王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第106話 重い身体

 

合宿遠征の朝。

 

6時に起床し、身嗜みをある程度整え、昼までのエネルギー、朝食を補給する。

 

食べる事も当然練習の内。

 

食べて食べて食べて、動いて動いて動いて、強い身体を作る。負けない身体を作る。運動部なら何処ででも共通する練習だと言えるだろう。

 

 

「オラオラ~~、皆食え食え!!」

 

 

そんな中、一際目立ち、その身体の体積を考慮したら、明らかに人の倍くらいは食べてるって言われてもおかしくない者が居る。

 

勿論、それは西谷。

 

身体作りに関しては、誰よりも敏感に反応する男である。

 

 

「おお、良いな誠也! その山盛りてんこ盛り飯! それをマンガ盛り飯と名付けよう! おお! 翔陽!! 既におかわり用によそってる飯も良いぞ!! どんどん食って、合宿に備えるぞ!!」

「アス!」

「アス」

 

 

西谷のノリに同調する朝から元気いっぱいな日向と火神。

 

 

いや、火神は日向と比べたら少々ノリが悪いかもしれない。

声色が先日とは少しちがう。

 

 

この合宿に参加し、強豪達と試合をし、個人練習まで行った火神のテンションは常に最高潮。常にスイッチがONになっている状態が継続され、OFFにならない、と断言できる程。

最早 日向よりもあるのではないか? とも思われる程だったのだが………、少しだけ覇気が少なくなってる。

 

無論、それは声だけであって、朝食はしっかり食べるし、規則正しい合宿生活も行っている。1年リーダーとして、率先した片付け等、他の1年の模範となり、主導して行ってるので、合宿に影響はなさそうだ。

 

 

―――その理由は決まっている。考える事が増えたから。昨日の事(・・・・)で……。

 

 

 

 

 

 

「オラ―――! 月島オラ―――!! もっと食え! でっけー図体してんだから 食わねぇと保たねぇぞ!!」

 

 

西谷は1,2,3年、学年問わず 全員の食事量を一頻りチェックした後……当然ながら月島に注目。

 

月島は190に迫ろうかと言うその身体には、明らかに割に合ってない量だった。

西谷が喉から手が出る程欲しているその身長(タッパ)に似合ってない量。

私怨が多少入っている激を入れるのも当然だ。

 

注意を受けた月島はと言うと。

 

 

「西谷さん。胃()、大きいんですね」

「!!! なんだと!!!」

 

 

こちらも当然の様に、丁寧に言ってる様に、自然に……毒を吐く。

学年、先輩後輩関係なく、絡んでくる者なら等しく平等に。嫌味ったらしい笑みも加えながら。

 

 

西谷も、身長事(タブー)を犯した月島に対して黙ってる訳もなく、朝食を食べる前に月島にとびかかった。

 

 

「生意気な奴め!! 本体(・・)をこうしてやる!!」

「うわっっ、ちょっと!」

 

 

月島から本体――――メガネ(・・・)を毟り取ろうとし、月島も何とか応戦。

 

 

このやり取りも、この光景もある意味いつも通り。

月島と絡んでるのが、日向の場合があったり影山の場合があったり………代わりはしても、大体いつも通りの光景だと言えるのだが、何処か違う。

 

 

「………?? ツッキー??」

 

 

そのほんの僅かな歪み。

ほんの僅かな亀裂。

 

気付かない者はまず気付かない程のモノ。

西谷も気付かないからこそ、普通? に接している。

 

その機微に 知っている火神を除いて 唯一気付けたのが、月島とは長らく親交がある山口だった。決して変な意味ではないが、月島の事を、その姿を、姿勢をよく見て一喜一憂していた山口だからこそ、感じ取れた様だ。

 

月島の様子が昨日と違う事に―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食後は勿論、練習練習………練習!

