善逸が出久の弟としてヒロアカ世界を生き抜く話   作:冬のこたつのおとも(みかん)

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第3話の前編です。お気に入りや感想等ありがとうございます!


シークレット(前編)

波乱の入学初日が終わり、今日からは通常授業となった。最高峰の雄英といえど、午前はごく普通の学校といった感じの授業だった。入試のときの試験官だったプレゼントマイク先生の英語は、あの人普通の声量で声出せたのかと驚いたけど、いきなり叫び出したりするから心臓に悪い。

 

昼休みを挟み、午後はいよいよヒーロー科の本命であるヒーロー基礎学の授業だ。チャイムが鳴ったので席に座りながら担当の教師を待つ。

廊下に耳を澄ますと、足音が聞こえてきたのでどうやら先生が来たようだ。

俺は近づくにつれて聞こえやすくなった音にあれ、と首を傾げた。

この人の音、聞いたことがある。

まさに正義!!って感じの独特の音、そう簡単に忘れやしない。

この人は確か、前に出久と一緒にいた細身の金髪の、

 

「私が普通にドアから来たー!!」

「え…、オールマイト…?」

 

オールマイト。No.1ヒーローの登場に周りの生徒は気分の高揚を露わにしていた。けれど、そんな音も聞こえないくらい、俺は混乱していた。

信じられないことに、オールマイトから聞こえる音と、出久とともにいた金髪男性の音が一致している。それはつまり、形容にだいぶ差があるように見えるけど、間違いなくあの二人は同一人物だということだ。となると、出久とオールマイトが共にいたことになる。それは一体どういうことなのだろう。そういえば、個性把握テストで出久が使った個性も、心なしかオールマイトに似ていた気がする。

 

「______逸」

 

以前出久が言っていた個性の発現、突然でないなら何者かの介入があった?

そしてその介入者がオールマイトだとしたら。けれど、その介入方法は一体何だ。

突然変異であると言った出久から聞こえてきた嘘の音。出久の母さんと話すときの罪悪感の音。オールマイトと出久の個性の相似。

そこから導き出される答えは、いや、でもまさか。

 

「善逸!」

「…ッ!あ、え…?何?」

 

かけられた声に奥深くまで沈んでいた思考が持ち上げられる。視線を上げると、目の前で焦凍が俺の顔を心配そうに覗き込んでいた。辺りを見渡すと誰もいなくて、それが知らぬ間に経過した時間を物語っている。

 

「もう皆グラウンドに行っちまったぞ。何度呼びかけても気付かねぇし」

「ごめん…」

 

俺はすぐに椅子を引いて立ち上がった。

全然気づかなかった。それほどまでに思考に没頭するなんて、いつぶりだろう。衝撃的な事実をほのめかされて、動揺してしまったのだろうか。

何か得体の知れないことが身内に起こったのではないかと思うと血の気がひいていく。

そしてその俺の様子がより焦凍の心配を煽ってしまう悪循環だ。

 

「何かあったのか?」

「大丈夫だよ。本当に何もないから!」

 

疑惑でものを言って、出久の隠したがっていることが露呈でもしたら目も当てられない。ここで焦凍に相談するわけにはいかない。俺は誤魔化すように声のトーンを明るくした。けれど取り繕えたのは表面上だけだったようだ。

 

「…それがなんでもねぇ奴の顔かよ」

 

早く行くぞと言葉続けて、焦凍はこちらを振り返ることなく歩き出す。

一見呆れられたのかと勘違いされそうな言葉だけど、その言葉に乗っている音が、教えてもらえない歯痒さからくるものであることを、俺だけが知っている。

今は見ることの叶わない焦凍の表情、そこからしか知ることができないはずの彼の心情を、知ろうとしなくても『聞こえてしまう』俺は、なんだか姑息なことをしているような居たたまれなさがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口数は減ったものの、俺が全く聞いていなかった授業の概要だけは懇切丁寧に教えてくれた焦凍によると、今日行う授業は、戦闘訓練らしい。

