王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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個人練習、初っ端はやっぱりあのグループに………(笑)



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第105話 たかが部活

 

 

 

 

 

「くぅぅぅ――――っ……、いやほんと。マジかよ……、ギリで負けるとかもういらねぇんだけど……。それに 初戦以外全部デュースとか……」

「おまけに 今回は勝利1回……、後は3回全敗……。オレら呪われてんの? って思うくらい、ラスト1点が取れてなくてメッチャ悔しい上に、鬼デュースの後の鬼ダッシュとかガチでヤバイ……。なんもかんも鬼過ぎ……」

「音駒となんか、前の練習試合思い出したっス…………。ダッシュの本数は烏養監督ん時より少ないと思うスけど……、こんな疲れるダッシュは、烏養監督以上っス………」

 

 

 

 

爽やか森然、裏山の坂にて、星を見上げながら突っ伏してるのは澤村・菅原・田中の3名。

変人速攻無しの状態ではあるが……。これで、あの変人速攻解禁したら、ひょっとしたら!? と思ってる自分達も居るが、後輩頼りとは何事か、と思うし 周囲の強豪達もそんなに甘くないとも思ってる。

 

少なくとも、最初の頃 変人速攻は何度も見せているから。

 

 

 

だが、それよりなにより―――やっぱり疲れの方も半端ではない。

 

 

 

「あぁぁぁ…… 星が綺麗だ……」

「スガ……、寝るなよ?」

「大地こそ……」

「オレも……自分に注意中っす………」

 

 

 

日中の暑さに比べたら、夜風は心地良い……が、気を抜いてしまうと、このまま寝落ちしてしまいそうだから、その辺りは我慢している。

この状態で寝たら高い確率で体調を崩してしまいそうだから、折角の合宿にそんなバカな真似はしてられない。

 

 

 

 

 

他のメンバーも、裏山で最後の坂道ダッシュ(ペナルティ)を行った後だから揃ってはいるが、我先にと体育館へと戻っていた。ここからも練習を……と言う事なのだろう。

そして、突っ伏してる3人も例外ではなく。

 

 

「よし!ちょっと烏養さんにiPad借りて、シンクロ攻撃の動画再確認すんべ!」

「よっしゃ!」

「っス!」

 

 

例え極限まで絞られた状態だとは言え、負けっぱなしのままでは悔しいと言う気持ちもあり、このまま眠って終わり……にするワケも無く。

 

シンクロ攻撃はまだまだ未完成。何度か合う事はあったが、1度でも自滅する様であれば、武器とは呼べない。100%の精度を目指しつつ、強固な力にしなければならない。

 

 

「オレは、サーブ打ってく。まだまだ全然足りねー」

「サーブ! オレもやります!(ジャンフロ、ちょっと火神にも聞いてみたいな。改善点とか、色々……)」

「おう、やろう!」

 

 

膝を付いた状態で、3人の会話を聞いていた東峰は、拳をぎゅっ と握り締めて、サーブ練習を行うとの事だ。そして東峰に触発された山口も手を上げる。

 

まだまだ不十分である、と言う気持ちは各々が持っているとの事だ。

チーム全員が満遍なく、最ッッ高にしごかれたと言って良い。

 

でも、それでも まだ止めないのは、やはり全員が勝ちたい……と思ってるからだろう。

 

 

そう―――全員が(・・・)だ。

 

 

「あれ? ツッキーどうしたの?」

「?」

 

 

山口が体育館に入った時、視界の中に月島が居た。

何かを探しているのか、キョロキョロ、と周囲を見渡している。

 

 

「ちょっと火神に聞きたい事があったんだけど、いつの間にか消えてたから」

「あ、奇遇! オレもサーブの事で火神に聞きたい事があったんだった。ツッキーと一緒だね、うんうん!」

「……ちょっと、変な言い方しないでくれる」

 

 