 

1日の1時間、1分1秒まで一切無駄なく過ごす。

 

試合し負けて走る。勝って修正すべき点を話し合う。

 

試合を重ねる毎に、走る毎に 流れ出る汗の量が加速度的に増していき、直ぐに頭から水を被った様になってしまう為、当然熱中症・脱水症に注意が必要。

 

 

「オラ――、ちゃんと水分とれよ――」

 

 

夏の気温と大人数のそれぞれの熱気が合致し、森然高校は涼しい―――と言うのが嘘の様に。体育館は開放状態にしているというのに、まるでサウナだ。

 

水分をとってもとっても、走ったら直ぐに蛇口を捻る様に汗が噴き出す。

地獄の特訓とはまさに此処の事だろう。

 

 

「っしゃ、今のはオレの勝ち」

「うぐっっ、くっそーー! 影山には勝ったのに! 次こそは!!」

「お前の反則負けだ!! フライングしただろうが、ボゲ!!」

 

 

そんな地獄でも楽しそうにしている者。楽しんでる者は居る。

どれだけ暑かろうと、どれだけ汗を流そうと、底知れぬスタミナを持つバケモノ3人組。

 

そんな3人を痛々しい物を見るかの様な目を向けつつ……ボソリと一言。

 

 

「いや……、火神(そっち)に勝つっていう前に、試合に(・・・)勝つって言えよ……」

 

 

ぜーはーぜーはー、と荒い息を吐きつつ、ツッコミを入れるのは田中。

ツッコむだけの元気はまだまだある様なので、ある意味安心したとも言える。

 

 

「(負けねぇ………)」

 

 

田中は、ぐっ と拳を握り締めた。

試合は出れているが、間違いなく試合出場時間は、火神や影山の方が長い。日向とは五分五分かもしれないが。

 

なのにも関わらず、この体力差。

 

1年多く練習してきた筈なのに、あの3人の体力は本物のバケモノ、体力オバケだ。

そして、だからこそ(・・・・・)、奮い立たせられるモノだってある。

 

 

「負けてらんねーぜ。龍」

「……おう!」

 

 

2年(自分達)の前に1年(あいつら)が走っているのだ。

立ち止まってる暇があるワケが無い、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、苦しい苦しい練習の合間には、時折ご褒美タイムと言うモノが存在する。

各校のマネージャー達がそのご褒美を持ってきてくれた。

 

 

「森然高校の父兄の方から、スイカの差し入れでーーす!」

【おお―――っ!】

 

 

夏と言えばスイカじゃ――――、と言うワケで、練習も一時休憩。

エネルギーも水分も補給できる最高の果実の1つを前に皆目の色を変える。

各学校の美人マネージャー達が持ってきてくれた事も、更に拍車をかけてる様子である。

 

武田が言う意味とはまた違うが、貪り始めた。

 

 

全部員が3~4切ほど食べても十分余る程の量。なんでも、森然農業でスイカ栽培をしているらしい。この季節には本当にありがたい差し入れである。

 

 

 

「うまーーいっ!」

「ぷぷぷぷぷ―――っ」

「おお! リエーフ種飛ばし上手ぇ! よーしオレも! 研磨もやろうぜ!!」

「………やらない」

 

 

スイカを食べていたら、突然種飛ばし大会が勃発。

勝負事に関しては、どんな事でも興味津々なメンバーが多数揃っているので、徐々に人数が増えていく。

西谷、田中、日向、トラ、リエーフ、木兎………etc.

 

 

兎に角、美味しく楽しくスイカを頬張っている中、誰よりも早くその場から立ち去る者が居た。

 

「あれ? 月島君。一切だけで良いの?」

「うん。ごちそうさまでした」

 

スイカを配っていた谷地が、月島に声を掛ける。

誰もがお代わりを求めている中で、月島ただ1人だけ1切で終わっていた。それも1切と言っても比較的小さめの物を。

 

元々月島は小食だから、いつも通りといえばそうなのだが……。

 

 

 

「なぁ火神」

「んぐ、んぐ、んぐっ、んん? ………んくんっ。どした?」

 

 

 

