次に彼女と出会ったのは、またしても武器を盗み取って帰ってきた時であった。
「またあんたか……今度は何の用だ?」
「あなた達に攻略組の間で流れてる噂を教えてあげようと思ってね」
彼女が言うには、攻略組の1人が使い慣れた武器を失い、本来なら勝てるはずだったモンスターに殺された、との事だった。
……原因など考えるまでもなかった。
「だから、絶対にバレないようにね。まぁ殺されてもいいってなら別だけどさ」
そんな事を言って彼女は立ち去っていった。
「な、なぁ……もう辞めた方がいいんじゃないか?」
「……だが、もう少しで俺達の装備の強化も終わるんだ。ここで辞めたら今までの分も無駄になる」
そんなやり取りの結果、出た結論はあと1度だけ詐欺を行い、それが終われば今後一切この方法は行わないというものだった。
あと1回やれば終われる。その事にネズハは内心で安堵をおぼえていた。
最後の盗みを終えて酒場に帰ってきた時、何度かブレイブスに声をかけてきた彼女の姿は無かった。仲間達に聞いてみても今日は見かけていないとの事だった。
毎度来るとは別に言っていなかったしおかしい事ではないな、と1人で納得していつも通りコルを仲間達に渡す。
「ありがとう、ネズオ。俺達はこれから攻略組に入れてくれるように交渉に行ってくるから、ネズオはしばらくゆっくりしててくれ」
そうして酒場を出ていった仲間達を見送る。これでもうあんな事はしなくていいんだ。そんな事を考えていたところで、ある事に気がついてしまう。
もう詐欺をしなくなるなら、自分の役割は何が残る?
フルダイブ不適合の自分ではSAOで戦うことは出来ない。つまり自力で鍛冶素材を集めることすら出来ないのだ。
そんな鍛冶屋より他のプレイヤーの方がスキル上昇はきっと早いだろう。
そんな悪い想像ばかりが広がり、しかし何も出来ることは無かった。
「どうしたの、そんな酷い顔して」
そんな言葉をかけてきたのは、今日は現れないと思っていた彼女だった。
気がつけば彼女に全て語ってしまっていた。フルダイブに適合できなかったこと。せめて仲間の役に立ちたくて詐欺に手を染めたこと。それを辞めた今、自分はまた役立たずに戻ってしまうのではないかということ。
ネズハの話を聞いた彼女は思いもしない提案をしてきた。
「君でも攻略組に入れる方法があるって言ったら、どうする?」
その悪魔の誘いを断れるほどネズハの心は強くなかった。
彼女の言葉に嘘は無かった。《投剣》と《体術》の2つのスキルを要求するチャクラムは、少なくとも今回のボスに関しては圧倒的な性能を見せ、フルダイブに不適合だったネズハでもボス攻略に大きく貢献することが出来た。
だが、そんな幸せな時間も長くは続かなかった。鍛冶屋であるネズハを街で見かけたプレイヤーが、ネズハが急に攻略組に上がってきた事を訝しんだからだ。
「……みなさんに、全てお話します」
ネズハは強化詐欺についてのほぼ全てを明かした。明かさなかったのは、金の使い道がブレイブスのためであったことくらいだ。金に関しては自分の欲のために使ったことにした。
「僕にはお詫びのしようもありません。皆さんの決めたどんな罰にも従います……」
攻略組の話し合いの結果、今後のゲーム攻略での貢献と、ネズハの収入からの定期的弁済で纏まりかけていた。しかし、そうはならなかった。
1人のプレイヤーがネズハの事を、間接的な人殺しだと告発したのだ。
こうなってはコルなどで済まされる話ではなかった。攻略組の1部のプレイヤーからは命で償え、という言葉も出てくる。
攻略組のリーダーの2人、ディアベルとキバオウがなんとか執り成してくれなければ恐らくネズハはここで殺されていただろう。
レジェンドブレイブスの仲間達はその間、1度も目を合わせてくれなかった。いや、そもそも仲間だと思っていたのはネズハ1人だったのかもしれない。
街に戻ったネズハは、たとえ周りが許してくれたとしても生きるつもりは無かった。
自分のせいで死んでしまった人がいるのなら、その償いは最早自分の命でしか購えないだろう。
最後にブレイブスの面々と、何度か関わった彼女にメッセージを送り、街の外縁部から身を投げた。