山口は嬉しそうに月島に駆け寄って、月島は月島で邪険する様に山口を躱した。

近頃、月島の気合の入り方が違う事が山口にとっても嬉しい事であり、月島の違う一面を、格好良いと感じた。

 

 

何処か冷めた様子(・・・・・・・・)の月島は、最近見ていない。

月島の事情を知っている山口。そのことに関しても、やはり嬉しかった。自分の事の様に。

 

 

「取り合えず、さっさと休むなんて訳無いし、どっかには居ると思うよ! じゃあ、オレ、サーブ打ってくる!」

「……はいはい」

 

 

妙にハイテンションな山口を怪訝そうに一瞥した後、月島は後ろ手を振って第2体育館から出ていった。

 

森然高校には複数の体育館があり、この合宿期間中は全ての体育館を押さえてくれているのだ。山口が言う通り、火神が知らない内に戻って休んでる――――なんて、想像が全く出来ない。

 

 

「(……そう言えば、梟谷のヒトと話してた様な)」

 

 

月島は、色々と考えながら第2・第3体育館を繋ぐ外廊を歩いていると……。

 

 

「おっ! 烏野のMB(ミドル)はっけーーんっ!」

「!?」

 

 

突然、声が聞こえてきた。

烏野であり、MB(ミドルブロッカー)とくれば……間違いなく自分の事を指しているだろう事は解る為、声のする方に視線を向けてみると、そこは第3体育館の入り口。

 

入り口に立ってるのは見える範囲では2人。

 

 

「君()ちょっとブロック跳んでくんない?」

 

 

音駒高校の主将 黒尾。

梟谷学園の主将 木兎。

 

今合宿最強2トップの主将が出迎え? ていたのである。

 

 

「………いや 僕は」

 

 

ブロックのご指名をされた訳だが、とりあえず断ろう、と言う事で返事を返そうとしたその時、3人目が姿を現した。

 

 

「あ、月島」

「!」

 

 

ひょい、と顔を出したのは、先ほど山口も月島自身も探していた男、火神だった。

 

 

 

「……第3体育館(こっち)で何してんの?」

 

 

 

休んでるとは思ってなかった。

トイレか何かだろう、と思っていたが、まさか他校の選手達の中に混ざっているとは月島は思ってなかった。

 

いや、相手からすれば 火神と練習……となると、色々と見る(・・)所が多くて有意義な練習になるかもしれない。

そして火神自身も、この黒尾と木兎と一緒にとなると、得られるモノが多いだろう。互いに利がある。……などなど、月島は月島で火神の現状を分析していた所で、答え合わせ。

 

 

「やー、烏野の火神(おとーさん)借りちゃってごめんね? 間違いなく、この合宿ん中で最高の(ブロッカー)だから、相手してもらってたんだよ。主に木兎(こっち)が」

「あははは………」

「誠也は逃げないから メッチャ助かってるなぁ!!」

「あっ、アス!」

 

 

黒尾にもお父さんと呼ばれた火神だったが、この憧れの場所で練習出来ている事、あの黒尾に最高の(ブロッカー)と呼んでもらえた事。……黒尾、木兎、(月島には見えてないが)赤葦、リエーフと、環境が最高過ぎた事もあって、否定も肯定も出来ず、ただただ破顔した? と見る人が見れば思う程に、顔をゆがめていた。

 

 

「逃げない? どーいうこと?」

 

 

木兎の言葉に疑問を持った月島は、木兎に―――と言うより、火神の方を見て聞いた。

 

 

「赤葦さんから言われてたんだけど、マジで木兎さんのスパイク、際限なく打ち続けるからさ。精度・威力共に延々と。だから、梟谷の皆は早々に逃げるんだって」

「ふーん。……で、キミは逃げないの?」

「オレが逃げると思う??」

「…………」

 

 

