善逸が出久の弟としてヒロアカ世界を生き抜く話 作:冬のこたつのおとも(みかん)
あれはとある昼下がり頃のことだったような気がする。
詰め込まれた任務に奔走する日々に、たまの休暇が偶然善逸と同じ日だったため、俺は善逸と共に甘味処巡りをした。その巡った店の一つでお土産として買った団子を頬張りながら、俺と善逸は二人肩を並べて縁側に座った。
これと言った話題もなく、団子も食べ終わり、やることもない。空を眺めて雲の数でも数えていると、おもむろに善逸が言葉を発した。
「なぁ、炭治郎。鬼との戦いが終わって今より平和な世界になったらさ、炭治郎は何をしたい?」
藪から棒に投げかけられた質問に、俺はキョトンとして善逸に目を向けた。質問の真意を聞きたかったが、善逸はただジッと見つめるだけだった。
俺は質問の答えを自分なりに探したがそのときは皆目見当もつかなかった。だから俺は「善逸はどうなんだ?」と聞き返した。
「俺??俺はやっぱり禰豆子ちゃんと結婚かなぁ!あんな可愛い子と毎日一緒にいられたら…、ウィッヒヒ!」
「禰豆子は嫁にやらん!」
頬を目一杯緩ませ、奇妙な笑い声を発しながら言った善逸に、俺はムン!と断固拒否した。
それから善逸が食い下がり、俺が拒否するといった応酬がしばらく続き、結局その質問は曖昧になっていってしまった。
善逸が何故突然そのようなことを言い出したのかはよくわからなかったけれど、俺はその日から数日後に自分なりの答えをしっかりと考えてみた。
その末に、
何がしたいかはまだわからないけれど、戦いの終わった世界で誰一人欠けることなく皆と過ごしていければいいな、ということで俺の考えはまとまった。
鬼のいなくなった世界で、その世界を思い描いていた彼はいなかった。
辺りに鈍い音が鳴り響き、一本の刀身が宙を舞う。
善逸の刀が折れた。
その瞬間、俺は動くことができなかった。
無慈悲なまでの圧倒的な物理の力。
対オールマイト用の敵が強いことはわかっていたけれど、一度も刀を折ったことのない善逸ならばもしかしたら、と心のどこかで俺は思っていたんだ。
そんなはずがないのに。
だって対オールマイト用の敵は斬って終わりの鬼じゃない、善逸の持っている刀は岩や鬼の首が斬れる日輪刀じゃない。
思えば当然のことじゃないか。
俺の中で後悔が渦巻く。
その間にも時間が止まることなく強靭な腕が善逸に迫る。
それは折れた刀身では到底防げないものだ。
腕が善逸に触れたその時、その腕がかつての善逸の腹を貫いた無惨の腕と重なった。
善逸を絶命させた、あの腕と。
間に合わなかった。
彼を死なせてしまった。
また間に合わないのか?
また善逸を喪ってしまうのか?
そんなのは嫌だ!!!!!!
そんな世界、燃えて灰になってしまえばいい!!
