善逸が出久の弟としてヒロアカ世界を生き抜く話 作:冬のこたつのおとも(みかん)
入試から数日が経ち、ついに合格発表の日が来た。実技試験の方は問題ないと思う。ただ筆記の方がちょっと心許ない。出久はどうだったのかと隣に目をやると、先程からずっと彼は焼き魚と微笑み合っている。
「あのさ、出久はさっきから何をやってるの?死んだ魚の真似?」
「あ、ご、ごめん!」
どうやらわが兄は相当に緊張しているらしい。それもそのはずだ、出久にとって雄英高校に通うということはそれほどに大きな意味があるんだから。
「い、いいいい出っ、出久!善逸!!来た、来てた!来てたよ!!」
母さんが部屋に入ってくると慌てた様子で二枚の封筒を取り出した。
雄英高校からの合格通知だ。
俺と出久は各々の部屋で通知を開封することにした。
悩んでいても仕方がないので、俺は早々に封を開けた、すると謎の丸い機械が机に転がり、起動音が鳴る。
映像が映し出され、そこにはオールマイトが映っていた。
「お、オールマイト!?なんで??」
思わず驚きの声を上げるが、相手は映像なのでそのまま話し始めた。映像の中のオールマイトの話によると、今年からオールマイトが雄英の講師となるらしい。これは隣で出久も大興奮だろうな。実際ひっきりなしに驚きやら困惑やらの音が鳴っている。
『早速、入試の結果に移るね』
オールマイトがそう言うと、俺もなんだか緊張してきて、ゴクリと唾を飲み込んだ。
『まず筆記、これは合格ラインを少し下回っていた。これだけでは不合格だ』
俺はその言葉に肩を落とした、筆記は駄目だったのか。これはギリギリまで勉強を見てくれた焦凍に申し訳が立たない。
『しかし!!試験は筆記だけにあらず!本命の実技試験!!合計ポイントはなんと76ポイント!これは実技試験2位の成績だ。二つのテストを統計して、当然合格!!おめでとう!!』
「〜〜〜〜〜〜ッよしっ!!」
合格、合格した。
出久はどうだっただろうか、と耳を澄ますと、すすり泣く声と、歓喜の音が聞こえてきたので出久も合格だったのだと察した。
良かったな、出久。
ここからだ、ここがスタートライン。俺たちはこれから数々の受難を乗り越えて、成長していくんだろう。
そしてなるんだ、ヒーローに。
合格したことを母さんに伝えると、母さんは泣いて喜んだ。あまりの号泣さ加減に出久と二人でオロオロして、泣き止ませるのが大変だったなぁ。焦凍にも伝えたら、焦凍も合格したと教えてくれた。そして春からは同じ学校だな、と笑い合った。炎司さんにも伝えると、彼は大層喜んでくれた。入試は終わったので、真剣は返そうとすると、それはもう君にあげたものだ、と言われたのでそのまま俺が使うことにした。
そして今日は雄英高校の入学式だ。
新しい制服に身を包んで、出久と二人で家をでた。
雄英高校に着いて、やけに広い廊下を歩く。出久と俺は同じクラスだ。
「怖い人たち、クラス違うとありがたい…」と出久が隣で切実に祈ってる中、俺はガラッと音を鳴らして扉を開いた。
「机に足をかけるな!」
「あぁん?」
「雄英の先輩方や、机の製作者方に申し訳ないと思わないか!」
「思わねぇよ!テメェどこ中だ、端役が!」
怖い人たちがいた。
どうやら出久の願いは全く聞き届けられなかったようだ。出久が若干青い顔をしているので、慰めるように肩をポンと叩く。その間にも二人の会話は進んでいく。どうやらあの勝己と物怖じせずにやたらキビキビと話している眼鏡男子は飯田天哉というらしい。
そこでやっと二人は俺たちのことに気づいたらしく、飯田くんがずんずんとこちらに近づいてきた。
「おはよう!俺は私立聡明中学…」
「聞いてたよ!えと…、あ、僕緑谷。よろしく、飯田くん」
「俺は緑谷善逸だよ」
飯田くんの勢いに押されてたじたじの出久の自己紹介に便乗するように、俺も自己紹介した。飯田くんは僕たちの名前を聞くと「どっちも緑谷…?君たちはもしかして」と呟いていたので、補足するように言った。
「うん、兄弟だよ。出久は俺の
「そうだったのか!よろしく頼む、二人とも!」
「善逸」
自己紹介が終わり、ホッと一息ついていると、聞き慣れた声がしてそちらに視線を向けた。
「焦凍!同じクラスなんだな」
「あぁ、そうみてぇだな」
焦凍と同じ学校になったのは高校が初めてで、同じクラスも無論初めてなので、これから一緒にいられる時間が増えるのは嬉しい。焦凍は珍しく口角を上げて、誇らしげな音をさせているので小首を傾げた。