説得力が物凄くある。

火神が言うだけで説得力100%だ。聞けば聞く程、ブロッカー泣かせな練習を強要されそうな気がしてならない。

本来は、月島は火神に聞きたい事――――今日の梟谷、木兎の時の二枚ブロックの時。月島が横で感じていた事を、そのまま火神に聞こうとした訳で……、全力全開、ついさっきまで死屍累々な程の練習を熟された後で、エンドレスなブロック練習を付き合うのは………、体力的にも精神的にも、駄目なヤツ、と月島は 明らかに表情に出していた。

 

その顔を見て木兎は察したのか。

 

 

「頼むよ、メガネくーん。いっくら、誠也がスゲーー燃えるブロッカーでも、1枚ブロックよりは2枚ブロックで練習したいんだ」

「え、でも隣に……」

 

 

木兎の願いを聞いて、月島は横に居る黒尾を見た。

 

黒尾は 火神の事を最高の壁、と称していたが間違いなく黒尾自身も文句なしの最高クラスのMB(ミドルブロッカー)であると月島は 口にこそ出さないが思っている。

音駒とあの濃密極まりない練習試合を重ねた身であるからこそ解っている。

 

極上の壁が2枚、既にあるじゃん? と言う視線を向けると……、黒尾もそれを察してか答えた。

 

 

「あー、ダメダメ。オレはコッチ(・・・)を鍛えるのに忙しいんだよね」

 

 

ビっ、と指さした先を追ってみると――――……地べたに這いずっていたリエーフが居た。

あの長身が地べたに這うと……こうも見えにくくなるのか……と、変な所に少々注目した月島。

 

オーバーワーク気味なのは、リエーフの姿を見たら解る……が、リエーフは違う意味の抗議の声を上げる。

 

 

「だからっ……、おれが、おれがブロック跳びますってば……、おれだって、せいやにまけてねーですから……!」

 

 

もう練習切り上げて! みたいな後ろ向きな発言ではなく、MB(ミドルブロッカー)としてのプライドを刺激され続けている様子だった。

でも、話から察するに、リエーフが練習しているのはブロックではない様だ。

 

 

「うるせえ! 音駒でレギュラー入りたかったらまずそれなりのレシーブ力を身につけろ!」

「うぐぅっ………」

「(……成る程。レシーブ練か…… 確かに、イージーミス目立ってた様な……。音駒の中じゃ、目立つよね。うん。間違いなく)」

 

 

黒尾にコテンパンにされた? リエーフはぐうの音も出ない様で、また地面に突っ伏して動きを止めていた。

 

一通り終えると、黒尾は再び木兎を見て、月島に一応再紹介をする。

 

 

 

「見えないかもしんないけどさ、木兎(コイツ)、全国で5本の指に入るくらいのスパイカーだから、練習になると思うよ? 火神も、対ウシワカに~~って気合入って、快くやってくれてたし。うぃんうぃん、ってヤツ?」

 

「何度も打ち抜いてやるぜーー、誠也ぁぁ!」

「アス!! 負けませんよ!!」

「……木兎さん。相手は 火神のブロック1枚ですよ? 正直、褒められませんよ。寧ろ、何度かワンタッチとって喰いついてる火神の方を褒めるべきです。――――……木兎さんの10倍は」

「赤葦!! なんか、誠也と一緒の時、より厳しさが増してない!?? それこそ10倍くらい!!」

 

 

 

 

ぎゃいぎゃい、と燥ぐ中に居る火神を見て……月島は、何だか日向と被って見えたのは気のせいじゃないだろう。

肩の荷が下りたというか、何と言うか……、解放? でもされたかの様に楽しそうなのは、合宿初日の時も同じだったから。

無論、日向や影山達と一緒に居る時に調子を崩したり、と言った気配は無さそうだが。

 

 

―――と、考えている月島は、完全に自分の事は棚に上げちゃってるのである。

 

 

 

「それに、ウシワカともなれば、あちらは3本の指ですから」

「あ~~、そりゃ、木兎じゃ対策には なんないかもですね。ドンマイ」

「いえいえ、スゴク練習になるのは事実ですよ!」

「って、今度は落としてきた!?? なんか、誠也の励ましがスゴク痛い!! それにお前ら落とすくらいならアゲないでくださいっ!!!」

 

