王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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またもやショーセツバンですが……、このエピソードは載せたかったのです……。
少しお付き合いをして頂ければ、と思います。


第138話 夜のデート①

 

 

「仁花ちゃん、お風呂行こう?」

「はいっス!」

 

 

取り合えず、食糧確保と言うマネージャー業? を熟し、完遂した清水と谷地は、各校の女子マネージャー達が寝泊まりする教室に戻っていた。

 

男子たち程ではないが、女子マネの仕事もそれなりにハードで体力勝負。おまけにこの夏の暑い時期ともなれば、当然ながら汗を掻く。

 

汗の匂いを放ったまま……そんな状態を女性陣が良し――――としておくわけがない。

 

そして、当然ながら 女子マネ+お風呂と言う組み合わせでは、連想しない方があり得ない事。―――そうピンク一色な展開だ。

中でも最早宗教の域にまで崇拝している某メンバーもいるから、尚更清水のお風呂の場面と言うのは、聖書の一節も同然なのだ。

 

 

―――だが、これも当然と言えば当然なのだが、そんなお色気な展開には持ち込めない。

 

 

伊達工の鉄壁も真っ青、鉄の壁どころか、金剛石な壁が立ちはだかっていると言っても過言ではないし、何より本気中の本気で嫌われる可能性……可能性、ではなく確定だから。

それでも、清水に本気で嫌われても良いから突っ込んでいく! と言う犯罪予備軍は流石にこのバレー部には居ないのである。

 

そもそも、清水自身も流石にそこまで道を外れる部員が居るとは思ってないし、心配のしの字すらしていない。考えてすらいない。

 

なので、せっせと自分のバッグをのぞき込みながら準備を進めて―――そしてタオルを手に取った時に、気付いた。

 

 

「あ、タオル……」

「? 清水先輩、どうしたんですか?」

 

 

ピタリ、と手が止まった清水に気付いた谷地が首を傾げた。

清水は、忘れ物を思い出したのだが、谷地に心配を掛けてはいけない、と笑顔を見せて言う。

 

 

「仁花ちゃん。先にお風呂行ってきてくれる? 私、ちょっと用事を思い出したから」

「え? あ、ハイっス! じゃあ、先にお風呂に行って待ってます!」

 

 

ビっ! と見事なまでの敬礼をする谷地の姿。

それは、最早清水の中では恒例になっていたりする。

 

清水は、最初こそ、谷地にそこまでしなくても―――と言っていたのだが、谷地の性質(ソレ)が、反応(オーバーリアクション)が簡単に変わる様なモノではないと言うのは、これまでの付き合いで重々承知した事柄。

なので、清水はツッコんだり、否定したりはせずに、ただ笑顔。笑顔で接し、普通に接し、軈て慣れてくれれば良い―――と考えているのだ。

 

 

それなりに長く一緒に居るが……、そんな未来はかなり険しく、遠いような気がしていたりする……。

 

 

 

 

それは兎も角、谷地と笑顔で別れた後、見えなくなった後、急いで洗濯場へと向かった。

そして、洗濯機の前に山々と積まれたままの使用済みタオルを見つけた。

 

これこそが、先ほど谷地に言っていた清水の忘れ物だ。

洗濯し忘れたタオル。

 

―――タオルは当然明日も使う。整理整頓清掃、と大切な仕事の1つ。

 

 

「………やっぱり、夕方、武田先生に呼ばれた後、そのままにしてた……」

 

 

 

タオルの山を前に、ふぅ、と肩で息をし、肩を落とす清水。

自分とした事が……、と脇の甘さを嘆く。

 

 

洗濯カゴに積まれて置き去りにされたタオルが、うす闇のなか、むんむん、と自己主張の異臭を放っている様に見える。

 

如何に運動部のマネージャーだから、汗の匂いや汗自体はどうってことない、と某1年リーダー、期待する大型新人の頭を撫でながら、言い放った清水だったとしても、この様な状態……流石に長時間放置したタオル群を前にすると、そんな悠長な事は言ってられない。

 