「やっぱり、その方が善逸らしいな」
「…あ!」
そこまで言われてようやく気づいた。俺、今当然のように出久を兄と称したんだ。そのことに気づいた瞬間、俺の中で温かい温度がじわじわと広がっていくのを感じた。
「そっか、俺…」
「お友達ごっこしたいなら他所へいけ。ここはヒーロー科だぞ」
「ゥヒィ!!??」
感傷に浸っているとすぐ近くでいきなり知らない男性の声が聞こえて、盛大に素っ頓狂な声が漏れた。恐る恐る下に視線をやると、そこには何故か寝袋にくるまったどことなくくたびれた男性がいた。
「……はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠けるね。担任の相澤消太だ、よろしくね」
「…ぇえ!?」
「担任…?」
男性の登場に一瞬静まり返った教室が、彼の言葉で再びざわざわし始める。雄英の先生となるとどんな濃い性格の人がくるのかと、内心ドキドキしてたけどこのタイプは予想外だった。けど、見た目に反して彼の音には確かな正義の音がする。彼もやはりヒーローなんだ。
「早速だが、これ着てグラウンドに出ろ」
なんだか、嫌な予感がする。
「「「個性把握テストぉ!!?」」」
グラウンドに出るなり告げられたのは、個性把握テストをとり行うということだった。中学の頃までの体力テストとは一変して、個性使用可能の体力テストらしい。ヒーロー科なのだから、個性を使うのは当然のことなのかもしれないが、これは俺からしたらだいぶ困る事案だ。
何故なら、俺は金輪際個性を使うつもりはない。
個性が全てじゃない、あんな個性は使うべきじゃない。
だから俺は、個性を使わずしてヒーローにならなくてはいけない。
前世、爺ちゃんが時間を割いて教えてくれた雷の呼吸が、個性に劣っているとは思わないし、思わせない。
俺は人知れずグッと拳に力を入れた。
「善逸…」
それを見た出久が心配そうに俺を見たので、俺は安心させようと力なく笑った。相澤先生が説明を終えると、周りの生徒は面白そうだとはしゃぎ始めた。
「面白そう…、か」
それを聞いた相澤先生の音が不穏な音になって肩がビクッと上がる。 これはまずいのでは。
「ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?
よぅし、8種目トータル成績最下位の者は、見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
「「「はぁーー!??」」」
さっきまで嬉しそうな音を出していた生徒たちが一瞬で、驚愕と戸惑いの音に変わる。彼らの気持ちはわかる。だって、こんないきなり除籍だなんてあまりに理不尽だ。入試で死人が出ないどころか怪我の治療まで行ってくれるなんて、相当慈悲深い場所だと思っていたけれど、そんなに甘くないみたいだ。
「生徒の如何は俺たちの自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」
俺はどのテストでも平均以上の成績を出して、足を使う競技では1位に追随するほどの記録を出している。あと残りはボール投げと、持久走、上体起こし、長座体前屈、のみだ。このままいけば5位くらいにはなれると思う。ただ、問題は出久だ。彼はまだこれといった記録を出していない、今のところ最下位だ。このままでは除籍されてしまう。入試当日、出久には突然変異で個性が発現したと告げられた。その言葉は半分嘘で、半分本当の音がした。恐らく個性が発現したというのは、本当だ。しかし突然変異ではない、何か別の理由があって個性が発現したんだろう。つまり出久は何かしらの個性をもっているはずだが、今のところこの個性把握テストで使った様子がない。個性というものに人一倍執着していた出久が自分の個性を嫌っているとは考えにくいし、となると別の理由があるのか。使用条件があるとか?それとも使用したときのリスクが高いものなのか。
もしかしたら個性を使う機会を窺っているのかもしれない。そう考えたときに、出久から決心したような音がした。個性を使うのか、と出久の動きに集中していたが、出久の投げたボールは通常と変わらない結果だ。
まさか不発?と一瞬思ったけど違う。これは、
「個性を消した」
相澤先生の個性だ。
相澤先生から怒りの音が鳴っている。今出久が何をしようとしたのかは俺にはよくわからなかったけど、出久の個性は俺の想像よりもずっと危険を伴うものなのかもしれない。
