王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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漸く、漸く、投稿できました………(  ̄- ̄)



第120話 梟谷戦③

 

 

 

「影山クン! ドンマイ!」

「クソが!! てめーに言われんのが一番腹立つ!!」

「なんでだよ!? それ以外に言いようねぇだろっ!??」

 

 

精密機械な影山のミスは確かにレア中のレアと言える。

 

ミスが通常……とも思われてる面があるし、何よりも突出したモノは誰よりもあるかもしれないが、バレーの基礎的な技術がまだまだ劣る日向にとって、影山のミスはある意味日頃の恨み的な部分を晴らすという意味あいもある。

 

一応、ドンマイ! と慰めてるつもりもあるだろうが……。

 

 

「飛雄もドウドウ。後翔陽、それ追い打ちにしかなってないよ? それも私怨増し増しな追い打ち」

 

 

取り合えず、取っ組み合いをしてる2人の間に入って仲裁を務めるいつも通りな火神だった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、オレらもやらねーとですよ? 【センパイ】ですからな!」

 

 

後輩3人が前に進んでいるというのに、立ち止まる訳にはいかない、と一歩前に出る田中。

攻撃面はまだしも、守備面は自分は本当にまだまだなのだ。……澤村に圧倒的に劣っているが故に、攻撃面強化と言う役割を与えられているのは解るが、だからと言ってそれに甘んじる訳にはいかない。

 

火神の様に――――とまで、高望みも自惚れも無いが、それでも(ボール)に飛びつくくらいの事なら、出来る筈だ。

技術のなさは、体力と反射で補う……、と田中は強く頬を挟み込む様に叩いた。

 

 

「だな。スガや大地に言われてばっかな訳にはいかないよ。置いて行かれる訳にも、な。……それに何より、あいつら揃って怒るとマジで怖いし」

 

 

意気消沈なのか、意気揚々なのか、強気なのか弱気なのか。

【主将と副将に怒られるの怖い】を最初に言った方がマシだったのでは? と少々微妙な発言ではあるが、とりあえず東峰もやる気は上々な様だ。

 

 

「オレもバシバシ狙ってくっスからね。頼んますよ、アサヒさん!」

「おお!」

 

 

西谷も同じく。

ただの守備要員、それだけでない事を示すためにも、西谷も守る為の、ではない攻撃に繋げる為の苦手なオーバーを克服する、と意気込んだ。

 

最強梟谷のその背をしっかり捕らえて……超える為に、チームはまさに一丸となって挑むのだ。

 

 

 

 

 

 

試合は再開され、互いに点を取り合う――――と言うよりは、ただ只管に拾いまくっていた。

 

 

 

「うおっ、今のまじかよ」

「今のレシーブ、一瞬音駒? って思った。……マジで一瞬思った。………そりゃ、烏野も守備面も侮れないけど、西谷(リベロ)とかあの火神(1年)が突出して~~って思ってたんだが……」

 

 

現在、試合をしておらず、点付け主審を行っていた森然高校のメンバーは口々にそう称していた。

確かに、目立っていたのは、2人かもしれない。スパイクを拾い上げる、(ボール)を寸前で拾い上げるスーパーレシーブが見栄えが良いのは当然。

 

だが、それだけではない、と改めて痛感させられた瞬間だった。

 

 

音駒と生川も白熱しているが……、どうしても目立つ(・・・)と言う意味では、烏野が抜きんでている。

 

何をしてくるか解らない、と言う面。

驚くことをやってのける、と言う面。

 

 

これらは、この合宿での成績やその技術では、育む事は出来ないだろうから、いわば烏野の性質だ、とも思っている。

 

 

「そういや、木兎のアレ(・・)。この合宿で見てない(・・・・)よな?」

「憎たらしいが、結構な絶好調だ。……つか、あの火神が面倒見てるから、って意見ちらほら聞くぞ。主にマネたちから」

「あー……、煽て上手そうだもんなぁ。おまけに、木兎(アイツ)の練習に嬉々としてついていける体力もあり、実力もあり……、マジ1年? って感じだよ。あっちのチビちゃんを見習ってほしいわ」

「それを言っちゃ、烏野のセッターだって十分バケモンだろ……。あの速攻の要だし、リアル針の穴を通す精度を見せられりゃぁな……」

 

 

話す内容は主に梟谷では木兎。

烏野では1年の3人の話題になる。

 