入学前に発注したコスチュームも身にまとうようだ。

俺が発注したコスチュームは、まぁ大体予想がつくだろうけど前世の鬼殺隊のような服装だ。奇抜な服装も増えたこの御時世で、時代錯誤なあの服は目立つだろうし、前世の繋がりを探すには持ってこいだと思った。それと単純に気慣れているからだ。

コスチュームに着替えると、多少使われている素材の違いはあれど、よく体に馴染んだ。

黄色い羽織を靡かせて、俺はもうすでに全員集まっているグラウンドに足を向ける。

 

「あ、善逸やっと来た!おーい!」

 

俺に気付いて一番に声をかけてきたのは出久だった。

全体的に緑色の服装で、オールマイトを意識しているような、触角のようなものを生やしているコスチュームが、とても出久らしかった。

俺のコスチュームを見て、かっこいい!似合ってるね!と笑う出久に、疑惑のことは何も聞かなかった。

前世についてのことを丸ごと隠している俺が、出久の隠し事を詮索するべきではないと思ったから。

 

「皆揃ったみたいだね。さぁ始めようか、有精卵ども!」

 

オールマイトの声掛けに、初のヒーローコスチュームに緩みがちだった生徒の顔がキッと引き締まった。俺も今度は聞き逃さないように、オールマイトの言葉に集中する。

 

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか?」

 

白くて、なんだか男心をくすぐりそうなコスチュームに身を包んだ飯田くんがキリッと手を挙げて質問した。

 

「いいや、もう二歩先に踏み込む。敵退治は、主に屋外で見られるが、統計で見れば屋内の方が凶悪敵出現率は高いんだ。このヒーロー飽和社会、真に賢しい敵は闇に潜む」

 

確かに鬼殺隊だった頃にも、鬼は屋外に出るとは限らなかった。あの鬼の根源である鬼舞辻無惨でさえも、自分の根城を構えていたぐらいだ。敵と鬼は別物だけど、暗闇を好むという意味では同じようなものなのかもしれない。尤も敵の目的は鬼とは違い、人間を殺すことに限らないだろうけど。

 

「君らにはこれから、敵組とヒーロー組に分かれて、2対2の屋内戦を行なってもらう」

「基礎訓練無しに?」

「その基礎を知るための実践さ!」

 

オールマイトに質問を投げかけた彼女は確か蛙吹さんだったかな。個性のせいかどことなく蛙っぽい彼女も、飯田くん同様積極的だ。むしろここのヒーロー科に在籍している生徒のほとんどは、最高峰に在学できているとい

う自負も相まって、積極性の高い人が多い。自分に自信が持ちきれない俺が彼らの見習うべき部分はそこかもしれない。

 

「ただし、今度はぶっ壊せばオーケーなロボじゃないのがミソだ」

 

ロボットと人では音もだいぶ違うし、何よりロボットを相手にするように全力で能力を対人に振るっては、場合によっては大惨事になるかもしれない。そういった力加減を身につけるための訓練でもあるのかもしれない。

ヒーローは鬼殺隊とは違い、敵を鬼のように斬ってはいけないだろうし、主に捕縛がメインのようだ。

それからそれぞれが思ったことを述べ始めてオールマイトが困惑していた。そこからカンペを取り出しているところを見ると、やっぱりヒーローとしては一流でも、教師としてはまだまだ新人なのだと思わされる。そうだとしても、このオールマイトを師事したい学生など、この世界には星の数ほどいるのだろう。

 

「いいかい、状況設定は敵がアジトのどこかに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている。ヒーローは時間内に敵を捕まえるか、核兵器を回収すること。敵は制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえること、それが勝利条件だ」

 