そもそも、明日も使うのだ。

自分の不注意で、これを皆に使わせるワケにはいかない……と、どうしたものか、対応策を試行錯誤。

これから急いで洗濯機を回して干したとして――――。

 

 

「ん……。だめ、か」

 

 

携帯を取り出し、明日の天気を確認した。

どうやら、天気が悪そうなのだ。

今も、気温が高く暑い気候だと言えるが、それでも湿度が高い。ジメジメした暑さ、と言えば良いだろうか。

なので、これから洗っても明日の朝までには乾かない可能性が極めて高い。半乾きのタオル……、それを使わせるのも酷な話であり、マネージャーとしての仕事の不甲斐なさが浮き彫りになってしまう。

 

谷地にも迷惑をかけてしまう事だろう。

 

 

となれば後は1つ。

 

 

「ん。コインランドリー。それしかない、かな。場所、聞いて来よう」

 

 

幾つか候補を上げていたが、その中で一番無難であり、最善策でもあるコインランドリーの利用。

 

洗濯から乾燥まで、大型機器たちがある、頼もしい施設コインランドリーへ向かう事を決めた。

 

当然、音駒高校周辺の地理関係は詳しくないので、森然や梟谷のマネージャーに聞いて場所を確認する事に決めた。

音駒にマネージャーが居れば早いのだが、音駒には居ない。でも、森然、梟谷のマネージャー達もコインランドリーを使った事もあるだろう。

 

もし、マネージャーの誰も知らなくても、音駒の人に聞けば大丈夫だ。

 

 

無いとは思うが……皆知らなかったとしたら……? まぁ、それはそれ。その時に考えれば良いだろう。

 

 

方向性は決まった、と清水は少しばかり気合を入れると、タオルの入ったカゴを持ち抱えて、教室へと戻った。

 

問題は、谷地にバッタリ遭遇しないか……と言う点だったが、もう大浴場の方へと向かっている谷地に出会う事なく、風呂から上がって戻ってくる前に、準備も完遂する事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははんはんははーーーんっ!」

「はいは~い、翔陽。とっとと寝ような? 風呂入ったらもう寝るだけ。合宿たのし~~! 気分なのは、もう卒業で良いだろ? いい加減。ちょっと前にも来たんだし。場所違うけど」

「ふぐっっ、せ、誠也は卒業早過ぎるんですっっ!! オレ達にとって高校からが初めての合宿なんだぞっ!?」

「? いや、オレ一応小学のスポ少で合宿はした事あるから、別に初めてってワケじゃないよ。知ってるだろ?」

「!!! せ、せいやがうらぎったーーーーー!!」

「ば、ばっか! 声! 声のトーン下げろ………ぁ」

 

 

夜の校舎―――日向の慟哭が木霊する。

何事か? と教室をガラガラ開けて覗き込まれて……、非常に申し訳ないのと恥ずかしいのとが、火神を襲っていた。

 

ペコペコ、と頭を下げて回り、皆大体が許してくれた。

 

保護者は大変だなぁ……と、何処か同情的な眼差しを向けられて、生暖かく見守ってくれている様だ。

うん、もう慣れ始めた視線である。

 

 

「翔陽」

「うぐっ」

 

 

勿論ながら、日向もそんな光景を見ている。

独り立ちを公言して置いて、このザマは無い、とそれなりには羞恥が芽生えているのだろう、苦虫をかみつぶした顔になり―――そして、火神からどんなお叱りを受けても、甘んじて受け入れる所存だったのだが……。

 

 

 

「寝る子は育つ、って言うだろ? 飯食った後、夜はとっとと寝る。寝てる間に回復と成長(・・・・・)が始まる。……その身体の回復時間、翔陽はソレ奪うつもりか? 影山ん時は寝てる間もオレ達は練習出来て~~って言ったけど、睡眠だって極めて重要だからな?」

「!!」

 

 

 

回復……それよりも日向の耳に入り、突き抜けたのはやっぱり成長部分。

寝る子は育つ、と言う言葉は昔から聞いた事がある謳い文句。

だが、実感してきたワケじゃないので、懐疑的だった。

 

