善逸が出久の弟としてヒロアカ世界を生き抜く話   作:冬のこたつのおとも(みかん)

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親分のターンです


エモーション(後編)

出久視点

 

黒いもやに飲み込まれた後、蛙吹さんと峰田くんのおかげでなんとか水難ゾーンにいる敵たちを一掃することができた。左手の親指と中指がとても痛いけど、僕もまだ動ける。今回はだいぶ博打だったけど、これだけの犠牲でここを突破できたことは喜ぶべきだ。初戦闘に勝利できたことに自信がついた僕たちは、すぐに次どうするかという議論になった。

 

「とりあえず助けを呼ぶのが最優先だよ。このまま水辺に沿って、広場を避けて出口に向かうのが最善」

「そうね、広場は相澤先生が大勢敵を引きつけてくれてる」

 

最初のうちは当然、避難しようという方向で話がすすんだが、やっぱり僕たちはヒーロー志望。最終的には苦戦を強いられているであろう相澤先生を助けに行こうということで話がまとまった。早速動き出そうとした時、不意に蛙吹さんが水辺に視線をやった。

 

「蛙吹さん?どうしたの?」

「…ケロ!緑谷ちゃん峰田ちゃん気をつけて、何かくるわ!」

 

何かって?と聞き返そうとしたが、それを遮るようにサバァン!!と水しぶきの音が辺りに響いた。

 

「ワハハハハハハ!!!!!すげーすげー!!なんださっきの!!一瞬で周りの奴らがやられちまった!それにこの面倒くせー機械もぶっ壊しちまった!」

 

水しぶきを上げて外へ飛び出してきたのは、逞しい体に猪の被り物を被った男だった。

しまった、敵を倒しきれていなかったんだ!

でも相手は一人、こちらは三人いるわけだし、まだなんとかなる筈だ。

落ち着け、何か策を練らないと。

 

「蛙吹さん峰田くん!一度敵から離れよう!」

「当然逃げるに決まってるだろ!?」

「そうね、ここは一度態勢を立て直しましょう」

 

数的にはこちらが優勢だし、もしかしたら深追いはしてこないかもしれない。僕たちは素早く後退した。

 

「なんだ追いかけっこか?俺は負けねぇ!!」

「うわっ!!」

 

しかし敵は跳躍してあっという間に僕たちの前に立ちはだかった。彼も強化系の個性なのか、それも相当使いこなしているように見える。あの水中もどうやって突破したのか全然わからなかった。

 

「追いついたぜ!俺の方が早い!つまり俺の方が強い!お前らの方が弱い!」

「ケロ…」

「嘘だろ嘘だろ!?なんなんだよこいつ!」

 

蛙吹さんも峰田くんも焦りだしているこのままではまずい。なにか、策はないのか。僕も内心焦りが募っていて、全然打開策が浮かばない。

それでも圧倒的脅威を前にして、震えているだけでは去年のかっちゃんにいじめられていた頃の僕となにも変わらない。

 

一か八か、やるしかない!!

 

僕は右腕を引いて左足を踏み出した。

そしてそのまま振りかぶった、はずなのに。

 

「やめとけ。無闇やたらに体壊すんじゃねぇ」

「ッな!!」

 

僕の右腕は敵に差し押さえられていた。

あの一瞬でここまで来るなんて、さっきの速さが限界じゃなかったんだ。

迂闊だった。

攻撃される、と思って目をギュッと瞑ったが、一向に衝撃はこなくて、そっと片目を開くと、すでに僕の腕は離されていた。

 

「えっと…?」

 

状況把握が追い付かずに頭にはてなマークを浮かべている僕を敵は一瞥した後に言葉を発した。

 

「そんな戦い方続けてたら、いつかオメェ死ぬぞ。そんでその時悲しむのはオメェの周りの奴らだろーが」

 