結局他人に迷惑をかけるだけなら、こんなゲームをやるべきではなかった。最期までそんな後悔を抱きながら。
♢♢♢
ネズハからのメッセージを受け取ったユリは、ブレイブスがいつも集まっていた酒場へと向かった。
酒場に到着すると既に集まっていたブレイブスの面々に声をかけられる。
「……来るんじゃないかと思っていたんだ。少し話がしたいんだが、いいか?」
構わない、と頷き彼らと共に店の外に出る。
「……ネズオを唆して、最前線に来させたのはお前なのか?」
「そうだよ、何か問題でも?」
「大ありだ! お前がネズオを連れてきたせいで詐欺のことがバレたんだ! 全部お前のせいだ! お前が悪いんだ!!」
私のせい? 何を巫山戯たことを言っているんだか。
「ネズオ……ね。彼の名前も知らない癖に何を言ってるんだか」
「名前? ネズハだろう? お前こそ何を言って……」
「違うよ。彼の名前は哪吒。あなた達と同じ英雄の名前」
「は……? いや、あいつはそんな事1度も……」
「言えなかったんだろうね。フルダイブに適合出来なくて、あなた達の足を引っ張ってる自分に、同じ様に英雄の名前を使う資格なんてないと思って」
わざわざ英雄の名前を付けておきながら、それでも彼がネズハと名乗り続けていた理由。想像でしかないが、それは
「……それでも、あなた達の仲間でいたかったんだろうね。言葉にはしていなくても、あなた達と一緒にいたいって、そういう事じゃないかな」
「そんな、俺達だってあいつの事を!」
「仲間だと思ってた、とでも言うつもり? 笑えない冗談だね。1人に詐欺をやらせて、自分達だけ装備を整えて、挙句の果てには詐欺がバレたら知らんぷり。あなた達の言う仲間っていうのは随分と都合のいい言葉みたいだけど」
「……めろ」
「自分達を慕ってくれる人を見殺しにした気分はどう? 彼を殺して手に入れたその防具はさぞかし使い心地が良いんだろうね」
「頼むから、もうやめてくれ……」
「私は悪くない。悪いのはフルダイブ不適合だってだけで仲間を見捨てたあなた達だ。我が身可愛さに仲間を見殺しにしたあなた達だ。気持ちよかったでしょう? 自分達より劣ってる彼を嗤うのは。責められてる彼を安全なところから眺めるのは」
心が折れたのか、すっかりと意気消沈した彼らの姿を見て、最後に呪いを残すことにする。
「……もうあなた達は罪を償うことも出来ない。ネズハが全部の罪を被ったからね。仲間を殺して手に入れた装備を平然とした顔で今も付けてるあなた達に、罪悪感なんてあるか分からないけどね。……どうせ死ぬならあなた達みたいな恥知らずが死ねばよかったのに」
ブレイブスの面々を残し先に酒場を出る。
黒鉄宮の石碑の彼らの名前に線が引かれたのは、それから数時間後の事だった。
再びユリは酒場を訪れる。そこには先客である、黒いフーデッドマントを被った男がいた。
「私のショウはどうだった? お気に召したかな?」
「ああ、中々に面白かった。俺の撒いたタネをあそこまで利用するとは思わなかったよ」
「よかった。まぁとりあえず一杯飲もうよ。アレを売ればお金も手に入るだろうしね」
そんな事を言ってユリが指さしたテーブルには、ブレイブスの面々が使っていた装備やアイテムが置かれていた。
「なんのつもりなんだろうね? あんなとこに装備置いてなんになるんだか」
「贖罪のつもりなんじゃないのか? 思い出の場所に思い出の物を、なんて珍しくも無い考えだろう」
「そんなもんかねぇ、ま、全部私達が貰っちゃうんだけどさ。半々でいい?」
「いや、面白い見世物を見れたからな。全部お前が持っていくといい」
やったー! 大好きー! などとはしゃいでいる彼女を見て、先程まで冷酷に心を追い詰めていた人物と同一人物だとは到底思えないだろう。
「なぁ、せっかくの縁だ。これからも連絡できるようにしておかないか? お前を使えば、随分と面白いものが見れそうだ」
「うん、いいよ。私と、友達になろう」
そんなやり取りと共に、彼らはフレンド申請を行う。
「これから宜しくね、PoH」
じゃあ俺、古戦場走りに帰るから…
次は25層くらいまで飛ぶ予定です。プログレッシブ読んでないからね、しょうがないね。