種飛ばし大会には参加してないけど、十分スイカを楽しんでいた火神は、後ろから声を掛けられた。声の主は山口。

 

 

「昨日、ツッキーと何かあった? っと言うか、ツッキーに何かあった?」

 

 

首を傾げながら聞いてくる山口に、少々驚くのは火神だ。

確かに、何処かおかしい……と言うのは、火神も解ってる。でも、それは昨日のやり取りを知っていて、見ていて…… それに加えて予備知識(・・・・)があるからだ。

 

月島は元々解りやすい性格をしていないし、これが通常運転だと本人から言われれば、月島を知る者であれば頷く者が大半だろう。

 

「あ―――…… いや、その………オレも何となく、程度にしか解らないんだけど……」

 

火神は、苦虫を噛み潰した様な顔になる。

 

知っている、と言うのは正直もどかしくなるモノなのだ。

 

本来なら知らない筈(・・・・・)なのに、知る筈がない(・・・・・・)のに、知っている方が異常(・・・・・・・・・)なのに。

 

それでも知っている。高校時代から付き合いが始まったと言うのに、知っている。

火神は1年リーダーとか、火神は1年、皆のお父さん? とかそんなの一切関係ない。

不自然を通り越して怪奇現象に近い。

 

 

そう思われても仕方ない様なことを 思わず山口に言いそうになったが、どうにか火神は堪えた。

それに100%の確証があるとも言えない。

 

だから、ただ合った事を。事実だけを伝える事にした。

恐らくは、月島の根幹に繋がるであろう事を。

 

 

「昨日、オレと月島は 木兎さん、黒尾さんと第3の方で自主練しててな」

「え!! それって、梟谷と音駒のっ!? ツッキーも一緒に!? スゲーじゃん!!」

 

 

火神の話を聴いて 山口は目を輝かせていた。

 

月島に関して、山口は違和感を感じてはいる様だが、その肝までは、確信までは当然解らない。だから深刻になど考えてはいなかった。

 

だから今は単純に 先日のあの後―――火神を探した(本人は否定)後、まさか他校の選手とまで練習した事に驚いた。

これまでの月島からは考えられない程の躍進。それを自分のコトの様に喜ぶ山口。

月島が少し離れた場所に居る。本人に聞こえるかもしれない、聞こえてるかもしれないのに。

 

 

山口は気付いてない様だが……月島は、いつもなら山口が自分ネタで勝手に盛り上がっていたら

 

【山口うるさい】

 

と食って掛かってきても良い場面だと言うのに、現在は完全に無視をしている。

 

 

火神は、それを察して頭を掻いた。

 

核心部分をもしも山口が知れば―――、今みたいな反応はしなかったかもしれない、と火神は思いつつ……続けた。

 

 

「黒尾さんが、翔陽の話題を持ち出してさ。―――ほら、最近翔陽、別の場所で練習してるじゃん? 多分、澤村さんを通じて知ったんだと思うケド、それを話してから、ちょっと様子が変わったかな? って」

「黒尾さん? 日向の事?? ナニそれ?」

 

 

火神は首を傾げる山口の方に完全に向き直ってから、告げた。

 

 

「翔陽が【烏養前監督】の所で練習してる事。【小さな巨人】を育てた烏養前監督の所で、って」

「!」

 

 

月島は、(恐らく)これらの単語を聞いて反応したんだと火神は思った。

 

正直、火神にとってはまだまだ弱いワードだとも思っていた。

 

何せ、小さな巨人は 日向が目指す! 目指す! と一時期日向の口癖の様になっていて聞かない日の方が少なかったと思う。

 

影山から【最強の囮】と言われて、あの変人速攻で躱す事が出来て、そこから そこまで話題に上がらなくはなったが、それでも最初は話題に出る名としては比較的多かったと言える。月島も間違いなくその場にいた。

 

 

だから、今更【小さな巨人】の名を言った位で、何かが反応するか? と火神は思っていた。

 

 