俺の思いに呼応するように、全身の血管がドクドクと主張を始める。
瞬間、俺の中で煮えたぎるような言葉にできない感情が轟いて、体内の血流を加速させていくのを感じた。
「ぁああああああッ!!!!!!」
俺は劈くような咆哮をして敵目掛けて駆け出した。
体が燃えるように熱い。血が温度を増して体内を循環し、酸素を巡らせている。
けれど今はそんなことはどうでもいい。
この熱も、感情も、全てを刃に乗せてしまえ。俺自身を燃やし尽くしてでも、敵を倒す。
『ヒノカミ神楽 円舞』
俺は辺りを焼き払うかのように刀を振り下ろした。
しかし、俺の刀が敵に当たる前に別の方向から攻撃が入り、敵の腕を切断した。俺の知っている技だった。
その攻撃を見て、俺は咄嗟に攻撃の方向を変えて敵の足を斬り落とす。
そして突然横槍を入れた人物、伊之助をキッと睨んだ。
「伊之助!!いきなり入ってきたら危ないじゃないか!!!」
俺の抗議の言葉に、彼は激昂している俺よりも幾分か落ち着いた声を発した。
「危ねぇのはお前の暴走寸前の『個性』だ。このままじゃお前の全身の血が蒸発するだろーが!」
伊之助の言葉を聞いて俺はようやく自分が冷静じゃないことに気がついた。
伊之助の言う通りだ、俺の個性をこのまま使い続けていたら危なかった。
俺の個性、「爆血」は自身の血液の付着している部分を燃やすことのできる個性だ。俺はこの個性鍛錬する中で細かい温度調節を身につけ、体内の血液の温度を上げることで、前世の痣出現時と同等の力を寿命という代償なしで引き出せるようになった。
ただこの有用性の高い個性はそれ相応の危険も伴う。
まずさっきの体内の温度を上げるのは、温度調節を誤れば伊之助の言った通り全身の血が蒸発して俺は死ぬ。
普段使いの個性の場合も、俺の血液の付着した部分に限るため、俺が出血することが前提だ。貧血になるから多用はできない。
俺は今の状況で何をすべきか把握するために、サッと辺りを見渡した。
善逸は完全に気を失っているのか、善逸の知り合いらしき赤髪と白髪で半分に分けられている少年に抱き抱えられていた。そこは敵からも遠く、迫った危険はない。
俺はホッと胸を撫で下ろした。
対オールマイト用の敵を倒すことは難しいけれど、俺と伊之助が共闘すれば時間稼ぎぐらいにはなるはずだ。
俺はそれを目で伊之助に訴えかける。長年共に過ごしたことで、ある程度言葉にしなくともお互いのことを熟知できるようになった彼は、上手く俺の考えを汲み取ってくれたようで型を使える構えをとった。
「おい、何のつもりだヒノカミ、山の王」
不意に仮の
それを見て、俺は潜入任務の途中だったことを思い出してハッとした。
だが今更誤魔化しは利かない。俺も伊之助も思い切り対オールマイト用兵器、脳無に攻撃してしまっている。俺は開き直って堂々とヒーロー側に味方することにした。
「俺は竈門炭治郎!水柱ヒーロー事務所所属のインターン生だ!」
「同じく俺様は嘴平伊之助!子分の落とし前、親分のこの俺が付けさせてもらうぜぇ!!」
俺に呼応するように伊之助も言った。俺たちがヒーロー側だと宣言すれば、周りの生徒たちの不安も少しは払拭できるだろうし、善逸を助けに入ったことで善逸との関係を敵側に訝しがられる可能性も減る。
「インターン生…?てことは僕たちと同じヒーロー候補生!?」
緑がかった髪と、そばかすが特徴の少年が驚いた声を上げた。彼から発せられる匂いも赤髪と白髪の少年と同様、善逸の匂いが強い。彼がこの世界でも人間関係を繋いでいっているということが、彼がここで生きてきた証明のようでなんだか嬉しかった。
「やるぞ伊之助!生徒たちを守るんだ!」
「俺も今言おうと思ってたところだ!」
いざ行かん、と二人で駆け出したその時だった。
バァン!!
