王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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次で合宿練習に戻るかと………!

この載せたかったショーセツバン夜のエピソードは終了です!


第139話 夜のデート②

 

 

「到着しました!」

「ええ。本当に直ぐ近くて良かった」

 

 

火神と清水は、少し駆け足気味に、烏養が言ってた通りの場所にあったコインランドリーの中へと入った。

随分と年季の入ったコインランドリーなのだろうか、青白い蛍光灯の灯りが妙に頼りなく感じる。ただ、内装部分だけが古いだけで、設備に関しては実に対照的と呼べる程、真新しさが見えてとれる。

 

丁度今も何台か動いている様だ。乾燥機も動いているからか、中は外より少し蒸し暑い。

エアコンも無く、備え付けられているのは扇風機だけの様だ。

 

 

「………たはは」

「?? どうしたの?」

 

 

設備を一頻り確認、狭い店内を一頻り眺めながら歩いていた火神が、突然乾いた様な笑みと笑い声を出した。

狭い店内だったからこそ、当然ながら清水には筒抜けだったワケで。……但し、意味までは解らないが。

 

 

「いえ、少し、思い出しただけですよ。……中学の頃、翔陽と一緒にコインランドリーに来た事があったので」

「! へぇ。……何となく想像が出来る」

「多分、その想像通りだと思います。……中学のバレー部も、1年生が入ってくれて、人数居るから、女子バレー部と合同練習とか、以前よりさせて貰える様になって、その代わりに雑務を手伝ったんですよ。コインランドリー(ここ)も利用しました」

 

 

女子バレー部の雑務。

コインランドリーの利用。

 

……そして、女子部のモノの洗濯を火神が? と一瞬ぴくりっ、と反応した清水だったが……邪な気配は微塵も感じない、寧ろ女子マネである清水の前で平然と言ってる時点で、その手の考えは頭の片隅にも無いだろう、と思い直していた。

 

 

「翔陽が燥ぎまわってちょっと大変でした」

 

 

洗濯機のコイン投入口に火神は小銭を入れ、清水が洗濯機の扉を開けてタオルを放り込む。

周りをまた見渡して―――火神はまた苦笑い。

 

 

「……乾燥機の中に入ろうとしたり?」

「………あははは。その通りです。翔陽、扉が潜水艦みたい! って燥いで。止めましたが、気付くの一瞬遅くて……」

 

 

他のお客さんも当然利用するコインランドリーだ。

洗濯モノを洗って乾燥(・・・・・)させる所に、入り込んだら……? 部活で汗を大量に流して、間違っても綺麗とは言えない身体で入ったら……?

 

 

「利用者は他に居なかった?」

「それが不幸中の幸いでしたね……」

 

 

大ヒンシュク待ったなし、である。

当時を思い返しながら、続いて火神は直ぐ隣にある洗剤販売機に目を向けた。

小銭の残を確認し、数枚100円玉を取り出す。

 

 

「火神。あとで帳簿に着けるから、値段覚えといてね」

「はい、了解です」

 

 

慣れた手つきで操作し、マッチ箱程度の大きさの洗剤を取り出した。

清水も少しだけ想像を膨らませる。

 

仮に、ここに日向が居たら……?

 

 

中学の時、とは言ってもほんの数か月前までの事だ。早々変わるものじゃない。全く変わらない問題児たちを清水は少し長く見ているから、それはよりよく解ると言うもの。

 

 

「日向が此処に居たら……、一喜一憂する、かな。うん。子供みたいに」

「! 実に的確ですよ、ソレ。操作出来たり、購入出来たり。色んな事で歓声上げてました。……まぁ、翔陽の場合 バレー部の仕事が出来てる、って事だけでも嬉しかったんだと思いますが―――」

 

 

そう言うと、火神は洗剤の封を開ける。

良い香りの粉末洗剤を、タオルの入った洗濯槽へと投入し、蓋を締めた。

 

 

「でも、それは火神も同じじゃない? 中学の頃、日向と大変だったんでしょ?」

「……それはそうですが、流石に、あそこまで燥ぎませんよ。コインランドリーとバレーって……幾ら雑務で、バレーみたいに繋がってる(・・・・・)からって―――ね」

 

 

