王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

12 / 182
オリジナルを出すのはやはり難しいです。



第12話

 

烏野高校バレー部、入部初日。

記念すべき初日の練習。

 

 

基本的に、新入部員はまだ見学だろうか、と火神は思っていたが、大分期待されているので最初から練習に加わっていいと言われ、汗を流していた。

 

あれほど迷っている、とか言いつつも しっかりとバレーが出来る準備ができている所を見ると、火神は清水に押されるまでもなく、入る事は確定していたのだろう。

 

それが遅いか、早いかの違いだった様だ。

 

 

時折――体育館の窓から羨ましそうに顔を覗かせる日向が見えたが、火神は頑張れとしか言えない。

 

 

主将の澤村が決めた事に、新人がいきなり口出し出来るわけもない。

更に言えばやらかした事の大きさを考えれば……影山は置いておいたとして、如何に日向と付き合いが長い火神とはいえど、ちょっと擁護出来ない。

 

火神は澤村に、一応何があったのか? と聞いたが 笑顔で

 

【聞かないでくれたら嬉しい】

 

と言って、威圧感が凄い笑顔だったので、それ以上聞くに聞けなかった。

 

 

 

日向とは、同中の仲間だった事もあり、それなりに気を利かせてくれた田中が、事の詳細を笑いを堪えつつ教えてくれた。

 

予定通り? 日向と影山は、教頭のカツラを吹き飛ばしたとの事。

それと教頭の頭頂部の秘密だが……、日向が言う様にアレは皆には一目でバレバレだったのはまた別の話。……なぜ、影山は気付かなかったのだろう?

 

 

それは兎も角、火神の記憶とは若干違う所もあった。

なんでも、影山のサーブ一発目でカツラが吹き飛んだ事だった。

どうやら、日向は初見で影山の凶悪なジャンプサーブに逃げず立ち向かった様子。一発目は逃げるであろう事を考えたら、日向も確実にうまくなっている。何だか火神も嬉しくなった。

 

 

……でも、ダメなものはダメだ。

主将の指示を無視して勝負した挙句に、教頭のカツラを吹っ飛ばすのは、傍から見れば笑える話ではあるが、当事者グループに所属している以上は言語道断。澤村の負担が半端ない事を考えたら、妥当過ぎる処置である。

 

 

 

 

 

 

そして、日も落ち――夜の時間になった所で練習終了。

 

 

 

 

 

「(それにしても、澤村さん主体の練習メニュー、全体のバランスも良いし凄い。指導者がいないのに、濃密な時間だった……。前の部活の時と遜色ない、とまでは流石に言えないけど、それでも凄い)」

 

判ってた通り。烏野高校では、バレーの顧問先生はいるようだが、バレーそのものを教えてくれるコーチはおらず、選手兼コーチをしてくれているのが、澤村や菅原と言った上級生たちだった。

やっぱり、どんなスポーツでも教える側は必要。上を目指すのであれば尚更だ。生徒主体の練習と言うのも大切だが、まずは土台がしっかりと確保されている上での話だ。

そんな厳しい環境、状況の中でも、しっかり立て直そうと努力し、上を見続ける3年生、それに必死についていく2年生。本当に尊敬する。改めて尊敬する気持ちだった。

 

 

「【勝負して勝ったら入れてください!!!】――とか言ってきそうじゃないスか? アイツら」

「あり得る! 頭冷やしてちょこっと反省の色でも見せれば良いだけなんだけどな」

 

 

そんな中、場の話題は日向と影山になっていた。

と言うより、田中の声が大きすぎて、その声の勢いで場の話題になった、と言った感じだ。2人の事は、それなりに皆考えていた事だったようで、直ぐに注目が集まる。

 

「いや、アイツらもそこまで単細胞じゃないだろ?」

「…………」

「ん? ナニ火神。その顔……」

 

ちらっ、と澤村と火神は目があった。影山は兎も角、日向とは付き合いの長い火神だから、それとなく確認したかった様で、普通に同意を得られると思ってた澤村だったが、露骨に顔を逸らした火神を見てちょっと考えを改めるモードに。不安が残るモードになった。

 

「え、えっと……、翔陽……日向は四字熟語で表したら猪突猛進なんです。だから倒れる時はぜったい前のめりなんで、正直、やっても不思議じゃないです」

「……マジで?」

「マジです、ね。……そこに影山が加わったらどうなるかはちょっと未知ですが」

「ぷはっ!! 断然そう思えてきた! 影山も実力はスゲーけど、オツムの方は弱そうだしなぁ。ビバ、単細胞ってか?」

 