敵の言葉に、僕は思わず善逸や母のことを思いだした。僕を見つけると、少し目尻を下げて笑ってくれる善逸、数日前になにか落ち込んでいたようで心配したけど、きっと彼も僕に何かあれば心配する。優しい僕の弟。いつも応援してる、と積極性に言葉にしてくれるだけじゃなくていつも協力してくれる頼もしいお母さん。

かけがえのない、僕の大切な家族。

確かに、僕の今の戦い方は、彼らの思いを蔑ろにしてしまっているかもしれない。

彼の言葉は、敵の世迷言だと切り捨ててしまうには、あまりにも的を射すぎていた。

『正論』というものはときに、ズシンと重く心にのしかかる威力がある。

 

「人は、生き物は必ずいつかは死ぬ。それは自然の摂理だからな、仕方ねぇ。けどよ、それを簡単に割り切れるほど人の心っつーのは強くねぇんだよ。嫌なもん抱えて生きていかなくちゃいけねぇ。押し潰されそうになってもな」

「…君はどうして」

 

どうして敵になったの?

そう聞こうとして、やめた。

彼は人の命の重さ、尊さを、正しく理解している。それなのに、それを奪う側につく理由がわからなかった。目の前の彼が道楽に溺れた異常者には、どうしても見えなかった。

それでも、この質問は不毛だ。

聞いたって状況はなにも変わらないのだから。その理由がいかなる致し方ないことであろうと、彼が罪を犯す限り、彼は敵だ。

 

「緑谷ちゃん、あまり敵の言葉に耳を傾けてはだめよ」

「!うん、そうだね」

 

そうだ、これ以上彼のペースにのまれてはいけない。今やるべきことは対談じゃない、敵の無力化だ。

僕は幾分か冷静になった頭で、卵が爆発しないイメージを浮かべ始めた。

そのとき、いきなり敵がバッと僕から顔を逸らして後ろを振り向いた。

その奇怪な行動に思わず頭が真っ白になってしまった。

 

「あのやべーのもう動いてんじゃねぇか!紋逸も見つかんねーし!…仕方ねぇ、紋逸のことは子分に任せるぜ!!猪突猛進!!」

 

そして僕たちのことは見向きもせずついには走りだした。

一瞬呆けてしまったが、敵が走っていった方向を見てハッとした。敵が駆けて行っている方向の先にあるのは広場だ。ただでさえ無理をしている相澤先生たちの元にあの敵をいかせるのは悪手だ。

 

「追いかけよう、蛙吹さん!峰田くん!」

「ケロ!」

「もうなんなんだよぉー!!」

 

俺たちは離れていく敵の背中を必死に追いかけた。

その背中は敵と呼ぶには、違和感を拭えない程に真っ直ぐな佇まいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

善逸視点

 

今、俺の右には炭治郎、左には焦凍がいる。なんでこんな構図になっているかというと理由は単純で、俺が二人の間に割って入ったからだった。

 

事態は少し遡る。

俺は迫り来る敵たちをできる限り倒しながら焦凍の元へと向かった。そして見つけることができたところまでは良かったんだけど、そこには今俺を悩ませている原因でもある泣きたくなるような優しい音がして、しかも二人が戦っているときた。

それを見て双方出来る限り無傷を目標に掲げている俺が、二人の間に割って入ってしまうことは必然的だ。

いきなり現れた俺に、焦凍からは驚きの音がしている。炭治郎からも驚いている音はしているけど、それ以上に安堵の音が聞こえる。その音の真意はよくわからない。

 

「善逸、どうしてここにいるんだ」

「善逸!よかった、善逸のことを探していたんだ!」

 

両方から同時に言葉を発せられたが、俺の卓越した聴覚は二つとも聞き取ることができた。

焦凍は状況が頭に追いつき始めたのか、バッと俺の手を引いて炭治郎から庇うように俺を背中に隠した。

 

「善逸!とにかく今は逃げろ、こいつの狙いはお前だ!」

「え、狙い?どういうこと??」

 

