善逸が出久の弟としてヒロアカ世界を生き抜く話   作:冬のこたつのおとも(みかん)

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体育祭編クライマックスです。


クリード(後編)

試合を直前に控えた控え室で、俺と焦凍は向かい合って椅子に腰掛けていた。

しばらく沈黙が続いていた時、ふいに焦凍が声を発した。

 

「善逸はすげぇな」

「へ?何が?」

 

いきなり始まった焦凍からの賛美に、俺は間の抜けた声を発した。言葉の意図が読み取れず、彼の瞳を見つめていると、やがて彼は言葉を続けた。

 

「初めて出会ったとき、お前は俺の親父の心を変えてくれた。そのおかげで俺は今、家族に辟易していた気持ちを抱くことがなくなった。それと同じように、第二種目で一緒に組んでた奴の気持ちまでお前は変えちまったんだ。善逸、お前はやっぱり凄ぇ奴だ」

「あ、えーと。実は俺第二種目の記憶全然ないんだよね。多分一緒に組んだ子の個性だと思うんだけどさ」

 

記憶にない時の話をされた俺は、気まずくなって目線をサッと横にずらした。俺の知らない俺の話をされることは以前から覚えのあることだ。皆何を勘違いして俺をこうも持ち上げてくれるのかはよくわからないけど、実力に見合わない称賛はどうも居心地が悪い。

 

「それはわかってる。けど言わせてくれ、お前の言葉には、人を変える力がある。かくいう俺もお前と関わって、幾度となく心を揺さぶられ、変えられた。それが良いことなのかはよくわからねぇが、少なくとも俺は善逸に感謝してる。だから、今度は俺が善逸を変えたい」

 

逃さないという意志の感じられる真っ直ぐな目線で射抜かれ、俺は思わず逸らしていた瞳を彼に向けた。

 

「緑谷との試合、個性使ってたな。あれほど忌避する個性っつーとこは、精神操作系のものだと思ってたが、まさか強化系統の物とはな。緑谷の言葉は善逸の心に届いて、善逸の個性を使わないという気持ちを変えた。緑谷に先越されちまったのは少し悔しいが、今度は俺が善逸の全部一人で抱えがちにしちまう癖を変えてやる。次の試合で俺は、お前に勝つ」

 

焦凍は言いたいことを全て言い終えたのか、スッと席を立った。

俺は彼が視界から外れてもなお、目の前の机をただ見つめていた。

変化、それは一見甘美な響きにも聞こえるかもしれないが、同時に憂悶なものでもある。変わるということは、ひとえに良いことというわけではない。前進もあれば後退もある。

当然、変えたくない意志や、思いだって人は一つや二つは持っているものだ。

それでも、彼になら。

焦凍なら、あの血塗られた日々を、悲痛な叫びを、凄惨な過去を、その中で生まれた絆を、一時の平穏なひと時を、全て知った上で俺を受け入れてくれる。

そう思えるほどには俺は目の前の彼に絆されている。

焦凍がドアノブに手をかけたところで、俺はやっと顔を上げてニッと笑った。

 

「何度も言うけど、俺だって負けないからな!」

 

除籍がどうとかではなく、今はただ純粋に彼に勝ちたい、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝ち残った生徒全員の一試合目が終わり、そのまま二試合目へと移行していった。俺は一歩一歩踏みしめるように歩き、フィールドに足を踏み入れた瞬間、室内にいた頃には感じられなかった会場の熱気と、遙か空で照り輝いている太陽の光に目を細めた。

反対側から焦凍も入場してくる。

緊張で少し顔が強張りがちの俺とは裏腹に、彼は涼しげな表情を浮かべている。しかし、その目には絶対に勝つという執念とも言える闘志がしっかりと表れていた。

そんな焦凍と目が合う。

だけど、俺も焦凍も言葉は何も発しなかった。

言いたいことは言ってきた。

ならばもう、後は自分の信念をかけて戦うだけだ。

 

