善逸が出久の弟としてヒロアカ世界を生き抜く話   作:冬のこたつのおとも(みかん)

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リグレット(後編)

気づくと俺は飛び出していた。

焦凍が目を見開いたのが、視界の端で見えた。

俺は勢いのままにステインを蹴り飛ばす。しかしその際ステインの刃を一太刀肩に受けてしまった。

割と深く斬られてしまったようで、傷の治りが遅い。

ステインはすぐさま体勢を整えて、再び斬りかかってくる。

俺は流れ出る血液を止血する間もなく、利き腕を斬りつけられたことで刀がうまく振るえない。

敵の刃を受け止めきれないと思い、せめて傷を浅くしようと一歩後退したが、焦凍が相手の刃を氷で防いでくれたおかげで俺は傷を負うことなくステインと距離を取ることができた。

そしてその隙に呼吸で止血する。

しかし血を流し過ぎたようで、体が一度ふらつく。

 

「善逸、助かった。だが顔色が本当にやべぇ。もう休んでろ」

「そうはいかないよ。焦凍一人じゃあいつの攻撃を防ぎきれないだろ。それにあいつからは執着と焦りの音がする。なんとかヒーローたちがくる前に飯田くんたちを殺そうと躍起になって焦ってるんだ。そのせいでさっきよりも攻撃が幾分か鋭くなってる」

 

俺が加勢することを渋る焦凍を言いくるめて、俺は刀を構える。

余裕がない時ほど基本を忘れてはいけない。

呼吸を深くして肺にいっぱい空気を取り入れる。

血が流れたおかげか先程のもやが少しだけ晴れた気がする。

俺はまだ、戦える。

 

「邪魔だ!」

 

ステインが辟易したような音を鳴らしながらナイフを俺に向かって投げた。

俺はそれを日輪刀で払おうとするがうまく刀を振るえずそれは俺の足へ命中した。

 

「ッゥ!!」

「善逸!!」

 

焦凍が心配そうな表情を浮かべて、左手の炎で相手を牽制しつつ俺を見ている。俺はナイフを上手く防げなかったことで先程の傷がまだ完治していないことに気づいた。

普段なら個性ですでに治っているはずの傷だ。

個性の効力が明らかに落ちている。

ナイフがもう一本飛んでくる。

今度は払うのではなく、日輪刀をナイフに当てることで上手く防御する。

 

「善逸、もういい下がれ!フラフラじゃねぇか!」

「下がらない!肝心な時何もできない俺でいたくないんだ!」

 

皆が皆、何も奪われることなく生きていけるほど、この世界は優しくないから。

だから俺は、強くなったんだ。

 

「ここでやれなきゃ、何の意味もないんだ」

 

俺は個性をいつもよりずっと強く発動させて、鬼化を進める。

鬼に近づきすぎてしまったせいか、感覚が麻痺しているのか、鬼化を進行させることへの嫌悪感は以前程感じられなかった。

この気持ちが完全になくなっちゃった時、俺は本当に人間じゃなくなっちゃうのかな。

そう考えて、自嘲するような乾いた笑いが少しだけ漏れた。

 

「やめてくれ…。もう、僕はッ」

 

飯田くんが苦しそうなほど悲しい声色で、言葉を発した。その声につられて俺は彼の方を向く。

 

「やめないよ。本音を言うと俺は戦うの怖いし、痛いのも嫌だ」

「ならどうして…ッ!?」

 

飯田くんが泣きそうな顔をしながら俺に問いかけた。

少しの間焦凍に時間稼ぎをさせてしまうのは申し訳なかったけれど、心が折れかかっている音を鳴らしている飯田くんを放っておくこともできず、俺は言葉を続けた。

 

「俺は知ってるからさ、諦めたら何にも残らないんだって。本当に、何にもないの。その方が怖いし、痛いよ。生き物には、過去や未来を変える力なんてないから。どうしようもなくなった現実を前にして、喉の奥から迫り上がってくるような激情と、身を引き裂かれるような痛み。きっと人はそれを後悔と呼ぶんだ」

「…ッ!」

 