でも、何が切っ掛けで蘇るかなんて他人に解る筈も無い。

火神自身は何でもない事だろう、と思っていたとしても、月島は違った、としても何ら不思議ではない。

 

 

「翔陽が、そこから化けて帰ってきて、良いトコ全部持っていかれるんじゃないの~? って黒尾さん月島に煽ってたよ。……普段の月島だったら、他校の年上でも受け流すか、辛辣コメント付きで反論するかの2択って思ってたんだけど………」

「………っっ」

 

 

先ほどまでの山口の顔から打って変わって、顔色が悪くなっている。冗談抜きで青くなっている、と言っても良い位で谷地が見たら体調不良!? と騒ぎそうなレベルだった。

 

 

「その後は、たかが(・・・)……なんとか、あとで(・・・)……なる(・・)とか、言ってたかな。小さな声だったから、はっきりと聞き取れたワケじゃないんだけど」

「たかが、あとで……なる。それって…………」

 

 

山口の顔色は治らない様だ。小刻みに震えている? 様にも見えた気がした。

それを見て、火神は自分が間違って無さそうな事を再認識する。

 

 

「流石に、翔陽と違って 月島とはまだ付き合い短いし、そんだけじゃ何の事か解んないんだ。また、いつもの調子に戻ってくれればそれで良いんだけど……」

 

 

火神はそう言うと山口の肩をぽんっ、と叩く。

 

 

「フォロー出来るトコなんて限られてるから、山口に頼る場面もメッチャ、増えるかもだ。……頼むな。―――助けてくれ」

「!」

 

 

苦笑いをしながらそう言うと、火神は離れていった。

 

 

その後ろ姿を見て、山口は思う。

確かに、同じチームと言えど、仲間だと言えど、人との付き合い方と言うのは難しい。色々と拗らせた事がある山口だからこそ、それは良く解る。

 

そして、如何に同年代だろうが上級生だろうが、リーダーだろうが何だろうが、他人が侵してはいけない領域と言うモノは大なり小なり存在するだろう。

 

火神はそれを知っているんだと山口は思った。

どれだけ凄い選手でも、どれだけ周りを驚かせる選手でも、出来る事と出来ない事がある。

 

そして、これは個人の問題とはいえ決してバレーに関係ないとは言えない。

 

月島の事を託してくれた様にも見えていた。

 

このバレー部で誰よりも長く付き合ってきた山口にしか出来ないから、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神が歩いている時(スイカの皮を捨てに)

 

「おーい、火神君ーー」

「あ、はい」

 

黒尾に声を掛けられた。

 

「ごめんごめん。お宅のメガネ君の様子だけど………、やっぱ機嫌損ねたままだった? 一晩寝れば~とは思ったんだけど」

「あ―――、えっと。たぶん? 元々小食ですから、スイカ1切食べて直ぐ戻っていっただけかもですが……」

「いやいや、火神君(おとーさん)のその様子、反応だけで十分伝わるって」

 

黒尾は周囲をキョロキョロ、と見渡して 月島だけがこの場に居ない事を再確認した。

如何に木兎や火神にまで色々と言われた黒尾でも、昨日の事は気にしているのだろう。

 

「ん? 何の話をしてるんだ? 月島の事?」

 

そこに集まってきたのは、澤村や東峰、田中たち。彼らも丁度スイカを食べ終わって、その皮を廃棄しに歩いていた様だ。

 

 

 

「あ―――だよな。澤村(そっち)が主将なんだし、話す順番間違えた」

「いいや? 間違っちゃないぞ(ある意味)」

 

部の問題、部員の問題に関してはやっぱり、迅速に報告が必要。報連相が大切なのは社会に出ても同じ。

勿論、報告先は監督・コーチ・主将・副主将 となっている。

 

 

でも、澤村は間違ってないと言ったので、一応ツッコミを入れるのは火神。

 

 

「―――いえいえ、間違ってますから。主将(キャプテン)からです」

「いやいや。1年リーダーを任せてるんだ。月島の事なら、火神から、と言う意味でも間違ってないだろ?」

「ま、まぁ、それもそうですが」

 