個人練習でも試合以外の練習でも、休憩中でも、練習しようと絡んでくる木兎に、唯一皆勤賞ともいえる程ついて行ってるのが、火神だ。

勿論、呼ばれている、呼ばれてない、と言う面はある。如何に色々と常識外れな所がある木兎といえども、身体は1つしかない。

 

もしも、木兎が何人もいたら………。

 

 

「――――……あんなんが何人もいてたまるか」

【や、もっともです】

 

 

森然のメンバーは口々に愚痴った。

木兎の鬼練習の被害にあった事は1度や2度ではないから、である。

 

 

「んーーー、でも、この試合で見れるかもしれねーよ? 何せ、さっきから全然気持ちよく決まってないし。木兎」

「え?」

「ああ。ほら、あのやべぇ速攻復活させた辺りから? 梟も色々警戒して、攻めあぐねてんのか、烏が気合増し増しになったからなのか、結構拾われてるよ。……あのボーズ頭なんか、ほぼぶつかってあげてたし」

 

 

今合宿での木兎はいつにない程日々好調であり、梟谷にとっては厄介極まりなく、周りにとってはしてやったりな、あの状態(しょぼくれモード)になってない。

 

そろそろ反動が来るかも……? と最終日にして、色々と予想していたのが当たりそうだ、と感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブロック1枚だ!!」

「っっ!? (やり難い‼ 急に視界に入ってこられると)」

 

 

「んがっっ、ワンタッチ!!!」

 

 

持ち前の反射神経と跳躍力を活かした日向のブロック。

確かに背丈(タッパ)が足りない面は、不利だと言えるが、それでも居ないと思われていた所に、急に入ってくる日向の跳躍は例え1枚でも侮れない。

 

高く跳ぶ事もそうだが、何より最高到達点にまで跳ぶ速度も速いのだ。

そして、バレーとは常に上を見上げる競技。

 

誰よりも小さいからこそ、この小さな巨人(日向)は急に入ってくる。

そんな感覚に見舞われるのだ。

 

 

「(無理ッ)影山!!」

「ふっっ!!」

 

 

日向のワンタッチ、触った(ボール)に追いつくのは無理、と判断し、影山への声掛けをする火神。無論、影山も瞬時に状況を判断。二段トスになってしまうが、それでもお見合いをして、(ボール)を落としてしまうよりは何倍もマシだ。

 

何より――――影山(セッター)を封じられたくらいで、攻撃に影が出来る様な、止まるような烏野ではなくなっている。

 

 

「オーライ!」

 

 

烏野の地を守る守護神が動く。

瞬時に、地を確認。……踏み超えてはならないラインを一目で確認すると、その先の上に舞っている(ボール)に狙いを定めて……跳んだ。

 

反則にならないよう、きっちりとアタックラインより外側から跳んでいる。

 

 

(ボール)の落下地点、その目測も完璧。

以前の様に見誤って跳び越えたり、跳び足りなかったりはしていない。

 

完璧に落下地点に入り込み――――オーバーでその(ボール)を捕らえた。

 

 

「っっ~~~」

 

 

だが、やはりまだまだオーバーは未熟だったよう。

踏み込みから、落下点までの読みは完璧だったが、まだまだ苦手意識があるのか、西谷は一瞬だけ悪いイメージが出来てしまったのか、顔をしかめた。

 

 

ポコッ! と言うトスを上げる? 音には思えない様な音が響く。

 

 

 

「(変な音した!? それ以外は完璧だったのに!! ……でも、反則(ドリブル)取られてない! 大丈夫だ!)」

 

 

西谷との練習を何度も何度も付き合っていた菅原。

特にトスワークに関しては、西谷と一番練習していると言っても良い。

だから、より集中して、そしてどこか親心の様に心配しながら魅入っていた……が、変な音はしたが、菅原が思ってる通り、反則でなければ良い。

 

 

後は――――。

 

 

 

「リベロからのトス!? 来るぞ!!」

「バックだ!!」

 

 

梟谷側、レシーブ陣がブロッカーに声を上げたが……、それでも単調な二段トス……と一瞬でも思ってしまったが故に、ほんの一瞬だが反応が遅れた。

 

その一瞬が、致命的になってしまう。

 

 

「んんんがぁっっ!!」

 

 

 

