善逸が出久の弟としてヒロアカ世界を生き抜く話   作:冬のこたつのおとも(みかん)

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ロード(後編)

体育祭まで残り2週間となり、俺は本格的に体育祭に向けてのトレーニングを始めた。久しぶりに握った日輪刀の力を当日最大限に生かすためにはとにかく体に慣れさせるしかない。

今後の方針としては、俺の武器である速さを殺さず、いかに技の威力を上げていくかということを重視することにした。

対オールマイト用敵を相手にした時、俺は早々に意識を失ってしまい、相澤先生は救出できたもののその後すぐに足手まといになってしまったからだ。そして目覚めた時には全てが終わっていて、何故か炎司さんから貰った剣は折られていた。

あの時感じる押しつぶされそうな程の不甲斐なさは筆舌に尽くしがたい。

あの敵のように圧倒的防御力を前にしては、今の俺では無力だと思い知らされた。あれほど強固でなくても、クラスメイトの中には出久や切島くんのように自身を強化する個性の人もいる。そういった相手との対人戦闘となれば、苦戦を強いられることは必至。だからこそ、その硬い壁を破れる特出した攻撃力が必要となってくる。

体育祭が終わるまでは焦凍との鍛錬はお預けだ。ライバルに自分の手の内をひけらかすわけにはいかないからね。

他の生徒たちもそれぞれ敵の襲撃事件から気持ちを切り替えて訓練に勤しんでいるようだ。皆熱量は違えど目指す場所は同じ。

俺も負けるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた体育祭当日。

母さんに見送られて出久と一緒に家を出た。気持ちの逸りからか、いつもより心なしか歩く速さも早い気がする。

 

「体育祭緊張するね」

「そうだね」

 

出久の言葉に相槌を返す。それからいくつかポツポツと話してから、彼はあの話題を切り出した。

 

「体育祭で、その…。個性は、使わないの?」

 

俺は歩みを止めて出久のよもぎ色の瞳を見つめる。竹刀袋で包んだ日輪刀を無意識的にギュッと握りしめた。一度深呼吸した後に俺は無理やり口角を上げて言った。

 

「使わないよ。個性を使わなくたってヒーローはできるってことを、今日証明するんだ」

「善逸…」

 

出久は何か言いたそうに口を開閉させていたが、俺はそれに気付いていないフリをして再び歩き始めた。

今日ばかりは出久の真っ直ぐな音が耳に痛かったけれど、学校までの道のりで一度も俺は出久の方に目を向けなかった。

 

 

 

 

学校に着くとすぐに先生の指示で体操服に着替え、控室へ入った。

そこにはもうクラスの面々は揃っていて、賑やかに談笑している声が響いていた。いつも通りのその風景で一つだけ違うことがあるとすれば、皆の心の音だろう。

覚悟、自信、不安、緊張、羞恥、決意。様々な気持ちがクラスメイトたちの内なる思いとして秘められている。

 

「皆!準備はできてるか?もう(じき)入場だ!」

 

飯田くんの言葉を聞いて、各々がより一層気持ちを高めていたその時、不意に焦凍に声をかけられた。

 

「善逸」

「…何?焦凍」

「正直、俺の実力はまだお前には及ばねぇと思う」

「え?そんなことないだろ」

 

焦凍の雄英に入学してからの飛躍は目覚ましい。このままいけば、俺が負け越すようになる日もそう遠くはないだろう。

だからなんで焦凍がそれほど悲観的になっているのかがよくわからない。

 

「俺は敵襲撃事件で善逸と違って大したことはできなかった。けど、いつまでもそのままでいるつもりはねぇ。今日、お前に勝つ」

 

焦凍の炎が灯ったような瞳が俺を射抜く。いつもよりも好戦的なそれに物怖じしそうになる足をグッと堪えて相手の目を見つめ返した。

 

「俺も負けねぇよ」

 

