王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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中学生編
第1話 リアル・ハイキュー‼


最後に覚えているのは……勿論 春高だ。

あのオレンジコート、眩いライトに一面照らされて、場が揺れんばかりの大声援に包まれた時の事。

 

そして 流した汗、追いかけ続けたボール、……仲間たちと共に流した涙。

 

 

思い返せば目にいつだって浮かぶ。

 

 

そして、ついに立った決勝の舞台の事も。

 

同じオレンジコートでも 同じ声援でも まるで違う感覚だった。あと一つ勝てば……全国制覇。高まる緊張、高揚、体力気力ともに充実し、最後の相手と日本一の座をかけて戦った。

 

 

いつだって、思い返せる。

 

 

あの時は、一日一日終えた後に どのチームが勝ち上がりそうかや、本命チームが取られるセット数、自分たちのチームの取られるセット数まで 仲間たちと予想し合ったものだったんだが……。

 

 

 

 

「でも、こればっかりは予想できなかったなぁ――――」

 

 

 

 

そして、今現在。

 

予想できない事態に見舞われているのである。

 

高校もあと数日で卒業だったハズ……なんだけど、今中学3年生をやっている。

頭打ったわけではないし、留年? したわけでもない。至って正常であると断言できる。そして、今の状況が、否! 今の世界(・・)があり得ないのであるとも断言できる。

 

 

なぜなら―――。

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉ!! やっぱやべぇーー!! 小さな巨人っ、かっけーーー!!」

 

 

 

 

自分の直ぐ隣にいる男の子の存在が一番の原因だ。

録画したバレーの試合を一体何度目になるかわからない程、画面に食いつきそうな勢いで見ている。……魅入っている。

 

お構いなく大声。

最早 それくらいは普通かな? と思いつつもやっぱり落ち着きが無いのは相変わらずだ。

 

 

 

 

そんな彼の名は、日向(ひなた) 翔陽(しょうよう)

 

そして此処は日向家。

 

 

 

 

聞き覚えのある人もきっといると思う。

因みに同姓同名の別人というわけではない。

 

……現実の世界にいるハズのない架空の世界の存在。漫画の中の住人。……の、ハズなんだが、すぐ横にいる。動いている。生きている。

なんだったら もう何年も(バレー関係に)付き合ってる。

 

 

そう、ここから導き出されるのはただ一つ。

 

 

自分の身に降りかかったのは、それこそ漫画みたいな話だということ。

 

 

 

自分は、気付いたら【ハイキュー‼】と言う名の世界に転生したのだということ。

 

 

 

 

どういった経緯で、こんなトンデモ世界にきたのかは思い出せない。

でも、現実世界での事……即ち、この世界へと転生する前の人生はよく覚えている。

昨日のことのように思い出せる。

 

さみしさは当然最初のころはあったけれど……今は 大丈夫だ。

 

何せ、自分自身がこの世界に……ハイキューを見てバレーを始めたのだから。バレーに憧れて、その道を歩き出したのだから。

 

そしてその結果、全国大会……春高の決勝まで進む事ができたのだ。

 

結果も最高であり、自分の青春の全て、その根幹がこの世界なのだから。

 

確かに摩訶不思議であり、今までの自分の人生が覆ってしまって恐れおののきがあるんだけれど、それ以上に感動が大きいのだ。それに この世界に家族だってちゃんといる。生憎前世(現実世界?)の記憶を持ってるのは自分だけのようだが。

 

 

「?? なにニヤニヤしてんの?」

「……ふふ。って、それ ず~~っとニヤニヤしてる翔陽には言われたくないな。あと、いつまで見てるつもり?」

 

 

自分は日向に会えた時の事を思い出していて思わずまた笑ってしまっていた。何度目になるかわからないが、いつ思い出しても笑みがこぼれてしまう。

 

あの時……当然ながら 驚きのあまり固まった後に、声を発してしまった。

 

その時点で不審者? 不審なガキ? っぽい感じだけれど、出会えた場所は、小6の時。町の電気屋の前で、大きなテレビが掛かってて……そう、日向にとっての始まりと言っていい 《小さな巨人》 が春高で戦っている場面だったから、自分自身も その試合を見て驚き、声を上げたのだと幸運にも思ってくれて変な奴扱いではなかった。

 

 

そして当然ながら、日向とはそこからの仲である。

小さな巨人に歓声を上げたんだ、と解釈されて『オレもオレも!!』と思い切りなつかれてしまった。

 

今、同じ中学にもいってる。親に無理をいって通わせてもらえた。丁度、祖父の家が雪ヶ丘にあって本当に良かったと思う。

日向と一緒に数少ないバレー部員として、楽しむことができているのだから。

 

当然――真剣に楽しんでいる。

 

「いつ見たって何回見たって良いだろ!? だって小さな巨人だぞっ! よし! オレたちも試合するぞーー!! 練習試合だ!」

「練習試合っていったってなぁ。ずっと言ってるけど、5人じゃちょっと……。ああ、また女子に混ぜてもらうか? 来週練習試合するんだって。あと1人集めるだけなら、当てはあるし」

