王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第116話 傘と必殺技

 

合宿5日目《夜》 (合宿 残り1日半)

 

 

今夜で最後、合宿の自主練習。

勿論、火神はあのブロック練習……と言いたい所だが、最初にレシーブ練に付き合っていた。

そのレシーブ練習のグループには 夜久・西谷を有する各校の守護神たちが参加。

 

 

そして、各校の強サーブを打つ面々を捕まえては、打たせて、延々とレシーブレシーブレシーブ……拾いまくっていた。

流石、各校のリベロ中心に集まった練習。かなりレベルが高いと言うのが一目でわかる。

 

 

「いや、火神。いきなりのあの天井サーブは流石に俺もビックリだ。あれだけ、頭に火神の強いサーブを焼き付けられたって所で、一見緩やかなサーブだもんな? でも、音駒に2連続があるとは早々思わない様に」

「アス! 勿論です! 思った事も無いですね、一球一球、気を新たにしてますよ!」

 

 

因みに、火神の事を捕まえたのは夜久である。

黒尾と共に、いつものブロック練習グループに合流しようとしていた矢先、5本だけ5本だけ、と懇願されて、参加する形となった。

 

火神にしてみれば、各練習全てに参加したい意気込みは持っているので、誘ってもらった時点で嬉々としている。日中の練習の疲れが吹き飛んでるような様子で。

 

 

 

「っしゃあ!! 誠也! 次は強ぇぇのくれ! 旭さんも負けてらんねーですよ!」

「「はい!」」

 

 

そして、西谷にも勿論、強サーブを頼まれている。

最上級生である筈の東峰共々、西谷に敬語返事を返す光景は最早恒例と言っても良い位、違和感なく行われてるので、皆思わず笑ってしまう程だ。

 

 

そして何より、各校の指導者共々に嬉しい誤算が発生したりもしている。

 

 

 

 

 

 

誰が最初に言い始めたのか、今合宿の強サーブ勝手にランキング。

 

 

サービスエースの数は勿論、ブロックで仕留める事が出来た点でも、相手のレシーブを乱した結果がブロックに繋がった、と判断されたら加点される形式のランキング。

 

全員が全試合をきっちりきっかり覚えているとは到底思えない。

スコアノートはしっかりと各マネージャーが記載してくれているが、あくまでそれは簡易的なもの。サービスエース数等はしっかりと解るが、崩した本数等は書かれていない。

 

だから、その評価は一個人の主観となる。

 

 

その結果が――――烏野高校 火神誠也に軍配が上がった。

 

 

烏野の勝率こそは、まだまだよくて中堅クラスであり、音駒や梟谷を下した試合数が多い生川や森然には敵わない。……が、その内容の濃密さにかけては、今合宿トップ。

どのチームも烏野相手に試合した後の疲労感はトンデモナイ……と愚痴る程だから。

 

 

そして、そんな中で、サーブと言うジャンルにおいては、やはり火神だろう、と口々に言う。

なんと言ってもかなりの精度(クオリティ)威力(パワー)を誇り、且つ状況に応じた多種多様の手を持つ、最も相対したくないサーバーとして挙げられる。

 

 

強打の時は 当然身構えなければならないし、軟打の時は 前に落とさない様に心掛けなければならない。その上無回転と言うブレ球を放ってくる。 

本日は天井サーブと言うかなり癖のあり、尚且つ厄介極まりない種のサーブまで解禁。

 

タイミングずらし、と言った手や(ボール)に伝える回転の種を含めれば、その種類は倍ではきかない。引き出しの多さ、凶悪さは、レシーバー&コーチ・監督陣泣かせである。

 

だからこそ、良いのだ。

練習相手としては、最高を超える相手。如何なる場面であっても、平常を保てる精神力を養う事が出来る。

 

 

なので1位は各校満場一致。

烏野内での評価も同じく。

 

2位以下は夫々の高校で採点具合が違う様だが、兎に角 1位だけは一致していた。

 

 

 

誰が始めたのか……嬉しい誤算はここからだ。

 

 

やはり、男と言う生き物は負けず嫌いな訳で、サーブの腕に覚えがある者、サーブでも負けたくない者、サーブを身に着けたい者、そもそも火神自身をライバル視してる者など、夫々が触発された結果になった。

 

 

特に、威力平均(アベレージ)が高い生川は勿論、梟谷では主に木兎が目立ち、烏野では 影山・東峰・田中・山口・日向(おまけ)、が我先にとサーブに手を上げ、音駒では 黒尾・トラ・リエーフ(おまけ)が身を乗り出し、置いてけぼりにされてたまるか、と森然高校の面々もサーブ練に力を入れ始めた。