大きな音と共に、この施設の出入り口となっていた扉が開いた。
そこには今年雄英高校の教師となったことで最近のニュースを騒がせていたNo.1ヒーロー、オールマイトがいた。
その表情は、時折テレビで見るような快活な笑顔ではなく、苦虫を噛み潰したような顔だった。
滲み出るような強者の匂いと、怒りの匂いを漂わせて、彼は言葉を発した。
「もう大丈夫、私が来たッ!!」
そこからは敵とオールマイトによる熾烈な戦いとなり、俺と伊之助ではたまに斬撃を与える援護位しかできることはなかった。
この世界のプロヒーローというものの偉大さを改めて実感した。
時間が経つと他のヒーローたちも続々とやって来て、その応援にやって来たヒーローたちの中には俺たちの雇用者である義勇さんもいた。
「義勇さん!」
「半々羽織り!」
「炭治郎、嘴平、よくやった。後は任せろ」
義勇さんは短いながらも頼もしい言葉を残して前線へと合流していった。敵たちはヒーローたちに任せて俺たちは生徒達の避難誘導に勤しむことにした。
といっても逃げ遅れた生徒たちも義勇さんの個性、「水流」によってこちらに流されてきたので、俺たちのしたことはせいぜい近くの生徒への呼びかけくらいだったけれど。
義勇さんの個性の「水流」は水を発生させ、その水を自在に操ることができる個性だ。それを刀に纏わせ、水の呼吸の威力をあげたり、さっきのように津波のようにして人や物を流したりもできる。自身の得意の陣形を作りやすい、攻守に長けた個性だ。
そして戦勢は一気にヒーロー側が優勢となり、そのまま敵連合は撤退していった。
敵を圧倒するその強さは、かつての鬼殺隊の柱のようで、俺と伊之助は「もっと強くならないとな」「そうだな」と言葉をこぼした。
微睡みを抜けて意識が浮上すると、頭がボーっとする中で聴覚が音を捉えた。思考がある程度はっきりしてくると、それが会話であることに気付く。
「それにしても君たち二人はあのヒーロー水柱のサイドキックだったなんて!」
「いや、まだ俺たちはインターンとして仮所属してるだけで、正式雇用は学校を卒業後だよ」
「それでもすごいよ!!だってあの本人の徹底したメディア嫌いでほとんど情報はないにも関わらず、その実力はヒーローランキング上位層にも匹敵すると言われているあの水柱だよ!!」
俺はテレビはあまり見なかったので、ヒーローのことにはあまり詳しくないが、水柱という言葉に聞き覚えがあり声の発生源を見ると、そこには面を外して素顔を見せている炭治郎と伊之助と出久がいた。
「え…、炭治郎?伊之助?なんで??」
「あ!起きたのか、善逸!」
全く状況が掴めないまま、とりあえず横になっている体を起こす俺の元に、嬉しそうな音を立てて炭治郎が寄ってくる。
なんで炭治郎たちがここにいるのかと考える前に、意識を失うまでの記憶を辿る。
救助訓練の途中で敵の襲撃を受け、皆が散り散りに散らされた。その後焦凍と炭治郎と合流して、その二人が戦っているところの間に入って止めたんだ。それから炭治郎と口論になって、そこで恐ろしい音が聞こえてそっちに向かうと相澤先生が瀕死で、そこにはムキムキの敵がいて、それで…。
そこからの記憶が曖昧だ。俺はまた戦闘中に気を失ったのだろうか。
最近なかったのに、また一人だけ何も出来なかった。
相澤先生のピンチにも生徒たちの危険にも、俺は何も出来なかったんだ。
そのとき不意に、もしも俺に個性が扱えていれば、と思ってしまった。
鬼化の個性、攻撃特化型の個性、忌まわしい個性。
だけどその力があれば、皆を救えたのではないか?と思ってしまった。そこまで考えた後に、俺はすぐに頭を左右に振ってその考えを振り払った。
俺の力不足は俺の努力不足だ、そこに他の理由をつけちゃ駄目だ。俺はこれからも努力して今度こそ皆の役に立たないといけない。
「相澤先生や皆はどうなったの?」
俺は自分の不甲斐無さに歯がみしそうになったが、まずは現状確認をすることにした。その俺の問いに出久が答えてくれる。
「相澤先生も13号先生も命に別状はないって、それにクラスの皆も軽傷だよ」