「う……、また女の子たちに混ぜてもらうのは……」

「ばーか。まだそんな事言ってるのか。いつかの糧になれば良いって、前に教えただろ? 絶対無駄になんないって。それに、翔陽が入りたいって言ってる烏野なら部員不足~なんて無いだろうし、高校生になったら 形あるバレーだってきっとできる。何をするにもまずは、基礎からだ。継続は力なり、ってな」

「……たまに思います。いえいえ、普段から割とたくさん思います。会ったときからです。あなた、ほんとうに同級生ですか?? 火神 誠也さん?? あなた歳いくつですか??」

 

何か遠い目をして、見上げてる日向。

ここで紹介、転生者のこの世界での名は 火神(かがみ)誠也(せいや)です。

 

「俺はな……。身体も心もでっかくなっときたくて頑張ったんだよ。翔陽も頑張れ」

「はふぐぅぅ……、う、うらやましい……」

「ん、でも翔陽はさ、小さな巨人になりたいんだろ? ほれ 大きかったらなれないぞ」

「そんな事じゃないんです……。どーしても憧れるんです……」

「理屈じゃないってか。んじゃ、もう終わったみたいだし、パス練再開するか?」

「っ! おうっっ」

 

 

日向はバレーの練習になると本当に顔色が変わる。さっきまでたっぱの話で落ち込んでいたみたいなんだけど、あっという間に立ち直ってしまう。

うれしくて仕方ない、って顔になる。

 

日向は、火神と出会わなかったら 一人でバレーをする羽目になっていたハズだ。一人でとなると……できる事が本当に限られる。二人いれば パスの練習だってできるし、何より……。

 

「俺にトス、くれ!!」

「ほい了解」

 

スパイクが打てる。打つことができる。それが日向にとってどれだけうれしい事だったか……火神は誰よりも知っている事だろう。

 

もし、自分がここにいなければ、日向はずっと一人で頑張り続けていたハズだから。それは決まっている事と言っていい。空いた時間で別の部活の友達に頼んで一緒にしてもらい、そして3年目にして初めて後輩部員が入ってきてくれて、ようやくチームが出来上がる。

 

 

 

0からのスタートというのはやっぱり険しいし、難しい。

 

 

 

 

だが、今は違う。火神という男がいるからこそ、日向は一人ではない。

パスだってスパイクだってできる。そして、試合だって最後の最後に出る事ができる。

でも、なかなかに下手なのも仕方ない。前世でさんざんプレーしてきた身である火神だけれど、教える側というのはあまり経験がなかったりするから。

 

 

 

 

 

「んー、最後くらいは俺も試合出たいって思ってたから。翔陽と最後の公式戦は楽しみだ」

「おう!! あと1人なら! イズミンとコージーにも頼んだら絶対何とかなる! 絶対なる!! ……って、おいちょっと待て!」

 

忙しそうなテンションな日向は、ぐるりと体をコマみたいに回転させながら、ボールをキャッチして、火神の方を見た。

 

「早とちりかもしれないけど せいや! ……最後(・・)のって 中学校では(・・・・・)最後って事だよな?? オレたち高校でもするんだろっ!? 一緒に烏野いくんだろっっ!? 間違いないよな!? 早とちりなんだよな!!」

「めちゃめちゃ必死か! 周りを小動物みたいにうろうろしない! ステイっ」

 

大きくため息を吐いた火神は、ちょっとだけ真剣に考える。

確かに、彼はバレーは好きだった。前に……前世ででは悔いなどない程に頑張った。でも、あの青春ですべて燃え尽きたような気もしていたのだ。社会人、プロ、世界……と次々にビジョンが見えていた時期もあったんだけれど、今はほとんどない。

 

でも、この世界にやってきてまた再燃したのは事実。だから、日向と火神は一緒にたった2人の部活、愛好会を続けてきたのだから。そして、少なからずこの世界の超人たちとネットを挟んで対戦してみたいとも思っていた。

 

だが、……火神は日向と一緒にプレイしたい、という気持ちより、このほとんど間近で、流行っていたVR世界の没入感などくらべものにならない程近くで、彼ら烏野のバレーを見ていたい、という気持ちの方が強くなっていた。加わって、できる事だってきっとあるし、楽しくだってできると思う。……でも、あの戦いを。烏野と戦う青葉城西を、春高予選の決勝戦 伝説の白鳥沢戦を……そして、あまたの感情が渦巻く全国春高の舞台を。

この目で見たい。生観戦してみたい、という気持ちも異様に強いのだ。

 

 

バレー選手としてはプレイしたいって気持ちよりもやや強いのが現実。

 

 