空になった洗剤の箱をくしゃっ、と握り潰すと、直ぐ隣に備えてあるゴミ箱の中へ。

あそこまで(・・・・・)、と言われても、清水は当然現場にはいないワケで、説明の仕方としてはマイナス点ではある―――が、日向を想像してみると……、普段の日向から、このコインランドリーを舞台にして、想像してみると………物凄く容易だ。

 

 

「親戚の子と同じ感じかな」

「そうですね。THE・子供って感じです」

 

 

頭の中での日向を思い返しての感想である。

本人が居ないので、【失礼な!!】って言われそうな気もするが、それでも日頃の行いを鑑みると、仕方ない、と火神は断言。

 

ぱっと見ても、ここには漫画雑誌やテレビ、小さな扇風機……、子供ならこれだけでも十分燥げる環境だ。

扇風機の前で【あーーー】などは絶対やりそうだし、例え飽きても他に目が向くだろう。

 

 

「あはは……。んっと、完了まで30分、ですね。どうしますか?」

「ふふ。……30分か。ここで待ってても良いけど………ん?」

「あれ?」

 

 

コインランドリーの天井部より、ぽつ、ぽつ、と音が聞こえてくる。

こんな夜にハトが屋根を歩いてるのか? と思ったが……違った。

窓の外を見てみると解る。外は暗いが、電灯の灯りに照らされてる周囲の空間を見てみると、より鮮明に解る。

 

 

「降ってきちゃいましたね……。おかしいな、携帯じゃ、明日の朝だった筈なんだけど―――」

 

 

パカッ、とガラケーを開いて火神は再度確認。

ページ更新して見ても、やはり曇のままだ。……ただ、少し違う部分がある。

 

 

「降水確率が50%なら、仕方ないかな」

 

 

半分の確率で降るのなら―――仕方ない。

それによくよく考えてみれば、明日は雨なんだから今晩から降り始めてもおかしくはないだろう。

 

 

「ひとっ走り、雨具、傘を取ってきましょうか? タオルは……ここの大きめの袋を購入すれば何とか大丈夫だと思いますが」

「いい。見た感じ小雨だし、待ってる間にやむかもしれないし。それに、火神だって疲れてるでしょ?」

 

 

 

清水はそう言うと、手近にあった丸椅子に腰を下ろした。

 

 

「雨が強くなる様なら先生を呼ぶ手もあるから。とりあえずここで待とう」

「ハイ、了解です」

 

 

清水に倣って、火神も古い椅子に腰掛けるのだった。

 

 

清水とは会話が途切れる事は無さそうなので、時間が経つのは思いのほか早そうな気がする。

専ら、火神関係の事、中学時代や1年達の事が中心。

清水からの話は3年生達の事が少々、後は問題児な2年2人の事がちらほら出る程度だ。

 

それでも、話題に上がるだけで、某2人は感無量かもしれない。……その代わり、この状況下に居る事がバレたなら、集中豪雨+轟雷が降りそそぐだろうけど。

 

 

「あはは………」

「思うけど、火神って実はそんなに大変じゃなかったりする? 田中とか西谷の対応する時とか」

 

 

ここで、清水がズバッと切り込んできた。

 

確かに、清水がちゃんと手綱を握って操縦すれば、火神に対する負担は激減する事だろう。

ちょっと煽てたら、2人は天にも昇る程の至福らしいので、借りてきたネコ以上に大人しく―――――はならないけど、攻撃性は無になるから。

 

 

でも、よくよく見てみると……、大変そうにしていても、その表情は何処か無邪気。

日向に通じる所がある、って思うのだ。

それとも、ひょっとしたら火神は―――。

 

 

「………先輩。オレ、Мってワケじゃないですからね」

「そんな事考えてない」

 

 

火神の言い分に、速攻で答える清水。だが、それは嘘だ。考えてなかったか? と問われればこの自分の答えは嘘になる。

 

でも、どうやら火神にはバレてない様子。【それなら良いです】と、苦笑いをしていたから。

 

 

「大変ですけど、やっぱり楽しい方が強いんで、そう見えちゃうのかもしれないですね……。烏野でバレーボール。最高です」

 

 

歯を見せて笑う火神の無邪気さに触れた清水は、笑顔には笑顔を持って返す。

 