それを聞いた焦凍はフッと笑ってその場を去っていった。

そういえば焦凍のいう俺のした大した事というのが一体なんのことだったのか、皆目見当もつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘーイ!!刮目せよオーディエンス!群がれマスメディア!今年もお前らの大好きな高校生たちの青春暴れ馬、雄英体育祭が始まりエブリバディ、アーユーレディ?一年ステージ生徒の入場だぁ!!」

 

液晶に映っているプレゼントマイク先生が、大興奮の観客達をさらに煽っている。頭に響く大音量に耳を押さえながら、グラウンドの芝生を一歩一歩と踏みしめた。

 

「雄英体育祭、ヒーローの卵達が我こそはと鎬を削る大バトル!!どうせあれだろこいつらだろ??敵の襲撃を受けたにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!ヒーロー科、1年A組だろぉ!?」

 

あまりの持ち上げぶりに緊張が8割膝にきそうだけど、なんとか足を前へと踏み出す。

A組に続いてB組、普通科、サポート科、経営科とどんどんグラウンドへ入場していく。そのうちのほとんどがこの大歓声に少なからず萎縮しているようだった。それに比べるとA組の生徒は感情の振れ幅が小さい。敵の強襲を経たことで、精神面の成長が早いのかもしれない。皆からしてもショックな出来事ではあったけれど、怪我の巧名というやつだろう。

 

「選手宣誓!」

 

指令台に上がっているミッドナイト先生の美しい佇まいに鼻の下が伸びそうになるが、俺は禰豆子ちゃん一筋だ!!と自分に言い聞かせてなんとか顔を引き締める。

選手宣誓はヒーロー科の入試結果1位の人がやるのが毎年の恒例らしい。

そしてそれに選ばれたのは勝己だった。勝己がマイクの設置された指令台に向かい始めると何故か周りから敵対するような音が鳴り始めて、何かあったのかと隣にいる出久にこっそり聞いたところ、俺が鍛錬のために早々に帰った日に他のクラスから敵情視察やら戦線布告やらをされて、そこで勝己が何やら相手の怒りを買う発言をしたらしい。

確かに勝己ならやりかねないな、と納得しながら彼の動きを見守る。

台に登り終えた彼が、辺りがシンと静まりかえる中、少し気怠そうに口を開いた。

 

「宣誓、俺が1位になる」

 

瞬間、会場中がブーイングの嵐に包まれる。飯田くんの叱責にも全く耳をかしていないその様が、より周りの怒りを助長させている。

だけど、俺には分かった。

きっと出久も分かったと思う。

これは自信から出る言葉ではなく、自分を追い込んでいるのだと彼の音が言っていた。

この会場でただ、耳のいい俺と、勝己をずっと見てきた出久だけが気づいた勝己の宣誓での言葉の本当の意図。

 

「だからってあんなわざわざ憎まれるようなことしなくていいのにさぁ…」

 

俺は親指を下に振りかざしている彼らの怒りの矛先が自分に向かわないことを心の中で切に祈った。

 

 

そのとき、不意に観客席の方から嫌いだけど特別だった、『あいつ』の音がした気がした。

 

「!?…獪岳?」

 

けれどそちらを振り返っても人だかりばかりで、彼の姿は見受けられなかった。それに聞こえてきた音も一瞬のことで、すぐに喧騒に呑まれてしまった。

俺は気のせいだったと見当をつけて前に向き直った。

あいつがここにいるはずがない。

気を取り直して司会を務める先生の言葉に耳を傾ける。

己の内でバクバクとなっている心臓の音は聞こえていないフリをした。

 

「さぁて、それじゃあ早速始めましょう?第一種目はいわゆる予選よ。毎年ここで多くの者がティアドリンク、運命の第一種目、今年は…これ!!」

 

ミッドナイト先生の言葉に合わせて、前のモニターに文字が表示される。

そこには「障害物競走」と書かれていた。

先生の説明によると、その名の通り様々な障害物の仕掛けられた道を突破し、その順位を競い合う種目らしい。そしてコースさえ守れば、持ち込んだ道具の使用も個性の使用も自由。

 

「さぁ、位置に就きまくりなさい!」

 