俺は刀を持っていない方の拳を無意識に強く握りしめた。

上弦の参を退けた後、煉獄さんは俺たちに思いを繋げた後亡くなった。

遊郭での戦いで、片腕を失った宇髄さんは何事もなかったかのように笑っていた。

喪ったものは戻ってはこない。

どれだけ苦しくても、辛くても、命ある限りは受け継いだ思いを繋げていかなくてはいけない。

もちろん俺だってそういう状況になったら繋いでいくし、俺が志半ばで死ぬときはそれを誰かに託すことになるかもしれない。

だけど、抗わないとは言っていない。

 

「そんな辛い思いはできることならもう二度としたくない。だから、俺は『今』を変えたい。俺は弱味噌だし、実力も努力も全然足りてない。そんな俺が願うにはすごく傲慢な願いだけど、その願いこそが俺が剣を振るう理由だから!」

「善逸くん…」

 

俺はいつも逃げ腰だからさ、なんで今こんな辛い修行してるんだろうとか、何のために剣を振るってるんだろうとか、よく考えちゃうわけよ。

だけどいつも辿りつく理由は複雑なものなんかじゃなくて、単純でありふれたものだ。

誰かを救いたい。

爺ちゃんがかけてくれた時間、柱の人達がつけてくれた修行、炭治郎たちと一緒にやった鍛錬、獪岳に追いつきたくて作った俺だけの型。

その全てが無駄だったなんて思われたくないし、思わせたくない。

 

「飯田くんどうして戦うの?君がヒーローになりたい理由は何?」

「僕が、ヒーローを志した理由…」

 

飯田くんが顔を伏せた。

彼から自分に問いかけるような、それでいてその答えは昔から決まっているような音がする。

きっと、彼はもう大丈夫だ。

飯田くんの指がピクリと動く。

 

「飯田くんにかけられた個性、解けたみたいだね」

 

俺は焦凍の方に視線をやる。焦凍は俺に下がるよう下がるよういた手前、攻撃に転じることはできないものの、ステインを上手くかく乱していた。

しかしステインもただではやられてくれないようで、焦凍に幾つかの生傷が増えており、彼の攻撃も読まれ始めている。

俺は個性を進行させた自分の体を見た。怪我は相変わらず治らないが、動かせる。

 

シィィィィィィィ。

 

俺の呼吸に呼応するように、飯田くんから個性を発動させる音がなる。

それを見かねていたように焦凍が俺たちに道を開けた。

 

『雷ノ呼吸 漆ノ型 火雷神』

『レシプロバースト!!』

 

ドォンッ!!!!

 

俺の刃と共に飯田くんの強烈な一撃が、ステインに炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステインが気絶したのを確認して、俺は張り詰めていた息を吐き出した。

途端に貧血でぼんやりしてくる視界で、敵をどう拘束するかを話し合っている出久と焦凍を見た。

刹那、その感覚はいきなりやってきた。

 

「…ァ?」

 

感じたことのない、圧倒的飢餓感。

それは津波のようで、理性がすごい速さで呑み込まれていくのがわかった。

体がガタガタと震え始める。

だめだ、呑み込まれるな。

俺はその場に座り込んで耐えるように唇を噛んだ。

鋭くなった牙で噛んだ唇から血が流れるのを感じる。

そのせいでより空腹感を助長させ、荒い息が口の隙間から漏れ出る。

 

「フーッ、フゥッ、フーッ!、ッ!!」

「善逸…?」

 

焦凍が俺の異常に気付いたのかこちらに駆け寄ってくる。

焦凍はところどころから血を流しており、それが視界に入るのはもはや飢餓感を増幅させる一助にしかならない。

 

食べたイ。

 

角と牙の鋭利さがどんどん増していく。

個性が制御できない。

先程から何度も個性を解除しようとしているのに、それは弱まるどころか増していっている。

こっちに近づかないで、そう言いたいのに今口を開けばすぐさま食らいついてしまいそうで言葉を発することができない。

 

「相当体調悪ぃのか。大丈夫だ、すぐ救護がくる。なんなら俺が背負って病院まで走るぞ」

 

焦凍が俺に声をかけながら俺の背中を摩る。

それからも何か焦凍が言っているような気がしたが、彼から聞こえる血流の音と、呼吸によって収縮する筋肉の音にばかり気がいってしまい、彼が何を言っているのかわからない。

せめてもの抵抗に目線を下にやると、尋常じゃないほどに爪が伸びきった自身の手が見えた。

 

腹がへっタ。今すぐ血肉を喰らいたイ。

 

___________もう、ガマンデキナイ。

 

