善逸が出久の弟としてヒロアカ世界を生き抜く話 作:冬のこたつのおとも(みかん)
善逸視点
相澤先生は生徒たちに素早く指示を出すと、一人で敵の群れに向かっていった。個性と捕縛用の包帯の合わせ技で次々と敵をなぎ倒していく彼は一見優勢に見えるが、その心中は穏やかな音ではない。生徒たちの不安を煽らないように、相当無茶してるんだ。
相澤先生の個性では異形型のものは消せないし、なにより相手の数が多すぎる。長期戦に縺れ込めば、やがて戦況は覆ってしまうだろう。そうなれば後ろで待機している生徒たちも危険に晒されてしまう。
なら、俺がここでとるべき行動はこれしかない。
「加勢します!」
「緑谷弟…ッ!余計なことはするな、お前も避難しろ!」
俺は階段を飛び降りて刀に手をかけて構える。それに気づいた相澤先生が顔は正面を向けたまま俺に怒声を発した。
けれど、皆を守ると決めた俺はここで引き下がるわけにはいかなかった。
シィィィィィ。
『雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃』
生徒が降りてきたことを好機と思ったのか、俺に迫ってくる敵たちを一直線になぎ払った。一度力を示せば辺りの敵は怯んで、有象無象に群がってくることはなくなった。
納めた柄に再び手をかけて、抜刀態勢に入る。
「足手まといにはなりません」
「…チッ、敵にむやみやたらに突っ込むなよ」
彼は苦言を漏らしながらも、俺の戦闘を承知してくれた。けれどそのことにホッとしたせいで一瞬気が緩んでしまい、その瞬間の隙を敵は見逃さなかった。
「…!あの黒い霧の奴ッ!まずい、皆が」
俺と相澤先生に生まれた一瞬の隙に、
黒い霧を身に纏い容貌すら確認できない敵が、俺たちの視界から消えて生徒たちの前に立ちはだかっていた。
あの敵の音は周りの敵とは別格だ。
闇深くて禍々しい、聞いているだけで胸糞悪くなってくる嫌な音。もしかしたら主犯格の一人かもしれない。
俺は生徒たちの方が危ないと判断して、足に力を込めて走る。前世から足の速さにだけは自信のあった俺はすぐに生徒たちに追いついて、敵と対峙する。
「初めまして、我々は敵連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは平和の象徴、オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして」
「…は?」
俺の隣で出久が呆けたような声を漏らした。彼からは怒りと錯乱と、心の底から疑問に思っているような音が鳴っている。出久からすれば、オールマイトは絶対的正義で、どうしてそこに反乱分子が生まれるのか、根っからのヒーロー気質の彼では想像もつかないのだろう。
敵はそれにもお構いなしに言葉を続けた。
「本来ならば、ここにオールマイトがいらっしゃるはず…。ですが何か変更があったんでしょうか。まぁ、それとは関係なく私の役目はこれ」
敵から何か企むような音がして、俺は柄に手をかけて警戒する。13号も個性を使用できるように構えている。しかし、敵が動く前に二つの影が飛び出した。
勝己と切島くんだ。
「その前に俺たちにやられることは考えなかったか!」
彼らの猛攻によって、砂埃が舞って視界が遮られたが、敵が無傷であることはその強烈な音からわかった。物理攻撃が無効化されるとなると、だいぶ戦いにくい相手だ。しかし敵から微かに焦った音がすることから、完全な無効化ではないんだろう。ある状況下なら無効とか、この部分なら無効とか、何か条件があるはずだ。いろいろと推察するが、なにぶん情報が少なすぎて確証は得られない。
「危ない危ない、そう生徒といえど優秀な金の卵」
「駄目だッ、どきなさい二人とも!!」
敵の標的が生徒たちに移ったと判断した13号が、勝己と切島くんに呼びかけた。しかし、二人が反応するよりも早く、敵が個性を発動した。
「私の役目はあなたたちを散らして、嬲り殺す!」
「ッ!!」
敵から出ているもやが生徒たちを囲うように広がっていく。どこからかくる引力にどんどん彼らは飲み込まれていく。かくいう俺もその引力に引きずり込まれてしまった。
「ぃぃいいやぁぁぁぁぁッ!!!」
次に目を開いた瞬間、俺は絶叫した。
俺の体は空中に投げ出されていて、重力に抗うことなく落下している。空間移動系の個性によってここに飛ばされたみたいだ。
一般人なら死んでしまうぞ、これは。ここまで殺意が高いということは、敵連合の作戦では生徒たちの生死も厭わないということだ。
勢いがありすぎて、綺麗に着地することはできないので、なんとか体を回転させて受け身をとる。
「ッゥグ」