「で、どーなんだ!」

「ん~ 高校でバレーするかどうかは決めてないよ? ほかにしたい事もできるかもしれないし」

「がーーーーんっっっ!!!」

「いや、がーんって口に出すものだっけ? いいじゃん、烏野は家からは近いからそこに行くつもりだし、翔陽は友達だ。応援してるぞ」

「なんでだよーーー! 一緒にやろーーーよーーー!! 目指せ、小さな巨人の舞台ってずっとやってきたじゃないかー!」

「小さな巨人云々は、翔陽がずっと言ってるだけじゃなかったか……? まぁまぁ。相手くらいはしてやるからさ。そんな落ち込まなくて良いじゃん?」

「落ち込むわ! 誰がオレにトスあげてくれるんだよっっ! せいやしかいないのに!」

 

日向にそれを言われて……火神は 少し思い出した。

 

そう、日向はこの後……中学最後の大会で 運命って言っていい相手に出会うという事を。

 

 光と影、みたいな感じで出会うのは、超人中学生の影山飛雄。コート上の王様の異名を持ってる超絶スキルの持ち主。もともとのポジションは火神はWSだから……というつもりもなく、影山には到底トスでは勝てないのは解る。ザ・漫画キャラって感じの神業、超コントロールトスをしてる相手とセッターで張り合えるなんて到底思えない。

 

……試合でまるっきり相手にならないか? と言われれば話は別だが。

 

 

 

兎も角、日向が言うような事にはならない。トスを上げる男は必ず現れると確信しているから。

 

「大丈夫だ。烏野に行けばスゲーヤツはいるって。スゲートスを上げるヤツがいる。間違いなく」

 

 自信満々に言う火神を見て、日向は少し興奮が収まった。

 こういう顔をして言う時の火神の的中率は限りなく100パーセントに近いから。事、バレーボールにおいてはほぼ。自信家過ぎ! と最初のころ思ってた日向なんだけど、それはもう思ってない。

 

「ひょっとしてもう烏野に行ってみた、とかか!? オレを差し置いて!?」

「なんでそーなる? 違う違う。烏野は古豪。最近は堕ちたカラス~だっけ? そんな感じで言われてるみたいだけど、古豪にふさわしい選手はきっと集まるだろ? 確率的に。だから大丈夫って思っただけだ。………翔陽に確率、なんて言ったら頭パンクするかもだけどな」

「う、うるさいっ! で、でも それでせいやが バレーしないって事になるのが理解できねーよ。あんなに上手なのに! サーブとか、トスとか、スパイクとか! ……い、いや、スパイクは負けねー!!」

 

 

 

一緒に練習しているからこそ、日向は火神の実力は解ってる。なんで、バレー部の強くない中学にいるのかがわからない程に。

 

火神は、にやっと笑って言った。

 

「おう。頑張れよ」

「こら! 頑張れよ、じゃなくて 一緒にがんばろーーぜ! 一緒にバレーしよーーぜ!!」

「わーーったわーーーった、その話はまず高校に入ってからな? その前に、中学の最後の大会だ。……度胆抜いてやるよ。秘密兵器でな」

「ひ、ひみつへーき!? ナニそれ、かっけーー! 教えてーー!」

「教えたら秘密にならないじゃん?」

「うーーー、い、いやまて! ひみつ兵器は今は良い! それより宣言しろーー! 『私、火神誠也は 日向翔陽と一緒に高校ででもバレーします!』 って。オレを見捨てるのかーーー!!」

 

 

ぎゃー! と日向が大声を上げたせいで、日向の家の中から小さな女の子が飛び出してきた。

 

 

「せい兄ーー! せんげんーー、みすてないでーーー」

「うおっ!?」

 

 

勢いよく飛び出してきて、抱き着くのは 日向翔陽の妹 日向夏である。

さすがは日向家。非常に身体能力が高い。腰辺りにいい勢いで飛びついてきた。

 

「っとと、危ないだろ? なっちゃん」

「せい兄ーー」

「せいやーー オレたち兄妹みすてないでーー」

「みすてないでーーー」

 

「「みすてないでーーー」」

 

 

 

人懐っこく、かわいらしい夏にまでそんな目を向けられちゃ、お兄ちゃんと呼ばれてる自分もグラッと来てしまう。

 

 

「こらこら! 自分の妹に変な事教えんなよな!」

 

 

 

 

 

 

 

いろいろあったが、今日も楽しかった。

 

 

 

そして、初の公式戦も目の前だ。

 

 

 

あの試合はよく覚えている。……本当によく覚えている。素人の寄せ集めのチームで優勝候補相手に本当に凄いと思った。漫画やアニメだってわかっていても、凄いと思った。異常なスキルは兎も角、精神面は沢山教わった。

 

負けたくない気持ち、まだ負けてない、という気持ち。……そして、まだボールは落ちてないという気持ち。

 

 

 

 

「(勝つ! っていうのは 九割九分九厘無理だ。……だけど、圧勝、簡単にいくとは思うなよ? 影山。楽しみにしておけ。………なんってな)」

 

 

 

何より、自分が心から楽しみたいのだった。

烏野スタメン落ちアンケート

  • まだまだレギュラーは早い 火神
  • チームの大黒柱 澤村
  • リードブロック月島
  • 強メンタル田中
  • サムライ兄ちゃん東峰

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