善逸が出久の弟としてヒロアカ世界を生き抜く話 作:冬のこたつのおとも(みかん)
所々で火の手が上がっている街中をかけていると、途中で見慣れた紅白頭が目に入って、声をかけた。
「焦凍!」
「!…善逸か。お前も緑谷の元に行くところか?」
「うん。焦凍もあのメッセージは救援要請だって判断したんだね」
俺の問いかけに、焦凍は表情を変えることなく頷いた。
「あぁ。一括送信で位置情報だけだったから数秒意味を考えたが、緑谷は意味なくそういうことする奴じゃねぇだろ。ピンチだから応援呼べってことだろうと思って、プロにもそこへ向かうよう声かけてきた」
プロヒーローへの応援要請まで手を回したという焦凍の判断力に、俺は内心舌を巻いた。俺の場合、早く向かわなくてはという思いばかりで、プロヒーローへ声かけするまで頭が回っていなかった。
出来る限り冷静を保っていたつもりだったけれど、全然保てていなかったのだと反省する。
「送られてきた地図だとこの辺りのハズだが…」
焦凍と並行して街を駆けていると、近くから出久の叫んでいる声が聞こえて俺と焦凍は速度を上げた。
曲がり角を曲がると、近日ニュースで報道され、炭治郎たちも一戦交えたというヒーロー殺しのステインが飯田くんに向かって刃を振り下ろそうとしているのが目に入り、俺はすぐさま個性を使って加速し、ステインの顔を蹴り飛ばした。
「ッ!!」
俺に蹴られた後、反射的に俺目掛けてステインが刀を振り上げたが、それを遮るように焦凍が炎を放った。
それを機に俺は敵と距離を取る。
「今日はよく邪魔が入る」
「緑谷、こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ」
「と、轟くんと善逸くんまで…」
俺と焦凍が現着すると、三者三様に反応する。飯田くんと出久が驚いたような音を鳴らし、ステインは鬱陶しそうに顔を歪めた。
周りが混乱している隙に、焦凍が氷で道に坂を作り、出久と飯田くんと壁に寄りかかっているヒーローらしき男性をステインから遠ざけた。
俺が出久に状況を説明するように言うと、出久はすぐさまそれに返事を返してくれた。
「あいつの個性は多分、血の経口摂取で相手の自由を奪うものだ。皆やられた…!」
つまり相手は刃物で俺たちを斬りつけ、血を流させることを目的とした近距離型。だけど投げナイフなどを仕込んでいてもおかしくない。
そう思考した途端、焦凍目掛けてステインがナイフを投擲した。
それを頬を掠ったものの咄嗟に避けた焦凍に、ステインが一気に距離を詰めてナイフを横振りする。
それを俺が日輪刀で受け止め、力尽くで相手を後退させる。
下がったステインに焦凍が氷で追撃するが、それは避けられてしまった。
今度は俺が個性で強化した身体能力を使い、ステインに斬りかかるが、刀で防がれる。ステインが刀を持っていない腕でナイフを振るうと、俺は跳躍してそれを避ける。その瞬間にステインはナイフを投擲したが、俺は壁を蹴って方向転換することでそれもなんとか避けた。
「…何故。三人とも何故だ…。やめてくれよ…!同い年の彼らだって戦えたんだ!ならせめて兄さんの負わされた怪我の返報は僕がやらなきゃ、そいつは僕が!!」
飯田くんが悔しさを滲ませた声を発した。飯田くんの言う彼らとは、おそらく炭治郎と伊之助のことだろう。
あの二人がいなかったら飯田くんのお兄さんはどうなっていたかわからない。それに彼の兄が負わされた怪我は決して軽いものではなかった。
今飯田くんの中では許せないという気持ちがドロドロと膨らんで、周りが何も見えなくなっている。
その姿はかつて爺ちゃんの訃報を知らされ、兄弟子の討伐を決意した俺によく似ていた。
柱稽古の最中、急に雰囲気の変わった俺を炭治郎は酷く心配していた。
だけど当時の俺はそれを気にする余裕はなくて、結局彼に俺の事情は何も話すことなく、俺は兄弟子を討ち取り、その後の無惨戦で命を落とした。
俺は飯田くんの方を振り返りながら言った。
「復讐したってきっと気持ちが完全に晴れることなんてないよ。全てを賭してやり遂げたって、その先に残るのは仄暗い達成感と、虚無感だけだ」
獪岳を倒したことが間違いだったとは思わない。だけどそれにおいて晴れやかな気分になることは終ぞなかった。
「善逸くん…、君は」
そんな俺の感情を読み取ったのか、飯田くんが何か言い出そうな表情を浮かべて俺をみた。その彼の酷く頼りない顔は、普段の頼れる委員長とはかけ離れていて、俺は一度眉を下げて笑うと、相対している敵の方へ視線を戻した。
焦凍が氷で時間稼ぎをしてくれていたが、そろそろ限界が近い。
焦凍の腕に目掛けてステインが放ったナイフが焦凍に命中してしまう。
「…ッ」
「焦凍!」
俺は焦凍とステインの間に入って、ヒーローらしき男性に向かって振り下ろされる刃に対応しようと刀を構えると、先ほどまで動けずにいた出久が突如飛び出し、ステインを壁に押し付ける。
「緑谷!」
「なんか普通に動けるようになった!」
「!時間制限か…」
驚いたように声を上げた焦凍に、出久が答えた。
その後、ステインの個性に時間制限があることは確実だけど、それは単純に個性をかけられてからの時間ではないということが、ヒーローらしき男性の出久が一番最後に個性をかけられたという発言でわかった。
となると、考えられる条件は三つ。
「人数によって効果時間が変わる、もしくは血の摂取量で効果時間に差がある。それとも血液型によって効果に差異が生じるのか?」
ステインは俺の言葉を聞くと、出久を突き放し、ニィッと笑った。
「血液型、あぁ、正解だ」
時間に制限があるとわかっても、十分強力な個性であることは変わりない。
少し戦っただけでもだいぶ戦い慣れしているのは見て取れるし、出久たちも軽傷を負わされている。
ほら、あんなにも美味しそうナ血が垂れていル。
あれ、俺、今何を思って…?