それぞれが定位置に就き出して、俺もそこへ並んだ。

緊張感の漂う雰囲気に辺りが支配される。皆真剣なんだ。

各々が望むヒーローとなるために、ここは正しくスタートライン。

俺の望むヒーロー像、それはまだ曖昧で確固としたものではないけれど、誰も悲しませたくない、ただ漠然とそう思った。

実況席をチラッとみやると、普段気だるげな彼の見定めるような目線と目が合った。

証明するんだ、爺ちゃんが俺にかけてくれた時間は無駄なんかじゃなかったって。

 

序盤から波乱な予感がする雄英体育祭が今、

 

「スタート!!」

 

幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合図とともに生徒達が我先にと飛び出す。俺も流れに沿うように走り始めた。人の波に揉みくちゃにされて、押しつぶされそうだがなんとか踏ん張る。

その時足元辺りから冷気が流れたことに気付いてハッとする。

焦凍の個性だ。

ここにいたらまずい。

 

シィィィィィィィ。

 

『雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 神速』

 

俺は呼吸を使って人垣を越えていく。

刹那、後ろで地面が凍らされていく音がした。

焦凍の個性に巻き込まれた大多数の人たちが足止めされている中、なんとか難を逃れた俺はそのままの勢いで走り続ける。俺以外にも何人か対応できた者たちもいるようで、一位で走っている焦凍に追随している。

コースに沿って進んでいくと、今度は無機質な機械音が聞こえてきた。

入試で使われていた仮想敵だ。これが最初の関門のということか。呼吸を使って突破しようと画策したが、行動は焦凍の方が早かった。

目前に迫る仮想敵があっという間に氷漬けにされる。しかも不安定な状態なのか、敵の体からガガガガと嫌な音が漏れている。

こんな巨大な物が生徒たちの元へ降りかかれば怪我人が出るのは避けられない。

 

『雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃』

 

俺は仮想敵が倒れ込む前に霹靂一閃を打ち込むことで、敵の軌道を生徒達のいない反対方向へと修正した。

他の仮想敵達も倒していくべきかと出久を見ると、思案の音の中に微かに好戦的な音がした。ここで手を貸すのは野暮だと思い、俺は自分のことに集中することにした。

予選といえども俺だって気の抜けない戦いだ。

 

仮想敵の空いた隙間を掻い潜ってトップを走る者たちを追いかける。

そして見えてきた第二関門はロープが足場となっている断崖のようだ。

飛ぶ者、這っていく者、それぞれ個性や身体能力を駆使して関門を突破していく。俺は特にこれといった工作はせず、そのままロープの上を走って渡った。これくらいのことなら前世の柱稽古を乗り越えた隊士達なら難なくこなせるだろう。

そして迎えた第三関門、そこは地面に大量の地雷の埋め込まれた俺の苦手とする爆音の鳴りそうな地形だった。

そこら中で鳴り響く爆発音に、頭がガンガンと殴られているような痛みに苛まれ、思わず耳を塞いだ。

それでも足を止めるわけにはいかず、なんとか地雷を避けながら進んでいく。

その時、一等大きな爆発音が鳴って振り返ると、そこには先ほどの仮想敵の装甲の一部に体を乗せて、空を飛んでいる出久の姿があった。爆風を利用することで飛距離を稼いだんだ。

考えたな出久。こういう地形利用は出久の得意とする分野だ。

地雷原を乗り越えた出久たちが次々とゴールしていき、第一種目のトップは出久、そのあとに焦凍、勝己と続いて俺は4位だった。

最終目標が3位以内とするならばこれは上々な成績だ。俺はひとまずホッと息をついた。

第二種目に進めるものは上位42名に絞られ、本戦へと移行していくことになった。

 

「さぁて、第二種目よ。私はもう知ってるけど、何かしら?何かしらぁ?言ってるそばから…これよ!!」

 

モニターに表示された文字は「騎馬戦」だった。今度の種目は個人戦ではなく団体戦ということらしい。徒党を組んで敵団体を攻め入ることもあるヒーローにおいて、団結力は必要だ。これはそれを見極めるための種目なのだろう。