「つくづくあの入試は合理性に欠くよ。お前のようなやつも入学できてしまう。見たところ、個性が制御できないんだろう。また行動不能になって、誰かに助けてもらうつもりだったのか?」
「そ、そんなつもりじゃ、ッ!!」
「ッ出久!」
相澤先生の包帯のような物が出久にまとわりついたのを見て、俺は思わず真剣の柄に手をかけた。相澤先生は俺を一瞥しただけに止め、言葉を続けた。
「どういうつもりでも、周りはそうせざるを得なくなるって話だ」
相澤先生は厳しい言葉を続けて、最後にお前の力ではヒーローになれないと言った。だけどその声には、試すような期待の混じった音がしていたので、俺は傍観に徹することにした。どの道これは出久が乗り越えていかなくてはいけない壁だ。俺にできることなどほとんどない。けれど俺はその点においては全く心配していなかった。
だって出久は、俺の兄貴は俺が知る限り最もヒーローに向いている人物なのだから。
出久がボールを握って腕を振りかざした。刹那、ボールは彼方遠くへと飛んでいく。風を切る音が遅れて聞こえてくる。記録、705.3m。
「先生…、まだ、動けますッ!」
「こいつ…ッ!」
先生の期待の音が大きくなる。どうやら出久は先生のお眼鏡に適ったようだ。これでもう除籍処分の心配はないだろう。そのとき、勝己から憎悪の音がした。
「…どういうことだッ!わけを言えぇ!!デクてめぇ!!!!」
個性を出しながら出久に殴りかからん勢いで迫る勝己に、再び真剣の柄を握る。そのとき、相澤先生の包帯が勝己を捕縛した。
「何度も個性を使わせるな、俺はドライアイなんだ」
相澤先生のおかげでことなきを得たので、ソッと柄から手を離した。煮えたぎる思いを噛み砕くような音を鳴らしている勝己を見やる。
俺は勝己が苦手だ。
今までは音がいつも大きくて耳が痛いせいだと思っていたが、それだけじゃない。
さっきの憎悪の音を聞いて、確信した。
勝己の音はあいつに、獪岳によく似ているんだ。人一倍承認欲求が強くて、何をしていてもいつも満たされず、どこか不満の音を鳴らしてる。ただ一つ、勝己の幸せの箱には穴が開いていないことが唯一の救いだ。ただそれも現状の話であって、これから先どうなっていくかはわからない。
俺はやるせない気持ちを抱きながら、残りのテストをこなした。
全てのテストが終わって、成績が開示された。俺は4位だ。まずまずの成績だと思う。最下位は出久だった。
「ちなみに除籍は嘘な。君らの個性を最大限に引き出す合理的虚偽」
「「「はぁ〜〜!!??」」」
嘘だ。相澤先生は見込みなしと判断すればすぐさま除籍するつもりだった。出久の行動が彼の前言を撤回させたんだ。俺は心配していないと言っても知らずに息を張り詰めていたようで、ホッと肩を撫で下ろした。
「これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類があるから、戻ったら目を通しておけ。緑谷、保健室でばーさんに治してもらえ。それと緑谷弟、お前は職員室にこい」
やっぱり呼び出されるか。俺は個性把握テストで個性を使っていない。大方そのことを咎められるのだろう。
おれは出久に「先に帰ってて」と伝えて相澤先生の後を追った。
「何故個性を使わなかった」
直接的な質問に対して、おれはどう答えるべきか少し悩んだ。誤魔化してもいいけど、それではその場しのぎにしかならない。ここは素直に答えた方がいいかな。
「俺は自分の個性が嫌いです。今後も使うつもりはありません」
「お前…、ヒーロー科なめてんのか」
相澤先生の眉間にシワがよる。当然だ、だって俺の言っていることはこれまでヒーロー活動をしてきた先人たちを全否定するようなものだ。
「ヒーローという職業は、手を抜いても務まるほど簡単な職業じゃない」
「手を抜いているつもりはありません」
「使える力を使わないのは手を抜くのとどう違う」
「俺は今できる限りの力を使っています」
相澤先生は呆れたようにため息をついた。先生が俺のためを思って言ってくれていることはわかっている。だけど、俺はその言葉を受け入れるわけにはいかなかった。
「ただでさえ殉職率の高い職業だ。それを個性もなしにこなそうなんて、お前死ぬぞ。わかってんのか」
「…それでも俺は個性を使うつもりはありません」