焦凍からよくわからないことを言われて、俺は状況の理解が遅れた。とりあえず焦凍と炭治郎の仲が良好ではないことは確かだ。

まぁ当然っちゃ当然だけど。だって炭治郎は敵で焦凍はヒーローの卵なんだから。

焦凍には悪いけれど、俺はずっと炭治郎に問いただしたいことがあった。

 

「人聞きの悪いことを言うな!善逸、そのままでもいいから話を聞いてくれ」

「なぁ、炭治郎」

「ッ、なんだ?」

 

炭治郎から焦ったような音が聞こえる。もしかして名前呼んじゃまずかったのかな。けれど今はそれよりもずっと聞きたかったことを聞く方が俺にとっては優先順位は高かった。

 

「炭治郎はどうして敵やってるの?」

「それは…」

 

彼の中で焦る音に困ったような音が混じり始めた。俺が困らせてしまっている。だけど、これだけはどうしても確認しておきたかった。俺がこの疑問を持つのは、何も不思議なことではないと思う。

だってあの炭治郎だよ?

どこまでも誠実で、頑固で、嘘がつけなくて真っ直ぐで優しい炭治郎。

そんな彼にとって、奪い合って貶め合う敵側など、息を吸うのが苦しいぐらい居心地が悪いだろう。

そうまでして彼が敵側に所属する理由は、知っておきたかった。

俺は炭治郎を信じてる。

だからこそ、彼の口から直接聞きたい。

 

これにはのっぴきならない事情があったのだと。

 

けれど、炭治郎から発せられた言葉は俺の期待していたものではなかった。

 

「…すまない善逸。今はそれを説明している時間はないんだ。だからとにかく先に俺の話を聞いてくれ」

 

決っして俺を顧みない言い方をされたわけじゃない。

だけど、なんで教えてくれないの。

 

そのとき俺はふと思った。

俺は何か根本的な勘違いをしていたのかもしれない、と。

再会した日からずっと彼のことを案じていた。

何か辛いことがあるんじゃないか、相談できる相手がいないんじゃないかって。

だから、俺なら力になれると思った。

炭治郎に、俺の言葉はちゃんと届くから、きっと俺にも彼のためにできることがあるんだと、だって俺と炭治郎は友達だから。

けれど、それは俺のただの思い上がりだったんだ。

前世で彼らを置いて逝ってしまった時点で、俺たちの世界はとっくに分かたれてしまった。

もう俺の言葉が炭治郎に届くことはないのかもしれない。

それでも俺は、この湧き上がってくる感情を目の前の彼にぶつけることをやめられなかった。

 

俺は前に立つ焦凍の手をソッと退けて彼の前に出た。焦凍は焦って俺を止めようとしたが、それを気にする余裕も今の俺にはなかった。

 

「善逸!そいつに近づくな!」

 

焦凍の制止を振り切って、俺は炭治郎の前まで歩み寄る。炭治郎の音は、俺の中で鳴っている感情の音がひっきりなしに鳴っているせいで、よく聞こえなかった。

 

「炭治郎や伊之助と会いたくて、ずっと探してた!炭治郎が敵側にいるって知ったときもきっと何か事情があるんだって、それならお前の助けになりたいって思ったよ。俺の中では、今でも炭治郎は一等大切な友達だからな!!でも、お前は俺と会うといつも困ったような音ばかりだ」

「善逸、それは…!」

「お前の音は昔から変わらないよ、聞いているだけで安心できる、炭治郎の音だ。同じはずなのに炭治郎の考えてること、俺にはもう全然わかんないよっ!どうしてッ、どうして知らない人なんて言うの?俺が置いて逝ったから?今でも友達っていうのは違うの?炭治郎の中で、俺はもうただの他人なの…ッ?」

 

俺の言葉を聞き終えると、炭治郎は間髪入れずにすぐに言葉を発した。

 

「それは違うぞ善逸!今でも善逸は俺の友人だ!再会できたこともとても嬉しく思っている。ただ、間が悪かっただけなんだ…」

 