 

何だか含みのある反論だったが、とりあえず良しとするのだった。

黒尾もニヤニヤと笑っていたのだが、澤村が向き直った所で話を再開。

 

 

「んで、何がどーなったって?」

「あ―――かくかくしかじか、で……」

 

 

大分掻い摘んでではあるが、一通り説明をした。

 

 

「月島が他校の面子と自主練かぁ。最近、気合入ってる感は出てたが、火神が居るとはいえ、まさか お前らと一緒に自主練、ってのはやっぱ驚きだな。――――そんで? そこで煽りと挑発の達人さんである、音駒の黒尾主将がウチの月島を しっちゃかめっちゃかにした、と?」

「語弊が非常にあるのが気になっちゃうが、まぁ そんなとこ」

「……否定しないのかよ」

 

 

飄々としてる黒尾を見て、毒気抜かれる澤村だった。

一応悪いとは思っている様なので、謝罪は受け取ったが、煽り、挑発し、それらのスキルを兼ね備えている黒尾。それなりにスルースキルも持ち合わせている様だ。

 

 

―――スルー出来るのは相手によるだろう、とは思うが。

 

 

 

「最近は、火神に突っかかりモード? になっちゃってた月島が、また(・・)日向か。前々から引け目ッポイのは感じてたと思うケド……、最近はそれも影を潜めたって思ってたんだけどな……」

「あーー、火神がゲス決めた時とか特にな」

 

 

話を聴いて、東峰はそう呟き、澤村もそれに乗っかった。

 

 

「いや澤村さん。ゲスって……。下衆(げす)って聞こえるんで、せめてブロックつけてくださいよ………」

「わははは。悪い悪い。……んでも、月島も目立たないかもしれないが、オレらからしたら高身長であのブロックだから、引け目に見る様なトコなんて見当たんないんだけどな」

 

 

確かにMB(ミドルブロッカー)であり、月島も文句なしに優秀な壁。派手なブロックは魅せる事は少ないかもしれないが、それ以上に厄介なのは 地味だが何処までも冷静でただ執念深く、執拗に相手に纏わりつき、決して気持ちよく打たせない。タダでは打たせないのだ。

 

だから、スパイカーに嫌われるとしたら、火神の派手なドシャットよりも月島のねちっこさの方だと言える。

完璧に止められても勿論腹立つ者が多いかもしれないが、ネチネチじわじわやってくるよりは…… スパっと。 無論、それは個々の感想である。

 

 

「あっ、ソレ。関係あるか解んないスけど、うちの姉ちゃんが。月島の事聞いてきたんスよ。兄ちゃんが居るとか居ないとか、って」

「「「??」」」

「………」

 

 

次に話に入るのは田中。

田中の姉、冴子情報。

顔の広さに関しては類を見ない程のモノである冴子が弟の龍に月島について確認をしていたのだ。

 

 

「姉ちゃんの頃、長身の【月島】って名前の人が居たって」

「―――え? 田中の姉さんって、確か 小さな巨人が居た頃だって聞いてたから………」

 

 

それは以前日向に聞いた事だ。

田中の姉、冴子が送ってくれている時に聞いた話を日向は皆にもしていた。

 

 

「月島の兄貴、小さな巨人と同じチームだったって事か?」

「あっ、でもわかんねーすよ?? 姉ちゃんも確信あるってワケじゃないッポイし。こっちの月島の事は顔見てる筈スからね。……居た気がするレベルだから、同年代の方の月島の顔までは覚えてないだけかも?? んんーーー、でも 苗字が同じだけの別人かもしんねーです」

 

 

田中の話で、月島の事が見えてきた―――気がしたのは、烏野メンバーよりも先に、音駒の方の黒尾。

 

 