でも、他の誰でもない、火神が言うのだ。説得力増大、と言った所だろう。

 

 

「うおおお!! 成長する! 寝る!! 寝る寝る寝る!! ねるねるねるねるねるねーー!」

「どっかの駄菓子みたいに言わないの。つか、まだ声でかい」

「いてっ」

 

 

ぽかっ、と頭を小突く。

 

 

「んじゃ、オレ、トイレに行ってから戻るから。早く寝ろ。んでもって、周りに迷惑かけない事」

「うおっす!! お~~れ、は、せいちょ~~~! ねるねるねーーー、かいふく&せいちょ~~、はんはんっはは~っ!」

 

 

出鱈目な自作曲を口で奏でながら、寝泊まりしている教室へと戻っていった。

練習は超ストイックだが、体調管理をしっかりしないとバレーが出来なくなる、と言う理由で、超健康優良児~とも言って良い影山。

普通に合宿の練習で疲れ過ぎてる月島。

 

その2人を筆頭に、騒がしい日向が戻ってきた所で、―――騒いだ所で、雷を日向に落としたのは言うまでもない事である。

 

 

「はぁ、まったく、しょーがないヤツ」

 

 

笑ってるのか困ってるのか、呆れてるのか―――どの顔とも言えない表情のまま、火神はトイレへ。

 

日常の一コマ一コマが楽しすぎる。大変だけど、それを遥かに上回るくらい楽しすぎる。

1人の時は、特に破顔している事だろう。

 

 

「(これじゃ、色々と(・・・)、……仕方ないよなぁ………。う~ん、でも……)」

 

 

表だって認めたりはしてないが、もう否定しなくなった火神の二つ名が、ふよふよ~と、頭の上に浮かんでいたが、取り合えず火神は、それをかき消すように ぱっぱっ! と頭上を払う仕草をするのだった。

 

 

 

 

 

そして、トイレで用を足し、教室へと戻る道中、大きな荷物を抱えて玄関に立つ清水の姿に気付いた。

もう外は真っ暗。こんな時間に一体何事だろう? と火神は足早に駆け寄った。

 

 

「清水先輩。どうしたんですか? 何処に行くんですか?」

「あっ、火神。………ちょっと、用事があるだけ」

 

 

そうとだけ言うと、清水はそそくさとスニーカーを履いて外へと出ようとする。

清水にとっては、想定外の出会いだったのだろう。誰にも見られずに外へと出ようとしたが、火神に見られてしまった。

言葉少なめな清水ではあるが、それくらいは火神には解る。当然だ。

 

それに、自画自賛をするワケではないが、限定的に言えば 清水とは言葉を交わす事が3年の澤村、菅原、東峰に次いでに多いのが自分だと思っている。

 

清水の事はよく知っているからこそ、火神は、それが何だか勲章の様にも思えてしまうから、面白い。……勿論、それは火神のみの感性。清水にとっては良い気はしないのは言うまでもない事である。

 

 

「それ、オレ持ちますよ」

「!」

 

 

一足飛び足で、いつの間にか火神は後ろに来ていた事に、清水はやや驚きと困ったような顔を見せた。

 

 

「大丈夫。見かけによらず軽いから。かさばってるだけ。もう休んでて良いよ」

「そうですか? でも、後は眠るだけですし、さっき夕食を守って貰った恩もありますよ。―――なんだか、清水先輩には、恩を貰ってばっかりなんで、ここは手伝わせてくれませんか?」

 

 

ニコッ、と笑いながらも、いつの間にか火神も自分のスニーカーに履き替えていた。

大きな荷物の他に、床に置かれたナイロンバッグも手に取っている。

 

恩―――と言われても、そんな大層な事は清水は考えていない。自分の心に従ったまでの行動だから。

でも、ここまでしてくれた事に対しては、嬉しい。

実は、火神こそ清水に対して色々と嬉しい事をしてくれているから。

 

 

清水は学校でも高嶺の花的な存在だ。

元々コミュニケーション能力が然程高い訳でもないし、ぼっちと言う訳でもないけれど、何処となく遠慮がち、近寄りがたき存在、な感じを清水自身も感じたりしている節はある。