要するに、どちら側であったとしても相手を行動不能にしてしまえば勝利のようだ。そして核兵器というのは衝撃によって爆発する血鬼術と考えればいいか。核兵器を回収するといっているけど、場合によっては核兵器って遠隔操作とかでも爆発させれそうだし、なんの情報もなしに下手に近づくのは危険な気がするけど、今回の訓練においてはそこは加味しなくていいのかな。

 

「コンビ及び対戦相手はくじだ!そして君達の場合、21人だから一人余るね!当たりを引いた人には全ての演習訓練が終わった後、まだ余力の残っている人と対戦してもらうよ!」

 

説明に1段落がつき、生徒たちはオールマイトの持っているくじを順番に引いていく。

俺が引いたくじは当たりだった。

 

「うわ、まじか」

 

いつもの俺ならここで焦凍はなんだったのかと聞きにいっていたかもしれないけど、今はとてもそんなことが聞ける雰囲気ではなかった。焦凍とこんな陰鬱な雰囲気になったのは初めてで、胸がチクチクと痛んだ。

 

「最初の対戦相手はー、こいつらだ!」

 

オールマイトが箱から取り出して掲げた玉には、それぞれA、Dと書かれている。それを見たときに出久と勝己の音が高鳴ったことから、いきなりこの二人の対決なのかと推察する。

 

「Aコンビがヒーロー、Dコンビが敵だ!他の者はモニタールームに向かってくれ」

「「「はい!」」」

 

出久と勝己の様子を横目で観察すると、勝己が出久に対して射殺さんばかりの視線を送っていた。視線で人が殺せるのならば、10回は殺してそうな目つきだ、怖い!

それに対して出久は怯えるかと思ったけど、一瞬悩んだ後に見つめ返した。その姿を見て出久も成長したな、と実感する。

 

「敵チームは先に入ってセッティングを。5分後にヒーローチームが潜入でスタートする!」

 

俺は建物に向かっていく出久の背中に、頑張れ!と心の中で鼓舞した。

 

 

 

 

出久達が見えなくなった後に俺たちもモニタールームへ移動した。

 

「それでは、Aコンビ対Dコンビによる屋内対人戦闘訓練、スタート!!」

 

そして、訓練は始まった。

 

 

 

 

 

 

出久と出久のペアである麗日さんは建物の窓から侵入し、慎重に歩みを進めていった。だけど、問答無用に勝己が二人を奇襲する。

それをモニターで見ていた生徒たちが各々に感想を話している。

俺はその会話には参加せず、静かにモニターを見つめる。

勝己は確かに本能を抑え込む冷静さを持っているけど、出久に対してはそれが当てはまらない時がある。

 

…大事にならないといいけど。

 

そう思ったすぐ後に出久が勢いよく殴りかかる勝己の腕を掴み、一本背負いを決めた。出久にはすごいと思った人をひたすら観察する癖がある。そんな彼からすれば、勝己の行動を読むことはそれほど難しくない。出久だってずっと努力してきたんだ。

俺の心配は杞憂だったのかもしれない。

 

 

出久は勝己の足止めを一人で行い、麗日さんに核の回収を頼む作戦のようだ。勝己の攻撃を受け止めつつ、彼女に何か指示を出している。

出久は時間稼ぎのために勝己から距離を取り始める。鬼殺隊でも、圧倒的実力差で勝てない鬼と対峙したとき、朝日が登る時間を稼ぐことが度々あった。

出久と戦うことに執着している勝己がこの場面で核の方に戻るとは思えないし、この出久の動きは現状最も有効的な手立てだと思う。

出久の行動に音を聞かなくてもわかるほどに勝己は苛ついている。

その形相はもはや、敵のそれと変わらなかった。

横暴で、凶悪で、自分以外の誰かを鑑みたりなんかしない。それが、鬼と成り下がった兄弟子と重なった。そのまま彼から鬼の音が聞こえてくるのではないかと思えて、俺は無性に耳を塞ぎたくなった。

その姿を、焦凍が静かに見ていたことには気づかなかった。

 

