善逸が出久の弟としてヒロアカ世界を生き抜く話   作:冬のこたつのおとも(みかん)

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毎回誤字報告などしてくださる方々ありがとうございます!私個人としましても、ニュアンスの違いなどを確認できてとても勉強になりますし、ありがたいことだと実感しております。今後も共に善逸達の活躍を見守っていきたいと思っております!


クリード(前編)

出久との戦闘、俺は初めて自分の個性を使った。これは鬼の力だ、元鬼殺隊士として、忌むべきこの力を二度とこの世に振りまいてなるものかと意固地になっていた俺に、出久は「善逸の力じゃないか」と言った。

個性は身体機能の一部、昔自分が言ったことのはずなのに、俺はすっかりそのことを失念していた。

鬼と同じ力、だけどそれが俺の個性で、俺の身体の一部。

この力がかつて多くの罪なき人の命を奪ったのならば、俺はこの個性を用いて多く人の命を救えばいい。

あいつが鬼になったあの日まで、俺は鬼をそれほど恨んでいたわけではなかった。

鬼が怖くて、自分に自信がない。そんな俺を、鬼の眼前に動かす力となる源は、崇高な信条や復讐心なんかじゃなかった。

目の前で震えている誰かを救いたい、その一心だった。

土壇場になるまで動けない俺は結局ダメな奴だと思うけどさ。

そんな俺でも、昔に比べたら少しだけ早く足が動くようになったから、俺の個性を使って誰かを助けることができたなら、今世で生まれてからずっと目を逸らしていた、嫌悪していた、この力を持ってしまった俺自身をやっと許せる気がする。

試合が終わってしばらくがたち、大破していたフィールドの修復も終わったようで一時休憩となっていた第三種目も再開していた。

試合はちょうど焦凍が圧倒的力を以て相手を倒したところだった。

彼がきびすを返した際に、観客席にいる俺と一瞬目が合ったが、すぐに逸らされた。

俺はモニターに表示されているトーナメント表を見やる。

次の対戦相手は焦凍だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーー!!!なんでこんな日に限って任務あんだよ!!」

 

人通りの多い交差点に於いても、彼の声はよく通っていた。悔しい気持ちを声に出して発散したくなる気持ちは、俺もまた今日という日を楽しみにしていたためよくわかるのだが、これ以上注目を集めては任務にならないため、俺は前世から付き合いのある彼を宥めることにした。

 

「落ち着くんだ伊之助。体育祭なら録画してあるから、任務が終わった後に一緒に見よう」

「そういう問題じゃねぇだろ権八郎!子分が頑張ってるのを見届けるのは親分の役目なんだよ!」

 

相変わらず名前を間違える彼は、俺の言葉を聞いても気持ちは治まらず、反論を述べた。

しかしここで彼の言葉を肯定するわけにもいかない俺は言葉を続けた。

 

「任務をこなすのがヒーローの役目だ。善逸を応援したい気持ちはわかるが、任務を放棄してはダメだ。義勇さんが言っていただろう、今俺たちが任務地へ向かわなければ犠牲者が出るかもしれないと」

 

俺がそういうと、苦言は申しつつも自身の役割をしっかり把握している彼は口をつぐんだ。

けれど伊之助の匂いが不満だと雄弁に語っていたため、俺は思わず苦笑いを浮かべた。

普段任務となれば猪突猛進とばかりに奮う彼がこうも不服を唱えるのにはある理由があった。

それは今日が善逸の通う雄英高校の体育祭であり、リアルタイムでそれが全国ネットで生放送される日であるからだ。

俺たちはもちろん、それに参加する善逸を画面越しにはなってしまうが全力で応援するつもりではあったのだが、タイミングの悪いことに任務の召集がかかってしまった。

肩を落とす俺といつも以上に食ってかかる伊之助に涼しい顔で義勇さんから告げられた任務は、ヒーロー殺しステインの捜索だった。

俺たちに課せられたのはあくまで捕縛ではなく捜索。戦闘中のプロヒーローの援護に入るのはまだしも、直接戦闘は避けろとのことだった。

何人ものプロヒーローがやられている中、仮免許しか所持していない俺たちでは力不足だというのが上層部の判断のようで、義勇さんは俺たちの実力は確かだと申言はしたのだと不平そうではあったが、それが妥当な判断だと俺は思った。