わはは、と笑う田中。

オツムが弱いうえに単細胞とは酷い言われようだが、火神も思うところがあるので、否定はしなかった。

 

「ふぅ……、なら注意しとこうか。日向と影山……、アイツらが仮に勝負して来るとしたら、十中八九、影山は自分個人の力だけで勝負しようとするだろう。……そして、そう来るとしたら、アイツは個人の力だけで、勝てるって思ってるって事になるんだろうな」

 

澤村は、影山の中学での試合を思い返す。

あの雪ヶ丘との試合を。それから先の試合を。初戦だけは少し違ったし、それなりに連携も取れていた様だが、その後は違った。

 

まるで1人でバレーをしているかの様だった。

 

 

「自分だけで、って思ってるんなら……、アイツは中学から成長してないって事か。正直、俺はさ。火神、お前との試合で 影山は変わったと思ったんだがな」

「俺との試合、ですか?」

「ああ。あの中学での試合。雪ヶ丘との試合を見てたんだけど、俺は影山と他の選手と噛み合ってる様に見えたんだ。最初は1人でしてる感じだったんだが」

 

もう一度、思い返すのは北一と雪ヶ丘との試合。

素人軍団vs超優等生軍団の構図だった筈だが、火神がそれを覆した。

 

火神は1人の力で、それを成したか? と問われれば、それは違う。

火神は、個人のスキルも非常に高いが、それより目を見張ったのはチームの力をチームの最大値を押し上げるような戦い方をした所だった。時には鼓舞し、時にはプレイで魅せ、実に多彩だった。

 

仮に、自陣が100%の力を発揮しているのに対し、相手側が50~80%しか出せなかったとすれば、あそこまでの好勝負が出来たのにも頷ける。

加えて、類まれなスピードと反射神経、身体のバネ、それらを操る日向も加わり、雪ヶ丘はあの試合中に進化し続けたんだろう。

 

火神の方は流石にそこまでの観察は出来なかった。試合終了後に影山の口から チーム と言う言葉が出てきていて、少々驚いた程度だけで。

 

「影山は、火神の戦い方を見て、もっと学んでいれば……中学であんな負け方はしなかった、って今でも俺は思ってるよ。あぁ、火神は中学の大会の決勝、見たか?」

「はい。見ました」

 

澤村は それを聞いて頷いた。火神の表情を見て、火神も解っているんだという事も悟った。

 

「個の力で行けるのはある程度まで。さらに上には行けない。その先を目指す気概があるのなら、考えを変える必要がある。ましてや 影山のポジションは司令塔でもあるセッター。自己中なセッターじゃ、チームが崩れる。……文字通りに、な」

「成程ね。だから、大地はアイツらに、特に影山に当たりが強かった訳か……。んじゃあ、影山達の教育係を火神にさせたら、丁度良くなるんじゃない??」

 

物凄い笑顔でなかなかヘビィな提案をしてくれる菅原。

火神は一気に顔が引きつった。

 

「わー、素敵なお顔で、なかなかに酷いメニューを追加してくれますねー、菅原先輩ぃ~」

「んっん? でもよー、火神。あんだけ中学ん時に出来たんだし、やれんじゃね? あの時は他6人くらいいたけどよ、今回は2人だぜ? 人数減ったし大丈夫だ」

「わー、田中先輩まで賛成してるぅー。ほんと、素敵な先輩方ですー」

「わっはっはっは! なんせ先輩だからな! 当・然!」

 

皮肉を言ったつもりだったんだけど、なぜか笑って胸を張る田中。

菅原は、理解していた上で笑ってた。火神はイジリがいがある、とでも思っているのかもしれない。

 

そして、更に ちらっ、ちらっ、と澤村の視線まで感じた所で、火神は大きく手を挙げた。

 

「流石にきついですって。翔陽だけなら付き合いも長いし、大丈夫だとしても、影山追加のコースじゃ、満腹を通り越して、破裂しますよ。あの中学の時は、皆が殆ど初心者だったので、経験者が教えるって感じで、最終的に上手く形になったわけでして、完成されてるっぽい影山とは勝手が違いすぎます。加えて2人ともが夫々超一級の素材。……付け焼刃になっちゃいそうなので、同級の俺じゃない方が良いと思います。それに、上辺だけってなっちゃったら、そんなの簡単に剥がれてしまいますし」

「はぁ…… わかってるって、そこまで本気にしてない。これはアイツの問題だ。アイツ自身が悟って変わるしかない。他人に強要される形じゃ、火神の言う通りになる。簡単にメッキがはがれる」

「……そこまで、ってある程度は本気だったって事ですか??」

「あー、まぁ、な? 何せ田中の言うように中学の頃を見てる訳だし。期待しても仕方ないだろ?」

 