「そっか、よかった…」
俺はとりあえず皆が無事だったことに安堵した。それから俺が覚えていないときの出来事を出久からあらまし聞いた。あの後オールマイトが来て、対オールマイト用の敵と苛烈な戦いになり、炭治郎や伊之助と共にその場にいた生徒たちは援助に回ったらしい。そして他のヒーローたちも続々救援に来て、敵連合を退けたようだ。
やっと状況が頭に追いつき始めた頃、状況説明の間何も言葉を発さなかった炭治郎が急に俺の体を強く抱きしめた。
「たっ、炭治郎…?どうしたのいきなり」
「良かった…、本当に無事で良かった善逸…ッ!俺はまた善逸を失ってしまうんじゃないかって怖かったんだ。もう二度とあんな無茶はしないでくれ…ッ」
無茶というのが一体なんのことなのか思い浮かばなかったけど、炭治郎が顔を押しつけている俺の肩が濡れていることに気づいた。
炭治郎が泣いている。
いつもの長男の気概さをかなぐり捨てて、迷子の子供のような音を発して俺に縋り付く炭治郎を見たら、もう謝罪の言葉しか俺は紡げなかった。
「ごめん、炭治郎…」
その言葉を炭治郎がどのように受け取ったのかはわからなかったけれど、彼は俺を抱きしめる力をより強めた。ここまで傍観に徹していた伊之助も「この弱味噌が」といきなり俺を貶した。
俺は突然の罵倒に苦言の一つでも言ってやろうかと思ったけれど、なんで炭治郎と伊之助がここに居るんだという最初の疑問にたどり着いたため、それを聞いた。
「あぁ、俺たちは敵じゃないからな」
「えぇ!?」
「俺と伊之助は義勇さんのヒーロー事務所に仮所属しているインターン生だ。そこの任務の一環で敵連合に侵入調査していた」
聞いたところによると、炭治郎と伊之助はヒーロー科に通う高校一年生で、昔の縁と実力を認められたこともあり、インターン生としてヒーローネーム水柱こと冨岡義勇によってつくられた水柱ヒーロー事務所に仮所属しているらしい。すでにヒーロー仮免許も取得していて、ヒーロー活動も許されている立場だとか。俺はいろいろとツッコミたいところがあったが、とりあえずこれだけは聞かなくてはいけないと思ったことを聞いた。
「家族は?炭治郎たちの家族は無事なの?」
俺が炭治郎たちが敵側についてるとしたら家族が関係していると踏んでいたが、そもそも前提が違うのだから大丈夫だとは思うけれど、聞かずにはいられなかった。
「あぁ、皆元気に過ごしているぞ。一家でパン屋を営んでいてな、味は保証するからぜひ今度買いにいってやっくれ!禰豆子にも記憶はないが、良ければ会ってやってほしい。伊之助も山で育っていたところを保護されて、今はひささんのところでお世話になっている」
俺は炭治郎の言った言葉に嬉しいやら、安心やらの気持ちが混じりあって消化しきれず、その体の内を蠢く感情が涙となって俺の両目から溢れ出した。
「〜〜〜〜〜うぅッ、よかったよぉたんじろ〜〜〜〜!!!俺っ、炭治郎たちが、辛い思いしてるんじゃッないかって、本当に心配で…ッ!」
炭治郎は朗らかな音を鳴らして俺の頬を伝う涙を拭ってくれる。そこにはさっきの迷子の子供のような炭治郎はもういなくて、いつものように長男感溢れる彼だった。
「やっぱり善逸は汚く泣き喚いているのが似合っているな!」
「言い方酷いだろ!!」
そしてたまに純粋無垢な目で酷いことを言うが、そこに全く悪意がないから憎めないんだよな。
なんだかいつも通りの雰囲気に、思わず笑いがこみ上げてくる。
「俺も混ぜろ子分どもー!」
俺たちが笑い合っているのを見て寂しくなってきたのか、伊之助がすごい勢いでこちらに走ってきて乱入する。
その勢いは世界を隔てる壁さえ破壊できそうだ。
俺の感じていた俺たちを分かつ壁も、伊之助の猪突猛進には勝てっこないよね。
「伊之助!善逸は怪我をしているんだ、そんなに勢いを付けたら…、あぁ!」
「い…!?ちょっ、重いんだけど猪頭!」
「ガハハハハ!!山の王の降臨だー!!」
だから何度世界が変わっても、ちゃんと俺の知ってる炭治郎と伊之助のままだ。
次回の更新は1月28日18時を予定しておりますので、読んでいただけると嬉しいです!