ズドン!! と轟音を纏わせながら撃ちはなった一撃(スパイク)は、ブロッカの指先に当たり……そして、弾き飛ばしてブロックアウト。

 

 

 

「っしゃあああ!!」

「やった!! 西谷(リベロ)からの(バックアタック)!! 成功だ!!」

 

 

菅原にトスを教えてもらった様に、そのトスを打ってもらう練習を東峰と繰り返してきた。

綺麗に決まる事が先にあるとするなら……東峰(エース)が一番最初だ、と思っていた通りの出来………なのだが。

 

 

 

「んがーーーーー!! 今のトス低かったっスよねっっ!? 旭さんが上手く当ててくれたから良いもののっっっ!! 全然駄目だああああ!!」

「い、いや、良かったよ、良かった。点も決めれたじゃん?」

「トスが低いもんは、低いんス!! そんなんで満足してられませんよっ!! ダメなモンはダメって言ってください! 旭さんっ!!」

「あ、ハイ……」

 

 

 

点を決めた。

間違いなく決められたし、はた目から見れば十分な完成度と言って良かったのだが……、どこまでも貪欲な西谷。

それもまた当然かもしれない。

 

 

常に新しくなっていく1年たちを見てたら、満足の二文字は、安易に頭に浮かばないのだ。

 

 

「ほぇぇ……、いや、烏野を侮ってる訳でも、疑ってる訳でもねーけど、ついこの前だぜ? 今の(・・)攻撃やり始めたのって」

「たった1週間で、どんだけ搭載してってんだ、って話だよな……。こえーよ!」

 

 

点を決められた梟谷は、悔しさよりも先に、驚きが全面に出ていた。

もう疑ってない烏野の爆発力だが……、やはり、技術の面で言えばまだまだ粗削りな所が目立つ。

それを綺麗に決めてきたのだから、当然だ。

 

 

「ちっきしょーーー! オレだって決める決める!! 次よこせーーー!!」

 

 

うっがーーー! と唸って叫んで、腕回しだす木兎。

 

 

「(……大丈夫? ヤバくない?)」

「(まだ何とも言えないです)」

 

 

小見と赤葦がそれとなく目で会話。

木兎の状態についてのやり取り実施。

 

赤葦も、この合宿であまりにも発生していないので、木兎生態が変化したのか? と色々と懐疑的なので色々と判断しかねる状態だったので……、まだ様子見である。

 

 

 

 

 

 

 

そして―――試合が進み……再び魅せる。

 

 

例え、粗削りだろうと未完成だろうと、一切怯まない。

常に新しく、前へ前へと進む。

 

 

「っしゃあ、チャンスボール!!」

 

 

リベロの西谷から綺麗にAパスで返球。

 

此処こそが好機。絶好の場面(シチュエーション)

 

 

「今だ!!」

 

 

 

澤村の声が、怒声に似た声が響く。

それに反応……否、ほとんど澤村の声と同時に、駆け出した。

 

 

前衛の月島が、東峰が、澤村が。

そして、後衛の田中が。

 

 

西谷(リベロ)影山(セッター)を除いた、4人全員が攻撃に入る。

 

多方向からの、複数のスパイカーの同時助走からの攻撃。

 

 

 

1st(ファースト)テンポの同時多発位置差(シンクロ)攻撃!!!】

 

 

 

その攻撃は、ただ走って跳ぶ。それだけじゃない。それだけでは足りない。

 

 

「……贋作(フェイク)が無い、ってこの事を言うんだ………」

 

 

外で見ていた火神は、その気迫に充てられた。

ブロックに的を絞らせない、と言う意思。

 

何より、自分こそが決める。自分にこそトスが上がる。それだけを信じて突き進んでいる。

 

 

 

 

いわば、今この瞬間だけは……全員がエース(・・・・・・)だ。

 

 

 

その気迫をも攻撃とし、相手の開いた壁、その一瞬の壁の隙間、その情報のみを掬い取り……影山(セッター)が道を切り開く。

 

 

 

「ホァァ……ダァァァァァァ!!!!」

 

 

 

選んだのは、ここ一番で決めてくれるだけの精神力を持っている男。

誰よりも調子に乗り、それに乗り遅れたりしない男、田中だ。

 

梟谷のブロックは見事に振られて、ほぼノーブロックで田中はコートに叩きつけた。

 

 