 

「火神も、日向と同じ位には楽しんでる、って事だね。……そこまで表立って出ないだけで」

「……翔陽は素直というか単純と言うか、猪突猛進と言うか、セーブしたり出来ない性分なんですが、流石にオレは自重できますんで。でも 翔陽とオレ、どっちが楽しんでる? って聞かれたら、翔陽に負けてないです、って答えますよ」

「―――みたいだね」

 

 

清水も納得していた。

日向と比べたら隠すのが十分過ぎる程上手いだけだ。一皮剥かれれば、恐らく同等と言っても不思議ではない。

 

ただ―――お父さんと呼ばれたり、普段の行いがあるから、あまりにもギャップが激しいが故に、ふとした仕草等が非常に目立つのだろう。

 

 

「それと―――絶対、全国に行くんです。この(チーム)で」

「…………」

 

 

強い決意が、その瞳に宿っているのを感じた。

黒い吸い込まれそうになる瞳。笑っていた筈なのに、次の瞬間には真剣そのもの。

清水が火神に……無意識にも何に惹かれたのか。

 

それは恐らく、この瞳なのだろう。

 

 

「期待、してるよ。大型新人(スーパールーキー)

「あ、ありがとうございます。……でも、流石に恥ずかしいですね。改めて言われると」

 

 

決意に満ちていた瞳だった。

でも、それがふにゃりと綻び、気恥ずかしそうに頭を描く。

 

そんな姿をいつまでも――――と思っていた矢先の事だ。

 

新たな来訪者がやってきたのは。

 

 

入り口のドアがガラリと開き、中へと入ってきたのは、よれたスーツ姿、髪の毛がペッタリと撫でつげていた小太りの中年男性。

雨に降られたが故に、その頭頂部は秘密を隠すには至らなくなってしまっている。

 

そして、邪魔そうに一瞥をしてきたが、清水を見た後火神を見て……直ぐに視線を逸らし、奥の乾燥機へと向かった。

 

 

「―――……教頭に、似てる?」

「あ、オレも思いました」

 

 

頭頂部のひみつ。

おまけにチラリとみて確認した顔面の黒子の位置や身にまとう雰囲気。親族と言って差し支えない程の情報がたった一瞬で脳内へと入ってきた。

 

 

「はぁ……良かった」

「? 良かったって?」

「あ、いえ。何でもありませんよ。こっちの話です」

 

 

ふと、火神が思ったのは日向の事だ。

いや、日向に限らず影山が居ても同じ事になったのかもしれない。

 

日向は確実にあの中年男――教頭モドキを見たら笑うだろう。黒子の位置から頭頂部のひみつまで共有しているのだから、尚更似ている。こみ上げてくる笑いの衝動が抑えきれず、……いやいや、ビビリな癖に抑える事なく行動で示し、後に後悔するのがお決まりパターンだ。

 

影山は影山で、笑ったりしないが、遠慮と言うモノがない。

【教頭と一緒でズラだ】と臆面も無ければ隠す事も無く、相手の秘部を遠慮なく言葉にする事だろう。

 

 

どっちにしても失礼極まりないので、今日ここに居るのは自分と清水の2人で良かった、と安堵する。

 

 

「………何となく解った。それを言えば、多分 田中や西谷が居ても、大変だったかも」

「あはは……、確かに、仰る通り、かと思いますね」

 

 

互いに苦笑いをしつつも、談笑しているのが気になったのか、或いはあの中年教頭モドキにも読心されたのかはわからないが。話しかけてきた。

 

 

「君たちは、そこの学校、音駒の生徒だろう? こんな夜に、男女で何をしているんだね?」

「はい?」

 

 

まさか話しかけられると思わなかったので、何言ってるか解らない、と言わんばかりな素っ頓狂な返事を返す火神。

清水も清水で、最初のファーストコンタクト時、火神の姿を見て、一際体格の良い火神の姿を見て、邪魔そうにしていた顔を明らかに逸らせていたので、触らない様にした―――と思ったのに、まさかの好戦的? で驚いた様だ。

 

 

実をいうと、火神の話し方、清水に敬語を使ってる時の感じを見て、とっつきやすい認定されてしまったのだろう……と言うのは建前。

 

