善逸が出久の弟としてヒロアカ世界を生き抜く話   作:冬のこたつのおとも(みかん)

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今回は番外編として、ヒロアカ世界での炭治郎と伊之助の出会い話です。番外編と言いつつ本編で触れられなかった設定などに触れている場面もあるので、出来る限り読んでいただけると嬉しいです!


【番外編】その壱

この世界に生まれ落ちてから早いことに6年の月日が過ぎた。

そして俺は一週間前に小学校に入学した。小さな子供たちに囲まれることは家で慣れていたので、俺はすぐに周りに馴染むことができた。この場所でもうまくやっていけそうだと思っていたが、そこに前世で共にいた二人の友人がいないことに寂しさも感じ初めていた。

今日も家族に見送られて学校へ登校すると、教室の前で揉めている声が聞こえて来て、俺は首を傾げた。

 

「だーかーらー!さっきから何度も言ってるだろうが!!権八郎いるだろこのクラスに!!俺の肌がバチバチッときたんだ!間違いねーぜ!!」

「そんな子知らないってば!何度も言ってるでしょ!?」

 

俺は言い争う二人を仲裁するように歩みよって声をかけた。なんだか既視感のある名前を聞いたが、それよりも今はこの二人を宥めなくては。周りから怯えたような匂いがする。

 

「朝から一体どうしたんだ?二人ともとりあえず落ち着くんだ」

「あ、炭治郎くん!炭治郎くんからも言ってやってよ。このクラスに権八郎くんなんて子いないってさ!」

 

言い争っていたうちの一人は俺の後ろの席の中島優くんだった。普段は比較的落ち着いた子だけど、難癖をつけられては男として言い返さずにはいられなかったのだろう。弟たちに芽生え出した可愛らしい威厳を思い出して俺は微笑ましい気持ちになった。

そこでもう一人は誰かと前を向くと、優くんと激しい口論を展開していたその子とパチッと目があった。

その見覚えのある美少女顔に、俺は声を上げた。

 

「もしかして、いっ伊之助か!?」

「やっぱりいたじゃねーか権八郎!!親分に挨拶に来ねーとはどういうつもりだ!!」

 

フンスと息巻く伊之助を前に俺は目を丸くした。彼は前世で共に戦い抜いた友人のうちの一人だ。まさかここで再会するとは思ってもいなかった。

 

「また会えて嬉しいよ伊之助!それに前世のことも覚えているんだな!」

 

時間を置くと驚きよりも再会できたことへの喜びの感情が勝りだして、俺は声のトーンを上げて言った。そんな俺を見て伊之助は得意げに「子分にできて親分の俺にできないことなんてねーからな!」と言った。

俺は前世の記憶を持って生まれたが、俺の家族たちはその例にはそぐわなかった。そのこともあり、俺はよもや前世の記憶を持って生まれた俺こそが希有な存在であり、他に記憶を所持している人はいないのではないかと不安になっていた。けれど伊之助もまた前世の記憶を持っていたことに俺は安堵した。俺以外にもいたんだ、あの濃厚な日々を、信条を掲げて戦った先人たちを、そして何より強くて優しくて泣き虫な彼を知っている人物が。

そのことが俺は何より嬉しかったんだ。

 

「伊之助、善逸にはこの世界で会ったことあるか?」

 

感動がある程度落ち着くと、俺はもう一人の友人のことを尋ねた。

成長して歩けるようになってから、家の近くを中心に幾度となく探し回ったが、その時には伊之助も善逸にも会うことはできなかった。

だけどもしかしたら伊之助はもうすでに善逸に会えたのではないかというささやかな希望論から出た疑問だったが、現実はそう甘くはなく、伊之助からの返事は否だった。

それから二人で善逸をどう探すかの算段に話が移ったとき、俺のクラスの担任の先生である平塚先生が焦ったような匂いを出して俺たちの元へ来た。

 

「どうしたんですか先生、そんなに慌てて…」

「炭治郎くん!大変よ!よく聞いて。実はさっきお家の人から連絡があって、炭治郎くんの妹の禰豆子ちゃんが個性を悪用しようとする敵に誘拐されたって…!」

「え…」

 