「ッシャアアアアアア!!!! ッシャアアア!! スパイク、サイコウ!! オレ、ヤッタ!! ヤッタンダ!! マジキモチイイ!!!」

「……泣いてる」

「カタコトになってる」

「だって、だって、数少ない攻撃チャンスで、こんな気持ちよく決まるの、久々っスもん……」

「やったぜ、龍!!」

 

 

 

烏野は、決して一部が突出した強さ、いわばワンマンの様なチームではない。

目立つのは確かに火神や日向かもしれない。……だが、それ以外の攻撃も着実に決まっているし、無視など出来ない戦力だ。

 

それが、チーム全体に広がっている。

 

 

「―――常に新しく、か。全員がチビちゃん化したら、こええよな……」

「なら誠也化したら?」

「カンベンして。人間的に、なら最高かもだけど、プレイでそーなったら、バケモンです。ブラジルとかにもサラッと勝っちゃいそう。つか、もー社会人チームでしょ」

 

 

散々な事を言ってくれる音駒。

生川との一戦に勤しみながらも、隣で飛び回る烏の一挙一動を見逃せない様子だった。

 

 

 

 

そして、あまりにも烏野側が良いリズム、良い空気となった為、たまらず梟谷はタイムを要求。

 

16-15の烏野リード。

 

重要な中盤から終盤戦にかけての場面。……先にどちらが20点に乗るのか、どちらが勝利するのか、先がまだまだ見えない展開。

 

 

「チックショー―ぃ!! アッチコッチから攻撃しやがってーー!!」

「木兎さん、冷静にですよ? 次取り返したら木兎さんのサーブですから、少なくともその時は特に冷静ですよ?」

「オレはいつもいつでも冷静だ!!」

「ぜんっぜん冷静じゃないぞ、熱くなりすぎるなよ」

 

 

木兎が熱くなってるのは、他から見ても明らか。

そして、口でどうこう言って、調子を整えなおす事が出来る程器用な男ではない事は皆が知っている。

 

自分のプレイで調子を上げていくしかないのだ。

 

 

「っていうか~~、ここまで好調で来れてた方がおかしかったのかもしれないね~~?」

「……まぁ、最後の最後で、ある意味期待を裏切らないのが木兎っぽいけど。火神君効果は最後まで持たなかった、って事かな」

 

 

マネージャー2人も、あの木兎の様子ならそろそろ来るのでは? と言う予感は十分感じていた。

 

何より、これまでが都合が良すぎた? 調子が良すぎたのだ。……その反動が最後の最後、やってきてしまっても、別に驚きはしない。

 

 

「ま、赤葦も最後は苦労しないとだね~~」

「いや、まぁ……でも、赤葦はこの合宿では良い具合に肩の荷が下りてた、っても思うけどね」

 

 

木兎を操縦している赤葦。

今回の合宿では、手を離れていた様なのだが……少々暗雲が……である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野側は、良い空気感を途切れらせる事なく、精神論を中心に集まって話をしていた。

 

技術面はまだまだ粗削りではある、が。今は行けるところまで。……そして、有終の美、最高にして最強の相手から1度でも勝利を。

 

 

 

「それにしても、今の1st(ファースト)テンポのシンクロ攻撃、上手くはまりましたね……!」

「うん! まぁ、その分この前の森然の時、ミスったのが悔しく思う!! 次、オレらが出た時も決めるぞ、絶対」

 

 

山口の言葉に対し、菅原は気を新たに持った。

成功率が高いとはいえない攻撃法ではあるが、一度でも成功した所を見せてもらえば、成功出来れば、イメージが出来る。

 

 

【出来る】

 

 

そう思わせてくれるのだ。

 

 

「まぁ、気合は置いといて、あのシンクロはブロック3人に対して、こっちの攻撃、BA(バックアタック)含めて4人同時だ。……ごっちゃごちゃになって、マークしきれないからな」

 

 

先ほどの解説に回った。

 

 

「ですね。如何に梟谷と言っても、決まる道理です」

「おう! あ、逆に聞くけど、火神がシンクロ前にしたら、どう行動する?? どうする??」

「え? オレですか??」

 

 

菅原は火神にシンクロ攻撃の対処法、自分ならどうするかを聞いてみた。

何でもやってしまえる火神なら、どう対処してくるか……、気になる所ではあるので、そこにいた山口、そして日向も注目。

 

 

そして、火神は考える。

 

 

 

シンクロ攻撃と言えば、烏野の代名詞! とまで嘗ては思っていた程だ。

森然高校のプレイを、そしてブラジル戦の動画を見て、試行錯誤して、完成させたシンクロ。

 

 

ずっとずっと見てきた火神。……自分ならどうするか? どう対応するか??