一瞬背中を強打して息が詰まったが、飛びかけた意識をなんとかつないで体を起こした。辺りを見渡すとそこには誰もいなかった。いまいちここがどこらへんなのかも把握できない。バラバラに散らされた生徒たちの中で一番近くにいるのは焦凍だと音で判断する。それもそれぞれの区間に数人で飛ばされていることが多いなか、彼は現在一人でいるようだ。いくら焦凍が強いといっても、実戦経験の乏しい学生を一人にしておくのは心許ない。とりあえず焦凍と合流する方向で行動していくことにする。
「だけど、まずはこれをなんとかしないとなぁ」
あたりに八人ほどの敵の音がする。敵たちの狙いは生徒たちを複数の敵が配置されている区間に散らして、各個撃破することのようだ。
マスコミを使っての撹乱といい、子供だと侮らずに用意周到なところといい、相手の敵連合は相当な慎重派なのかもしれない。
「餓鬼が一人か」
「個性を使わせるな、畳み掛けるぞ!」
それでもあの相澤先生との戦いっぷりから察するに、それほど統制の取れた団体ではないと見た。
早く敵をやっつけて焦凍と合流しよう。
シィィィィィ。
『雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 八連』
焦凍視点
「散らして殺す、か。言っちゃ悪いがあんたら、どう見ても個性を持て余した輩以上には見受けられねぇよ」
「こっ、こいつ移動してきた途端に…」
「本当に餓鬼かよ…」
あの黒いもやみてぇなもんに呑み込まれて、気づいたらこの土砂ゾーンにいた。辺りに敵がいたから、それを凍らせることでこの場を収めた。
オールマイトを殺す、初見じゃ精鋭を揃え数で圧倒するのかと思ったが、蓋を開けてみれば俺たち用の駒、チンピラの寄せ集めじゃねぇか。
俺は凍らせ損ねた敵が殴りかかってくるのを受け止めて、制圧しながら考えた。
見た限りじゃ、本当に危なそうな人間は4、5人程。とすると、本命は数じゃない。あの中の誰かにオールマイトをどうこうできるような個性持ちがいるのか、はたまたまだ姿を見せてねぇやつが他にいるのか。
俺が今とるべき行動は、目の前の敵からそういった情報を聞き出すことだ。
「なぁ、このままじゃあんたらじわじわと体が壊死していくわけなんだが俺もヒーロー志望だ、そんな酷ぇことはなるべく避けたい。
…あのオールマイトをやれるっつー根拠、策ってなんだ」
俺は言外に場合によってはできるという意味を含めて敵を脅した。寄せ集められた敵全てに高尚な信条があるとは思えねぇ。となると、こいつらの半数以上がおそらくは愉快犯。そういう奴らは目的意識が低い分、少し揺すれば我が身かわいさにすぐ揺らぐ。だからこういった脅し方が最も有効的な手段だ。
このままうまく情報を聞き出せそうだ、そう思った時だった。
「そこまでにしておいてくれないか」
「ッ!ここに来て真打登場か…?」
声が聞こえてそちらを向くと、俺の方に歩いてくる一人の少年がいた。
腰に刀を差していて、ゆったりとした歩調に合わせるように赤みがかった髪が揺れている。その顔は顔面一帯を覆う奇妙な狐の面で見ることができない。
異様な雰囲気だ。
こいつはさっきまで相手取っていた奴らとは明らかに違ぇ。
年齢は俺とそう変わらねぇように見えるが、得体の知れなさに足が少しすくんじまった、情けねぇ。
「これ以上やっては殺してしまうぞ。人を殺すという罪は重い。鉛のように重くて、人を奈落の底へと貶める。そんな重荷を、ヒーロー志望の君が背負うものじゃない」
「…それは経験論か?」
随分と朗らかな声色で紡がれたその言葉に、思わず俺は聞き返した。するとそいつは表情は見えねぇが、どこか苦しそうに胸に手を当てて言った。
「違う、と思いたいが、あれを人ではないと否定してしまえばそれは俺の妹も人ではなかったと否定してしまうことになる。…そうだな、そうかもしれない。俺のやっていたことは結局人殺しにすぎなかったのかもしれない。けれど、だとしても俺は大切なものを守るためならば、何度だってこの刃を振るうんだろうな」
苦しそうに言葉を続けるそいつは、似ても似つかねぇはずなのに何故か、善逸を連想させた。
こんな状況で、善逸は大丈夫だろうか。
あいつはマスコミの一件以来からまた塞ぎこんでたし、今はあまり一人にしたくねぇ。あいつはどこまでも突っ走って、そのままどこかに消えちまいそうで、あの日感じた恐怖が現実になっちまいそうな気がして心底怖ぇ。
だからここで時間取られてるわけにはいかねぇ。
「なら、俺だって守りてぇもんがあるんだ」
俺は個性を発動させて氷で相手の足場を奪いにいく。それに素早く反応した敵が避けたところに向けて今度は炎を放つが、それすらも避けられてしまった。これは長期戦になるかもしれねぇ。ならばと敵の耳を見た。敵は左耳に何かの小型の機械を装着している。おそらく他の仲間と交信する類のものだ。もしかしたらこちらの音声も全てリアルタイムでどこかへ送られてるかもしれねぇ。
まずは、その仲間との通信手段を断つ。
俺は敵の耳目掛けて炎を放った。
一瞬敵は目を見開いた。
ゴォォ!