 

出久が時間を稼いでいる間に、手筈通り麗日さんが核兵器を見つけたようだ。それと同時刻に勝己が出久を見つけたようで、そこでまた戦闘が始まる。勝己が腕に着けているものに手をかけると、オールマイトが慌てたように制止の声をかけた。

けれど勝己は止まることなく攻撃を放った。

瞬間、辺りの廊下を吹き飛ばすほどの爆発が起こった。

 

「出久!!」

 

届くことはないと頭では理解していても、俺は思わず叫んでしまった。

あんなの、直接くらったら生身の人間では死んでしまう。授業でそれをやるなんて、正気じゃない。

それほどまでに勝己の中にある自尊心を傷つけられた怒りは、根が深いんだ。

それからも戦いは激化していき、出久の防戦一方となっていった。

これ以上続けるのは危険だ。

こんな訓練で取り返しのつかない怪我を負うなんて馬鹿げている。

もう停止の声がかかってもいいはずなのに、オールマイトは動かない。彼からは迷う音がしている。

なんで止めないんだ。何を迷っている。何か、一心上の都合があるのか。だとしたらそれはきっと出久が隠していることで、俺が知るべきじゃないことなのはわかっている。

だけど、このままじゃ出久が。

何もできずにもどかしい気持ちになって、自分の拳をきつく握りしめていると、出久が個性を発動して勝己に立ち向かった。

流石にまずいと思ったのか、オールマイトが中止させようとした瞬間、出久はその個性を勝己にではなく、真上の天井に向かって放った。

窓が全壊して、天井を突き抜ける気流ができた。何度見てもとんでもない力技だ。

その隙に麗日さんが核兵器を回収し、出久の腕以外はなんとか無事に訓練は終了した。

出久の作戦勝ちだ。

俺はホッとして大きく息を吐いた。本当に出久はハラハラさせてくれる。後で一言苦言を漏らすくらいは許してほしい。

それから出久は力尽きて倒れて、担架で保健室に搬送されていった。

それから講評を終えて、次の演習へと移っていく。

次の演習は焦凍たちの演習だった。焦凍は始まってすぐに建物全体を凍らせて、勝利を決めてしまった。

焦凍強すぎじゃない??

 

その後も皆各々の個性の特性を活かした方法で敵やヒーローをこなしていき、やがて全ての演習が終了した。

 

「さて!最後に善逸少年と演習をしたい者はいるかい?」

 

その言葉に一人の生徒が手を挙げた。

手を挙げたのは焦凍だった。焦凍からはいろんな音が入り混じったような音がして、何を考えているのかがよくわからない。

こういうのは勝己も手を挙げるかと思っていたが、まだ出久との対戦でのショックが抜けきっていないようで、どこか呆然とした様子だった。

 

「よし!では1対1の演習で、ルールはさっきと同様。轟少年が敵、善逸少年がヒーローでいこう!」

 

 

 

 

「善逸」

「焦凍、何?」

 

訓練の開始前の移動中に、焦凍から声をかけられた。相変わらず焦凍が何を考えているのかは聞き取れない。

 

「確かに俺は言いたくねぇなら言わなくていいって言ったけどよ、追求しないのと、心配しないのは違ぇよ」

「それってどういうこと…?」

 

俺の質問には答えず、それだけ言って焦凍は建物のセッティングに入った。

焦凍の言葉の意図はわからなかった。

建物に入っていった焦凍の背中が、お前と話すことはもう何もないという拒絶を表しているようで、思わず泣きそうになる。

 

「それでは、スタート!!」

 

オールマイトの声が聞こえると同時に、俺は建物の中へ正面突破した。

建物内全てを凍らせることのできる焦凍相手に、下手な小細工なんか通用しない。

 

これは正真正銘、焦凍と俺の直接対決なんだ。

 




次回の更新は1月19日18時を予定しておりますので、読んでくださると嬉しいです!
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