 

 

考えた事が無い、と言えば確実な嘘になる。

 

 

今のは影山がトスを上げて、4人が攻撃に入り……そして西谷もブロックフォローに控えているから、まだまだ烏野の代名詞とは言えないだろう。あのブロックフォロー皆無の攻撃、リベロ以外全員シンクロ攻撃が一番頭に浮かぶ……が、今菅原に言われているのは先ほどの4人攻撃(シンクロ)だ。

 

 

 

 

「兎に角リードブロック……ですかね? 直感(ゲス)も良いんですけど、飛雄に振り回されそうです」

(ボール)を見てから跳ぶ、ってヤツだな! 伊達工の」

 

 

日向が確認する様にそう聞く……が、火神はまだ続ける。

 

 

「だけど、翔陽と飛雄のあの速攻が、あるから……冷静になれるかどうかは正直解りません」

「なるほど。(とかなんとか言ってても、火神ならやっちゃいそうな気がするのが不思議だよな)」

 

 

菅原は、直ぐに攻略してしまいそうな火神の持つ雰囲気に改めて頼もしさを覚える。

 

 

「むむ、よし、そうだな……」

「?? どうしました 菅原さん」

「いいや? ……ちょっとやってみたい事が出来ただけだよ」

 

 

菅原がやりたい事、やってみたい事。

当然火神は知っている……が、日向と山口は解らず首をかしげていた。

 

 

―――ここから、あの攻撃が、烏野の代名詞(シンクロ攻撃)が生まれ、そして進化していくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合は継続。

 

 

 

 

「オレのサーブで突き放――――す!!」

「木兎ナイッサー!」

 

 

危惧した場面がやってきた。

 

 

「木兎さん? さっき言った通りですよ。冷静に、冷静にですよ」

「だから、冷静だ!!」

 

 

ずんずん、と先にコートを踏みしめる木兎。

試合の序盤から中盤よりやや前にかけてまでの木兎空気が嘘みたいだ。

 

それも無理はない。

 

烏野の気合がより乗ったのか、木兎のスパイクは捕られ、ブロックにも阻まれ、フェイントも拾われ……と、ここ数点は良い所が全くと言って良い程なくなってしまったからだ。

 

木兎じゃなくても、スパイカーとしてストレスが溜まる場面ともいえる。

 

 

 

「あーイカン。熱くなりすぎだ……。頭冷やせ、っつって、その通りに出来る様な器用な奴じゃなかったしな……」

「この感じ、サーブ成功率、2割くらいですよね~~?」

「ああ、うん。最悪誰かに……」

 

 

 

と、ベンチ側の面々は冷静に観察。

 

そして、その危惧していた通りの失敗が訪れた。

 

 

この鬱憤を晴らすかのように、全身全霊全力全開で撃ちはなった木兎の100%中の100%の力。

 

それは、一直線にネット目掛けて打ち下ろした。

 

普段より、より鋭角に鋭く、おまけにパワー増し増しな一撃で打っているので、当然スパイクに匹敵する威力を保ったまま……ブロックに構えている木葉の後頭部目掛けて……。

 

 

ドカーーッ! ざんっっ!!

 

 

「うおおおっっ!??」

 

 

 

後頭部には当たらなかったが、本当にあとほんの少しで直撃。

髪が(ボール)に触れたのが解った。立ち位置をもう少しずらしていれば、木兎の全力なら間違いなく直撃、昏倒コースだ。

 

 

「チックショオオオオオ!! スマアアアアンッッ!!」

「「「どうどう」」」

「ちょいマジいったん落ち着け――、ほれ、アッチの誠也君や弟子が見てるぞ、眺めてるぞー?」

「ぐあああああ!! これ以上情けねーオレを見せる訳にはいかぁぁぁんっっっ!!」

 

 

何をどう言っても、てんぱってしまってる木兎。

全てが逆効果になっていってしまっている。

 

 

 

「よっしゃ、火神。……なんかよく解らんが、今の4番がねらい目だぞ。牽制する意味でも、サーブで狙っていこう」

「了解です!」

 