 

かと言って、田中や西谷、果ては音駒の山本の様に過剰接近されても困りモノだ。

 

でも、火神は誰とも違った。

それを強く感じたのは、中学時代の陸上部で大会に出た時に見た事を、素直な感想を込めて話してくれた時から、きっと誰とも違う、と思ったと思う。

 

そして、より更に目が離せなくなったのは―――IH予選のあの時からだろう。

 

 

「じゃあ、よろしくお願いしようかな」

「はい! 任せてください! ……ってアレ? ほんとに軽い。入ってるのはタオルですね」

 

 

バッグの布地越しの感触から、タオルだと予想した火神。清水もそれに対して頷いて肯定。

 

 

「うん。洗い忘れてたから、これからコインランドリーに持っていくトコ」

「成る程……。なら、尚更人手が要りますね。うん、絶対」

「? 絶対(・・)?」

 

 

清水は、火神の【絶対】と言う言葉を聞いて、どういう意味なのか、と首を傾げた。

火神はそんな清水に気付いたのだろう。当然、と言わんばかりに胸を張って応える。

 

 

「夜遅いとは言っても、深夜程じゃありませんし、周囲にはちょっとした店も多数あります。夜道を先輩1人で~~って言うのは抵抗がありますから。……ほら、前回(・・)みたいに、絡まれないとも限りませんし?」

「あ」

 

 

そこまで言った所で、清水は理解する。

絡まれる―――そう、あの条善寺高校の選手達に絡まれた時の事だ。

あの時、火神がやって来て助けてくれたのだ。

 

 

だが―――正直な所、不満が残る記憶がある。それはもう鮮明に。

 

 

「…………」

「あ、え? ど、どうしました?」

「……別に。何でもないよ」

 

 

何に対して不満だったかは口には出さない。

それを火神に言うべきではない、と思っているからだ。

 

 

「(ひょっとして、あのくらいなら、余裕で行けたのに、って事……かな? 心配される様な子供……歳じゃない、って感じ? わかんないけど………)」

 

 

 

火神は他人より少し長く経験を積んでいるのは間違いないが、それは高校生まで。殆ど部活、バレーボールと言う競技に時間を費やしている。

故に、人生経験豊富~~とは言い難い。バレーに関してのアドバンテージは大いにあるが、その他は、極々一般的な高校生の感性しかありえない。

 

女子高校生の心理~~など、正確にわかる筈も無い。

 

ましてや、清水の事は知っている事以上(・・・・・・・・)は知らないから。

 

 

「あ、あはは……。谷地さんが言ってましたが、ちぎっては投げる~、って事が出来る先輩なら、無用な心配、でしたかね……?」

「………そんな事ない」

 

 

完全に別な事を考えてしまってる火神に、少しだけやきもきしながらも、軽くため息を吐く。

 

そして、改めて思う。

 

これは鈍感とは少し違う。そもそも解る訳がない。まだ、一方的に考えているだけに過ぎないのだから。

 

 

「投げてないから。……それじゃ、いこっか」

「! はい」

 

 

谷地が戦々恐々と語ってくれていた清水無双回を見てみたかったりもする。

恐らく、想像上の事ではあるが、如何に食糧に目をギラつかせた面々が、腹を空かせた野獣が居たところで、清水が御する事は容易である。

 

雰囲気、眼力――――数多の力? を考えれば、触れずに倒すと言う離れ業さえやってのけそうだから。

 

恐らく、谷地は次々に威圧していく清水の姿を、ちぎっては投げ~ と表現したのだろう……と思う。

 

 

それは兎も角、火神と清水は、大きな荷物を抱えて音駒高校を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ……、偏に東京って言っても、やっぱり色んな所がありますよね」

「だね。東京って聞くと、色々と想像しそうだけど」

「……翔陽なんか、恐れおののいてましたから」

 

 