 

ただ単に、男女で何をしておるか! と言う自分の灰色な学生時代と重ね合わせてしまったが故に、嫉妬心が勝っただけである。

 

 

「いかがわしい事をしようとしたのではあるまいな?」

 

 

何と言うか、物凄く下品な中年教頭モドキだ。

こっちの本当の教頭と雰囲気こそ似てるが、教頭も聖職者だ。ここまで品が無い事はない。ネチネチとしつこい面は持ち合わせているが……。

 

 

「いえ、今部活の合宿中で。その仕事の一環ですよ」

 

 

ワザワザ説明する様な事なく、無視すれば良い類のモノだ、と清水は思った。

そもそもな話、この手の下衆の勘繰り、下劣な考えは、完璧無視の方が良い、言葉を交わす事さえしたくない。

田中や西谷に対して、フル無視を決めるアレとは全くの次元が違う。ただただ不快なだけだから。

 

でも、火神はハッキリと返していた。それが吉と出るか、凶と出るかは、解らないが。

 

 

「ふん。口では何とでも言えるな」

「まぁ、それもそうですが。そもそもな話、こんな学校の傍で変な事なんて、普通しないと思いますよ? 解ると思いますが、学校から近い場所ですし、まだ色んな部活で残ってる人たち多いですから」

 

 

体育館に限らず、グランドでは野球が、離れた場所ではソフトボール、サッカー、他の体育館ではバドミントンやバスケ……etc

 

通ってきた道こそは閑静な住宅街かもしれないが、一度学校に近付こうものなら、まだまだ賑やかなのは言うまでもない。

勿論、まだ運動をしてる者はもう居ないと思われるが、残ってミーティングだったり、会議だったり、相当数の生徒・教師たちが残ってる事だろう。

 

 

ぐむっ、とたじろぐ教頭モドキ。

普通に返しただけなのだが、結構効いたのだろう、バツが悪そうに話題を変えてきた。

 

 

「……ふんサッカーか野球かしらんが、……お前はガタイは少々ある様だが、こんな雑務、雑用させられてるんだ、どうせ補欠だろう」

 

 

まだ突っかかってくる様だ。

何でここまで絡んでくるのか? と火神と清水は解る訳がないが…… 一言でいえば、嫉妬心は面倒くさい、である。

 

 

「オレ達はバレーボールをやってます。皆、全国目指して頑張ってますよ」

「……バレーボール?」

 

 

教頭モドキは、火神の方を見ていなかった筈なのに、今度はハッキリとこちら側を見た。続いて清水の方へと視線を変える。

益々教頭に似ているが、口に出すべきじゃなかった、と清水は後悔である。……先に立たず、だが。

 

 

「ほう、ならばそっちの美人さんは【東洋の魔女】だな」

「……………」

 

 

一瞥すらせずに、清水は無視を決め込んだ。

ここで、火神も漸く無視すれば良かった、と同じく後悔、先に立たずである。

 

 

清水の無視する姿と言うのは、更に何か引き寄せるフェロモンでも発していると言うのか。

中年教頭モドキは、また顔を歪ませながら続けた。

 

 

「全日本女子はかつて、【東洋の魔女】と呼ばれて世界に恐れられていてな。あの時代は凄かったぞ」

 

 

聞いても無いのに意気揚々と。

このまま無視しても延々と話をされそうなので、取り合えず区切る事にする火神。

 

 

「東洋の魔女は知ってますが、先輩は選手じゃなくマネージャーで皆を支えてくれてるので、少し違いますね」

「……ほほう? マネージャーか」

 

 

更に顔を歪めた。

失言だったか? と思ったが、延々と聞いても無い談義を聞かされるのとどっちが良いか? と問われれば、疑問である。

 

 

「そっちのキツそうな美人が、まさかの世話女房とはねぇ。益々いかがわしい事を想像してしまうな」

「……………」

「………最悪」

 

 

学生相手に何言ってんだ? と、神経をそろそろ疑いたくなる言動である。

清水も軽蔑しきった顔で呟いていた。

 

でも、だからと言って話を強引に終わらせるのは 余計な問題・騒動を起きてしまう事に繋がるかもしれない。

折角、この梟谷グループの合宿に入れてくれたのに、迷惑をかけてしまいかねない。

 