 

 

サーブと言うプレイは、仲間に繋ぐ事が重要なバレーで唯一孤独なプレイ。

そして、唯一1人の力で得点が出来るプレイでもある。

ブロックと言う壁に阻まれない究極の攻撃。

 

 

早い話――――、全ての始まりであるサーブが強いチームは強いのだ。

 

 

嬉しい誤算。つまりそれは 今合宿、否 遊び心で開催し、そして触発させたランキングが、チームメンバーのサーブ意識を間違いなく向上させた事である。

 

 

そして強いサーブを打ってくれば、レシーバー陣もより気合が入る。

必ず捕ってやる、ぶつかってでも上げてやる、と言う強い気持ちが、強い精神が、より高みへと駆け上がらせてくれる。

 

 

まさに、凄い速さで成長していっているのが目に見えた実に有意義な合宿だったと言えるだろう。

 

 

「……へっ、なーに終わったみたいに思ってんだ? オレ。まだ合宿は後1日ある。……まだ、最強の相手が残ってるだろ?」

 

 

遠くで、選手達の成長を肌で感じ、まだコーチとして雛鳥も同然な烏養が自虐的に笑う。

選手達は、自分達の出来うる最高速度を常に維持し、駆け上がっている。ならば、その背を少しでも、少しでも強く押す事、それがコーチである自分の仕事では無いだろうか。

 

 

 

 

 

「たった1戦勝ったくらいで満足なんかしてないだろうねぇ、あの子らは。……繋心(お前)と違ってな?」

「っっ、お、オレだってまだ満足してねーっスよ!? こっからは全勝ロードまっしぐらだ!」

「ほっほ~~? 選手達の頑張りについていける、って言えるのかねぇ」

「男に二言は無いですよ、ええ。勿論」

 

「「………ふふふふふ」」

 

 

 

「…………………」

 

 

 

傍から見ても、少々不気味で物騒なやり取り。

言葉を挟める余地、タイミングを見失い、ちゃっかり横に居た武田も苦笑いと冷や汗を流していた。

 

 

 

烏養の様に、少し離れた場所で猫又も同じ様に感じていたが、直ぐ横にその祖父、一繋によく似た繋心が居るなら、同じ気持ちで見続けるワケにはいかない。

 

まだまだ、烏野は勿論、音駒も、森然も、生川も、そして梟谷も成長の伸び代はとんでもなくあるのだから。

 

何より、烏養を前にするだけで、若い頃の血が騒ぐ。

選手達の成長を喜び、そして世代を超えた因縁の、烏vs猫 対決に火をつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、これまで火神が参加していたグループは、7人いたが火神が居なくなった事で、割り切りの良い6人となり3対3のまま延々と練習をしていた。

 

今も、丁度 リエーフが木兎の一撃を止めきれず、落としてしまった場面。

 

抜かれたことに憤慨しているリエーフだったが、やはりまだまだセンスと体格頼りのバレー。

調子にムラが有り有り、でも今合宿では大体好調の木兎を止めるには荷が重い様だ。

 

 

 

「ああ、お前ら。さっきのリエーフと木兎の1対1みたいな時な?」

 

 

給水タイムで、一時練習ストップしていた時の事。

黒尾は、リエーフ、そして月島に対しブロックの心得を説く。

 

 

「基本的に相手の【身体の正面】じゃなく、【利き腕の正面】でブロックすると良いぞ」

「おおぉーー! だから、さっき木兎さんの止めらんなかったんスね!?」

「いや、それは単にリエーフが高さ頼りのヘタクソで、読みが浅いからだ」

「ヒドイ!!」

 

 

ぴしゃっ、と切って捨てる黒尾の言葉がリエーフに突き刺さる。……が、リエーフとて負けてはいない。他力本願(・・・・)になってしまうかもしれないが。

 

 

「で、でも 黒尾さん! ほら、前に火神のスパイク抜けられちゃったじゃないスかー! 利き腕狙っても、左で合わされちゃった時はどうすんスか?」

「…………」

 

 

1対1とはいえ、捕まえた、少なくともワンタッチ、と思って跳躍した黒尾。

火神はそれまでは咄嗟に合わせた左以外は右利き。普段の様子も右利き。まさか、狙って左打を放ってくるなんて、誰が想像出来ようか。

 

 