煩いほどに主張してくる自分の体から鳴る鬼の音が、プツンと『何か』が切れると、全く聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒーロー殺しの意識を善逸と飯田の攻撃が刈り取った後、俺と個性が解けて動けるようになった緑谷は、これからどうするかについて話し合った。

まず武器を外して、それから拘束しようとしたとき、荒い息遣いが聞こえてそちらを見ると、善逸が苦しげに座り込んでいた。

 

「フーッ、フゥッ、フーッ!、ッ!!」

「善逸…?」

 

俺は善逸に急いで駆け寄った。

覗き込んだ顔色はもはや青いを通り越して白くなっており、重度の貧血状態に見える。

個性も解除してねぇし、牙や角は伸びきったままで、噛み締めた唇からは血が出ている。

明らかに異常な状態に、俺の背筋に凍るような悪寒が駆け巡った。

 

「相当体調悪ぃのか。大丈夫だ、すぐ救護がくる。なんなら俺が背負って病院まで走るぞ」

 

俺は声をかけながら善逸の背中を摩る。だが、善逸から返事は返ってこねぇ。

さっきの戦い、やっぱり無理してたんじゃねぇか。

背負って走るか、いやあんまり揺らすのは得策じゃねぇか、と思案していると、ヒーロー殺しの拘束が終わったのか、飯田と緑谷もこっちを気にし始める。

そのとき、ピクリと目の前にいた善逸が動いたかと思うと、ガシッと俺の腕を掴んできて驚いた。

 

「善逸?急にどうした」

「…ヴゥゥ!」

「おい、大丈夫か。とりあえず横になった方がいい」

 

善逸は低く唸るばかりで言葉を発さず、それほど苦しいのかと焦りを覚えて、力んでいる背中と肩にそっと手を当てて善逸の体を横にしようと試みると、いきなり善逸は俺の肩に噛み付いた。

 

「ッぅ"あ"あ"!!?」

「轟くん!」

 

鋭い牙に肉を裂かれる激痛に、俺は思わず後ろに飛び退いた。

俺の叫び声に反応して緑谷と飯田がこちらに駆け寄ってくる。

突然の出来事に、何が起こったのか理解できずに、俺は目を白黒させた。

 

「ゥガァァァァ!!!!」

「善逸!!落ち着いて、ねぇ!どうしちゃったの!?」

「轟くん!大丈夫か!?」

 

善逸が苦しそうに叫び、今にも暴れようとしているのを緑谷が必死に取り押さえている。

飯田が慌てた様子で俺に声をかけている。個性が解けて動けるようになったらしいヒーロー殺しと戦っていたヒーローの人も何事かとこちらを見ていた。

しばらく呆然としているとチリッとした痛みが走り、そこを見やるとそこから血が垂れていて、俺はようやく善逸に傷を負わされたのだと自覚した。

 

「一体何がどうなってんだ…!?」

「わからない!善逸くんがいきなり君を襲ったように見えたぞ!どうしてそんな、………まさか、そういうことか!?」

 

様子が急変した善逸に、何か個性でもかけられたのかと、辺りを見回してみるも、それらしき人影は見当たらず、異常の原因に皆目見当もつかないでいると、飯田が何か思いついたように声を大きくした。

 

「緑谷くん!善逸くんは雄英高校に入学するまで一度も個性を使ったことがなかったんだよな!?」

「え、うん。いや、正確には個性が発現した時に一度だけ使ったけど、それ以外は本人も使わないって言ってたし、使ってないと思うッ!」

 

緑谷が善逸を押さえながらも飯田の質問に答える。飯田の質問の意図がわからず、俺は続きを急かすように飯田の瞳を見つめる。

 

「やはり…。善逸くんの急変は恐らく、個性の暴走だ!」

「個性の…暴走?」

 

俺は目を丸くして飯田を見たが、緑谷は何か気づいたのか、ぶつぶつと言葉を発し始めた。

 

「個性の暴走…。そうか、確かに数ヶ月前に個性を使うようになった僕でも何度も力加減に失敗して骨を折ってるんだ。僕よりも個性を使った経験が少ない善逸が個性を暴走させるのは何もおかしいことではないし、むしろ理にかなっている…?それにこの暴走の仕方は場合によっては大惨事になりかねない。それを危惧して今まで善逸は個性を使うことを避けてきたというケースも考えられる。…あ!」

 