色々と繋ぐのがバレーと言うスポーツだが、この手の問題は繋ぐワケにはいかない。

 

 

機嫌が良いままに、とっととその乾燥機の中のモノを持って帰って貰う事を願うばかりだ。

幸いにも、あちらの方が遥かに終わるのが早いのだから。同じ時間待つ事は無さそうだが。

 

 

その内、下品で下劣な話を聞かされるのか、と思っていたが、幸いな事にどうやらそれは続かない様子。

 

だが、如何にも人生の先輩からの助言、と言った鷹揚な調子で話し始める。ご教授願ったワケでもないのに。

 

 

 

「バレーボールなんか(・・・)して、遊んでいる(・・・・・)のもいいが、学生の本分は勉強だと言う事を忘れない様に。文武両道という………」

 

 

 

 

下品で下劣な想像を張り巡らせた癖に、今更学生の本分? 勉強? 何言ってんだ? と苦言を呈してやりたい気分になるが、それ以上に聞き捨てならない事を聞いた。

 

火神の雰囲気が変わったのを、清水は感じた。

まさか怒ってキレ――――と思い、止めなければと感じたが、その心配は杞憂に終わる。

 

 

 

「すみません。少々聞き捨てなりませんね。―――オレ達は、遊んでるわけじゃないんで」

「は?」

 

 

 

大きな声になった訳でもない。

強い口調になった訳でもない。

先ほどの無難な返答の類でもない。

 

 

なんと形容して良いのか解らないが、雰囲気が確かに変わった。

空気が重くなった、と言うべきだろうか。

 

ガタイは良い。180はある火神だ。例え座っていても、その体格は十分解る。でも、話をしている雰囲気、これまでの雰囲気を考えても、触っても全く問題ない無害な学生だ、と思って調子に乗っていた中年教頭モドキだったが、一気に気圧されてしまっていた。

流暢に上から目線演説は完全に遮断されている。

 

 

「東洋の魔女を知っているのに、バレーボールを、【なんか】ですか?」

「え……、あ、いや……」

「今は、確かに世界の高い壁を前に、差をつけられてるかもしれません。男女共に。………でも、皆真剣に、本気でやってますから。―――勝つために。【なんか】とかじゃないですよ」

 

 

断っておこう。

火神の口調は変わってない。大きさも一切変わってない。

敬語も使っているし、何も知らない者が、仮に録音した音声を聞いていたとするなら、穏やかな口調とも取れるかもしれない。

 

 

だが、相対している中年教頭モドキはそうはいかない様子。

清水でさえ、その言葉に、重み、圧を感じる程だったから。

 

 

「そ、そうだな。そうだったな。じゃ、じゃあ……それじゃあな!」

 

 

与し易い男、ただ少々身体が大きいだけで、メンタル面にはガッツが無い、雑用をやってる様な男なんだから、程度に構えていた火神の豹変(中年教頭モドキ視点)に、完全に気圧されてしまった。

これ以上は触れない、と判断したのか、袋に詰め込んだ洗濯ものを抱えて、一目散に外へと駆けだしたのである。

 

 

「え? いや、何も逃げる事は………。まだ、外 雨降ってるのに」

 

 

火神はそんなつもりは無かった。

確かに、【なんか】と呼ばれてむかっ腹が立ったのは事実だ。

 

何より、(少々メタ発言ととられそうだが)ハイキュー‼(ここ)を馬鹿にされた様な気分だったから。

 

 

だからと言って、出ていけ!! となる訳はない。

 

でも、もう中年教頭モドキはここにはいないので後の祭りだが。

 

 

そんなとき、清水が火神に声を掛けた。

 

 

「……結果的に、追い払ってくれたね。ありがと」

「あ、いえ。……そんなつもりは無かったんですが。悪い事をしちゃった気分です」

「良い。……私達の方が何倍も悪い気にさせられてた、でしょ?」

「それは……否定しません」

 

 

そう言うと、やや強張ってた火神。罪悪感がある様な顔だった火神の表情が和らいだ。

あんないい加減で下劣、下品な大人に、火神が悩まなくて良い、と清水は思い、表情が和らいだ火神を見て、清水も安心し、ニコリと笑顔を見せた。

 