「基本利き腕でしか強いヤツは打たないよ………。世の中広しと言えど、両利き(スイッチヒッター)なんてそう居るもんじゃない……。かがみんを相手にする時、深く考えすぎて後手に回るくらいなら、リード・ブロック捨てても良いとも思ってる自分もいる。かがみん、色々常識を知った方が良いって事だ………」

「お、おお。なるほど? それに日頃、リードブロック、リードブロックと口うるさい黒尾さんがここまで……。火神すげー!」

「………うるさいって思ってても、口に出さない方が良いと思うよ」

 

 

黒尾は主将だし、先輩。

リエーフの何でもズバズバ言える性格は、美徳な点もあるかもしれないが、結構な勢いで傷口を抉る時の方が割合的には多い気がするので、いつもはそこまでツッコまない月島が思わず苦言を。

 

ここに火神が来てれば、火神の仕事なような気がするが……、今はいないので仕方ない。

 

そして、月島には他に気になる事もあった。

 

 

「それより、僕らは試合になったら、敵同士になりますよね? どうしてアドバイスまでしてくれるんですか……?」

 

 

リエーフに突き刺された言葉の刃をズボッ、と抜いてリエーフに突き返した後、黒尾は月島の方を見ていった。

 

 

 

「何を言ってるんですか? このボクが親切なのはいつものことです」

 

 

 

正直何言ってるか解らなかったのは言うまでも無い。

 

いつの間にか、梟谷チーム(向こう)に居た筈の日向もやって来ていて、月島と日向は揃って真顔に。日向は真顔になりつつ、眉がつり上がっていた。

 

 

 

「いや、なにもそんな目で見なくても。教育(・・)が行き届いてないんじゃないっスかねぇ? かがみん(おとーさん)

 

 

 

他人を少しは慮れ、と思う黒尾だったが、いつもの保護者が居ない現状で、特に……それこそ口うるさく言っても無意味だと悟った様子。

 

だから、自身の気持ちを素直に言う事にした。

 

 

それに、月島が言う事も最もだ。

 

これまでに何度も何度も烏野には勝利してきたが、本日はついに初の敗北を喫した。変人速攻が進化していってるのも見て解り、まだまだ完成系とは言えない烏野。即ち、どんどん進化していってる烏野を前に、何故敵に塩を送るような事をするのか。

 

 

 

勿論、黒尾の中では決まっている。

 

 

 

 

「【ゴミ捨て場の決戦】ってやつをさ。何とか実現したいんだよね。勿論、練習試合とかじゃなくて、監督が言ってた【沢山の観客の前で、数多の感情渦巻く場所で、ピカッピカ、キラッキラのでっかい体育館】……つまり、公式戦。全国の舞台でな」

「「!」」

 

 

 

いつも何処か掴めず、飄々としていて、時には騙されそうな気もする黒尾でも、それが本心である、と言う事は 日向にも月島にも理解出来た。そう言う顔を――――していたから。

 

 

「ウチの監督の念願だし、……けど、監督はあとどんくらい現役でいられるかわかんねーしさ。それには、音駒(おれ達)だけが頑張ったって出来ねぇだろ? 烏野(お前ら)にも勝ち上がってきてもらわなきゃ」

 

 

 

恥ずかしい事を言っている、と言う自覚があるのだろう、最後はやや強引に終わらせようと軽くふんぞり返っていった。

 

 

「……まぁ、あれだ。俺の練習でもあるワケだし? 細かい事気にすんな、っつーんだよ。気にする暇があんなら、かがみん式ブロックでも体得して見ろ、アレやられたら 疲れが倍増しどころじゃすまねーし」

「!! ま、負けませんよ! 誠也にも、オレ、負けません!」

「……僕は別に。競う相手が違うって言うか。それにポジションだって違うし」

 

 

日向と月島。

 

実に対照的な2人だ。テンションの高さも、身体的特徴も、その他モロモロも色んな所が。

 

ただ、同じだと思えるのは火神に対する事。

口ではそれぞれが違う方向性の様に見えるが、内に秘めているモノは決して別々ではないと言う事が解る。

 

散々火神は否定しているが、保護者(おとーさん)と言う称号は、強ち嘘でもない。意識する事なく、極々自然に、導いていってる。そんな男が、チームを率いる様な立場になったら、どれだけの力を発揮する事やら、と末恐ろしくもなるが。

 

 

「………過労で倒れちゃうかも?」

 

 

末恐ろしく感じてはいても、最終的には面白そうな光景が目に浮かぶ。

そこが面白いトコでもあるのだ。

 

 

「ホレ、練習練習~~、休憩おわりー!」

 

「ねがいしアース!!」

 

「おっ!? 丁度良いトコにかがみん、キタ。さ、とっとと続きやろうぜ!」

 