 

やり取りを傍から見ていて思うのはやっぱり火神の事。

 

この恐ろしいまでに自然に馴染んでいる火神。月島は 思わずため息を吐く。

よくよく考えてみれば、火神と言う男は影山や日向と言った問題児(自分の事は考えてない)の保護者で、その上で1年リーダーと言う大役をイキナリ任されている身だ。

 

合宿だろうと他校だろうと、この程度のモノならお手のモノ、なのだろうな……と月島は思った。自分自身じゃ絶対に無理だが、と付け加えながら。

 

色々と考えていた矢先、木兎を弄っていた黒尾が月島の方を見た。

 

 

 

「―――それにさぁ、君MB(ミドルブロッカー)なんでしょ? 今日の試合、美味しいトコ取られた(・・・・)って印象が拭えないし~、もうちょっとブロック練習した方が良いんじゃない?」

 

 

黒尾は誰に? とは口にしてない。……してないが、口にするまでもない、と言う事はよく解る。月島も当然解る。解るからこそ、先ほどまでは 練習参加する気配が無かったのに、今はやる気になっている。

 

木兎に 両肩ガクガク揺すられてる火神も、黒尾のTHE・煽りを、月島を間近で体験して……変だと思われるが、これもちょっぴり感動していた。

 

 

 

 

「流石ですね、まさに挑発と煽りの達人!」

「いや、火神君(おとーさん)。君は僕に一体どんな印象をお持ちなのかな?」

 

 

 

 

そんな火神の一言に、木兎は大爆笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、始まるのはエンドレス・スパイク練。

 

 

木兎がボールを投げ(レシーブし)、赤葦がトス。最後は勿論 木兎が気合十二分な掛け声と共に、強烈なスパイクを打つのだ。

 

 

対するは、火神と月島の2枚ブロック。

 

 

「んじゃ月島、ストレート側きっちり閉めてくれよ」

「ん」

 

 

月島は横目で火神を見ていた。

勿論、スパイク相手である木兎から完全に目を離す事は無いが、火神のブロックには今日の練習試合の時から気になっていたことがあったのだ。

単純に両手を突き出すのではなさそうなのは理解出来た。

 

 

「いっっぽォーーーんっ、めぇぇぇ!!」

 

 

独特な掛け声と共に、2枚ブロックとなった最初のスパイク練習が始まる。

クロス側に火神が、そしてストレート側に月島が壁となって立ちはだかり、木兎の跳躍に合わせて、タイミングを合わせ、跳躍。

 

空中に居る時間はほんの僅かに過ぎない。

 

だが、一流選手ともなれば、たった一瞬であらゆる事を考える。

トスボールの位置や高さ、そしてブロック、相手のレシーブの位置……等々。

 

 

それらを一瞬の間に全て処理し最適解を導いて打ち抜く。必ず決める為に。エースであるなら尚更だ。

 

 

木兎が選択したのは、僅かに開いている火神・月島のブロックとブロックの間。

開いた、と表現するには少々弱いと思える程の隙間ではあるが、迷う事なく感覚のまま木兎は打ち込んだ。まさに針の穴を通す精度だと言えるだろう。

 

 

―――だが、勿論 それを易々と許す程、火神は甘くない。

 

 

木兎の事を恐らくは烏野の誰よりも知っているが故の事、信頼と言っても良い。

ほんの僅かではあるが、このトスボールの高さと位置、木兎の体勢と視線。それらの情報を総合して考えてみたら解る。

 

木兎であれば この隙間を抜いてくる、と。

 

 

ドバッ! と打たれた(ボール)は、バチンッ! と阻まれた。

ついでに木兎の身体に当たって、コートへと落下。

 

 

「ウシっっ!!」

「うぎィっっ!」

「いきなりドシャットされちゃいましたね」

「そーーですねーー!!」

 