いくら前世は鬼殺隊士として戦場の最前線にいたと言える俺たちだとしても、今世ではまだ未熟者だ。

前世とは力の使い勝手も、条件も違う。一人前として扱うには、まだ不十分だろう。

人の多い通りをなんとか潜り抜け、目的としている路地裏が近づいてきたとき、鼻につく鉄の匂いに俺は一瞬眉を顰めたあと、ハッとして隣を走る伊之助の方を向いた。

 

「血の匂いがする…!急ごう、伊之助!」

「おう!俺の肌もあの路地裏からヤバイ感じをビンビン感じてるぜ…!」

 

角を曲がった先には、一人の男性が倒れ伏し、その男性に乗りかかるように包帯を体中に巻き付けた男性がいた。

倒れている男性はヒーローコスチュームを身につけており、確かヒーローネームはインゲニウム。

ヒーローは劣勢どころかもはや瀕死の状態。

明らかにまずい状況だ。

 

「伊之助、通りへ出てヒーローに応援要請をしてくれ!」

「権八郎、お前は…。わかった、十人でも二十人でも連れてきてやるよ!」

「頼んだ伊之助!」

 

今日義勇さんにも別件の任務が入っており、助けを求めることはできない。臨戦態勢の敵を前に、けが人を背負っての逃亡は無謀だ。ならば一方が応援要請、もう一方がここで敵の足止めが最善策。そして道が入り組んだ路地裏を抜けた先にある人混みをより早く抜けられるのは、体の柔軟さに自信のある伊之助が適性だ。伊之助もそれを瞬時に理解したのか、何か言いたいことはあっただろうがそれを呑み込んで、俺の指示を肯定した。

 

「餓鬼が二人、ヒーローコスチュームを着ているということはインターン生か。…厄介だな」

 

静かに燃ゆる真紅の双眼が俺たちを値踏みする様に見下ろした。

捕食者のそれに目が合った瞬間背筋に凍るような悪寒が走ったが、なんとかグッと睨み返して、同じく緊張感を放っている伊之助に向かって叫んだ。

 

「行け!!伊之助!!」

「おう!死ぬなよ、炭治郎!!」

 

彼は珍しく俺の名前を間違えることなく呼び、その言葉を皮切りに薄暗い路地裏へ走り出した。咄嗟に伊之助に向かって敵がナイフを放ったが、それを俺は日輪刀を抜刀して防ぐ。防がれた彼は小さく舌打ちをして、刃こぼれのひどい刀を構えた。

ここから後はどれだけ俺が怪我人を庇いつつ立ち回れるかが鍵となる。

 

「俺を殺していいのはあの人だけだ。お前が本物か、偽物か、審査してやる」

「戦っては駄目だッ!奴はもう、何人もヒーローを、殺してるッ!君もッ、さっきの子と一緒に、逃げるんだッ!!

 

ステインがこちらに向かって走り出したと同時に、インゲニウムが俺に逃げろと叫んだ。彼の言う通り、援助すべきヒーローすら倒れ伏してしまっている今、それが最も賢しい行動なのかもしれない。けれど、それはヒーローとしては有り得ない愚行だ。

俺は刀を構えて迎え撃つ準備を整える。

 

『ヒノカミ神楽 飛輪陽炎』

 

相手が俺の間合いに入った瞬間、呼吸を使って刀を振り下ろした。

しかし敵は瞬時にそれに反応して、渾身の一撃のつもりだったが避けられた。予想を遥かに上回るほどに、敵は戦い慣れしているし、強い。できれば諸刃の剣ともなり得る個性を使いたくはなかったが、そうはいかないかもしれない。