 

 

火神がやってきた所で、3(+1)対3(+1)形式練習開始。

因みに、火神は サーブ20本、レシーブ30本で許してくれた。……いや、許してくれた、とは言い方が悪いだろう。許してもらう必要無いから。

 

火神はいつまでも付き合うつもりでいっぱいだったから。今日は ブロックメンバーとの練習はお休みでレシーブ……とも何処かで思っていたから。

 

 

ただ――――サーブに触発されたメンバーが押し寄せてきて、大所帯となった。とてつもない集中力と、針の穴を通す精度のトス練習を黙々と熟し続けていた影山でさえ、時折ウズウズさせていた程、周囲を巻き込んでいた。

 

なので、火神が解放されたのはレシーバーにとって練習する環境としては、最高な場面になったから、と言う理由が大きい。

 

それと、黒尾に【途中でかがみん、返してくれよな?】と言うやり取りも有ったので夜久の方から、その約束を切り出して、火神を黒尾の元へと行かせたのが正解だったりする。

 

 

何処かを突き詰めて、極めるのではなく、ブロックにレシーブにスパイクに、全てを極めようとする。そう見える。

 

でもリベロは攻撃は出来ない、サーブも出来ない。出来るのは只管 繋ぐ事。レシーブを突き詰めて極める事。

 

だから、レシーブは火神に負けない気持ちは十全にあるが、それ以外は勝負の舞台にも立てない。リベロに誇りを持っているし、どれだけ身長があったとしてもリベロを選んでいた、と言う自覚と自信があるとはいえ、少々心が揺れると……リベロ陣は苦笑いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

「翔陽! 4人しかいないから、苦手でもレシーブ意識! コート全体、相手も見る視野を広げる事」

「ぅおう!!」

 

 

梟谷チームが4人体制。

メンバーの中では、日向はあまりにも突出したスタイルである為、基本技能は見劣りしてしまうのは仕方ないが、言われた事を、混乱せずに意識する事が出来たのなら、その言われた事を不格好なりに実現できる力を持っている事は火神も良く知っている。

 

 

相手をよく見て、コートをよく見て、そして 自分に出来る事もよく見る。

 

 

すると……出来る事が見えてくる。

 

 

「ほぎゃっっ!!」

 

 

素早さを活かして、(ボール)に体当たりする勢い。

確かにコートに落としてしまい、即失点よりははるかに良い。

 

「くっっ!」

「赤葦さん!」

「赤葦カバー!」

 

Aパスとは程遠くても、ネットを超えそうな返球だったとしても、後は周りが頑張って繋げるだけだ。繋ぐスポーツ、それがバレーなのだから。

 

 

赤葦は、跳躍し 何とか打点ギリギリの高さの(ボール)だったから、届く事が出来た………が、ハンドスナップだけのトスとなってしまったから、万全のトスを送る事が難しい。

 

 

「ッ! スンマセン、少し低い……!」

 

上げたトスは、赤葦が言う通り高さが少々足りないトスだった。

平均身長190cm付近の音駒チームに対して、低いトスは悪手だと言って良い。

 

 

 

「おら~~、囲い込め~~~! (ブロック)の面積広げろ~~!」

 

 

 

トスが万全ではない、と言う事はスパイカーにとって選択肢が狭まると言う事。道が限られてくると言う事。

つまり、その道をも塞ぐ事が出来たなら、例え合宿でもトップを走るであろう木兎相手でも十分勝負が出来る。

 

 

「クッソ! 今日もでけーな! 1年のクセに!」

 

 

リエーフに月島と、まだまだ身長頼りの生まれたての雛であったとしてもだ。

 

 

迫りくるデカい壁、木兎はそれを肌で体感していた。

自分よりも背の高い相手と戦った事は幾らでもあるが、それと感覚で比較したとしても、決して見劣りしない相手。最高クラスの(ブロック)相手に数えられる。

 

 

 

「フォロー!」

 

 

火神が地でブロックフォローに構えた。

そして、日向には指をさし、ブロックされ後ろに飛んだ時の為に備えろ、と指先1つで、日向に理解させた。

 

 

万全じゃないトス、スパイカーも万全な体勢とは呼べない位置。そして高い壁。

 

 

日向の中には、止められるか、突き抜けるか、吹き飛ばすか、の3種しか考えつかなかったが、木兎は違う。

 

 

「んっっ!」

 

 

壁の中で一番高いのはリエーフ。

そして、キル・ブロックの様な怖さはまだまだない。ただの平らな壁に過ぎないのも確認。

故に、月島ではなく、リエーフのブロック、手の先端を狙って軟打を選んだ。

 