「小さな巨人と一緒のチームに居た可能性アリ。そんでもって、小さな巨人って言ったら……オレらも知ってる位の選手だった(ま、そん時も音駒(ウチ)が勝ってたけど)。そん時にその2人に何か(・・)あったとしたら………、メガネ君の様子もある程度は説明付きそうだ。………って事で、どう思う?」

「………まぁ、そうですね。色々と繋がりそうではありますが……、確信はまだ、って感じです」

「そりゃーね。ボーズ君も言ってる様に別人かも? だし」

 

 

直ぐ隣に居た火神に同意を求めると……肯定もしないが否定もしない答えが返ってきたので、黒尾はある程度は確信出来た――――が、だからと言ってどうする事も出来ない。言った事は変えられないのだから。

出来るとするなら、余計な事を考えられない位、練習に誘いまくる……位だが、昨日の最後の様に躱されたら、強制は出来ないのでそれも難しい。

 

 

「あ―――やっぱ、もっかい言っとくわ。スマン」

 

 

黒尾の再びの謝罪の言葉を聞いて、澤村はニヤリと笑った。

 

 

「おう。全部お前が悪い。煽りと挑発の達人とか、性質も趣味も悪すぎる」

「随分辛辣なコメントどーも」

「だから、この借りは試合できっちり返してやる。……そんだけだ」

 

 

澤村はそう言うと、チラッと今度は体育館の方を見た。

中が少々騒がしくなってきていて、もうそろそろ練習再開か? と思える。

その考えを肯定するかのように、小走りで中から菅原が出てきた。

 

 

 

「ほーーー、音駒(ウチ)にただいま絶賛全敗中な烏野(キミ)なのに、試合できっちり返すと? 返せるの~~?? 次も負けないんですけど~~~?? 負けるつもりも手加減するつもりもま~~ったく無いんですけど~~~???」

「ええ、ええ、大丈夫ですとも。要りませんとも。……まだまだ時間はありますからねぇぇ。十分利子込みで返しちゃいますとも」

 

 

 

主将同士の凶悪なオーラ? が発せられて、濃くなってきた所で案の定、菅原から練習再開の連絡。決着はまた試合で――――と言う事で解散になったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――頭の中が、ざわつく。それに比例する様に身体が重い。

 

 

月島は、裏山の坂、丁度中間地点辺りで膝を付いた。

 

合宿も2日目。

今日も裏山ダッシュが続くから? 

いや、他の(・・)皆が次は負けまいと頑張って勝利を掴んでダッシュ無しだったとしても同じだった。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……(単純な奴……)」

 

 

月島は自虐的にそう思う。

昨日までは、柄にもなく付いて行こうとしていた。先に走ってる連中に付いて行こうとしていた。なのに、昨日はあんなに軽く感じていた足が、今は果てしなく重い。

 

 

「ツッキー! 大丈夫??」

 

 

月島の直ぐ前に居た山口が月島の状態に気付いて振り返った。

 

単純で、格好悪いこの姿。

 

山口に長々と見られるのには、正直耐えられるだけの精神力を持ち合わせていない。

 

 

「―――先、行って良いよ。大丈夫だから!」

 

 

だから、先へ行けと促した。

それは、何処か拒絶の様にも思えた。線引きをしたように思えた。

 

山口は、自分にも余裕が無い筈なのに……、へとへとに疲れていて、考える余裕も無い筈なのに、月島の事を考えてしまう。

 

 

火神から、昨日のことを聞いた時から特に……。

 

 

「――――わかった。じゃあ、行ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習を重ねる。

試合も当然行うが、今日は混同練習も多かった。

 

サーブ、ブロック、レシーブ………、それらをみっちり仕込む。互いに技術を盗み、時には教えを乞い、充実した練習が出来た。

 

 

「山口のジャンフロ、すげーブレたな。レシーブの直前であれだけブレちゃったら、捕れないって」

「本当!?」

「おう! 現に研磨さんが獲れなかったんだから」

「くぅ~、皆進化してってるなーー! 負けてらんねーー!!」

 

 