「第二回戦、緑谷善逸対轟焦凍、スタートォ!!」

 

始まりの合図が聞こえた瞬間、俺はグッと膝を曲げた。個性を発動させ、体が作り変えていく音を聞くと同時に、焦凍が氷を出して俺の足場を固めにくる。それを上に跳躍することで避け、飛び出した氷を足場に焦凍との距離を一気に詰める。雷の呼吸と個性で極められた俺の速さは、もはや目で追うことすら難しい速度だ。

しかし中距離攻撃が優秀な個性故に、接近戦を苦手とする彼は、近接戦闘型の俺が距離を詰めてくることは容易に想像がいっていたようで、俺が抜刀する前に俺の服を掴み上げ、そのまま背負い投げした。

 

「ッ!?」

「俺だって体術は散々鍛錬積んで来たんだ。そう簡単に近づけると思うなよ」

 

焦凍の体術の技術が、前回手合わせした時に比べると急激に成長している。予想外の行動の驚き、体制を整えることなく宙を舞う俺に、追撃する様に彼は氷を作り出した。迫る氷を前に、俺は刀の柄に手をかけた。

 

シィィィィィィィィ。

 

『雷ノ呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 八連』

 

その氷を俺が連撃で砕いた瞬間、焦凍は今度は左腕から炎を俺目掛けて放った。それを俺は体を捻ることでなんとか避けて地面に着地する。

少し服が焦げてしまったが外傷は負わなかった。しかし右側の氷と左側の炎で温度調節ができる焦凍相手に耐久戦をしては、まだ個性の扱いに慣れていない俺の方が先にガタが来るだろう。かくなる上は、一撃重いものを相手に当てるしかない。

次で決める、そう思いながら俺は左足をグッと後ろに出して、抜刀体制に入った。

それを危惧した焦凍が俺の技を妨害すべく氷を放つ。

それを一度横に避けた後、焦凍が再び氷を放つ前に抜刀体制を作ったその時、あの音が聞こえた。

たくさんの喧騒の中でも、聞き漏らすことのないその音は、かつて散々聞いた音だ。

幸せの箱に穴が空いている音。

もう一度会いたくて、もう二度と会いたくなかった、あいつの音だ。

俺の罪そのものを証明するような音。

俺は視線を上げて、観客席を見てしまった。

大勢の中でも引き寄せられるように、それは目に入ってしまった。

この世の全てが恨めしいとでも言いたいような、深い深い蒼黒の瞳。

観客席に、前世俺が斬った兄弟子がいた。

 

「獪、岳…」

 

 

先ほどまで煩いほどに響き渡っていたはずの喧騒が何故か全く聞こえなくなったように感じた。

そんな静寂の中で、彼が口を開いて、その口から漏れた音だけが、やけに鮮明に聞こえて、頭の中で木霊して、何度も再生された。

 

「なんだ、テメェも俺と一緒じゃねぇか、カス」

 

俺は目を見開いて、自身から鳴っている個性が解除される音を聞きながら、柄に当てていた手をソッと離した。

 

ドンッ!!!

そして、気づくと俺は場外の壁に叩きつけられていた。

 

「緑谷善逸くん場外。轟焦凍くん三回戦進出!!」

 

俺が呆然としていると、焦凍が怒ったような音を鳴らしながら俺に近づいてきて俺の胸ぐらを掴んだ。

 

「どうして個性を解除した!!なんでッ、本気でやってくれねぇんだよ…ッ!俺は、お前にッ」

 

泣きそうな程顔を歪めて苦しそうな表情を焦凍は浮かべていたが、俺が見ていたのは彼の後ろの観客席だった。そこにはもうあいつの姿はなくて、自分勝手にも俺は少しだけ安心してしまった。けれど、責められるような、突きつけられるようなあの言葉が、頭から張り付いて離れない。