 

いつもの轟音を纏ったスパイクではない。ト、トンッ! と優しいタッチだった。

木兎が打った(ボール)は、リエーフの右掌に当たり、山なり(ボール)、チャンス(ボール)の様に自陣へと戻ってきた。

 

 

 

「(あれ、何だっけ!? 確か、確か 誠也もやってた……! 青城戦? いつ、だったっけ……?? ブロックに、わざと当てる(・・・・・・)ヤツ!)」

 

 

いつもより視野が広くなったからか、少し頭の中で考えるスペースも出来た日向。

以前の時の様に、誠也スゲー! だけで済ませるのではなく、あの行為がどういう結果を齎すのか、どう言うプレイなのかを目に焼き付けた。

 

 

「誠也ぁぁ、フォロー頼む!」

「アス! チャンスボール!」

 

 

ブロックフォローについていた火神の直ぐ傍に落ちてくる山なり(ボール)。火神は備えあれば憂いなし、とでも言わんばかりに万全の体勢で落下地点にもぐりこみ、オーバーで赤葦に返球。

 

 

「ヘイヘイヘイ! 赤葦ヘイ! もっかいだ! 良いトス寄越せよ!」

 

 

火神レシーブから、そのまま火神の速攻……も、赤葦の中では選択肢の1つとしてあったが、咄嗟に木兎が、今日向が憧れの目で見ているプレイ、リバウンドで仕切り直したのを見た事と、調子を上げていた事、加えて【寄越せ】と自信満々である事。これらを考慮し……、火神に速攻で上げたとしても、問題なく点を決める可能性が高い。それだけ信頼も出来るし、確信もしているのだが……、同じくらい決める事が出来る木兎。

ここで、木兎を選ばずに火神を選んだ場合……。

 

 

 

A:立ったままイジける。

B:しゃがんでイジける。

C:そっぽ向いてイジける。

 

 

 

と、どれもこれも面倒くさい結果が見えている。こちらは高確率、と言うより確定事項。

折角の有意義な自主練だ。赤葦自身は寝たい戻りたい、と言った気持ちの方が強いが、こうも熱心な1年達と共にしていて、2年であり、副将でもある自分が自分の気持ちを優先させるのは忍びないし、木兎(自分達)が原因で練習が停滞するのも頂けない。

 

 

何より、今の木兎は間違いなく調子が良い。決まらないとは考えにくい、と言う点もある。

 

 

 

この間 約0.5秒。

 

 

「(絶対、赤葦さんの頭の中で色々演算されてたよなー、今。……単純事項だとは思うけど)」

 

 

赤葦のポーカーフェイスも、火神にとっては 読める範囲内だから、自分に上がらない事は確信して、少々寂しい気持ちは無くはない、が ある意味 今の間を楽しむのだった。

 

 

 

そして、赤葦の選択は間違ってなく。

木兎のストレート打ちが見事に決まった。それもブロッカーに掠らせずに。

 

 

「キタァ―――ァァ!! ヘイヘイヘーイ!!」

「火神、ナイスフォロー・位置取り」

「アス!」

 

 

喜び爆発させる木兎と、やや控えめに、それでいて木兎ではなく フォローの位置取りが良かった火神に称賛する赤葦と元気よく返事する火神。

いつもなら、この辺りで日向が文字通り見た通り飛び込んでくるのだが、今回は少々違った。

 

 

「いっ、今の(・・)っ! 見た事ありますっっ! いつだったか、忘れちゃいましたが!! ブロックの手に軽く当てたやつっ! 見た事、ありますっっ!! わざと、わざと当てたんですかっ!?」

 

 

興奮はしているが、いつもと毛並みが違う。

興奮はしているが、湧き上がった疑問を解消させたい事と、その疑問の答えを持っていた事、間違いなく合ってるのが解ってる事、色んな事が混ざって混ざって木兎に答えを求めに来た。

 

火神なら、解るだろうけれど、ここでちょっとした独り立ち……宣言が発動した、のかもしれない。……いや、ただ木兎が見事に立て直したので それに触発されただけだろう。

 

 

木兎は木兎で、先ほどの一連のプレイの流れを思い返しつつ―――。

 

 

「おう! 今のは【リバウンド】だ! 【リバウンド(これ)を制する者はゲームを制する!】 じゃない方のな? バレーの方の」

 

 

木兎の説明を聞いて、日向は目を輝かせた。

 