俺は先生から発せられた衝撃の発言に目を見開いた。

 

禰豆子が誘拐された。

 

この世界に鬼は存在しないが決して平和そのものではない。俺はそのことにすでに気がついていた。ここでは個性と呼ばれる超常的な力を誰もが持っていることが常となり、それを悪用する輩が少なからずいる。それらは敵と呼ばれ個性社会で蔑まれている。禰豆子にも先日個性が発現した。現在では無個性は嘲笑の的であるため、そのこと自体は良かったが何如せんその能力が危険なものだった。

禰豆子の個性、それは「再構成」。他者の個性を作り変えるという、この個性社会に置いて非常に敵に利用されやすい個性だった。

 

「今はヒーローたちが敵の立てこもってる建物の前で待機してるんだけどね、その敵の個性が厄介で…。どこからでも爆弾を起動できる個性なの。それで建物に近づいたらすぐに爆発させるって…!それでヒーローたちも近寄れない状況なの。だから炭治郎くんは一度家に帰って…、あっ、ちょっと炭治郎くん!?」

 

俺は先生が言い終わる前に走り出していた。たったの齢5つの妹が、凶悪な敵に拐われて、きっと怯えている。そんな時に無事を祈るだけで何もしないなんてそんなこと出来るはずがない。俺はまだ鍛え始めたばかりでろくに呼吸も使えないが、それでも大人しく待っていられるほど俺の気は長くない。

 

「おい待てよ炭吾郎!」

 

どんどん速さを上げてつっ走る俺を、伊之助がガシッと腕を掴んで止めた。早く妹を助けに行きたいのに、それを邪魔された俺は不機嫌を隠すことなくギッと伊之助を睨んだ。

 

「伊之助、俺は禰豆子を助けに行かないといけないんだ、止めないでくれ!」

「禰豆公助けに行くのは当然だ!けどよ場所はわかってるのか」

「それはわからないが…、とにかく探すしかないだろう!」

 

伊之助の言う通り、場所はわからない。ヒーローたちが待機しているということは、敵の居場所自体は割れているはずだが、それを一介の子供でしかない俺たちに教えるとは思えない。それなら自分たちで探すしかない。とにかく急がなければ禰豆子の身に危険が及んでしまう。なんとか伊之助の手を振り払おうとするが、彼は力を緩めることなく言った。

 

「そんな当てずっぽうに探しても時間を無駄にするだけだろ。それよりも爆弾があるっつーことは火薬の匂いをお前なら辿れるだろうが!」

 

伊之助の言葉に俺は目から鱗が出たような気分だった。

そうだ、火薬の匂い。

あの匂いは強烈で独特だから、距離が離れていても嗅ぎ分けることができる。こんな簡単なことに気がつかないほどに俺は冷静さを欠いていたことに気付かされた。

 

「ありがとう伊之助!俺がすっかり見落としていたことに気付けるなんて伊之助はすごいな!」

「ったりめーだ!俺様は山の王だからな!」

 

伊之助に助言された通り、俺は集中して火薬の匂いを辿る。そして少し街から外れた廃工場にその匂いを見つけた。俺と伊之助はその工場を目指して走り出した。

待っててくれ禰豆子、兄ちゃんが絶対に助けてやるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃工場に着くと、先生の言葉通りに何人かのヒーローたちが待機していた。しかし敵の脅しを警戒し、その場で立ち往生してしまっている。その間にも禰豆子は恐ろしい目に遭っているかもしれないのに。俺たちは己の体の小ささを利用して、ヒーローたちに気づかれることなく廃工場へと侵入した。中には住み込みで働けるようにか、人が生活出来そうな部屋もいくつか並んでいた。真っ向から攻め入っては爆弾を起動されかねないので、地下の用水路を通って奥へと進んでいく。

 

「炭治郎」

「どうした?伊之助」

 

この世界では初めて伊之助が言い間違えることなく俺の名前を言えたことに密かに感心しつつ、俺は伊之助の方を振り返った。

 