緑谷が思考の方に集中し出した隙を見逃さなかった善逸が、緑谷の腕からサッと抜け出し、俺の方へ飛びかかった。

 

「ッ!善逸!やめろ!俺のことがわかんねぇのか!?」

「ガァア"ア"ッ!!!」

 

善逸がすごい力で俺を地面に押しつけてきて、俺はなんとか抵抗しようと押し合いになる。

目の前のこいつは俺の言葉に全く耳をかさないどころか、俺のことすらわかってねぇように見えて、俺はゾッとした。

善逸が何か得体の知れねぇ化け物にでもなっちまったんじゃねぇかって思って、情けねぇことに少し、怖ぇと思っちまった。

 

「善逸!聞いてくれ!頼む!止まってくれ、善逸ーーーーッ!!!!!」

 

俺は届いてくれ、とありったけの思いを込めて叫んだ。

するとほんの一瞬、さっきまで交わらなかった琥珀色の瞳の視線が動揺を見せながら俺の目を捉え、音は出なかったがその唇が「焦凍」と動いた気がして、俺は目を見開いた。

善逸が俺を見た。化け物になんてなってなかった。善逸は善逸だった。

俺はそれが理解できると、さっき感じた恐怖心が霞のように消えていくのを感じた。

 

「ッガ」

「善逸!」

 

俺がもう一度声をかけようとすると、何者かが善逸の首に打撃を加え、善逸は力なく俺の方へもたれかかった。

善逸を攻撃したやつを睨みつけるようにバッと顔をあげると、そこにいたのは親父だった。

 

「親父…?」

「全く、何を騒いでいるのかと思えば。お前たちは一体何をやっている」

 

仁王立ちしながら眉を顰めている親父に、何故ここにいるのか、なんで善逸に攻撃したのかと聞くと、親父は「焦凍がここに来るようプロヒーローたちに要請したのだろう。それと、個性の暴走で精神に変異が見られる場合、対象者の意識を落とすのは基本中の基本だ」と言われ、俺はそのことがすっぽり頭から抜け落ちていたことに気がついた。

俺は自身の腕の中で眠っている善逸を見た。

さっきとは違い、苦しそうな表情を浮かべてねぇことに俺は胸を撫で下ろした。

今回の戦いで見た善逸の中に存在する影。それは体育祭で垣間見えたものと類似していたように感じる。

善逸はいつもそれを巧妙に隠すから、俺も深くは追及せずにここまで来ちまったが、もういいじゃねぇか。

お前はもう、一人で背負わなくていいよ。

俺は十分待ったぞ。

 

なぁ、善逸。目が覚めたら今度こそ、お前の話を聞かせてくれ。

 

 

 

 

 

 

これから精進しろとばかりに頭をガシガシ撫でてくる親父の腕は振り払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簡易な設定

 

 

我妻善逸(緑谷善逸)

出久くんの義理の弟

個性:鬼化

基本戦闘スタイル:雷の呼吸、個性

 

鬼化の個性は身体能力、回復力を飛躍的に上昇させるかなり汎用性も高い強個性。鬼滅時空の鬼のように藤の花の毒が苦手だったり、日光が苦手だったりはない。ただ、使いすぎると暴走して食人衝動に襲われる。トラウマは雷。意識を失った時にいつも以上の力が発揮される。

兄弟子のことは爺ちゃんを切腹させたことは恨んでいるけれど、裏切るという行動自体は自分の放置した責任もあると感じている。

今回ついに恐れていた事態に。

 

 

 

 

 

 

 

轟焦凍

 

幼少期に善逸に救われてから、善逸に対してかなり好意高め。原作とは違い、すでに左側の個性も使うし、表情も多少穏やか。いつも隠し事ばかりの善逸の助けになりたいと思っているが、中々うまくいかずにもどかしく思っている。せめて善逸の心を少しでも癒すことができたならいいと思っている。

どんどん一人で奔走していく善逸を前に、もう受け身でいるのはやめた。

鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス。

もう十分待ったぞ?そろそろ追及してもいいよな?

 

 

 

 

 

 

 

緑谷出久

 

善逸のことはちゃんと家族で兄弟だと思ってる。雨の日の一件以来落ち込んでいる善逸を気にかけている、無謀だけど優しいお兄ちゃん。

急変した弟にびっくりしたけど、よく考えると理にかなっているのか…?

 

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