確かに知っていた。見た事がある。……だからこそ、その時にしっかり聞くべきだったと反省もした。

 

だから、嬉しい。知れた事が嬉しい、また1つ知った事により上手くなれた気もするから。影山が居れば、【気のせいだボゲ】と一蹴するかもしれないが、今はそんな毒舌キャラはいないから。

ただただ、日向は興奮する。

 

 

「リバウンド……!! かっけぇぇぇぇぇ!!」

 

 

本能に忠実に、自分の気持ちに正直に。

リバウンドもそうだが、見事に立て直し、且つ 決めて見せた木兎に送る日向の大絶賛。

 

 

「!! そうか!? そうかっ!??」

 

 

そして、煽てられる事大好き、煽てられ上手?な所もある木兎。

チームメイトには、もう既に面倒くさい、と見放されてる部分もあったりする。(木兎自覚無し)

 

だからか、ここまでストレートに絶賛され、カッコイイとまで言ってくれて嬉しくない筈がない。

 

 

「チビちゃんは天然おだて上手だな~~?」

「何でもかんでも飛び付きますからね。おまけに、裏表無く、何の含みも無いので、よりそう感じるんだと思います」

「ま、その辺は木兎自身も単純だからだと思うけどね~~、ぶっちゃけ、8割位は?」

 

 

点が動いたので、ネットを超えて音駒側へと行く火神とネットを挟んだ先に居た黒尾が納得し合った。

日向と木兎の組み合わせは相性が良い。……周りからすれば、人一倍喧しくなるので、げんなりするかもだが、それでも相性は良いと言い切れる。

 

 

「まっ、かがみんは誰とでも行ける【出張なんでも屋】だから。チビちゃんのより 木兎のやる気スイッチ押しちゃうんじゃない?音駒(ウチ)と梟谷が試合する時は、それするのカンベンしてね?」

「えと……、ちょっと何言ってるか………」

 

 

木兎の得意気なリバウンド解説と、それを聞いて学んでる日向の姿を見ながらそう言う黒尾と何言ってるか理解しかねる火神。

 

一通り、リバウンドの説明、わざとブロックに当てて跳ね返ってきた(ボール)を立て直す所まで説明した後。

 

日向は興奮していたが、やや水を差される。

 

 

「まぁ、あれだ。軟打だから 狙いがバレて失敗。叩き落される、って事もよくあるけどな」

「ふお! ……ふおぉぉぉ……」

 

 

叩き落される場面を連想してしまったのか、ガッツポーズが沈んでしまっていた。

 

 

「特にチビちゃん。かがみん相手にリバウンド(ソレ)やっちゃったら、思いっきり脳天に叩きつけられちゃうかもネ。かがみん、手のひらデカいし、事実、木兎のスパイクも結構落としちゃってるし?」

「「ふぎっっ!?」」

「クロさん。相手を煽りつつ、オレに注目(ヘイト)集めるのも止めといてくださいよ……。んでもって、ツッキーも変な目で見るくらいなら、オレより背もブロック最高到達点も上なんだから、バシバシ止めてくれ」

「………別に、何言ってんの? 見てないし」

 

 

色々なやり取りがあって、良い感じの乗ってきた筈の木兎も一度沈んで……でも、立ち上がって両手を上げる!

 

 

「誠也に落とされた時! 次はぜってーー決める! って気合はバッチリ入ったから良しだ!! それと、覚えとけよ! チビちゃん!」

 

 

ビっ! と指をさした後、木兎は断言する。

 

 

「床にたたきつけるだけがスパイクじゃない。落ち着いていれば、戦い方は見えてくるもんだ、ってな。そこに背の高さなんて、些細な事だ!」

「いえ、背のあるなしは、重要な要素の1つだと思います」

「赤葦!! ここでその突っ込みはヤメテ! チビちゃんに良いカッコ出来たのに!」

「……相手をチビ(そう)と呼んでる時点で、察するんですが」

 

 

赤葦の的確なツッコミを受けてまた沈みかける木兎。

日向が身長の事を気にしているのは知ってるので、そう何度もチビチビ言うと、折角ヨイショしてくれてるのに、無くなる、と思ってしまった様子。

 

 

でも、その心配は要らない様だ。

 

 

日向は、この時ばかりは 身長関係の事は考えてない。

 

 

 

例え身長が無くたって、戦い方は見えてくる。

 

 

 

【翔陽、しっかりと全体を見ろよ】

 

 

 

少ない人数だから、色んな情報を処理して整理して、的確に最適に動かなければいけないから、何度も火神に言われた。

視野が広くなれば、きっと落ち着ける。

 

