善逸が出久の弟としてヒロアカ世界を生き抜く話   作:冬のこたつのおとも(みかん)

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ストレンジ(後編)

「さて、全員のヒーロー名が決まったところで、話を職場体験に戻す。期間は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すから、その中から自分で選択しろ。指名のなかった者は、あらかじめこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件、この中から選んでもらう。それぞれ活動地域や、得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ」

 

確かに、個性が千差万別なこの世の中、戦闘が得意なヒーローもいれば、サポートに長けたヒーローもいるだろう。俺は前線を張れる戦闘系だ。とは言っても、正直ヒーローの事務所にあんまり詳しくないんだよね。

俺は配られた自分を指名してくれた事務所が連ねられているプリントを流し読みしながらため息を一つついた。

そのとき、一つのヒーロー事務所の名前が目に止まった。

 

「あれ?ここって確か…!」

 

俺は見知った事務所名を見つけた感動を押し殺すことなく、そのままの勢いで事務所名をプリントに記入した。

 

『水柱ヒーロー事務所』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員コスチューム持ったな。本来は公共の場じゃ着用禁止の身だ。落としたりするなよ」

「はぁーい!」

「伸ばすな、「はい」だ、芦戸。くれぐれも体験先のヒーローに失礼のないように。じゃあ行け」

 

元気溌剌と声を上げた芦戸さんを軽く叱りつつ、最終確認を終えた相澤先生は、生徒たちにそれぞれの体験先へ向かうよう指示を出した。

各々が駅に向かって歩き出す中、俺は出久と麗日さんに引き止められている飯田くんの方をチラリと見た。

飯田くんから聞かされていた保須市で起こったとされるヒーロー殺しの事件は、後日テレビで放映されていた。

その一件以来、飯田くんの誠実な音の中に、少しの不協和音が混じり始めたことが気がかりだった。

だけどそれほど親しいわけでもない俺に言えることなどほとんどないだろうと思い、俺は自分の体験先に向けて足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度か電車を乗り換え、俺は水柱ヒーロー事務所へやってきた。

階層の多いこのオフィスビルの2階が、事務所になっているようだ。3階、4階は住宅スペースとなっており、住み込みでの仕事も可能らしい。そのビルの近くの電柱に、身を隠すようにしてビルの窓を見張っている女性がいて、怪訝に思ったが彼女の音を聞いてその正体を察した。

彼女からは真実を暴きたいという音がガンガンなっていたが、そこに悪意の音は混じっていなかった。大方スクープを追うマスコミの人だろう。義勇さんはマスメディアには滅多に姿を現さない謎多き人物として、ヒーロー業界で有名らしい。俺がUSJ事件まで、義勇さん達のことを全く認知できていなかったのもそのためだ。謎が多い分、根も葉もないことを面白おかしく記事にされることもあるらしい。その中でも、芸能人とかによくある熱愛報道をされたこともあるらしいけど、その真実は迷子になった4歳の女の子を保護していただけだった。一体何を勘違いされれば4歳の少女と恋愛しているなどという噂が流れるのかはよくわからないけれど、幸い完全にネタとわかる文章だったため、それは炎上することなく鎮火されたのだと以前炭治郎から聞いた。

 

時計を確認すると、職場体験の開始時刻を回りそうだったため、俺は目の前にそびえ立つビルの自動ドアを潜った。

ビルに入ってすぐに見えたフロントにいる女性に、職場体験で来たことを伝え、二階へ上がるエレベーターまで案内してもらった。

二階に着いて扉を開けると、そこにはインターン生である炭治郎と伊之助と、知らない男性がいた。

 

「善逸!よく来たな!」

「遅っせぇぞ紋逸!」

「時間ピッタリだわ!!えっと、おはようございます。雄英高校ヒーロー科一年の緑谷善逸です。一週間の間、よろしくお願いします」

 

伊之助からの理不尽な言動にツッコミを入れつつ、腕を組んでどっしりと構えて居る、頬に男前な傷があることが特徴的な宍色の髪をした男性に挨拶した。

 

「あぁ!職業体験に来た学生だな?義勇から話は聞いている。俺は水柱のサイドキックの鱗滝錆兎だ!ヒーロー名は『ウォータービースト』。短い間ではあるがよろしく頼む」

「よろしくお願いします。鱗滝さん」

 