苦笑いしながら夜道を歩いていく火神と清水。

音駒高校は練馬区にある。その周辺は、都内と聞いても 想像していた様な光景は一切ない。

超高層ビルや夜なのに煌びやかな街々、勿論ながら東京タワーやドーム、キーテイちゃんランドも無い。

 

ただのんびりとした住宅街、その合間に現れる小さな空き地。

火神が最初に言っていたちょっとした店~の類も、もう少し先の国道――大きな道路まで出なければ、見られないだろう。

 

生暖かい夜風をその身にうけ、静寂な夜道を急ぎ足で歩き続ける。

重くはないが、正直かさばるナイロンバッグを、何度か持ち直し、携帯を取り出し、ライトを点けつつ、清水に聞いた。

 

 

「コインランドリーは近場にあるんですか?」

「そんなに遠くない、って聞いた。森然のマネージャーさんが教えてくれたんだけど、ここから大体5分くらいだって。………あ、その十字路を右で」

「歩いて5分くらい、ですか。じゃあ大丈夫そうですね。―――右、右右……ぁ」

 

 

十字路を右へ曲がろうとした時、不意に、本当に不意に思い出し笑いをしてしまう火神。

別に意識した訳じゃないのに、右に曲がって~と言う清水のアナウンスを頭の中で再生しつつ、曲がったら、記憶の扉が勢いよく開かれてしまったのだ。

 

 

「? どうしたの」

 

 

含み笑いをしている火神に気付いて、清水は携帯のメモから視線を外して、火神の方を見た。

 

どうにか火神は笑い顔を元に戻し、含み笑いも呑みこむと――――、これでは誤魔化しにならないのと、話の話題になるから、と自身の相方の1人でもある日向翔陽の恥部を披露。

 

 

「清水先輩が、右~って案内してくれて、右に曲がろうとした時、逆に曲がったヤツがいたなぁ……って思い出しちゃいまして」

「……? 右に曲がって、って言ったら左に行っちゃった、って事?」

「はい。【ここの道複雑!!】ってぼやいてましたが、右左は、道とか関係ないですからねぇ……」

 

 

やっぱり笑えてしまうので、少し口元に手を当てていた火神。

 

誰の事なのか、想像するのは容易い。

付き合いの長さとかも考慮すると、影山ではなく、恐らく――――。

 

 

「日向?」

「あはは。そうですね。直前で間違い指摘したら、あたふたしちゃって。仕草的に言えば、ちょっと前、目を開けて打つ練習をしてた頃の、空中での翔陽、って感じでしょうか」

 

 

清水は火神の説明を聞いて―――実に的確な例えだと感心してしまった。

 

何故なら、まだ(ボール)になれていなかった事、影山のトスに頼り切っていた事も合わさり、目を開けた時、ちょっとでも軌道が違ったり、想定外だったりしたら、両手をワシャワシャと動かしていた。

 

跳躍力がなまじあるからか、空中で居られる時間、滞空時間が通常の人より長いから、より鮮明にその面白おかしい光景が目に焼き付いたりしている。

 

 

「………ふふふ」

「いつもいつも、世話妬かせているんだから、翔陽で笑い話の1つや2つ、大目に見て貰いたいものですね」

「そう、ね。……日向と居ると退屈しそうにない?」

「それは勿論。嘘だ、って思われるかもですが、……オレ、生まれてこの方 退屈(・・)だと思った事ありませんよ?」

 

 

 

火神の言葉を聞いて、清水は少しだけ驚く。

そんなワケが無い、と口に出して言えそうな事で、言われるまでもなく、思うまでも無く嘘だ、と感じたからだ。

 

退屈を感じない事が一度もない―――そんな事あり得るのだろうか?