落ち着く事が出来たなら……、スピードや影山の超精密トス以外の取り得が無い、点を獲る事が出来ない、と思っていた自分に……新たな武器が生まれる。

 

日向はそう確信出来た。

 

 

ただ、見様見真似をするのではない。自分の身体で、頭で、火神や他のスゴイ選手のスゴイプレイをスゴイ、と言うだけじゃない。頭と心と身体が合致した時、本当の意味で、自分の武器になる、と日向は思った。

 

 

 

 

そして、試合も続く。

 

 

 

今回に限っては、殆ど五分の試合をしていた。火神が入った方が偏る、なんてことは無い。音駒が4セットを梟谷も4セットを取ってるから。

 

9セット目でそろそろラストか、と思っていた赤葦や月島だったが、異様に続くラリーにそれどころじゃなくなっている。

 

 

 

「ふんっっ、がっっ!」

「よっしゃ、誠也ナーーイスッ!!」

 

 

音駒側のスパイクが日向のブロックで、大きく弾かれ……完全にブロックアウトコースだったのだが、残念ながら現在の梟谷は4人体制。

 

 

「くあーー、かがみん! 長引くと疲れるんだから取らないでよ!」

「黒尾さんが頑張らなかったら、疲れずに終わるんじゃないですかね?」

「解ってるけど、それじゃ、こっちの失点になるでしょーが。それは()なんで!」

 

 

取られてしまった事に対して、まだ続くラリーを想像し、思わず憤慨する黒尾とただただ、持てる体力を最後まで持たす為に、時折省エネモードに切り替えて、頭がさえる月島。

 

そのやり取りを何だかんだで聞いていた火神は、思わず笑いそうになったが、回転レシーブをしたので、笑っていられるワケも無く、体勢を何とか立て直す。

 

 

「チビちゃん! ラスト頼んだ!」

「ハイ!!」

 

 

木兎の2段トスを日向が打つ構え。

 

 

―――だが、これを待ってました、と言わんばかりに黒尾の目が、そして月島やリエーフの目が光った。

 

 

火神は、レシーブで攻撃に参加出来ない。

梟谷の最大の攻撃力である木兎は2段トス。

赤葦は位置的にも無い。

 

 

つまり、安定とは言えない2段トスを日向が打つ構図。最小スパイカーにわたると言う構図。

 

 

 

「!! あ゛!!」

 

 

そして、木兎もその意図が解ったのだろう。

と言うより、実際に見て解った。あまりにもヒドイ光景が広がっているのが。

 

 

「お前らよってたかって酷ぇぞ!!!」

 

 

レシーブ、ブロックフォロー皆無の3枚ブロックで日向をマーク。

助走が不十分な日向は普段の跳躍も出来ないだろうし、フェイントを仮にしたとしても、届く範囲だと思っている。あまり高く、山なり(ボール)だったら、レシーブに反応出来る自信さえある。

 

 

約190㎝×3枚の壁 vs 最小スパイカー 162.8㎝ 

 

 

 

「(いや、これはもう壁……って言うより、傘だろ)」

 

 

赤葦は、これは無理、と失点を覚悟。

 

日向の頭上に広がっているのは壁ではなく傘である、と言う表現は実に的確だ。壁であればまだ打てる余地はあるが、傘の様に全てを囲ってしまえば、向こう側は見られなくなる。無限とも言える雨の雫を身体に落ちるのを防いでくれるのが傘だ。

 

 

「(どこにも打つ場所なんか……)」

 

 

傘の様に覆いかぶさってるからこそ、フェイントも通じない可能性が高い。その高さのまま、叩き落してくる可能性が高い。かと言って、ブロックに当たらない様に意識し過ぎたら、先ほどの通り レシーブのスペシャリストと言って良い黒尾に拾われてしまうだろう。

 

 

 

「―――翔陽!」

 

 

 

但し、火神だけは違う。

日向なら出来ると信じている。……知っている(・・・・・)ではなく、信じている(・・・・・)

 

 

間違いなく見えている(・・・・・)と。

 

 

 

木兎の言葉と火神の言葉。

 

 

視野を広く広くすれば、それがこの一瞬の刹那の時間、空中のほんの一瞬だったとしても……見る事さえできれば、落ち着いてみる事さえできれば。

 

 

 

―――戦い方は見えてくる。

 

 

 

 

ドンッ!