 

 

笑顔のまま、話が進んだのは部活の話だ。

 

 

「そう言えば、火神も陸上、してたんだね」

「あ、はい。助っ人ですけど」

「うん。それも聞いてた。……2人とも身体能力スゴイから、頑張って引き抜こうとしたんだね」

「あははは……恐縮です。確かに、2人ともスカウトは熱烈でした」

 

 

中学時代の話に花が咲く。

清水を見かけたと言う、あの陸上競技大会の話から始まって。

 

 

「清水先輩は、どうしてマネージャーになったんですか?」

「私? ん……」

 

 

清水は少し考える。

これだけ、火神の事を根掘り葉掘り―――とまではいかずとも、聞いておいて自分はだんまり、と言う訳にはいかないだろう。

 

 

「澤村に勧誘されたから………かな」

 

 

肝心な所、心の内までは話をしていないが。

 

練習をして、練習をして、重ねて重ねて――――それでも、想像以上にあっけなく終わってしまうあの時の感覚は鮮明に覚えているから。

 

そんな弱い姿を、火神の前で見せたくない、と強がってるだけなのかもしれないが。

 

 

「成る程……。あはは! スゴク皆さん喜んだでしょ? 目に浮かびます」

「…………ん。そうね。もうマネージャーはいなかったから」

 

 

楽しそうに笑う火神。

確かに、歓迎はされたと思う。

1つ上にも、1つ下にも、マネージャーはいない。暫く烏野ではマネージャーがいなかったから。

 

何となく、で始めたのがバレーのマネージャー。

そんな自分を格好良い、と呼んでくれた火神。

 

 

 

「火神や皆程は、挑む相手(・・・・)は大きくないかもしれないけど。………私も挑まずにはいられない(・・・・・・・・・・・・)。そんな感じがしてる、かな」

 

 

 

ここまで話すつもりは無かった。

でも、自然と言葉が出た。

 

話をするのは得意じゃない、って自覚していたのに。

 

 

「……先輩も谷地さんも、皆皆烏野の掛け替えのない一部、ですよ」

「………え?」

「だから、挑む相手の大きさに、差はないと思います。ただ、コートの中か、外か。それだけの事です。その相手は、同じ(・・)なんですから」

 

 

何処か他人事だった。

最前線で戦ってる訳じゃないから。

 

部活動として、マネージャーとして在籍はしていても、何処か他人事だった。

このたった数ヶ月で、こうも変わるのか。

 

 

「っ、スミマセン……。何偉そうな事言ってるんですかね、オレ……」

 

 

新しい自分を知る事が出来るのか。

何処か申し訳なさそうにしている目の前の男の子が、自分を見つけてくれた。そんな気がした。

 

 

「………そう、だね。うん。その通り」

 

 

清水は知らず知らずの内に、含み笑い程度だった表情が、まるで外は夜だと言うのに、太陽の様な明るい笑顔を向けた。

 

 

「―――情けない事、聞かれちゃったね。こっちこそゴメン」

「いえ、そんな事無いですって、情けない、なんて思った事なんてありませんよ」

「ん。解ってる。……私は私の最前線(・・・)で、挑み続ける。それだけ」

 

 

そう言うと、ふにゃっと、今度は花開く笑顔……ではなく、柔らかい笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

「ほんと、キミには。……キミ達には、色々と教えて貰ってばっかりだ」

 

 

 

 

 

 

その言葉を聞いて、火神も同じく笑顔になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その後―――清水は少し気付けの為に、トイレへと向かっていた。

タイマーを確認したが、後ほんの数分。いや、乾き具合を確認して、足りなかったらまた延長する予定だ。

それも火神に伝えていて、止まったら自己判断で延長はして良いとしている。

勿論、帳簿に着けないといけないので、時間は互いに覚えておく様にして。

 

そんな中で、ふと目の前のあった鏡に目をやる。

 

そこには自分の姿があった。

不思議だった。

生をこの世に受けて―――今日までずっと一緒。自分の身体、自分の顔だと言うのに、何処か違う様なそんな感覚がしたから。

 

でも、不思議と―――心地良い。こうも自然な笑顔が出来るのか、と。

 