言葉にしたことで少し小さくなった音の隙間を通るようにして、炭治郎の音に耳を澄ます。

嘘の音はしない。だけど、ただただ苦しそうな音がする。その音を聞いていると、俺まで苦しくなってくる。さっきまで熱かった胸のうちが、スーッと冷えていくように感じた。

そして俺はダムが決壊するように、ボロボロと涙を流した。

それを見て、焦凍が怒ったような音を鳴らして炭治郎を睨んでいる。焦凍は俺たちの話は半分もわからなかったと思うのに、俺を思って懸命に怒ってくれているんだ。

 

「善逸…。そんな辛そうな匂いを漂わせながら泣かないでくれ。お前はギャーギャー泣き叫んでいるくらいがちょうどいいんだ。俺はそんな風に善逸を悲しませたいわけじゃない。善逸には、幸せそうに笑って、満たされながら天寿をまっとうしてほしいんだ。ただそれだけなんだ。また、あんなことが起こってしまったらと思うだけで、俺は気が狂いそうになる…」

「炭治郎…」

 

炭治郎の言うあんなことというのは、きっと俺が無惨戦で死んでしまったことだろう。俺はそのあと炭治郎たちがなにを思い、どのように過ごしたのかを知らない。

そこには、俺の知らない炭治郎たちがいるんだろうか。

これはその結果、生まれてしまったすれ違いなのか。

 

「炭治郎、あのさ」

 

俺たち一度話し合うべきだと思うんだ。

そう言い終える前に広場の方から不穏な音がした。

遠くからでもわかるくらい、やばい音だ。

炭治郎も察知したようで、広場を聞き迫る顔で見つめている。

もしかして、これがオールマイトを倒す算段なのか…?

だとしたら、広場で敵を引きつけている相澤先生が危ない。

俺は足に力を込めて駆け出す。けれどそれを炭治郎がガッと俺の肩を掴み止めた。

 

「離して炭治郎」

「だめだ善逸!あれはもう人間の原型を保っていない、オールマイトを倒すために改造されたものなんだ!その強靭な肉体はオールマイトの攻撃にすら耐えうるほどに頑丈だ。だから、たとえ速さで翻弄しても…」

 

速さ重視の俺では分が悪い、炭治郎はそう言っているんだ。

炭治郎の言っていることはきっと正しい。

雷の呼吸は一撃必殺の抜刀術だ。だから、それで倒せない敵への対応性は低い。特に壱ノ型にはそれが顕著に表れている。俺の生み出した漆ノ型も体への負担が大きいから多用はできない。明らかに俺の得意戦法からはかけ離れている。

けれど、そんことは助けに行かない理由にはならない。

 

「それでも俺は行くよ、炭治郎。行かなきゃいけないんだ」

「善逸ッ」

 

俺は呼吸を使いながら足を踏み出し、炭治郎を振り切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

広場に着くと、そこにはムキムキの気持ち悪い奴に地面に押しつけられている相澤先生がいた。ムキムキの敵からは切って貼り合わせたような、つぎはぎでグチャグチャの音がしている。ずっと聞いていると吐き気を催してきそうだ。

とりあえず相手の腕を斬り落とすくらいの気概で、先生の救出に踏み出す。

 

シィィィィィ。

 

『雷ノ呼吸 壱ノ型 霹靂一閃』

 

ドォン!!

 

俺の攻撃は相澤先生を掴んでいる敵の腕に直撃だった。

だけど、敵の腕はびくともしない。

 

「硬…っ!こっちの腕がビリビリしてくるわ!」

「善逸!真っ向から攻撃しても駄目だ!刀で斬り落とせる強度じゃない!!」

 