時には同じチーム、仲間であっても常にライバルであると言う緊張感は必須。

だがそれだけではない。互いの成長を互いに喜び合い、そして高め合う事も極めて重要と言える。そう言う面では烏野高校は何ら問題なさそうだ。

 

 

 

「火神、さっきの梟谷ん時のセット、もいっかい確認しとくぞ」

「OKOK」

 

 

火神は影山に呼ばれ、足早に去っていった。

 

 

「オレよりもずっとずっと動いてる筈なのに……(やっぱ 凄いな……)」

「…………………」

 

 

そんな火神の後ろ姿。

何度見てもあの疲れ知らず、無尽蔵な体力は凄い。凄いを通り越して呆れたりする

 

 

それは月島も同じ事。

 

今こそ身体が重くなっているが、昨夜以前、間違いなくあの姿を見て走っていた自分が居た。

 

 

 

――たかが、部活なのに。

 

 

 

矛盾した気持ちが自身の中に蔓延ってる事も自覚している。

自分自身が解らなくもなる。身体が重いのはきっとそのせいだ。

 

 

そんな2人の前に東峰が来て、心中を察したのか、或いは単なる水分補給を促す為なのか、そっとドリンクを差し出していた。

 

 

2人は礼を言うと、それを受け取り喉を奥まで潤す。

 

 

月島は 疲労困憊気味だと思っていた身体だが、まるで【まだ行ける】と言わんばかりに、ドリンクを飲むだけで回復する事が出来た………気がした。

 

何処まで単純なんだ、とまた自虐的に苦笑いをしつつ、東峰に聞きたい事を言った。

 

 

「―――東峰さんは、嫌だとは思った事ないんですか?」

「? 何が??」

 

 

月島はそう言うと、東峰が自分の方を見るのを待って、自分自身を見た事を確認すると、視線を変える。そう、火神や影山、日向が居る方向へ。

 

 

「目の前に強烈な才能が犇めき合ってる事。片や完成された力。片や雛鳥も良いトコだったのに 日に日に変わり、迫ってくる。………この感じです」

「あ―――……成る程なぁ。ま、気持ちは解るよ。心休まらない、って感じだし。それに、あの青城戦でも嫌って程思い知らされたからなぁ」

 

 

前のIH予選の敗戦を思い返す東峰。

 

東峰は確かにエースと皆が言ってくれる。その自負も誇りも胸にある。

無駄な時間を過ごしてしまった負い目こそ、まだ脳裏にちらつくが、それでも もう後ろは見ないと決めている。

 

だが、それだけでは駄目だ、と思ったのは あの敗戦からだ。

 

 

「知らず知らずの内に、頼っちまった部分が多かった。コートの外でも、火神(アイツ)は皆の力になった。何かこう…… エースとはまた違った安心感と言うか、包容力と言うか……、上手く言えないが不思議と一緒にバレーやってるとそんな感じがしてる」

「……火神(おとーさん)は…………気持ちは解ります」

「だよな? 同年代にあんなスゴイのが居たら、嫌でも解る。解らされるって感じか。……でも、不思議なのは、どんなに凄かろうが天才だろうが、火神(アイツ)関連では、才能の差を思い知らされても、なんかマイナス方面にはならないんだよ」

「……………」

 

 

火神をそう称する東峰の気持ちも理解している。

それは、恐らく 相対した誰もが思っている事だ、と何故か思えた。

 

圧倒的な実力、才能の差と言うモノは大なり小なり、相手を突き放してしまう。その差に絶望してしまう者だっているだろう。

 

だが、火神はどうだろうか? 