 

と打ち放った(ボール)

そのコースは想像を、想定をはるかに超えるものだった。

 

 

「「(天井(うえ)に、向かって打った―――!??)」」

 

 

そう、味方側から見れば完全に上。

真上……とまでは言わないが、斜め上に目掛けて振り切った。

 

 

「ボガーーーッ!!」

 

 

いつもと違う方向へと力を込めたからか、空中で安定性を欠き、着地する事が出来ず転倒。

但し、その日向が放った(ボール)は、見事リエーフの左手、指先を掠めて、そのままブロックアウトで仕留めた。

 

 

 

「ナイス翔陽!」

「でき……た! 誠也の見様見真似、天井サーブスパイク!」

「うん?? 天井サーブスパイク?」

 

 

茫然としていた赤葦や木兎を尻目に、火神は颯爽と引っ張り起こしてタッチ。そして、興奮してる日向。

流石に何言ってるのか理解は追いつかなかったが。

 

 

 

「いや 天井って、アレか? かがみんが、やりやがった、やってくれやがってコノヤローー! な、ジャンフロからの天井サーブをイメージしたってのか? 見事なブロックアウトじゃねーか」

「クロさん、ちょっぴり言葉使い乱暴になってますよ……、オレの部分が特に」

「あ、アス! 誠也が打ってたの、しっかり目に焼き付けてました! 上に打つやり方って、アレくらいしか思い浮かばなくて……」

 

 

 

日向がイメージしたもの、それは言った通り、火神が音駒相手に奇襲として放った天井サーブ。

1度目は、しっかり見てなかったが、2度目や 合間に西谷や澤村が捕って見たい、との事なので 同じ種のサーブを打った時等を見た。しっかりと見た。

 

アレは単純に格好良いと言うただの好奇心。サーブとして考えるなら自身の適正では無かったが、今回、スパイクとしては間違いなく繋がった。頭と身体、心が合致して成功する事が出来た。

 

 

でも、日向も弁えてる所はある。

 

 

サーブは確かに目に焼き付けはしたが、見ただけで再現できるなんて思ってない。

 

 

「あ、それとリエーフの手の先っちょは狙いました」

「何っっ!?」

 

 

狙われた事にリエーフショック。

ブロックは高さはまだまだあるのだが、叩き落す技術に関しては 今一歩足りない。ドシャット決めるのが気持ちいい、と思ってるので、通常の基礎的な技術よりは高いが、それでもまだ毛が生えた程度。……でも、同じくスキルが低い日向に狙われた、となると 火をつける。

木兎や火神に狙われた、と言うよりも遥かに。

 

 

「でも、当たったのはマグレです。俺、そんな正確には打てない……」

「おぉ、翔陽が謙遜してるのって、新鮮………。出来る様になるし!! ってずっと言ってきてたからなぁ……。まぁ、半分くらいは煽ってる飛雄やツッキーが原因だけど」

 

 

火神のその言い分。

ある程度は自覚があるのか、月島はしれーっと視線を外した。

 

 

そんな時、ズカズカズカ、と興奮気味にやって来たのは木兎。

 

 

「でもでもでもよぉ! いっくら、誠也の真似頑張った、マグレだ、って言っても【190㎝のブロック×3枚】だぞ!? しかもアレ、絶対打ちづらいトスだ! よくぞ、打った、良くぞ打った! オレは感動した!! そして、信じて疑わなかった誠也にも感動したぞ!!」

 

「火神 疑ってなかったの?」

「いや、流石にそこまでは……。ミスっても、あの感覚忘れるな、とか視野広く、とかは言うつもりでしたけど」

 

 

冷ややかな赤葦と、同じく冷静な火神。

そんな外野はお構いなし。

 

 

「2mの壁相手に戦う小さな猛者! それがお前!!」

「うへへへへへ……」

 

 

ぐりぐり、と頭を撫でられる日向。

悪い気は全くしてないのは、その顔を見てたらよく解る。

 

 

「また大袈裟な……」

「それに190㎝から2mになった」

「10㎝の壁は 流石に鯖読むにしては、デカいですよね……。世界水準で見れば、日本の190って低いって言われてる部類ですし?」

「まぁ、今の木兎さんには聞こえてないから気にしないで」

 

 

 

またまた、外野が呆れていると……、その呆れも何処かに吹き飛びそうな木兎のセリフが飛び出す。

 

火神に至っては、日向に負けない程 目を輝かせた言葉。

 

 

 

 

「小さな猛者! その名を日向!! お前に、オレが! 必殺技を授けよう!!」

「ひ、必殺技……!!??」

 

 

 

 

聞いた瞬間、火神とは比較にならない程目を輝かせ、興奮で居ても立っても居られない状態に日向がなったのは言うまでも無い事だった。

 


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