 

 

火神もその点に関しては異議なし、である。

木兎は当然レシーブも上手い。攻守ともにできてこそのエースだから。

 

だが、今熱くなっている木兎相手なら……。

 

 

 

「(強打よりは、変化球……)」

 

 

 

体当たりをしてでも上げてきそうなので、超変化であるジャンフロを火神は選択した。

(ボール)を受け取り、エンドラインから4歩離れる。そして、振り返って梟谷側コートを見た。

 

全体的に、守備位置が前になっているのが解る。

歩数と球種の関係性はもうはっきりと解っている様だ。

 

 

だが、解っているからと言って、火神がする事を変えたりはしない。

ただ、全力で木兎目掛けてサーブを打つだけだ。

 

 

 

「(いきますよ……、木兎さん!!)んッ……‼」

 

 

サーブ、ジャンフロを木兎のいる方目掛けて打ちはなった。

 

 

 

「ぅっしゃああ!! いい度胸だぜ、誠也ぁぁ!!」

 

 

叫ぶと同時に、喜びをあらわにする木兎。

これで少しは調子を戻すのでは……? と淡い期待を抱いていた赤葦だったが、真っ向勝負と言うよりは変化球で攻めてきた火神を見て、そう都合良い風に事は進まないだろう、と言う考えも頭の中に入れる赤葦だった。

 

 

変化球、と称した通り、木兎がレシーブ寸前の所で、激しく大きく変化した。

 

 

「っっ!? こん……にゃろっっ!」

 

 

体勢を崩しつつも、右に逸れる(ボール)を木兎はどうにか気合で拾い上げて見せた。

 

 

「くっそ! オレに寄越せぇぇぇぇ!! 一本で切ってやる!!」

 

 

Aパス……とは言えないかもしれないが、赤葦は十分追いつける範囲内。

落下点を見極め、移動しつつ―――頭の中では自問自答を繰り返す。

 

 

 

―――現在、木兎は少々熱くなり過ぎている現状。そして今は火神のサーブ(ターン)。一本でも早く終わらせたいローテでもある。

 

 

だが、このまま木兎にあげて良いだろうか?

 

 

 

A. 普通に決まる。

→問題ない。それどころか調子を戻し且つ火神のサーブも1本で切れる。

 

B. ミスる・又はブロックされる。

→サーブで崩された上に止められた事でいつもより割り増しでテンション下がる可能性大。

 

C.上げなかった場合。

  →イジける恐れあり。

 

 

 

 

「(……Cが一番面倒くさいな)」

 

 

この間、0.5秒。

赤葦はきっちり決めると、そのまま木兎へ。

 

 

 

「木兎さん!」

「ッシャアアア!!」

 

 

木兎に上げる事は疑いの余地なし。

烏野も東峰と澤村、そして日向の3枚ブロックを余裕をもって揃えた。

 

 

「ブロック3枚だ!!」

「ブロックフォロー!!」

 

 

3枚ブロックだろうと何だろうと、今の木兎は小細工せず真っ向勝負。

当然、強い力できたら、より強く跳ね返したいものだ。

ましてや、相手は全国を主戦場とし、成績を残してきた五指に数えられるスパイカー。

 

圧倒的有利な3枚ブロック。

 

 

【意地でも止める!】

 

 

 

バチッッ!!

乾いた音を響かせ、木兎の放ったスパイクはドシャットこそされなかったが、跳ね返されてしまった。

 

 

「ムっ!?」

「フォロー! オーライ!!」

 

 

跳ね返されてしまったが、コートに落ちた訳ではない。

冷静に、(ボール)を見極めて、小見は拾い上げた。

 

 

「ッシャア、今度こそ決める!! もう1回だ赤葦ぃ!!」

「―――――……」

 

 

正直、一度冷静になってもらいたい……のだが、ここで上げないと、確実にイジける。

烏野にとっては、これ以上ない。日向以上の囮効果を発揮されるだろう、と思えるのだが、それ以上に木兎がイジける方が面倒くさい、と赤葦は感じているのである。

 

 

「木兎さん、お願いします」

「ッシャアアア!!!」

 

 

なので、再度木兎にトスを上げた。

2度目の木兎からの攻撃。

 

 

「よしっっ、今度こそ止めるぞ!!」

「タイミング、外すなよ!!」

「せーーのっっ!!」

 

 

ドガッッ!!