俺の放った炎は見事に敵に命中して、通信機器を破壊した。
「熱っ!あぁ、これはもうダメだな完全に壊れている」
敵はそう言って機械を外してその場に捨てた。しかしその後にハッとしたように右腕を顎に当てて「いや、これではポイ捨てになるのではないか…?」と言って再び壊れた機械を拾い上げていた。その敵らしからぬ言動に呆けそうになったがなんとか耐える。
「これで仲間を呼ぶことはもう出来ねぇぞ」
「そうだな、これは好都合だ。これでやっと善逸を探しにいける」
「…は?」
目の前の敵の口から友人の名前が出て、俺は困惑した。
こいつは今なんて言ったんだ。善逸と言ったのか。なんで善逸を知っているんだ。善逸が目的なのか?だが敵連合の目的はオールマイトの筈だ。
まさか目的は一つじゃねぇのか?
「なんでお前が善逸のこと知ってんだ…」
「ん?あぁそうか、君は今の善逸の身近な人物なんだな、君からは善逸の匂いがする。なんでって、なんと言えばいいのだろうか…」
俺の質問に対して敵は意味不明な言葉を発する。その要領を得ない言葉に俺は苛立ちを募らせる。
なんとかしてこいつらの目的をはっきりする確証的な発言を聞き出したいところだが、敵相手に対話をしても真実を言うかどうかわからねぇ。
それなら、目的と物理的に距離を離す。
「善逸の元には行かせねぇ」
「それは困る!俺は折り入って善逸に話さないといけないことがあるんだ」
それとさっきから聞いていたが、まともな発言と言葉遣いの敵は少しやりづらいところがある。
目の前の敵の態度はどこか誠実で、一般人だったなら好印象を抱かれそうなやつだ。だからこそ調子が狂う。
けれどこいつは敵で、こいつの目的の一つが善逸だ。善逸に何か良からぬことをしようとしてるのかもしれねぇ。そうだというのなら、野放しになんてできねぇ。
こいつをここで足止めする。
俺は相手が警戒する前に氷で敵を囲むように個性を放った。
相手の個性がわからない以上、近接戦闘は避けてぇ。今はとにかく時間を稼ぐ。
「なるほど、時間稼ぎか。あまりヒーロー志望相手に乱暴なことはしたくなかったがすまない!俺には時間があまりないから少し本気でいかせてもらう」
敵はそう言って高く跳躍し、難なく俺の作り出した氷壁を飛び越えた。
強化系の個性か。飯田のような部分的のみの強化か、善逸の兄貴のような全身的な強化かは定かではねぇが、身体強化は間合いに入ると強い。
だが、遠距離戦ならこちらの方が有利。
俺は休むことなく氷で敵を追い詰め、近づけないように氷を配置する。敵はそれを全て避けて何処かの区域から風で流れてきたのか、細めの鉄骨を拾って腰に差している刀の代わりにそれを構えた。
それは俺を殺すつもりはねぇっていう意思表示か、けどそれも近接戦に持ち込まれなきゃ意味がねぇ。
そう考えた次の瞬間だった。
ヒュッ。
「ッ!!一瞬で近くに…!」
気づいたときにはすでに敵は俺の間合いに入っていた。
速い。
全く目で追えなかった。
やられる!!
俺は次に来る衝撃に備えて体を固くした。
その時。
ドォォォン!!!
目の前を、一閃の雷光が通った。
次回の更新は1月25日18時を予定しておりますので、読んでいただけると嬉しいです!