鱗滝さんは自己紹介を終えると、快活で人の良さそうな笑みを浮かべた。

水柱ヒーロー事務所で肝心の義勇さんが見当たらないことを疑問に思い聞いてみると、少し前まで炭治郎達が侵入捜査していた敵連合の件で上層部との打ち合わせがあるらしく、今は東京に出張中らしい。

 

「早速だがお前の実力が見たい。こことは別の建物になるが、うちの事務所が所持している訓練施設があるんだ。まずはそこへ移動するぞ。ついて来い」

「はい!」

 

いよいよ職場体験開始だ。俺は意気込みながら、若いのにどこか貫禄のある、逞しい背中を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

たどり着いた建物は、広々とした空間の広がる簡素な訓練場だった。そこは二階建てで、二階にはトレーニング用の器具が一式揃っているらしい。ヒーローコスチュームに着替えた俺は、同じくヒーローコスチュームを着込んだ炭治郎と伊之助と向かいあった。

そこで鱗滝さんが話始める。

 

「ここで緑谷には、炭治郎との模擬戦闘を行なってもらう」

「なんで権八郎だけなんだよ!」

 

鱗滝さんの言葉に、伊之助がすぐさま噛み付いた。俺も疑問に思ったことだったので、鱗滝さんを見つめると、彼はすぐにその答えを返してくれた。

 

「それは炭治郎も緑谷も用途は違えど、同じ身体能力を強化することのできる個性だからだ。雄英体育祭での緑谷の試合は見ていたが、まだ個性が体に馴染んでいないように感じた。訳を深く追求するつもりはないが、なんらかの理由があって、最近まで個性の使用を控えていたんだろう。違うか?」

「…あってます」

 

あの数十分ほどの試合で、それほど見抜けるものなのかと、俺は素直に感心した。炭治郎と伊之助は気づかなかったとばかりに目を見開いて、こちらを見ていた。二人は俺の個性のことは体育祭で見ていたようだが、気遣ってくれたのかそれについて深くは聞いてこなかった。伊之助なんてどんな際どい話でも、遠慮なしに聞いちゃいそうに見えるかもしれないけどさ、あいつあぁ見えて人の機微に敏感なところがあるんだよな。彼のそういうところに、個性に対する心の疲労や不安が、少しだけ軽減された気がする。

 

「個性の使い方っていうのはとにかく慣れが重要だ。そしてその演習には似た個性を持つもの同士でやるのが、最も効率的だろう。納得したなら準備を始めろ!」

「「はい!」」

 

俺と炭治郎は同時に返事をした。伊之助は仲間外れにされたと感じたのか、少しいじけたような音を鳴らしていたが、そこですかさず鱗滝さんがフォローを入れた。

 

「伊之助は二人の戦闘を観察しておけ。お前と緑谷は同学年ではあるが、伊之助は個性を使う先輩として、そしてヒーローの先輩として、後輩である緑谷にしっかりアドバイスしてやれよ」

 

先輩という言葉に耳聡く反応を示した伊之助は、あっという間にいつもの元気さを取り戻して、「フハハハハ!!!まかせろ!この先輩で、親分の伊之助様がしっかり子分にアドバイスしてやる!!」と言った。

伊之助の調子も戻ったところで、鱗滝さんは俺と炭治郎に竹刀を一つずつ投げ渡した。

それを受け取ると、俺は鱗滝さんに指示された配置につき、開始の合図を待つ。

それを見た鱗滝さんが口を開いた。

 

「準備が整ったようだな。それでは、始め!!」

 

最初に動いたのは合図とともに飛び出した炭治郎だった。彼から個性が発動する音が鳴っている。

俺は炭治郎の個性を知らない。

鱗滝さんは炭治郎の個性を身体能力能力を上げる個性だと言っていたが、それはどの程度なのか、またどの部分なのかがまだわからない。

とにかく気を張らないと一瞬でやられかねないと思った俺は、すぐに個性を発動させた。

炭治郎から放たれた剣撃を竹刀で防いだ後、足払いを仕掛けた。

それを素早く察知した炭治郎は上へ跳躍し、そのままかかと落としを繰り出す。俺はそれをバックステップで避けた後、わずかに開いた横腹目掛けて竹刀を振るったが、それを間一髪で防がれてしまう。それでもなんとか攻撃を入れようと押し問答を続けたが、拉致が開かないと察し、互いが同時に後ろへ飛び退く。