強烈な破裂音の様な轟音が響いてきた。

思わず、ブロックにとんだ日向は顔を引き攣り、目を閉じそうになった。

その音は、強烈な痛みを齎す!! と思ったのだが、痛みの類は一切ない。おまけに―――木兎が打ちはなった(ボール)は、ネットを超えてこなかった。

 

 

「あれ?」

 

 

日向が目を見開いて、見てみると……、丁度(ボール)は、白帯に当たって、向こう側に落ちていく。

 

 

「げっ」

 

 

赤葦は、《B》になってしまった、と顔を顰めた。

(ボール)は、そのままコートに落ちて、数度跳ねながら――――転がっていった。

 

 

この(ボール)は、フォローしても意味はない。例え拾えたとしても、無意味だ。

何故なら………。

 

 

 

「おおーーー、烏野が先に20点乗った!」

「このままいけるんじゃね??」

「18-20か。このまま取って取り返して、で逃げ切れるかもな!」

 

 

 

何をどうしようと、もう失点だから。

 

 

 

「あれ? 今のはブロック……ですかね? 清水先輩」

「……ううん。今のはネット超えなかったみたいだから、例え(ボール)を拾えたとしても4回。スパイクミスだね」

 

 

 

谷地に解りやすく清水が説明をしてくれた。

 

バレーで繋ぐ回数は3度まで。それを超えてしまえば即失点。

即ち、小見がレシーブし、赤葦がトスを上げ、木兎がスパイクを打った時点で3度触れている。

 

相手のコートに行かずに、戻ってきたのだから、これを拾えば4度目となり、失点なのだ。

 

 

 

 

自分のミスで―――失点となった。

熱くなり過ぎた。火神や日向、そして烏野が調子をどんどん上げていくものだから、ムキになり過ぎた。

 

 

「………………」

 

 

木兎は立ち尽くしていた。

さっきまでは、失敗と同時にオーバーリアクションで謝罪を口にしていたのだが、完全に沈黙してしまっている。

 

 

 

―――あ~~、やっぱ来た?

―――まぁ、正直1回も起こらずに終えるなんて、無理だから。

―――今までが逆に奇跡だわ。

―――何か、懐かしくも感じてくるかも。………見たい訳じゃないけど。

―――おつかれさん。

 

 

 

梟谷メンバーは全員察する。

何が起きたのか、それを察する。

 

 

「あの、木兎さん?」

「……赤葦、聞いてくれ」

「……(あー、間違いなく来た)」

 

 

 

木兎は背を向けたまま―――大きく手を伸ばしてチームを追いやる様な仕草を見せて、言った。

 

 

 

「今日は最悪だ!! もう、オレに上げんなっっ………!!」

 

 

 

 

 

 

――――出たーー、木兎【しょぼくれモード】 つか、マジで漸く出た――、って感じ?

 

 

 

 

 

合宿では限りなく100%に近い確率で、1度は必ず入るモード。

主に負け試合、負けそうな試合に顔を出すモードではあるが、今合宿ではそれを見せる事は無く、皆目を白黒させていたが………。

 

 

ある意味、期待を裏切らないのが木兎である。

 

 

 

 

「わかりました」

「え? ええ?」

 

 

そして、その対処法もばっちり頭の中に、マニュアルとして納められているのが木兎を操縦して早2年の赤葦。

 

 

「じゃあ、上げない間に落ち着いてくださいね」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

「うし、よくわかんないけど、向こうのエースが不調っぽい。畳みかけるぞ」

「あっ、澤村さん! ちょっと」

 

 

これを気に、と気合を入れる澤村だったが、戻ってきた(ボール)をサーバーである火神に渡した時、火神は(ボール)を脇に挟んで、両手で《T》の字を作って見せた。

 

 

「???」

 

 

その仕草の意味が、タイム? の意味だというのは分かった……が、なぜこのタイミングでかは解らなかった。

どちらかと言えば、エースの不調が目立つ梟谷側がとるべきだろうか。

 

そんな疑問を他所に、火神は笑顔のまま――――、その笑顔は、あの合宿初日の笑顔、様々なストレスから解放された【お父さん自由モード】の時の火神の笑顔。

 

 

 

「少しクールダウンしましょう」

 

 

 

笑顔なのに、クールダウン?

熱気が籠っていたのに、その言葉で冷静になれる烏野だった。

 


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