獪岳が視界に映らなくなったことで、やっと俺は焦凍に目を向けた。

俺がよほど酷い顔をしていたのか、焦凍の音には怒りの中に心配が混ざり始めていた。

 

「善逸…?…ッ、とにかく今は医務室行くぞ」

 

ポタッという音がして、下を見ると、そこには赤い小さなシミが人工芝に染み付いていた。触れると手に付着したことで、やっとそれが今俺の肩から流れ出た血であることを理解した。

先ほどの氷で切っていたようで、俺の肩からは血が垂れ流れていた。呼吸での止血すら忘れていたことにその時初めて気づいたが、ボーッとして回らない頭では、焦凍に怪我をしていない方の腕を引かれるまま、医務室に向けて足を動かすことで精一杯だった。

 

こうして俺の体育祭は、釈然としないまま呆気なく終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

体育祭後、すでに何人かの教師も帰宅してしまったのか、いつもよりも静かな職員室に入り、俺は相澤先生の元へ向かった。

俺は彼の出した条件を突破できなかった。散々な結果だった。

当然、除籍処分だ。

俺は彼に自分の真価を証明することも、結果を残すことも、何一つ為せなかった。

悔しさから涙が滲んできて、日が傾いてきて窓から差し込んでくる光が眩しいことを言い訳に、目を閉じてしまいたかった。

それでも最後にこの学校の景色から目を閉ざすことはなんだかもったいなくて、それはしなかった。

彼の前で立ち止まり、顔を上げることは出来なくて俯いたまま探るように俺は言葉を発した。

 

「あの、先生…。今回結果を残せなくて、でも俺…ッ」

「今回の結果は惜しかったな。まぁ、個性使うの初めてじゃあんなもんだろ。気を抜かず、次に生かせよ」

「へ?」

 

どんな叱責をされるか、はたまたもう何も言わずに見捨てられるのかとドギマギしていたが、存外あっけらかんと言葉を発する彼に、俺はポカンと口を開いた。

 

「あの、俺除籍処分なんですよね?」

「あぁ、そのことか」

 

今度こそ何か言われるのだろうと、グッと肩に力を入れて耐えるように手を強く握り締めていると、相澤先生はポンッと俺の頭に手を置いた。

何故そんなことをするのかと目を丸くしながら彼を見つめると、彼はなんでもないことのように言葉を続けた。

 

「言っただろう。“今後も個性を使わないつもりならば、次の体育祭で結果を残せ”と。だがお前は個性を使った。お前は自分で掲げた『信条』よりも他者を多く救える『可能性』を選んだんだ。どんな心境の変化があったかは知らないが、固めた意志を変えることは一朝一夕でできることじゃない。それこそがまさに自己犠牲、ヒーローをヒーローたらしめるものだ。緑谷弟、お前は昨日誰よりもヒーローしてたよ」

「!」

 

相澤先生は少し乱雑に、クシャッと俺の髪を撫でた。その手つきがなんだか気怠そうで、一見冷めているようだけど温かい目でクラスの皆をいつも見守ってくれている彼らしかった。

彼の手のひらの温度が俺に移っていくように、頬が紅潮していくのを感じた。

ちゃんと見ててくれたんだ。

 

「だが、お前は個性に於いて他のやつより一歩も二歩も出遅れてるんだ。周りの同じ速度で成長してちゃ追いつけないぞ。励めよ、有精卵」

「ッはい!!」

 

彼もまた爺ちゃんと同じように、俺を見捨てたりなんかしない、俺の師範(せんせい)なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程までいた煩い場所を離れ、不機嫌な心情を隠しもしない一人の青年が、夕暮れの大通りを歩いていた。

青年は考えていた。

やっていることは同じなのに、何故俺は失望され、あいつはあんなにも応援されているのか、と。

あいつも、『鬼』の力を使ったというのに。

だが、かつて鬼を屠っていたあいつの今世の個性が「鬼化」だという皮肉が、あいつを少しでも苦しめていると思うと、それだけが唯一青年の心に悦を感じさせた。

 