 

東峰の言う通りだ。マイナス面は全く感じていない。

マイナスどころか、強制的にプラスに持っていかれてしまう。

 

だから…… 月島自身も走っていた(・・・・・)のだ。

 

 

「………そう言う意味じゃ日向の方が強烈かな」

 

 

東峰が苦笑いをしていると、丁度視線の先には日向が居た。

 

東峰が日向に感じるモノ。それは火神以上に強烈だと言う。

 

日向は試合中、人1倍、いや2倍、3倍と言われても不思議じゃない程動き回っている。持ち前の力を最大限に活用し、翻弄し、点を捥ぎ取っている。

 

それを可能にするのが日向の身体能力。

仮にチーム内で体力(スタミナ)速度(スピード)No.1決定戦トーナメントみたいなのを開催したとしたら、間違いなく日向は優勝候補筆頭だと言えるだろう。

 

 

その勢いそのままに―――下から迫ってくる。

ついこの間までは、月島が言う様に雛鳥だと言って良い実力。身体能力に任せたままの実力だった筈なのに、日に日に変わってきている。

 

そして強く感じてしまうのだ。――――迫りくる恐怖を。

それは、元々半端なく技術が高い火神や影山には感じない代物だ。

 

 

「……それに加えて日向は多分まだ【エース】って肩書に拘ってますよね」

「ああ。そうだな。オレもそう思うよ。……日向は 技術は低くてもあの身体能力だけで十分勝負出来る。青城戦は客観的に感情抜きにスコアだけを見たら明らかだ」

 

 

フルセット、激戦の末の敗北。

 

自分達烏野は負けたから納得はし兼ねるが、限りなく勝者に近い敗者だと言っても良い程の接戦だった。

そして、その青葉城西も 王者白鳥沢と接戦を演じた。

全国大会へ出場を決めた白鳥沢。必ずベスト8以上に必ず食い込んでいる。

 

 

チームそれぞれの相性や対策等で、一概には言えないかもしれないが、客観的に見れば間違いなく言えるのは全国にでも通用するだろう、と言う事だ。

 

 

「それだけの物を持ってるのに、一切満足しなかった。日向にとってもあの敗戦が切っ掛けだった、って思う。……だから、今のままじゃ駄目だって、って事に繋がったんだろうな。……オレ達だって解ってるつもりだった。思ってたつもりだった。……でも、日向に改めて火をつけられたって感じか。いや、燃料を注がれたっていう方が正しいかも?」

「その燃料も、全然周りを見ずにテキトーにしてるもんですから、日向には十分気を付けないと、また危なくなりますよ?」

「?? ああー、アレか! ハハハハ!」

 

 

日向が迫り、皆に更なる向上心を与えた。

それを燃料投下と表現した。――――言い得て妙だと言える。

 

どんな種火であっても必ず燃える燃料を投下するとなれば、燃料の用法・用量を守って正しくお使いください……、なのだが 日向は周りが見えなかったせいで、我武者羅に燃料を投下し続けた。

 

 

その結果―――東峰と空中接触と言う極めて危険な状態に繋がったのだ。

 

 

東峰も直ぐに連想出来たのか、笑っていた。

 

 

一頻り笑うと、月島の方を見て続ける。

 

 

「……オレと月島はさ。ポジションとか役割的に日向とライバル関係に近い。火神の場合はアイツ、基本何でも熟すから、どっちかと言えば大地とか影山とかが近いかな。……そんで、さっきも言ったケド、火神は最初からレベルが高かった。でも、日向は違う雛鳥―――ヒヨコも同然だった日向が日に日に成長していく。3年(オレ)だって感じるんだから、月島はもっともっと感じてるんだろうな」

「……………」

 

 

東峰は、日向の事を怖いと表現した。その成長速度に、火神よりも日向の方が怖い、と。それは決して嘘偽りはない。

 

今も、この瞬間も、息をする様にバレーに打ち込む姿を見れば畏怖の念を覚える。

 

覚えるからこそ……新たなる決意が生まれるのだ。

 

 

 

 

「―――でも、オレは日向に負けるつもりは無いよ。それに、いつまでも引っ張られる(・・・・・・)ってのも情けないから。……そろそろ上がって見せよう、とも思ってる」

 

 

 

月島は、東峰のその言葉を、姿を見て……何も言えなかった。

 

頭では【たかが部活】【後で苦しくなる】が連呼されているが、口に出す事は出来なかったのだった。

 

 

 


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