ヒーローの殉職率など、鬼殺隊に比べれば高いうちに入らない。それに本当に俺が恐れていることはそのことじゃない。俺が傷つくかどうかなんて、それこそどうだっていいのだ。だってこれは俺が選んだことだから。
本当に怖いのはそのしわ寄せが他の誰かに向いてしまうこと。
「たまにいやがる。お前のように、勇気と無謀を履き違えてる奴がな。俺はお前に見込みがあるかどうかを測りかねている。入試や個性把握テストの成績で安全圏に入れたと思えたのならお生憎、俺はお前を見込みなしと判断したら即刻除籍処分するつもりだ。無精卵の自殺志願者にまで手塩をかけるほど、俺は暇じゃないんでね。そのことを肝に銘じておけ。話は以上だ、教室に戻っていい」
先生は優しいな。自分が相当無茶なことを言ってると自覚している。それでもそんな俺をまだ見放さずにチャンスをくれるんだ。ここから先は俺次第だ。自分の真価は自分で示さないといけない。俺は「失礼します」と言って職員室を後にした。
職員室の扉を開けると、向かいの廊下に焦凍が立っていた。
「焦凍…」
「個性のこと言われたのか?」
「うん、まぁ…」
焦凍が廊下を歩き出したのを追いかけるように俺も足を動かした。ふと思った。
俺が個性を使わないことを焦凍はどう思っているんだろう。
焦凍の家は特殊だ。個性がしがらみとなって、複雑な思いをしたこともたくさんあっただろう。それでも焦凍は親から受け継いだ個性を認めて、一心に受け止めている。そんな焦凍に、俺はどう映るだろうか。
快く思われていないかもしれない。
それはなんだか嫌だなぁ。
「いいんじゃねぇか?」
「え?」
「善逸は善逸の戦い方を確立してんだから、それを他者がとやかく言うのは違ぇと思う。だから、善逸はそのままでいいんじゃねぇか。個性だって無理に使う必要はねぇよ」
「焦凍…、でも焦凍は不快に思わないの?」
俺がそう尋ねると、焦凍は心底意味がわからないといった風に首を傾げながら「何がだ?」なんて聞き返してくるものだから、拍子抜けだ。
「善逸が何を不安に思ってるのか知らねぇけど、俺は善逸が善逸である限り、お前を嫌いになることはねぇよ」
「!」
焦凍の言葉に目を見開く。それと同時に瞳に薄い水膜が張って視界が滲んでいく。
本当は俺の考えが本当に正しいのか、全ての人から否定されるのではないかと、ずっと不安だったんだ。自分の言い分が無茶苦茶なことがわかっているから。それでも誰かに認めてほしかった。肯定してほしかったんだ。
あぁ、俺恵まれてるなぁ。
「俺も!焦凍のこと嫌いになることなんて絶対にないからぁッ!!!」
「わかったから、鼻水は付けんな…。ちょっと嫌いになりそうだ」
「えぇ!!??」
「冗談だ」
静かで閑散とした廊下に不釣り合いな笑い声が二つ、響き渡った。
「そっちはどうだった」
「駄目だ、居ねぇ」
とあるビルの二階にて、その会話は繰り広げられていた。珍妙な被り物で容姿を隠している少年の帰還に、赫灼の髪を揺らしてもう一方の少年は走りよった。しかし、求めていた情報を得ることはできず、二人は歯噛みする。
「この町の児童養護施設は粗方探したぞ」
彼らの目的は人探しであった。荒唐無稽な話だが、彼らは生まれた時からずっと探しているのだ。まだ出会っていない、彼らの欠けた何かを埋める唯一を。
「この世界は前世の生い立ちに近い人がほとんどだ。孤児だった彼はきっと児童養護施設にいる。なのに、どうして見つからない…。今、お前は一体どこにいるんだ、_______善逸ッ!」
自分たちの旅立ちよりも遥かに早く、彼らの元を去ってしまった、一羽の金糸雀を。
簡易な設定
我妻善逸(緑谷善逸)
出久くんの義理の弟
個性:鬼化
基本戦闘スタイル:雷の呼吸
鬼化の個性は身体能力、回復力を飛躍的に上昇させるかなり汎用性も高い、強個性。鬼滅時空の鬼のように藤の花の毒が苦手だったり、日光が苦手だったりはない。ただ、使いすぎると暴走して食人衝動に襲われる。
轟焦凍
幼少期に善逸に救われてから、善逸に対してかなり好意高め。自分の家族間のことがあった手前、善逸が家族とうまくいっていなかったことは心配していた。原作とは違い、すでに左側の個性も使うし、表情も多少穏やか。
緑谷出久
この度オールマイトからワンフォーオールを受け継いだ。善逸のことはちゃんと家族で兄弟だと思ってる。善逸の雷の呼吸を見るのは初めてだったので、個性把握テスト見て「善逸ってこんなに強かったんだ…」って内心驚いている。
次の更新は1月18日18時を予定しております。読んでくださると嬉しいです!