「ここから先は別行動するぞ。俺は爆弾を処理しにいく。お前は禰豆公探しに行け」

「しかし…」

 

俺が言い淀むと、伊之助は真っ直ぐな瞳で俺を見つめた。

その瞳が「俺を信じろ」、そう訴えかけているようだった。爆弾処理をする方が明らかに危険度が高いと伊之助の提案を受け入れあぐねていたが、任せろと断言する仲間を疑うことはしたくない。俺は彼の提案をのむことにした。

 

「わかった、そのかわり絶対に無茶だけはしないでくれ!伊之助も無事にここから皆で出るんだ!」

 

伊之助は俺の言葉から一拍置いた後に何やらふんわりとした匂いを発して「俺をホワホワさせんじゃねー!」と怒りだしたが、今は一刻を争う事態のため俺は苦笑いを浮かべながら伊之助と分かれて用水路を進む。

コツコツと鳴る足音がやけに響くここに他の音はない。けれど嗅ぎ慣れた禰豆子の匂いを辿ることは、同じ建物内なら容易なことだ。一つのマンホールの下で、俺は足を止める。

 

「…ここか」

 

どうやら敵はちょうどマンホールのある部屋で籠城しているらしくここから外に出ればすぐに敵と対峙できる。これ以上相手に気づかれずに進むことは不可能だ。

俺は伊之助が爆弾の方をうまく処理してくれることを信じてマンホールを蹴り上げた。

まだ幼児と相違ない体で、呼吸も未熟ではあるが鍛錬し続けている俺の脚力は幼児に比べれば桁違いだ。

ガタン!!と大きな音を鳴らして宙に舞うマンホールの蓋を見上げながら俺は用水路から抜け出した。

 

「誰だ!!」

 

部屋には縄で縛られた禰豆子と、そのそばに一人の敵と思わしき男性が立っていた。男性からは警戒の匂いが漂っている。彼から微かに火薬の匂いがすることから、彼が爆弾を起動させる個性であると見当をつける。

 

「お兄ちゃんっ!!」

「俺の妹を取り返しに来た!お前の好きにはさせない、禰豆子は返してもらう!!」

 

禰豆子が涙を浮かべて俺を呼ぶ。すぐに助けてやるから後少し耐えてくれ、禰豆子。敵は俺が子供であることを侮ったのか、フッと鼻で笑って言った。

 

「なんだただの餓鬼か、驚かせやがって。嬢ちゃんは俺が有効利用してやるから安心しな、坊ちゃん」

「ッ!そんなことは許さない!!」

 

俺は武器を所持していないため、素手で相手に殴りかかる。それを防がれたが思いの外強い力だと感じたのか、飄々としていた敵の顔が歪んだ。

 

「この餓鬼ッ!増強型の個性か!」

 

相手は個性を省けばただの一般人だ。これはこのまま力で押し勝てそうだと安堵したその瞬間、激しい衝撃が俺の体を襲った。

 

「ッ!?」

ダアンッ!!

 

気づくと俺は壁に強く体を打ち付けられていた。混乱した頭で自分が押し飛ばされたことをなんとか理解する。しかし一体誰が?あの敵にこれほどの力はないはずだ。

俺はバッと顔を上げて前を見た。するとそこにはさっきまでいなかった強面の男性が敵を庇うように立っていた。

 

「大きな音を聞いて駆けつけてみれば、なんだこの小童は?」

 

どこか古めかしい口調で仰々しく話す様は、彼が強者であることを象徴するようでゾッと背筋に冷たいものが走った。

 

「どうやら小鼠がここに紛れ込んだようでな、邪魔だから排除してくれ」

 

爆弾を起動させる敵の言葉を聞き終える前に、俺は先制攻撃とばかりに駆け出して強面の敵に拳を振り上げる。が、

 

「そうか。ならば我は雇用人に従うのみ」

「ッ!?」

 