 

まさかの一球目に止められた。

幾ら2枚に増えたとはいえ、早過ぎる、と思うのは赤葦。

木兎は色々と問題点・弱点が数多く存在する選手だ。チームの中で言えば、ひょっとしたら一番よく知っているかもしれない。

知っているからこそ、木兎の実力…… それも好調時の実力も良く知っている。

 

 

「はーーい、早くも1ぽーーん」

「黒尾うっせーーー!」

 

 

リエーフをしごいていた黒尾も思わず振り向く程の見事なドシャット。

木兎に煽りを入れるのは当然だ。煽りスキル達人(MAX)なのだから。

 

 

「くっそぉぉ、次だ次ぃ!! まけねーーぞ!!」

 

 

木兎も気合を入れ直す。

間違いなく、次は1度目よりももっと強く、際どいコースを狙ってくるだろう。考えれば考える程燃えてくる。

 

 

「こっちも負けないぞ、月島。もういっぽん止める。何度でも止める」

「はぁ。熱くなり過ぎデショ」

「人の事言えないだろ、ってだけ返しとくわ」

 

 

視界の端に見える月島の顔を火神も見たからこその返し

この月島の顔は、間違いなく負けず嫌いな性格が顔を出した、と言える。

 

このタイミングでの、月島のこの顔には少々驚かされる自分も居たが、それが好ましい。

過去を引き摺らず、前を間違いなく向いていると解るから。

 

 

「(翔陽に続いて、2人目(・・・)……になるかもな)」

 

 

それは中学時代に経験した事。

何度も何度も見直しては読み直し、仲間と語り合い、語り合いつくし……、それでも足りないと過ごした嘗ての記憶の中にあるモノ。

日向翔陽のあの一言。【まだ負けてないよ】

 

それを見る事は叶わなかった。……が、それ以上を得たのも事実。

 

月島も、そう言う事(・・・・・)なのだ、と火神はより気合と感動を胸に只管木兎のエンドレス・スパイクをその腕に受け続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5本、10本と続き……。

 

 

「しゃあ!!」

「ッ!(くそっっ!)」

 

 

木兎のスパイクが抜く回数が増え始め、そろそろ、月島も膝に手を付きそうになった所で一時ストップ。

 

 

「ウェーイ! オレもそっちに混ぜてくれ。やっぱ、エースってのは、3枚付いてくるもんだよなぁ? 木兎」

 

 

黒尾が参戦を表明したから。

壁が3枚となり、より強固になる。

それを前に、木兎が怖気づく――――筈も無い。気持ちよく何本か決まっているので、どんどん調子が上がっていっている。

 

 

「ヘイヘイヘーーイ!! 調子あげていくぜ!! 2枚だろうが3枚だろうが抜いてやんよ!」

 

 

間違いなく難易度は上がった筈なのに気合は十分。体力も底なし。

 

因みに、リエーフの方をちらっと見てみると……。

 

 

 

「………………」

 

 

 

突っ伏したまま、動かなくなっていた。ピクリとも動いていない。

 

 

「(死……?)」

 

 

と、月島が思ってしまうのも無理ない事である。

それくらい、守りの音駒 主将黒尾のレシーブ練ともなればハードなのだと言う事だろう。……内容は知りたく無いが。

 

 

「んじゃ、お前ら。間々はきっちり閉めろよ。そんでもって、バンザイブロックは禁止だ」

「……!」

「アス!」

 

ストレート側から、月島・火神・黒尾の順番。

そして、木兎がその3枚ブロックで狙ったのは………。

 

 

「ッッ!!」

「ぐっっ!!」

 

 

ストレート側を守っていた月島だった。

月島の手に当たりはしたのだが、木兎のスパイクの威力の方が強く、そのままコートに叩きつけられた。

 

 