 

 

 

「あははは! やっぱ嘘だと思います?」

「そりゃ……ね」

「ほんとですよ、ほんと。翔陽と付き合ってると、基本退屈なんてしてられないですし、烏野に入ってからはいわずもがな、です。証明の仕様がない事が玉に瑕ですが」

「…………」

 

 

 

清水は、そんな言葉を聞いて、不意に聞いてみた。

これも、火神が日向との事を思い出して、自然と笑みが出た様に、清水も殆ど無意識。ただ、不意に口が動き、言葉が出た。

 

 

 

「なら、私に付き合ってくれてる時も、退屈してない?」

「え?」

 

 

 

最後まで言い切った所で、清水は一体何を聞いてるのか? と表情や仕草には出さないが内心慌てた。

火神の様子から、普段の火神から、間違っても退屈だ、なんて言われるワケ無いし、それこそ自己申告故に、抽象的な判断故に、正確な本心など聞けるワケも無いと言うのに。

 

 

そんな清水の葛藤を他所に、火神は笑った。

閑静な住宅街に響く朗らかな、陽気な笑い声。

 

段々、夜だって事を思い出したのか、直ぐに静かになっていたが。

 

 

「先輩と一緒に居て、退屈~なんてあり得ませんよ? ドキドキしてます」

「ッ……、ど、どきどき?」

「はい! 清水先輩はオレの憧れの人ですからね。恩人で、憧れで、格好良くて、……なかなか言葉で言い表すの、難しいです。語彙力が高いとは言えませんから、オレ」

 

 

テヘヘ、と言わんばかりに頭をかくその所作。

180もある大きな男のコがやるには、不相応な気もするが……、それでも清水には火神の事が可愛く見えてしまったのは気のせいなんかじゃないだろう。

 

 

「―――ふふ。私の事、畏れ多い、って前に言ってたね」

「あはは――――え? 怖れ?」

 

 

笑っていた火神だったが、その笑みを止めて、きょとん、としていた。

あの時の事を、覚えていないのだろうか……。

 

 

 

「ほら。一次予選の時の」

「―――あっ、条善寺高校の人達の」

 

 

 

思い出したようだ。

思い出すと同時に、苦笑いをした。

 

 

「あれは――――その、田中先輩や西谷先輩の鬼の様な形相が目に浮かんじゃったんですよ……。不可抗力、と言う事でカンベンしていただけないかな、と」

 

 

清水はどうしようかな、と少しだけ考える仕草をする。

 

 

だが、清水の中では当たり前だが、結論などは出ている。

 

 

「貸し1つ、で良いよ」

「あぅ……また、恩が溜まっちゃいました」

「「あはははは」」

 

 

清水は覚えている。

畏れ多いの前の言葉を覚えている。

 

 

確かに否定された事は不満だったし、それはシコリとなって残っている部分もある。

 

 

だけど、やっぱり嬉しかった事も大きいのだ。

 

 

 

 

――――大切な人、って言ってくれたよ。

 

 

 

 

朗らかに楽しそうに笑う火神の横顔をチラリと見た後、口には出さないが清水はそう思い続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、その後。

 

 

「右左があやふやなの、って……大丈夫なのかな? 日向。ほら、レフトとかライトとか」

 

 

一頻り笑った後、少し冷静になって日向の笑い話を思い返した清水。

当然だ。右と左があやふやになっていたら、バレーでは致命的だと言える。

 

レフトやライト、サインプレイだってあやふやになってしまったら、連携から崩れてしまいそうだから。

 

 

大体の心配を察した火神は、苦笑いしながら手を振って応えた。

 

 

「その辺りは大丈夫ですよ。オレ以上に影山がそう言うの許さないんで」

「うん。納得」

 

 

流石は清水だ。一瞬で納得してくれた。

影山の怒りの形相は、日向にとってはこれ以上ない位の気付けになっている事だろうから。

その点火神は極めて優しい分類だと言える。

 

いい具合にバランスが取れている、と言うべきか。

 

 

「まぁ、翔陽がちょっと調子にのって、【英語の方が解るオレ、グローバルっ!】って騒いでましたが――――」

「………成る程。そんな感じで日向を見た、って事」

「仰る通りです」

 

 

冷たい視線(ブリザード・アイ)を日向に向けたのだろう事は清水の想像の通り。

その手の視線を良しとするのは正直異常。

 

まぁ、所謂 田中&西谷な人種だろう。勿論、但し清水に限る、だったとしても。

 

 

 

 

 

 