俺を追いかけてきていた炭治郎たちが追いついたようで、俺に助言する。

このやり方では一撃も与えられない。

ならば、今優先すべきことは相澤先生を敵の手から助け出すことだ。

俺は一度後退して、今度は地面に向かって霹靂一閃を八連撃で繰り出した。

敵の足場が崩れ、バランスを崩したことで緩んだ腕から、相澤先生を奪取する。

そして地面の倒壊の及んでいない場所にソッと彼を下ろした。

それをやったことで、敵の標的が完全に俺に移ったのか、敵の腕が俺目掛けて迫ってくる。

俺はそれをなんとか避けたが、距離を詰められながら何度も殴りかかられ、ついに右足を掴まれてしまった。

 

「ッィ!!」

「善逸!!」

 

俺の名前を呼んだのは、炭治郎か焦凍かよくわからなかった。

敵はすごい握力で、骨から嫌な音が鳴っている。

このまま足粉砕されるんじゃないかと思っていると、急速な三半規管の揺れを感じた。

敵に投げ飛ばされたと少しして理解した。

俺は勢いのままにろくに受け身も取れず、壁に激突した瞬間意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焦凍視点

 

善逸が一人で広場へと駆けて行った。

俺とともに取り残された敵は呆然としている。こいつと善逸の会話、正直全然わからなかった。

俺は善逸とそれなりに長い時間を過ごし、なんならあいつの家族よりもあいつのことは理解してやれるという自負があった。

けど目の前の敵はその上をいくというのか。

二人が話しているとき、近くにいるはずなのにそこにフィルターが挟んであるように感じた。

善逸が違う世界にいるようでゾッとした。

この今湧き上がってくる感情は恐怖か、悔しさか、よくわかんねぇ。

だからこそ、俺は知りてぇ。

俺の知らない善逸のこと、もっと知りてぇんだ。

 

「お前、善逸の何なんだ」

 

俺は目の前の敵に問いを投げかけた。

敵は俺に視線だけ寄越して、「そういう君はどうなんだ?」と聞き返した。さっきまでの異様な雰囲気はなりを潜め、今はなんだか落ち込んでいるような雰囲気だ。

 

「俺は、…あいつの友達だ」

「俺もそのつもりだ」

 

俺の言葉に賛同するように敵は答えた。こいつは敵だが、善逸に悪意があるようには見えなかった。ここはこいつと争うよりも善逸を追いかけた方が良さそうだ。

 

「俺は善逸を追いかける。向こうにいる敵、相当ヤベェんだろ」

「あぁ、俺も行く。善逸は…絶対に死なせない」

 

その言葉に、目の前のこいつの覚悟が垣間見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

広場に着くと、すでに善逸は敵に斬りかかっていた。けど善逸の剣技を持ってしても、敵はビクともしねぇ。

善逸はなんとか足場を壊すことで相澤先生を救出したが、その後の敵の攻撃をくらってしまった。

 

「善逸!!」

 

俺は善逸の飛ばされた方向へ弾かれたように駆け出し、壁に背中を強打した善逸を支え起こした。

外傷自体は目立ったところはねぇが、すごい勢いで体をぶつけていた。もしかしたら内臓の方に衝撃がいっちまってるかもしれねぇ。それに意識もない。

それでもなお筋肉質の敵は善逸に襲いかかってきた。

俺はそれを氷で防いだが、すごい力で氷壁を殴りつけられている。

これじゃ長くもたねぇ。

何か、策を興じなければ。

必死に脳を回転させていると、不意に氷壁を叩く音は止んだ。

何が起こったのか確認するために前を向くと、敵の両腕が宙を舞っていた。

 

「ッ何が起こって…!?」

 

それだけじゃなくて、気づくと俺の腕が支えていたはずの善逸の体もなくなっていた。

その件の善逸は敵の前に立って刀を振り上げている。

それを見た瞬間、敵の両腕を斬ったのが善逸であることを理解した。

けれど、善逸は意識を失っていたはずだ。

あの一瞬でなんでそんなことができんだ。

 

「何が起こってんだ…」

「善逸が意識を失ったんだ」

 

狐の面の敵が俺の元へ来て言った。意識を失っていたのは知ってる、だが今は立って敵に向かって剣を振るってるじゃねぇか。俺は疑問をぶつけるように狐の面の敵を見た。

 