「っしゃああ! 絶好調~~!」

「木兎さん。今の黒尾さんから逃げましたね?」

「そーだよなーー? 空気的に、オレんトコに来るべきだったと思うけどなぁ??」

「はぃ!!? 逃げてませんーー、3枚ブロック相手にしっかりしょーぶしました!! 正面からしょーぶしたんだから!」

 

 

3枚ブロック相手に勝負して、勝った事こそ褒め所だとは思うが、木兎に対しては実に辛辣極まる言葉を受けてばっかりだった。

普段、赤葦が色んな意味で迷惑を被っているのがよく解ると言うモノだ。仮に、火神が例え何も知らなかったとしても……苦労しているのは目に見えて解る。

 

 

「くそっ(また、僕のトコだけ抜かれた……)」

 

 

ドシャットは出来ずとも、ワンタッチでカウンター、な場面は何度か見せた月島だったが、月島が悔しがる通り、ブロックに当たってそのままコートに叩きつけられた事も数度あるので、悔しさは拭えない様子。

 

 

そんな月島を見た木兎は。

 

 

「うーーん、誠也と比べたらさぁメガネ君」

「?」

 

 

同じチームである事も考慮してでの事か、木兎は火神と頭の中で比較しつつ、月島に指摘をする。

 

 

「読みは良いと思うぜ。さっきの2枚ん時も、賢そう、とか冷静、とか思ってたけど、なんせブロックが弱弱しいんだよ。腕とかポッキリ折れそうで心配になる。ほれ、横にお手本さんが居るんだから、もっと それに習って ガッ!! と止めないと、ガッッ!! っと」

「!!!」

 

 

確かに、身長面では月島の方が火神より高いが、パワー面では間違いなく負けている、と言う事は言われるまでも無く解っている。

 

解っているが……、こうもはっきりと指摘されて、気分が良い訳が無い。

 

 

「僕はまだまだ若くて発展途上なんですよ! 筋力も身長もまだまだこれからなんで!」

「むっ!?」

 

 

木兎より身長デカい、アピールをしたのか、月島は猫背だった身体を起こして胸を張る。

当然、木兎は185㎝で月島は188㎝。木兎よりデカい。パワーの差は頑張れば何とかなるかもしれないが、身長差だけはどうしようも無く、木兎は何だか悔しそうに唸っていた。

 

 

そして、そのやり取りを隣で聞いていた火神はと言うと。

 

 

「解ってると思うケド、オレと月島(お前)、同い年だからな。一応」

「そんな細かいトコは気にしなくて良いよ」

「いや、まったく気にしないってのは無理だわ。慣れが出てきたとしても」

 

 

木兎と言い合っていた月島だったが、火神が入ってきて、火神との言い合いにもなっている。

それを苦笑いしつつ聞いていた黒尾は、月島に言う。

 

 

「まぁ 火神君とメガネ君はポジション違うから、そんな気にならないよーだけどなぁ」

 

 

火神のポジションはWS(ウイングスパイカー)

月島のポジションはMB(ミドルブロッカー)

 

例えポジションが違えど、同年代と言う事もあるから、ライバル視していてもおかしくないが、月島にはそう言った気配は見えない気がするのだ。

 

 

そして、黒尾は 烏野のMB(ミドルブロッカー)の事を考えて――――誰よりも目立っていたあの男の事を思い返しながら続けた。何よりも月島には効きそうだと判断したから。

 

 

 

そう黒尾のその読みは的中した。―――結果は、間違いなくよく効いたと言える。

 

 

 

「そーいやぁさ、おたくの主将くんに聞いたんだけど、背もちっこくて、技術もひよっこな、あのチビちゃん。メガネ君と同じポジションのチビちゃん。猫又先生の同期(ライバル)烏養前監督(・・・・・)のトコで修行してんだってね」

「!」

 

 

 

黒尾の発言を聞いて、月島は驚いた様に目を見開いた。黒尾自身、日向が修行をしている部分、そこに驚く意味がいまいち解らなかったが。

 

 