 

「重い一撃だ。強いな、当たったらの話だが」

「次は当てる!」

「それはどうかな。言っただろう。お前が本物か偽物か、審査してやると」

 

ステインはニイッと口角を上げ、相手にその剣撃を浴びせようと襲いかかった。その先は俺ではなく、

 

「危ない!インゲニウム!…ゔァッ!!」

 

俺は咄嗟にインゲニウムとステインの間に体を滑り込ませて、その太刀を代わりに受けた。肩を鉄に貫かれた痛みに表情を歪めつつも、なんとか俺も刃を振るって牽制を入れる。ステインが後方に退き、刀についた俺の血液を舐めた瞬間、急に体が硬直したように動かなくなった。

 

「ッ!?何を、した!!」

「あいつの個性だ…ッ。対象の血液を体内にッ取り込むことで、一時的に相手の動きを、止めることができるッ!」

 

俺が視線だけをステインに移すと、彼はニヒルな笑みを浮かべていた。彼は俺に歩み寄り、そのまま俺を素通りしてインゲニウムの前で止まり、刃を下に向けて柄を握り直した。

 

「額に痣のあるあいつは、お前を庇って怪我をした。自己犠牲の精神、そして先程の重い一撃、本物だ。生かす価値がある。だが、お前は違う。偽物は死ね」

「やめろぉ!!!」

 

目の前で刃が振り下ろされる。動けと何度体に鞭を打っても、指先一つ動かせない。こんなに近くにいるのに、手を伸ばせば触れられる距離なのに、届かない。

また見殺しにしてしまうのか、あの日のように。

俺は、また。

 

その刹那、大量の木の根が視界を遮った。

 

「!これは…」

「チッ、増援か。潮時だな」

 

根の出どころに視線をやると、そこにはシンリンカムイを筆頭とし、何人かのヒーロー達がいた。ステインは舌打ちを一つし、刃を振り切ることなく路地の壁を伝い、去って行った。

 

「ガハハハハ!!この山の王に恐れをなしたか敵!!」

「伊之助!」

 

伊之助がヒーローたちを連れて来てくれたんだ。

その後、インゲニウムはすぐに救急車で運ばれ、そのまま入院となった。

入院と言っても、医師の判断では後遺症は残らず、今後のヒーロー活動には全く支障がないそうだ。俺はそれを聞いて胸を撫で下ろした。

俺は肩の傷以外は軽傷だったので、病院で処置してもらい、そのまま帰宅となった。

事務所に戻り、義勇さんに今回のことについて報告すると、彼は俺の肩の傷を一瞥し、少し痛ましそうに眉を顰めた後、「よく戻った」と一言ポツリと溢した。

それを聞いた瞬間、誰も死なせずに済んだのだと実感が湧いて来て、目に涙の膜が張って視界がぼやけて、涙を流すまいと唇を噛み締めた。

何も出来なかった自分に、偶然もたらされた救済に安堵しているだけの自分でいたくない。

もっと強くなろう、強くなって、今度こそ絶対に守り抜いて見せると決意を新たにした。

 

ステインが逃げ仰せたことで、任務も一時的に区切りがついたということで、今日はそのまま事務所のテレビで雄英体育祭を、義勇さんと伊之助と共に見ることになった。録画は家のテレビでしているため、見損ねた部分はまた後日ということになったが、善逸はどうやらまだ勝ち上がっていたようで、今からでも十分応援できる。

今は第三種目で一対一の戦闘で、次はちょうど善逸の出番のようだ。

相手は敵連合の雄英高校襲撃事件の際に、俺が途中で出会った髪色が紅白になっている男の子、たしか今世の善逸の友人だ。

友達同士だとやりにくい部分もあるかもしれないが、どうか二人とも怪我はあまりしないで頑張ってくれ、と心の中で祈った。

 




次回の更新は2月7日18時を予定しております。読んでいただけると嬉しいです!
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