「俺を低く評価し認めねぇお前らは、死んで当然なんだよ」

 

仄暗い道へ入っていく青年は、独り言のようにその言葉を呟いた後、目の前のとあるバーの扉に手をかけた。

そしてその扉を勢いよく開けると、そのままズカズカと中へ入って行った。

そのバーの中にいた黒い靄の男と、身体中に手を貼り付けた男は青年を一瞥し、黒い靄の男が青年に問いかけた。

 

「ここに訪れたということは、この前の話を承諾するということでよろしいですね?」

「…俺に力をよこすっつー話は本当だな?」

 

青年の問いに対し、今度は手を身体中に貼り付けた男が、その手のひらの奥から覗く双眼をニィと細めながら答えた。

 

「それはもちろん。お前が望むの力を、先生は与えてくれるさ。ようこそ、敵連合へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簡易な設定

 

 

我妻善逸(緑谷善逸)

出久くんの義理の弟

個性:鬼化

基本戦闘スタイル:雷の呼吸、個性

 

鬼化の個性は身体能力、回復力を飛躍的に上昇させるかなり凡庸性も高く、強個性。鬼滅時空の鬼のように藤の花の毒が苦手だったり、日光が苦手だったりはない。ただ、使いすぎると暴走して食人衝動に襲われる。トラウマは雷。意識を失った時にいつも以上の力が発揮される。

兄弟子のことは爺ちゃんを切腹させたことは恨んでいるけれど、裏切るという行動自体は自分の放置した責任もあると感じている。今回その件の兄弟子と再会したことで、個性を使うことの罪悪感を刺激されたが、今後はそれでも個性を使っていく所存。だけど今世の兄弟子の状況が気になっているのもまた事実。

 

轟焦凍

 

幼少期に善逸に救われてから、善逸に対してかなり好意高め。原作とは違い、すでに左側の個性も使うし、表情も多少穏やか。いつも隠し事ばかりの善逸の助けになりたいと思っているが、中々うまくいかずにもどかしく思っている。せめて善逸の心を少しでも癒すことができたならいいと思っている。

善逸との戦いで、手を抜かれたのではと憤慨したが、善逸の腕から流れる血液を見て少し冷静になり、彼を医務室へ連れて行った。善逸に言いたいことは五万とあったけれど、まずは手当てが先だと気持ちを抑えた。

 

 

 

 

緑谷出久

 

善逸のことはちゃんと家族で兄弟だと思ってる。雨の日の一件以来落ち込んでいる善逸を気にかけている、無謀だけど優しいお兄ちゃん。善逸との戦闘でだいぶ怪我はしてしまったが、原作ほどではない。けれど原作同様の拳の傷は残っている。

 

 

 

 

 

竈門炭治郎

 

今世でも賑やかな六人兄弟の長男

個性:爆血

基本戦闘スタイル:ヒノカミ神楽、水の呼吸

 

前世で善逸が目の前で死んだことはかなりショックだった。なまじ失うことの多い人生を歩んで来たため、仲間が傷つくことがトラウマとなっている。

インゲニウムの一件で今回そのトラウマが少し刺激された。

現在義勇さんの創設した事務所にインターン生として所属しており、敵連合の潜入任務をしていた。父が存命のため、花札柄の耳飾りは受け継いでいないが善逸から、それに似た柄の耳飾りを貰ってそれをいつも付けるようになる。

 

 

 

 

 

嘴平伊之助

 

全力で周りを振り回す末っ子気質兼、親分

個性:剣化

基本戦闘スタイル:獣の呼吸、個性

 

前世での善逸の死はショックではあったが、自然の摂理というものを大切にしている彼は炭治郎ほど引きずってはいない。それでも今世ではばっちり守りきるつもり。

なんていったって俺様は親分だからな!!

 




次回の更新は2月9日18時に投稿予定です。読んでいただけると嬉しいです!
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