「……烏養、()監督……?」

「そーそー。アレ? 知らんかったの? 音駒(ウチ)烏野(そっち)の因縁の起源って感じの監督さん。そこでチビちゃんが修行してるらしいよ」

 

 

日向が何処かで練習をしているという事実は知っていたが、それは山口の様な、あの町内会チームの誰かに合間に教えてもらってる、程度にしか考えてなかったから。

 

 

小さな巨人(・・・・・)を育てた監督だーー、ってチビちゃん張り切ってたみたいだって、聞いてるよ。ほれ、火神君も一緒に行ってるって話も聞いてるし、マジなんでしょ?」

「あ、はい。その辺りは本当ですよ。烏養監督は、物凄くパワフルな人でした。……体調が悪くなった、って聞いてましたが、現役復帰するって言っても全く不思議じゃないくらい。と言うかウソ? って思うくらいです」

「……そりゃ良かった」

 

 

他愛のない2人の会話。

 

それが今 疲労して 油断? している月島の脳裏の中に突き刺さってきた。

 

 

 

 

 

 

【烏養前監督】そして【小さな巨人】

 

 

 

 

 

 

その二つのワードが頭の中に入ってくる。

それと同時に―――忌まわしいとさえ思っている記憶が不意に蘇ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

【オレも最近試合見にいったけど、月島って名前の人いなかったよ?】

 

【ホラ、これ見てよ! レフトは3年の川田君ともう1人は《小さな大エース》って呼ばれてる2年生エースだよ! ここ1年ずっと!!】

 

【月島 明光なんて名前、何処にもないよ】

 

 

 

 

 

 

 

聞きたくも無い、思い出したくも無い会話が頭の中を駆け巡り……ご丁寧に映像まで見せてくる。

 

 

それは、自分の部屋の中に籠り……物に当たり散らし、泣き崩れて蹲ってる姿。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――たかが(・・・)部活(・・)

 

 

 

 

 

 

月島は、不意に口にするその言葉に驚いた。

 

どうして忘れていたんだろう? と。

昔からずっと考えてきた事。感じてきた事。小中とバレーを経験し……そして、あの光景を見た時から、考えてきた事。

 

何故、熱くなるのか。

何故、そこまでのめり込むのか。

 

 

―――その結果が……。

 

 

 

 

 

「………あとで苦しくなる(・・・・・・・・)……」

 

 

 

 

 

誰にも聞こえない程の小さな言葉で月島は呟く。

 

 

「ほれほれ、今はほんの雛鳥、ヨチヨチ歩きのヒヨコなチビちゃんが、びゅんっ! とあのジャンプする勢いで頭角見せてきたら、良いトコぜーーんぶ、持ってかれんじゃねーの? 火神君と違って、同じポジションだろーー?」

「………………」

 

 

日向はあの時と被る。あの小さな大エースと今の(・・)日向の姿が、月島には被って見えた。

 

 

身体が小さいだけの怪物(モンスター)に喰われた。

努力しても努力しても努力しても……行きつく先は、あの絶望の光景。

 

月島はそれを思い返してしまった。

 

 

「「「………??」」」

 

 

そんな月島の状態を解ってる者など要るワケが無い。

火神でさえ、解ってなかった。

 

 

「そーですか。小さな巨人になれちゃう、って感じですか。それはそれは仕方ない、って感じですよね~~? 日向と僕じゃ、元の才能ってヤツが違い過ぎたって事ですからね~~?」

「?」

「!」

 

 

黒尾は首を傾げ、火神は聞いたことがあるようなセリフに驚く。

 

そんな時だ。

 

 

「ブロック練スか!? オレ、オレもやりますやります!? 誠也もいるーー!!」

 

 

ガラッ、と第3体育館の扉が勢いよく開くと、そこから犬岡が飛び込んできた。

それを皮切りに、福永、そして夜久も入ってきた。

夜久は夜久で、ブロック練よりも、その傍らで倒れ込んでる人物に注目中。

 