 

ははは、と頭を掻きながら笑う澤村。

田中は【俺は本気だったんだけど……】とばつが悪そうな顔をしていた。

 

 

「うーむ……、しかし、どうしたもんか」

「ってかさ、まだ勝負しろ、って言ってくると決まったわけじゃないじゃん? 仮定の話で悩んでても仕様がなくね?」

「それもそうか」

 

菅原の一言で、澤村は思い直す。

まだまだ澤村が言う様に仮定の話。果たし状宜しくな状態になった訳でもないのだ。

 

だが、もし――そう言ってくるのであれば、決めなければならない、とも思ったその時だった。

 

 

 

【キャプテン!!!】

 

 

 

中々の声量が外から聞こえてくる。

誰のものかは解りきってる事だ。だからこそ、他の者は驚き、火神だけは苦笑いしていたのだった。

 

 

 

その後は、予想通りの展開。田中が最初言っていたように 日向と影山は勝負を申し出てきた。

 

「うはー! まさにビバ、単細胞!! 俺、見事的中じゃん」

「……こんな感じなんです。影山は兎も角、日向は大体直球です。他のコース知らないんです」

「うははは。でもよぉ、俺はこういうやつら嫌いじゃねぇよ! いっそ清々しいって感じでな!」

「流石は田中先輩……、器が大きいですねぇ。ほんと頭下がります……」

「(器が大きい、うつわうつわうつわ……おおきいおおきいおおきい…… せんぱいせんぱいのうつわおおきい……)」

 

 

その後目をきらんっ、とさせた田中が、また大笑いしながら火神の背中をバンバンと叩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、負けたらどうする?」

 

 

 

澤村の迫力ある声。気圧される日向。一歩も押されない影山。ここは度胸のあるなしの差だろう。

 

「どんな罰でも受けます」

「……ふ―――――ん。考えによっては丁度良いか」

 

 

日向は何にもいってないんだが、万が一でも罰を受けても良いんだろうか? 影山は自信に満ちた顔をしているんだが、日向はそうでもなかった。まだまだ力不足を自覚しているのだろう。

 

「お前らと火神、それ以外にも数人1年が入る予定なんだ。そいつらと3対3で試合する。それでどうだ? これは一応毎年新入部員が入ってきて直ぐに雰囲気を見る為にやってる試合だ。最初からやると決めてたし、丁度良い」

 

澤村の説明を聞いて、ふんふん、とうなずく影山。日向だけは少し疑問だった様子。

 

「えっ、でも 3対3だと、俺たち2人ですし…… 俺たち側のもう1人は?」

「ああ、当日、日向達の方に入ってもらうのは田中だ。頼むぞ、田中」

 

さらっと振られた田中。さっきまで大笑いしていたんだけれど、一瞬で静かになった。

 

「えぇ!? 俺スか!?」

「さっき嫌いじゃないって言ったろ?」

「いやでも、関わるのは面倒くさいです!!」

「はぁ……」

 

ここで、ちらっ、と澤村は火神を見た。

何で? と一瞬思ったが大体のアイコンタクトで理解する。

 

「問題児を牛耳れんのは、器のでかい(・・・・・)田中くらいだと思ったんだけどな……」

 

アイコンタクトを受けて、こくり、と頷く火神。

 

「成程! 確かに田中先輩(・・)なら、安心できますね」

 

ここぞとばかりに先輩部分を強調。

 

そして、目の錯覚ではない。田中の耳が大きく大きくなった。

 

 

「っしょぉぉがねぇなあああああ、やってやるよ!! うれしいか!? おい!!」

「うぐっっ 痛っっ」

 

 

田中は見ていて、やっぱり面白いし、何だか安心もできる。日向も背中をバンバン叩かれてるが、少なからず感じているだろう。

 

「(……なんだか、梟谷の皆さんの気分が少しわかったかもしれないな……。って まだ、わかるには早すぎるか。それより―――)」

 

火神は、田中、日向、影山の方を見る。

実力申し分なしの影山、メンタルが頗る強く、皆を支えて、支えてもらっている田中。そこに日向が加わる。

日向はやはり、3人の中では力不足なのは仕方ないが、それでも練習はしっかりやってきたのは火神も判っている。

 

きっと、勝つ。……いや、きっとではなく間違いなく勝つだろう。と火神は予想していたのだが、この次の澤村の言葉には予想出来てなかった。

 

 

 

「後こっち側は、他の1年に加えて火神に入ってもらう」

 

 

 

予想出来なかった事。

それは高校に入って早速影山と対決――だけじゃなく、日向とも対決する事になるという事だ。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。