しかしそれだけではないのがここ自由を謳い文句とした雄英高校というもの。

この騎馬戦はさっきの順位に伴い、各々にポイントが割り振られ、そのポイントの書かれた鉢巻きを奪い合う、いわば争奪戦。俺は4位だから与えられるポイントは195ポイントだ。

騎馬によって開始ポイント数が違うことが勝敗を大きく左右しそうだが、雄英はそれだけでは飽きたらないようだった。

ミッドナイト先生が形の良い口角をニィと上げて言った。

 

「そして1位に与えられるポイントは、1000万!!」

 

彼女の言葉に周りの目線が一斉に出久に向いた。

1000万ポイント、つまり出久の鉢巻きさえとってしまえばたとえ最下位だったとしても1位に躍り出れる、そう思い至ったのか、周りから狙いを定める音がそこら中で鳴っている。

当の出久はあまりの重たいポイント数に顔を青くしている。

先生の説明が終わり、チーム決めの時間となったが案の定、出久は遠巻きにされてしまっていた。

俺の機動力ならある程度出久をカバーできるはずだ、そう考えた俺は出久に声を掛けようとしたが、その前に後ろから誰かに声を掛けられた。

俺は聞いたことのない声に内心首を傾げながら振り向いた。

 

「なぁ、俺と組まないか?」

「え?俺はその…」

 

他に組みたい奴がいるから、そう返そうとしたがそれを言う前に何故かどんどん意識が遠のいていった。

そこで俺の記憶は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「第二種目、スタート!!」

 

開始の合図が高らかに宣言される中、瞳を固く閉ざしている金髪の少年に、「洗脳」という個性を持って生まれた少年が言った。

 

「せめて体のいい当て馬くらいにはなってくれよ?緑谷善逸」

 

雄英体育祭、第二種目が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簡易な設定

 

 

我妻善逸(緑谷善逸)

出久くんの義理の弟

個性:鬼化

基本戦闘スタイル:雷の呼吸

 

鬼化の個性は身体能力、回復力を飛躍的に上昇させるかなり汎用性も高く、強個性。鬼滅時空の鬼のように藤の花の毒が苦手だったり、日光が苦手だったりはない。ただ、使いすぎると暴走して食人衝動に襲われる。トラウマは雷。意識を失った時にいつも以上の力が発揮される。

 

 

轟焦凍

 

幼少期に善逸に救われてから、善逸に対してかなり好意高め。原作とは違い、すでに左側の個性も使うし、表情も多少穏やか。いつも隠し事ばかりの善逸の助けになりたいと思っているが、中々うまくいかずにもどかしく思っている。せめて善逸の心を少しでも癒すことができたならいいと思っている。

体育祭、今回こそお前に勝つぞ善逸。

まさか善逸が体育祭の結果で除籍宣告されているとは夢にも思っていない。

 

 

 

緑谷出久

 

善逸のことはちゃんと家族で兄弟だと思ってる。雨の日の一件以来落ち込んでいる善逸を気にかけている、無謀だけど優しいお兄ちゃん。使える物は全て使っていく気概をもっている。まさか善逸が体育祭ry((

 

 

 

竈門炭治郎

 

今世でも賑やかな六人兄弟の長男

個性:爆血

基本戦闘スタイル:ヒノカミ神楽、水の呼吸

 

前世で善逸が目の前で死んだことはかなりショックだった。なまじ失うことの多い人生を歩んで来たため、仲間が傷つくことがトラウマとなっている。現在義勇さんの創設した事務所にインターン生として所属しており、敵連合の潜入任務をしていた。父が存命のため、花札柄の耳飾りは受け継いでいないが、善逸からそれに似た柄の耳飾りを貰ってそれをいつも付けるようになる。

善逸が帰宅した後ちゃんと伊之助の元へは行きました。

 

 

 

 

作中に書かれていませんが、原作との辻褄を合わせるため、心操くんと組んでいたA組ではない青髪の子は予選落ちしたということにさせていただきました。




次回の更新は2月2日18時を予定しております!読んでいただけると嬉しいです!
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