「さっさと二人担いで撤退してぇとこだが、氷も炎も避けられるほどの反応速度だ。そんな隙見せらんねぇ。プロがくるまで近接を避けつつ粘るのが最善だと思う」
「轟くんは血を流し過ぎてる。僕と善逸が奴の気を引きつけるから、後方支援を。善逸もそれでいいよね?…善逸?」
「相当危ねぇ橋だが、そうだな」
違う。今日は連戦続きで少し疲れが溜まったいたのかもしれない。だけど今はそんなこと考えてる場合じゃなくて、この状況をなんとかしないといけないんだ。
お腹ガすいタ。
だからそんなことを思ってる場合じゃないんだ!!
さっきからなんなんだ。
自分の体のはずなのに、ままならない。
戦いに集中できずに、グルグルと考えてしまう。
今までこんなことは一度もなかった。
感じたことのない謎の感情に、思考が何度も途切れてしまう。
ふいに、こみ上げてくるこの感覚が昼間の炭治郎の「個性の代償」という言葉を思い起こさせた。
戦いの場でありながら感じている、この異様な空腹感。
途端、尋常ではない汗が全身から吹き出し、冷えていく体をより冷却していく。
困惑が、恐怖へと変わっていく。
鬼化の個性の代償、まさか。
「善逸!!」
「…!あっ、えっと、何?」
「さっきから何度も呼び掛けてるのに反応しないし、酷い顔色だ。やっぱり僕が一人で奴の気を引くから善逸は下がって休んでて!」
出久に強く呼び掛けられてハッとした俺を気にする余裕もないというように、出久はそう言い終わると同時に飛び出して行ってしまった。
俺は混乱した頭で状況の整理が追いつかないが、出久を一人で行かせてはまずいことぐらいは理解できた。
俺も出久に続いて前に出ようとすると、焦凍に肩を掴まれて止められる。
「お前は今集中を欠いてただろ。生半可な気持ちで接近したらやられるぞ。後は俺らでなんとかするから善逸は緑谷の言う通り休んでろ」
焦凍はもう何も言うことはないと言うように、俺から手を離して背を向けた。
俺は呆然と立ち尽くす。
ステインに出久が殴りかかり、それを避けた先を焦凍が炎で攻撃する。
即席で荒削りのチームワークだが、十分機能している。
しかし、それでも真の狂気を知らないヒーロー候補生の彼らでは、本物の殺人者には敵わない。
出久が斬りつけられ再び個性で動きを止められる。
焦凍が一人でなんとか応戦するも、どんどん劣勢を強いられていく。
体と心がチグハグになっている俺の足は、地面に縫い付けられているように動かない。
俺はいつもそうだ。
俺は弱くて、ものすごく弱くて、いつも肝心な時に何もできない。
無限列車でも、遊郭でも、俺がもっと何かできていたら、結果は変わっていたかもしれないのに、俺は当時の戦っていた記憶すらない。
きっと何も出来ず一人気を失っていたんだろう。
やっと意識が保ってられるようになったのに、俺はまた何も出来ていない。
こんなにも必死になって戦っている彼らを前にして、俺はまた動けずにいる。
何のための力だ。何のために苦しい鍛錬に耐えてきたんだ。
「氷と炎、言われたことはないか?個性にかまけ、挙動が大雑把だと!」
「轟君ッ!!」
出久が叫んで、焦凍が目を見開く。
その一瞬の間に、ステインの刃が焦凍の間合いに入る。
俺が今世でも剣を握り続ける理由、それは、
「やめろぉぉぉぉッ!!!!!」
後編は3月3日18時に投稿します。読んでくださると嬉しいです!