それから仕切り直して俺は呼吸と個性で強化された速さで相手の背後へ回り込み、奇襲をかける。

しかし炭治郎はそれを予測していたのか、俺が移動した場所にピンポイントで竹刀を打ち込んだ。

足に意識が向いていたことで反応が遅れた俺はそれをもろにくらってしまい、後ろに吹っ飛ばされた。なんとか受け身を取り、衝撃を緩和したが、俺が立ち上がる前に炭治郎が次の手を仕掛けた。俺はそれをギリギリのところで防ぐ。

そのままどちらにも大きい攻撃が入らないまま均衡を保っていたが、それは長くは続かない。

何度も打ち合ったことで床に垂れていた汗で一瞬、俺の足がもつれてしまった。

その一瞬の浮遊感に意識が向いてしまったところを、この目の前の男は見逃さない。すぐさまその隙をついて竹刀が迫ってくる。

そしてそれは俺の首の近くで寸止めされた。

 

「そこまで!!」

 

鱗滝さんの声で、炭治郎と俺は竹刀を下に下ろした。

戦闘中には気がつかなかったが、今までで一番長く個性を使っていた俺は、思ったよりも消耗していたようで、その場に座り込んだ。

 

「やっぱ炭治郎は強いなぁ」

「善逸こそ強かった!最後汗で足を滑らせていなかったら、負けていたのは俺だったかもしれない」

 

根が優しい炭治郎はそう言っているが、彼は息こそ上がっているものの、まだ余力が残っているように見える。

 

「それじゃあさっきの試合の反省会だ。伊之助、何か気づいたことはあるか?」

「紋逸の動きが硬ぇ」

 

率直に告げられたその講評は、俺にも自覚があったことなので、グサリと心に突き刺さった。まだ個性と呼吸で強化された速さに慣れていないので、どうしてもワンテンポ遅れてしまうところがあるのは否めない。

理由はそれだけではないけれど。

 

「その通りだな。個性を使うことにどこか戸惑いを覚えているように見えた」

 

伊之助の意見を、鱗滝さんも肯定した。もう一つの理由を正確に当てられ、俺は肩を落として視線を下に下げた。

出久の言葉を聞いて、俺はこの個性は自分の力なのだと認めることが出来た。

だけど、まだ受け入れることが出来たわけじゃない。

 

「善逸」

 

不意に声をかけられて、俺は下げていた視線を上げた。そこには真っ直ぐな瞳で俺を射抜く炭治郎の顔があった。

 

「俺たちにはかつての記憶がある。善逸が自分の個性に思うところがあるのも無理はないと思う。だけど昔は個性もヒーローもなかったんだから、そんなに深く考えることはないんじゃないか?個性は体の一部だ。どれだけ切り離そうとしたって切り離せるものじゃない。その力はもうとっくに善逸のものだ。過去の業は囚われるものじゃなくて、噛み締めるもの。善逸の力なんだから、善逸のやりたいように使って、思うままにヒーローを目指せばいい。大切なのはどんな力を持ったかじゃなくて、その力をどのように振るうかだと俺は思う。善逸はその力を正しいことのために振るえるはずだ。大丈夫!善逸ならできるよ。俺は善逸を信じてる」

「炭治郎…」

 

炭治郎は泣きたくなるような優しい音を鳴らして、慈しむように笑みを浮かべた。その笑顔は降り積もった雪を溶かす太陽のように、俺の中に蔓延る罪悪感を消していくようだった。

俺はいつも個性を使う時に、後ろめたさを感じていた。

個性を初めて使った日から、この気持ちを認めて、生涯背負っていくつもりだった。

 

「だからもう、俺の一等優しい友人を責め続けるのはやめてくれ」

「…っ、うんッ」

 

どんどん視界が歪んでいく。堪えきれなくなった雫が、一つ二つと溢れていった。それを人差し指で掬うようにしてくれる炭治郎の顔が完全に長男の顔になっていたので、これは俺を弟と重ねているやつだと察した。