その一瞬で強面の敵は姿を消した。どこにいる!?と辺りを見渡した時、後ろからゾクッとする感覚がしてすぐさま後ろを振り返るが、相手の動きに対応できず俺の体はまた突き飛ばされていた。

 

「ッゥグ!!」

 

勢いのままに何度か体が地面で回転しながらしばらくしてやっと止まる。あの一瞬で後ろをとられていた。全く目で追えなかった。どういう個性なのかもよくわからない、瞬間移動かと一瞬考えたが、それではあの俺を突き飛ばすほどの力の理由がわからない。それなら前世で戦ったあの矢印を操る鬼のように力の法則に関する能力なのだろうか。どれも予想の域を出ず、確信を持てない。圧倒的な力を前に打開策が浮かばない。

 

「これ以上やりあうことは無意味だ。貴様はまだ若い。ここで退くというならば今回は見逃してやらんこともない。ここで退け、愚かな者よ」

「お兄ちゃんッ!!…ィアッ!」

「大人しくしていろ餓鬼!」

 

強面の敵が俺に語りかけている後ろで爆弾を起動させる個性の敵が禰豆子の髪を掴み上げている。

 

「禰豆子ぉッ!!」

 

禰豆子が顔を歪め、大きな瞳からポロポロと涙が溢れる。一つの部屋の中だというのに、禰豆子との距離がこんなにも遠い。

この世界で、俺は禰豆子を失ってしまうのか?

『あの日』のようにまた俺は間に合わないのか?

俺の伸ばした腕が空を切る、禰豆子には届かない。

嫌だ、そんなのは嫌だ。

もう、俺は何も失いたくないんだ。

 

「…生殺与奪の権を他人に握らせるな」

 

かつて義勇さんが言っていた言葉を俺は小さく復唱する。弱者は強者に奪われるのみ。惨めに地面を這いつくばって、強者に赦しを乞うても、それでは俺はまた何一つ守れない。

だから、

 

「あくまで抗うというのか、小童」

 

俺はボロボロの自分の体に鞭を打って立ち上がった。体中の血液がその流れを早くしていき、体温が上がっていくのを感じる。

この感覚には覚えがある。

前世で額の痣が濃くなっていくときの感覚だ。それと同時に個性を使っているときの感覚がする。俺の個性「爆血」は自分の体外に排出した血液にのみ作用するものだと思っていたが、こういった応用法があったのか。俺は今どうやら爆血の個性を体内にある血液に作用させることで体温を爆発的に上昇させ、痣が出現した際と同じ体の状態にしているようだ。

けれどこれは諸刃の剣だ。

一歩誤れば体中を燃やし尽くしたり、体内の血液を全て蒸発させてしまう。

長時間は使えない。

短期決戦、俺があの敵に勝つにはそれしかない。

さっきまでの重い体が嘘のように軽く感じる。俺はヒノカミ神楽を思い出しながら駆け出した。

 

もう俺から、何人たりとも奪わせやしない!

 

俺は強面の敵を殴り飛ばした。相手はさっきの俺のようにその身体を床に打ち付ける。

 

「!?どこからそんな力が…ッ」

 

相手が怯んだ隙にかかと落としをして敵の意識を刈り取った。これであとは禰豆子の髪に汚い手で触れたあの敵だけだ。

俺は殺気を放ちながら敵を見やる。

敵はさっきまでの堂々とした態度はなりを潜めて怯えたような匂いを出している。この敵も倒して禰豆子を助けるんだ。俺が走り出そうとしたその時、敵が恐怖と不穏な匂いを周囲に撒き散らしながら叫ぶように言った。

 

「こっ、こうなったらやってやる…、皆まとめて木っ端微塵にしてやるぅっ!!」

「なっ、まさか!?」

 

その言葉に俺は思わず立ち止まった。

敵の発言に俺は最悪の場合を想定する。

恐らく敵は爆弾を起動させるつもりだ。それはまずい。そんなことをされればここにいる敵も俺も禰豆子も無事では済まない。

敵が手を振り上げる。個性を発現させた匂いが辺りに充満した。

 

だめだっ、もう間に合わない!