「善逸は至極特殊な戦い方をする剣士だ。彼には常人離れした聴覚がある。それは寝ている間にされた会話さえも聞き取ってしまう程だ。その結果、善逸の本来の力は、意識のない無意識下の状態のときにこそ発揮されるんだ」

「そんな話、善逸から聞いたことねぇぞ」

「それはそうだろう。だって善逸の中に、この状態のときの記憶は何一つ残らないからな」

 

俺の疑惑の声に、敵は間髪入れずに答えた。

記憶に残らない、それじゃ知らない間に状況が変わっていたり、大切なことが終わっていたりすることがあるってことじゃねぇのか。それは本人からすれば相当な恐怖なんじゃねぇか。そんなの、並の人間じゃ耐えらんねぇ。

今の善逸からは、研ぎ澄まされた剣豪のような気配がした。それは普段の善逸とは似ているようで、かけ離れている雰囲気だ。

善逸が全然知らねぇ奴になっちまったみたいで、背中にゾクッとしたものが通った。

その間にも戦況は動いていて、斬られた両腕を敵は素早く再生し、善逸に攻撃を仕掛けていたが、善逸はそれを全て避けて今度は相手の首目掛けて剣を振るった。

 

「まずい!首はあの敵の中で最も硬い部位なんだ!!そこに刀を振るえばいくら善逸でも…!」

 

隣で狐の面の敵が焦ったように言った。

刹那。

ボキンッ。

鈍い音が辺りに鳴り響いた。

善逸の持っている刀身の先がなくなっている。

敵の首をとらえた刃は、いとも簡単に折れていた。

武器を失った善逸に、強靭な腕が迫る。

 

「善逸ーーーーーっ!!!!!」

 

響き渡る慟哭を聞きながら、俺は圧倒的な狂気を前に、ただ立ち尽くしていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我妻善逸(緑谷善逸)

出久くんの義理の弟

個性:鬼化

基本戦闘スタイル:雷の呼吸

 

鬼化の個性は身体能力、回復力を飛躍的に上昇させるかなり汎用性も高く、強個性。鬼滅時空の鬼のように藤の花の毒が苦手だったり、日光が苦手だったりはない。ただ、使いすぎると暴走して食人衝動に襲われる。トラウマは雷。

 

 

轟焦凍

 

幼少期に善逸に救われてから、善逸に対してかなり好意高め。原作とは違い、すでに左側の個性も使うし、表情も多少穏やか。いつも隠し事ばかりの善逸の助けになりたいと思っているが、中々うまくいかずにもどかしく思っている。せめて善逸の心を少しでも癒すことができたならいいと思っている。

今回善逸の秘密を一つ知ってしまった。

 

 

 

緑谷出久

 

善逸のことはちゃんと家族で兄弟だと思ってる。雨の日の一件以来落ち込んでいる善逸を気にかけている、無謀だけど優しいお兄ちゃん。

 

 

 

竈門炭治郎

 

今世でも賑やかな六人兄弟の長男

個性:??

基本戦闘スタイル:??

 

前世で善逸が目の前で死んだことはかなりショックだった。なまじ失うことの多い人生を歩んで来たため、仲間が傷つくことがトラウマとなっている。現在義勇さんの創設した事務所にインターン生として所属しており、敵連合の潜入任務中。潜入任務では顔を隠しており、極力個人情報も伏せているため離脱はわりかししやすい状況。

 

 

 

 

 

 

 

 

嘴平伊之助

 

全力で周りを振り回す末っ子気質兼、親分

個性??

基本戦闘スタイル??

 

前世での善逸の死はショックではあったが、自然の摂理というものを大切にしている彼は炭治郎ほど引きずってはいない。それでも今世ではばっちり守りきるつもり。

なんていったって俺様は親分だからな!!

 




次回の更新は1月27日18時を予定しておりますので、読んでいただけると嬉しいです!

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