まだ小学生や中学生の子と重ねられていることに、心中は複雑になりながらも、惜しみなく長男力を発揮している炭治郎に、なんだか笑みが溢れてしまった。

炭治郎の言う通り、俺は考えすぎだったのかもしれない。

 

だってこの世界にはもう鬼はいないのだから。

 

この力で誰かを救えるのなら、それで万々歳じゃないか。

俺は今まで個性を使った中で、一番晴れやかな気分だった。

 

「そろそろ昼時だな。事務所に戻って昼食にするぞ。伊之助はもう先に行ってしまったがな」

 

やけに静かだと思ったら、もうすでに伊之助はいなかった。それがこの空気を配慮してだったのか、自分の腹の虫に従ったのかはわからないが、おそらく後者だろう。

 

「俺たちも行こうか、善逸」

「そうだな」

 

俺は炭治郎に手を貸してもらって立ち上がった。

そして二人で前をいく鱗滝さんを追いかけた。

そのとき少し体に違和感を覚えた気がするが、気のせいだろう。

それよりも今はこの『空腹感』の方が断然重要だ。

張り詰めていた感情が一気に霧散したおかげが、いつも以上個性を酷使したせいだろうか。

 

_______なんだかすごくおなかがすいたなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簡易な設定

 

 

我妻善逸(緑谷善逸)

出久くんの義理の弟

個性:鬼化

基本戦闘スタイル:雷の呼吸、個性

 

鬼化の個性は身体能力、回復力を飛躍的に上昇させるかなり汎用性も高く、強個性。鬼滅時空の鬼のように藤の花の毒が苦手だったり、日光が苦手だったりはない。ただ、使いすぎると暴走して食人衝動に襲われる。トラウマは雷。意識を失った時にいつも以上の力が発揮される。

兄弟子のことは爺ちゃんを切腹させたことは恨んでいるけれど、裏切るという行動自体は自分の放置した責任もあると感じている。今回その件の兄弟子と再会したことで、個性を使うことの罪悪感を刺激されたが、今後はそれでも個性を使っていく所存。その罪悪感も炭治郎のおかげでだいぶ薄れた。兄弟子の今世でのことを聞いてしまい、心中穏やかではない。

個性を酷使した際何か違和感が…?

 

轟焦凍

 

幼少期に善逸に救われてから、善逸に対してかなり好意高め。原作とは違い、すでに左側の個性も使うし、表情も多少穏やか。いつも隠し事ばかりの善逸の助けになりたいと思っているが、中々うまくいかずにもどかしく思っている。せめて善逸の心を少しでも癒すことができたならいいと思っている。

どんどん一人で奔走していく善逸を前に、もう受け身でいるのはやめた。

鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス。

 

 

緑谷出久

 

善逸のことはちゃんと家族で兄弟だと思ってる。雨の日の一件以来落ち込んでいる善逸を気にかけている、無謀だけど優しいお兄ちゃん。

 

 

 

 

竈門炭治郎

 

今世でも賑やかな六人兄弟の長男

個性:爆血

基本戦闘スタイル:ヒノカミ神楽、水の呼吸

 

前世で善逸が目の前で死んだことはかなりショックだった。なまじ失うことの多い人生を歩んで来たため、仲間が傷つくことがトラウマとなっている。

インゲニウムの一件で今回そのトラウマが少し刺激された。

現在義勇さんの創設した事務所にインターン生として所属しており、敵連合の潜入任務をしていた。父が存命のため、花札柄の耳飾りは受け継いでいないが善逸から、それに似た柄の耳飾りを貰ってそれをいつも付けるようになる。雄英体育祭で善逸の個性を知り、実はずっと気にかけていた。今回その気持ちを伝えることができて満足。

 

 

 

 

 

嘴平伊之助

 

全力で周りを振り回す末っ子気質兼、親分

個性:剣化

基本戦闘スタイル:獣の呼吸、個性

 

前世での善逸の死はショックではあったが、自然の摂理というものを大切にしている彼は炭治郎ほど引きずってはいない。それでも今世ではばっちり守りきるつもり。

なんていったって俺様は親分だからな!!

そんでもって先輩だからな!!

 




次回の更新は2月12日18時を予定しております。読んでいただけると嬉しいです!
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