 

無駄な抵抗ではあるが俺はギュッと体に力を入れて来るだろう衝撃に備えた。しかし衝撃は一向に来ず、時間だけが刻々と過ぎていく。一体どうしたのかと瞑っていた目を片方恐る恐る開いてみると、そのボヤけた視界でやけに焦っている敵の姿が映った。

 

「あ、あれ?なんで起動しないんだ…?おい、どういうことだよ!」

 

そのとき、真っ二つにされた爆弾が部屋に投げ入れられた。俺は宙を舞う壊れた爆弾を視界に入れると目を見開いた。そのあとすぐに爆弾が投げ入れられた廊下へと続く部屋の扉の方に視線を向けると、そこには伊之助が仁王立ちで立っていた。

 

「伊之助!?」

「フハハハハハ!!!爆弾なんてぶった斬っちまえばただの鉄の塊だぜぇ!!」

 

どうやら伊之助が無事爆弾を破壊してくれたようだ。伊之助は爆弾を断裂させるのに使ったであろう長い刃物を掲げてしてやったりといった様子だ。

 

「すごいぞ伊之助!そんな武器一体どこで手に入れたんだ?」

「んぁ?これは落ちてたんじゃねぇ。俺様の個性で作ったんだ!!」

 

伊之助は俺にどうだ!と見せるように刃物を突き出して自身の個性について話し始めた。曰く、伊之助の個性は「剣化」で生物を覗く全ての物を鋭い刃に変えてしまう個性らしい。元からポテンシャルの高い伊之助には使いこなしやすい個性だ。

 

「だから、俺はどんなものだって刃に変えて敵を切り裂き放題ってわけだぜ!!」

 

伊之助は言いながら大きめの石を見繕い、俺と伊之助が会話をしている隙に逃げ出そうとしていた敵目掛けて投擲した。投げられた石は小型のナイフとなって敵の顔の横に突き刺さった。敵はよほどそれが恐ろしかったのか、その場で泡を吹いて気絶した。

こうして二人の敵を倒した俺たちは縄を解いて禰豆子を助け出した。

そのあとすぐに俺は体を酷使した反動から血を吐いて意識を失った。

後に伊之助から聞いた話によると、この後中の異常に気付いたヒーローたちによって俺たちは保護されたようだ。そして俺はそのまま病院で緊急入院となった。名目は個性の暴走ということで処理されたが、呼吸を無理に使ったことで肺もだいぶ損傷していたらしい。幸い後遺症は残らないようだが、無理な訓練はしばらく控えるようにと灸を据えられてしまった。

 

 

俺が意識を取り戻して初めに視界に映ったのは白い天井と泣きはらして眠ってしまった禰豆子の顔だった。俺はもうほとんど乾いてしまった涙を拭うようにそっと禰豆子の頬に手を添えた。

禰豆子は穏やかな寝息をたてて俺が眠っていたベッドに寄りかかっている。涙を拭える距離、何かあった時守ってあげられる距離にいる。

俺は今度は妹を救うことができたんだ。いや、俺一人では到底成すことは出来なかった。伊之助がいてくれたおかげだ。

ふと、俺は敵に捕まって泣きはらしている禰豆子を思い出した。

その姿が今世では一度も見ていないあの泣き虫な彼と重なって見えた。

俺は禰豆子から手を離してその手を宙にかざした。

 

「遠いなぁ」

 

伸ばしたって掴めない。どこにいるかもわからない、遠い遠い俺たちの距離。

一度分かれてしまった俺たちの道が再び交わることは果たしてあるのだろうか。

彼は今もどこかで泣いているのかもしれない。

わんわんと声を上げて、怖い、寂しいと泣いているのかもしれない。

その涙を今は拭ってやることができない。

だけど、いつか必ず。

 

「あの日止まった時間の続きを_____」

 

俺の手が彼に届くその日まで、俺は彼にしか埋められない穴を抱えて生きると、とうの昔に決めたから。




次回の更新は2月3日18時を予定しておりますので、読んでいただけると嬉しいです!
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