 

「おいコラ、リエーフ。転がってんじゃねぇ。レシーブ!」

「ゲェッ!?? 夜久さん……!!」

「ゲってなんだ!!」

 

 

黒尾よりも怖くて厳しい夜久がやってきて、半死半生だったリエーフが復活? して上半身を起こして……後退り。勿論、鬼先輩である夜久がそれを逃す筈もなく。

 

 

「オラ! 生意気にも、火神に勝つ、っつってんなら レシーブやれってんだ! おーい、火神――! そっちの合間にレシーブも付き合ってくれー! 大丈夫だよな?」

「あ、はい。大丈夫です。全然付き合えますよ」

「えええっ!!? 大丈夫じゃないです! 全然付き合えないです! ブロックが良い、スパイクが良い!」

「問答無用! 音駒でレギュラーになり続けんなら、レシーブ磨けっつってんだろ」

 

 

賑やかになってきた所で、コレ幸いと言う事で月島は行動を再開。

 

 

 

 

―――少なくとも、今は1人になりたい、と思っているから。

 

 

 

 

「あ、ブロッカーの人も増えましたね? ウチの火神が減るかもしれませんが、大丈夫でしょう。一先ず僕はお役御免って事で。失礼します」

「あ、オイ」

 

 

矢継ぎ早に、挨拶まで済ませて、月島は振り返る事なく足早にコートから……体育館から去っていった。

 

 

月島の豹変ぶりは当然、その場にいた者、スパイク練をしていたメンバー全員が理解した。

そして、誰のせいでなったかも。

 

 

「なんか、間違いなく地雷踏んだんじゃないスか黒尾さん……」

「あーあ、怒らせた。折角スパイク練、あがってたのに。大失敗ジャン。煽り挑発達人、黒尾君」

 

 

梟谷メンバーに追及される。

 

 

「いや……、だって思わないだろ? なぁ 火神。メガネ君、ってそんなあのチビちゃんに対して劣等感(コンプレックス)みたいなの、持ってたりすんの?」

「………いえ。どちらかと言えば、月島の方が翔陽をからかって遊ぶってパターンが多いです」

「……だよな。つーか、それが普通っぽい感じもするわ。性格悪そうだけど」

「わー、黒尾君が性格悪いとか言っちゃう?」

「うっせーですよ? しょ木兎(ぼくと)

 

 

月島の後ろ姿を思い返しながら、日向の事も考えてみた。

確かに、日向は得体のしれない脅威を感じるが……それでも納得はし兼ねる。

 

 

「あのチビちゃんは確かに相手にしたら脅威って言えるけど、幾ら練習してるからって、そんな技術ってヤツが一朝一夕に得られるワケがないし、現時点じゃ技術も経験もヒヨッコ。……加えてあの身長(チビ)。―――――……ほんっと、火神君(おとーさん)、と日向君(チビちゃん)、同中なの? ってツッコみたくなってきた」

 

 

 

辛口トークが続く黒尾。

日向と火神については、澤村から色々聞いているから知っていた。こちらも納得しかねる気もするが……今は良い。

今は月島の方だ。

 

 

考えても考えても、やっぱり理解出来ない。

 

 

「メガネ君は身長もあるし、頭脳だって持ち合わせてる。技術だってパワーだって後々成熟して付いてくもんだし……。なのに、今の時点でチビちゃんを対等、それどころか敵わない存在として見るなんて、不自然通り越して摩訶不思議だわ」

 

 

黒尾の疑問は当然の事。

日向の話題を出した途端に豹変……とまでは行かないが、明らかに変わったのだから、それ程までのモノを現時点での日向に抱くのは不自然極まりない。

 

 

 

 

だが、火神には理解出来た。今までの言葉を思い返し―――理解出来た。

 

 

 

 

日向云々より烏養前監督……いや、【小さな巨人】の名が、月島の裏の部分(・・・・)を抉ってしまったのだと言う事に。

 

 

 

 


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