 

「(………戻るまでにはどうにかしておかないと)」

 

 

但し、問題児の2人が暴走するのは頂けない。

幾ら楽しそうだ、とは言っても夜遅くまで騒がれるのは、マイナスポイント。

手伝ってもらって、色々貰って……、自分がして上げれるのは、今はこれくらい。

 

 

「よし。……面倒くらいは、見てあげないと、ね。出来る範囲でになるかもだけど」

 

 

面倒を見てあげる、とはいっても あの2人のテンションは完成させられたモノがある。波風をたたせ過ぎない様にするのも重要かもしれない。

 

 

「……いつも通りが良い、か」

 

 

 

だが、結局清水はそこに落ち着いた。

いつも通りに接し、時には叱る程度で良いだろう、と。

 

 

 

 

時間にして、ほんの数分間。

トイレから出たら、もう乾燥機は止まってるだろう~くらいの時間。

 

だから、中から出して詰め込み作業だ、と思ってトイレの扉を開いた。

だが、乾燥機は止まってる気配は無い。ゴウンゴウン、と一定のリズムと振動を刻み続けている。携帯等で時間を確認していたワケじゃないが、読み間違えた? と疑問視しながら、乾燥機のデジタル数字―――残りタイマーを目で確認すると……。

 

 

「(あ、延長……)」

 

 

どうやら、火神が乾いているかどうか、中身を確認して、延長した様だった。

確認ありがとう、と礼を言おうと火神の方へ視線を向けてみると……、その頭が一定リズムで、時折小刻みに揺れているのが見えた。

こくり、こくり、と。

 

清水はゆっくりと火神に近付いて、その横顔を確認。

どうやら、寝落ちしてしまっている様だ。

 

少々音が大きいとは言え、一定間隔で刻むリズムは、確かに1人で居る状態だったら、眠気を誘ってくるのかもしれない。

特に、人一倍動いている、周りの世話をやいている。おまけに他校の選手(主に木兎)とも全力全開で付き合っている。

 

 

無限の体力―――なんてある訳がない。

 

 

 

「………ふふ」

 

 

 

清水は丸椅子を静かに、ゆっくりと火神の方へと寄せた。

窓から外を見ていると、雨はまだ降っている様だ。……でも、月明かりもハッキリと見える。ひょっとしたら、もう直ぐ雨も上がるのではないだろうか?

 

 

 

――まぁ 流石に、ゆっくりお休み、って言う訳にはいかないけど。

 

 

 

横顔を見ながら清水は思う。

こんな所で寝てしまっては身体を痛めるかもしれないし、何より音駒に帰らなければならない。

 

 

それでも、乾燥機が止まるまで。……雨が上がるまで。

 

 

起きない程度に、髪を鋤く、頭を撫でる、頬に触れる。

 

 

何処か日常と離れた様な不思議な空間となったコインランドリー。

それは、ほんの数分足らずの蜜月ではあったが、充実感を胸に感じる清水だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。

 

 

 

 

 

 

「火神ぃぃぃぃ!! お前はゆるせねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! やっぱ、ゆるせねえええええええええ!!」

「誠也ぁぁぁぁぁ、今こそ森羅万象に詫びろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!」

「うわわわわわわっっ!?」

 

 

「おいおい、お前ら……。火神はオレらのタオル用意してくれたんだぞ? 感謝こそしても、怒る事ないだろ」

「だべだべ」

「………ぜってー聞いてねぇ。聞こえてねぇよ、アレ」

 

 

音駒に戻った時、バッタリ出会った2年生達。

最初こそ、菩薩顔だった田中と西谷だったが、清水が部屋へと戻った途端に豹変。

眠ってしまった事もそうだが、それなりに身体が重かった。

でも、迫る脅威に対して、最善の動きを魅せる。

 

 

紙一重で交わしながら、どたばた、と逃げ一択。

 

縁下を始め他の2年もそれなりに庇ってくれたが、完全に馬耳東風、馬の耳に念仏だった。

 

 

 

その鬼ごっこは更に数十分後。

 

 

 

 

 

「お前ら うるさい!!!!」

 

 

 

 

 

3年主将、澤村の雷が落ちるまで続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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