世間話を挟みつつ、暫く歩き続ける事数分後。

もう少しで、それっぽい場所につこうか、と言う雰囲気があった道にて。

 

 

 

 

「あれ? あの人達……」

「?」

 

 

前からやってくる集団が目に留まり、そしてはっきり気付いた。

 

 

「先生達ですね」

 

 

前から武田、烏養、そして猫又監督が談笑しながら近づいてきた。

雰囲気だけでも一発で解る。

大分酒が進んでいる様だ。

 

 

「おう!お前ら、どこへ行くんだ?」

 

 

烏養達も気付いた様で、手を上げて近付いてきたので、聞かれた事を答える様に、清水と火神は夫々の手に持った荷物を持ち上げてみせた。

 

 

「ちょっとコインランドリーへ」

「オレは手伝いです。重さは兎も角、大きかったので」

「ん、そうか。―――んーーっと」

 

 

烏養は、今来たばかりの道を振り返った。

 

 

「ほれ、あそこだあそこ。コインランドリーなら見かけた。あの光ってるトコがそうだ」

 

 

そう言って道をさした烏養の後ろから武田が出てきた。

 

 

「清水くん1人なら僕が~~と言いたい所ですが、頼りがいのあるナイト様がご一緒なら、野暮と言うものですね」

「………いえ」

 

 

武田も酔っているのだろうか、仄かに赤らめたままの表情で、気恥ずかしいセリフを臆面もなく言ってきた。

何処となくポエミーなのは、知っているが、それは自分関係で完結して貰いたいモノだ……と清水は思ってしまったのは言うまでもない。

 

 

 

「そうですね。バッチリしっかり、先輩の事 護衛しますよ」

 

 

 

そして、良い具合に乗っかる火神も火神。楽しんでる節さえ見えるのは、清水にとって良い事なのか、どうなのか、……誰にも解らない。

 

 

「夜のデートとは、青春よのぉ~~~。みんなでついていくか? って言おうと思ったが、無粋な真似は出来ねぇなぁ」

 

 

酔っ払い大将なポジション猫又がこれまたトンデモナイ爆弾を落としてくれている。

酔っ払いの戯言と言えばそうなのだが、言葉にして言われると、脳裏に刺さる事もある。

 

 

否定する事も無く肯定する事も無く、そのまま武田と烏養は、【気を付けて】と言葉をかけて、解散となった。

 

 

「それでも、何かあれば連絡してください」

「ちょっくら、そこの居酒屋にいってくるからなーー!」

 

 

そう言うと、同じく目と鼻の先程度にある居酒屋(二軒目)へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………畏れ多い?」

 

 

ふと、火神に清水がそう聞いてみる。

あの条禅寺の時と違う。

火神は、……清水も、否定も肯定もしなかったのだ。

 

酔っ払いの皆に勢い任せで言われたから~と聞かれればその通りな部分はあるのだが。

 

 

 

 

「あははは……、そう、かもですね。もしも――――」

 

 

少し息継ぎをする火神。

この先の言葉を少なからず期待? していた清水だったが……期待通りとはいかない。

 

 

 

「田中&西谷先輩方に見られたらと思うと、大変そうです」

「……………。うるさくなるのは間違いないね」

 

 

 

そっちかー、と思いつつも笑って済ませる。

 

今向かっているコインランドリーの様に……ゆっくりで良いのだから。

 

 

「(頼れるナイト様……か。間違いないね)」

 

 

女子マネ達の会話の中では、男子たちはどことなく弟の様な存在。

頼りになるか? と問われれば、正直……な感じが大半。

 

 

でも、清水は そんな事ない。

頼りになる姿。それは間違いない、と少しだけ前に居る火神の背を見て思う。

 

 

本当に不思議だった。

 

澤村や菅原……そして、東峰よりも随分年上に見えてしまうから。

 

 

 

「あ、見えてきましたよ」

 

 

 

でも、時折見せる素顔、笑顔は歳相応のモノ。

 

 

 

「ん」

 

 

 

清水はそれ以上考えるのは止めて、少し速足になった火神に置いていかれない様に速度を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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